平成28年10月6日判決言渡し |
不開示決定処分取消等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所 平成27年10月22日) |
1 |
1審被告の控訴に基づき,原判決を次の第2項ないし第5項のとおり変更する。
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2 |
内閣官房内閣総務官が平成26年3月24日付けで1審原告に対してした行政文書の不開示決定のうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する次の行政文書を不開示とした部分を取り消す。
出納管理簿のうち,国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る部分
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3 |
内閣官房内閣総務官は,1審原告に対し,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,前項に記載されたものの開示決定をせよ。
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4 |
本件訴えのうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書中,第2項に記載されたものを除いたものの開示決定の義務付け請求に係る訴えを却下する。
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7 |
訴訟費用は,第1,2審を通じて,1審原告の負担とする。
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(2) |
内閣官房内閣総務官が平成26年3月24日付けで1審原告に対してした行政文書の不開示決定のうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書並びに領収書,請求書及び受領書を不開示とした部分を取り消す。
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(3) |
内閣官房内閣総務官は1審原告に対し,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書並びに領収書,請求書及び受領書の開示決定をせよ。
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(4) |
訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。
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(2) |
本件訴えのうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,原判決主文第1項(1)ないし(5)記載の各部分の開示決定の義務付けを求める部分を却下する。
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(3) |
前記(1)の取消しに係る部分中,前記(2)の部分を除く部分につき1審原告の請求を棄却する。
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(4) |
訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。
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(1) |
本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(ただし,平成26年法律第67号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき平成24年12月から平成25年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書(領収書等,政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿及び報償費支払明細書)の開示を求めた1審原告が,平成26年3月24日付けで内閣官房内閣総務官から一部不開示決定(以下「本件決定」という。)を受けたことから,本件決定のうち同年1月1日から同年12月31日まで(以下「本件対象期間」という。)の支出に関する行政文書の不開示決定部分(以下「本件不開示決定部分」という。)につき,その取消しを求めるとともに,行政事件訴訟法3条6項2号所定の義務付けの訴えとして,本件不開示決定部分に係る文書について開示決定の義務付けを求める事案である。
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(2) |
原審は,1審原告の請求のうち,次のアないしオの行政文書の開示を求める部分について理由があるものと認め,その限度で本件決定を取り消して開示決定を義務付け,その余の部分については取消請求を棄却し,開示決定の義務付けを求める訴えを却下した。
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ア |
領収書,請求書及び受領書のうち,原判決別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)
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ウ |
支払決定書のうち,原判決別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)
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エ |
出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(出納管理簿の摘要欄が調査情報対策費又は活動関係費とされているもの。ただし,活動関係費のうち,原判決別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)を除いたもの
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(3) |
1審原告は,請求棄却及び訴え却下部分を不服として請求の全部認容を求めて控訴を提起し,1審被告は,請求認容部分の取消し並びに訴えの却下及び棄却を求めて控訴を提起した。
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2 |
前提事実,争点及びこれについての当事者の主張
前提事実,争点及びこれについての当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3のとおり1審原告の当審における主張(1審原告の控訴に係る補充主張及び新主張,1審被告の同主張に対する反論)を,後記4のとおり1審被告の当審における主張(1審被告の控訴に係る補充主張及び新主張,1審原告の同主張に対する反論)をそれぞれ付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の2ないし5(3頁6行目~59頁23行目)のとおりであるから,これを引用する。
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(1) |
16頁17行目の「できなない」を「できない」に改める。
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(2) |
24頁17行目の「関係活動費」を「活動関係費」に改める。
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(3) |
30頁2行目の「あることよって」を「あることによって」に改める。
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(4) |
31頁17行目から18行目にかけての「乗用自動車」を「事業用自動車」に改める。
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(5) |
32頁6行目の「推測させる」を「推測される」に,同頁12行目の「いうだけにすぎない」を「いうにすぎない」に,同頁13行目から14行目にかけての「金融機関に対する不正な工作等が明らかになった場合」を「金融機関に対する不正な工作等が実行される可能性が全く否定されるわけではないところ,仮に金融機関名が明らかになった場合」にそれぞれ改める。
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(6) |
34頁23行目の「想定されると」を「想定され」に改める。
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(7) |
39頁15行目の「前述したところからすれば」を「調査情報対策費,活動関係費が外交関係等に支出された場合には」に改める。
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(8) |
42頁22行目の「「支払相手方等」の欄」を「出納管理簿」に改める。
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(9) |
47頁7行目の「また,」の後に「内閣官房報償費が外交関係等に支出された場合には,」を加える。
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(10) |
54頁3行目の「漏えい」を「漏洩」に改める。
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(11) |
55頁7行目から8行目にかけての「よそ不可能」を「およそ不可能」に改める。
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(12) |
59頁11行目の「具体的支払決定書」を「具体的な使途」に改める。
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(1) |
情報公開法5条6号及び3号の各不開示事由の解釈及びその審理方法等
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ア |
情報公開法5条6号の解釈方法(控訴に係る補充主張及び1審被告の控訴に係る補充主張〔後記4(1)ア〕に対する反論)
情報公開法5条6号が不開示事由として,「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」場合と抽象的に定めているのは,行政機関の保有する情報が多様,複雑かつ広範であり,不開示事由を限定的に列挙することが困難であるためにすぎないから,開示を原則,不開示を例外とする厳格な限定解釈が求められる。「支障を及ぼすおそれ」があるというためには,支障が生じる抽象的な可能性があるだけでは足りず,法的保護に値する程度の蓋然性があることが求められ,開示された情報から支障の原因となる情報が容易に推認できるような場合がこれに当たるというべきである。開示された情報を手がかりとした第三者の不正工作等の違法な活動が介在することで他の情報が入手されることにより不開示とすべき情報が明らかになるとの無制限かつ連鎖的な判断をすることは許されず,このような場合は,支障が生じる抽象的な可能性があるにとどまる。
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イ |
情報公開法5条3号の解釈方法(控訴に係る補充主張及び1審被告の控訴に係る補充主張〔後記4(1)イ〕に対する反論)
情報公開法5条3号の不開示事由についても,前記アのような厳格な限定解釈が同様に求められる。本件対象文書について,どの文書のどの部分が安全保障上あるいは外交上の情報であるのかは1審被告から示されておらず,1審原告の側から,行政機関の長の裁量の逸脱や濫用を基礎付ける事実を把握して主張,立証することは不可能である。
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ウ |
支払相手方が公務員である場合(控訴に係る補充主張)
支払相手方が国会議員や公務員の場合は,当該公務員が内閣官房報償費の最終的受領者であり得るところ,このような場合の支払は,賄賂性や公務員倫理上の問題が生じるから,情報公開法5条6号所定の事業等の「適正な遂行」に当たらず,不開示事由に該当しない。そして,情報収集や合意の対価として内閣官房報償費が支出される場合があることは1審被告が認めているから,国会議員や公務員に対する支払が「適正な遂行」に係るとの事情は1審被告が主張,立証すべきである。また,公職の候補者(特に国会議員)に内閣官房報償費を支払う場合,政治資金規正法21条の2第1項,22条の2に違反し得るし,また,支払を受けた国会議員は雑所得として確定申告する必要があるところ,これが望ましくないとの前提で支払えば脱税の共犯となって法的保護に値しない支払になるから,支払相手方の氏名を開示すべきことになる。さらに,会計検査院は報償費支払明細書に基づいて内閣官房報償費について検査するが,これには支払の対象となった活動の内容,支払相手方(国会議員や公務員の氏名)は記載されていないから,これによる検査をもって不当な目的での支出がないとすることはできない。
民間人に交付するための使者として公務員に内閣官房報償費を支払う場合は,本件対象文書には当該公務員の氏名が記載されるにすぎないから,これを開示しても,当該公務員が,民間人の誰と,いつ,いかなる用件で面会し,いかなる情報を収集したか等の具体的使途につながる事実は一切明らかにならないし,公務員の使者としての行為は,守秘義務の課された公務の遂行そのものであり,当該公務員は,民間人を特定するに足りる情報を開示し得ないから,その氏名を開示すべきことになる。
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ア |
情報公開法6条2項の性格(控訴に係る補充主張)
情報公開法6条2項は,個人識別情報が含まれる情報について,独立した一体的な情報を細分化した上で部分開示を特別に義務付けることを可能にしたとの創設的な規定ではなく,5条1号により不開示事由とされる「個人に関する情報」との定めが包括的・一般的であるため,そのような性質を持つ「個人に関する情報」を記載した文書についても6条1項の部分開示の趣旨が確実に実現されるよう念のために置かれた確認的な規定にすぎない(甲46・47,最高裁平成19年4月17日第三小法廷・補足意見参照)。同条2項を創設的な規定と解した最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決は,上記平成19年判決により実質的に変更されている。
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イ |
「独立した一体的な情報」の範囲(控訴に係る補充主張)
情報公開法6条2項が確認的な規定であることを前提とすると,部分開示義務の対象となる「独立した一体的な情報」の範囲は,拡大解釈すべきでなく,「最小限の有意な情報」と限定的に解釈すべきである。そして,それが不開示情報に当たるか否かは,情報を重層的に捉えることが可能な場合には,開示することが相当でないひとかたまり,すなわち5条6号及び3号の不開示事由とされている「おそれ」等を生じさせる原因となる情報の範囲で画すべきである(甲46,47)。そのように解すると,この「おそれ」等を生じる原因とならない「最小限の有意な情報」は全て公開すべきことになる。
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(3) |
本案の争点(本件不開示決定部分の適法性)について
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ア |
本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する情報が記録された文書の不存在について(1審被告の控訴に係る新主張〔後記4(3)ア〕に対する反論)
本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する情報が記録された領収書等,支払決定書及び出納管理簿が存在しないとの1審被告の控訴に係る新主張は,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。すなわち,上記情報について不開示事由があるか否かは,その開示を認めた大阪地裁平成24年11月22日判決があることを踏まえて,原審において既に争点であったから,1審被告には前提問題として当該文書が存在しないことを主張する十分な機会があったにもかかわらず,1審被告はあえてそれをしなかった。
仮に,上記主張が却下されないとしても,1年に及ぶ本件対象期間中に,本件公共交通機関の利用に係る領収書等が全く存在しないとの主張を裏付ける陳述書(乙9)は何ら信用できない。
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イ |
領収書等について(控訴に係る補充主張)
調査情報対策費や活動関係費を,情報提供者や協力者に直接支出するのでない場合(タクシー・ハイヤー等の交通費,会合費や贈答品購入費,振込手数料の支払関係費用等,支払相手方が情報提供者や協力者ではなく,関係業者等に支出する場合。以下「間接支払類型」という。)については,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等と同様に,領収書を発行した業者に対して第三者が不正工作等をしても,交通機関の利用者や車内における会話内容,会合の参加者や会合場所内における会話内容,贈答品の内容や送り先,金融機関での振込みの内容を特定するのは不可能であり,不開示事由はない。例えば,タクシー・ハイヤー等の交通費については,開示された領収書を基に第三者が交通事業者に不正工作を行い,乗務日報等の詳細な情報を入手して,運転手や利用区間,目的地を割り出し,さらに運転手に接触して,利用者の氏名や車内での会話を割り出すおそれなど現実的には想定できない。振込手数料については,金融機関は情報セキュリティ対策をしているから,その程度に多少の差はあっても,不正工作により情報が流出することは現実的には想定できない。
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ウ |
支払決定書(本件公共交通機関の利用分を除く)について(控訴に係る補充主張)
支払決定書は,調査情報対策費と活動関係費につき,月に1度まとめて各1枚作成するところ,「支払相手方等」欄は一番件数の多いものを代表的なものとして一部が記載されるにすぎないから,間接支払類型に関する支払が記載されている場合には,一律に不開示事由があるとすることはできない。
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エ |
出納管理簿(調査情報対策費及び活動関係費に係る部分)について(控訴に係る補充主張)
前記ウと同様,間接支払類型に関する支出が記載されている場合には,一律に不開示事由があるとすることはできない。
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オ |
領収書等,支払決定書及び出納管理簿に記録された情報の部分開示義務について(控訴に係る補充主張)
領収書等は,支払相手方や支払目的の記載がないものがあるから,支払の日時,金額のみで「最小限の有意な情報」といえる。
支払決定書は,当該支払決定に係る請求書が添付され,これを確認することにより支払相手方と支払目的の適法性・妥当性を判断することができるため,「支払相手方等」欄は一番件数の多いものが代表的なものとして記載されるにすぎないから,この欄の記載は本質的な部分ではなく,他の部分のみで「最小限の有意な情報」といえる。
出納管理簿は,出納状況を一覧できるようにすることを目的として,政策推進費受払簿及び支払決定書の記載内容を転記する二次的な文書にすぎず,誰に支払ったかの記載は重要でないため,「支払相手方等」については,「本欄は記載した場合,支障があると思われる場合は省略することができる」との注記(本件注記)が記載されているから,支払相手方等を記載した部分を除いた他の部分で「最小限の有意な情報」といえる。
したがって,領収書等,支払決定書及び出納管理簿に記録された支払相手方と支払目的の記載は,他の記載とともに「独立した一体的な情報」を構成していると考えることはできないから,1審被告は,他の記載部分を開示すべき義務を負う。
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(1) |
情報公開法5条6号及び3号の各不開示事由の解釈及びその審理方法等
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ア |
情報公開法5条6号の解釈方法(控訴に係る補充主張及び1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(1)ア〕に対する反論)
情報公開法5条6号所定の「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」か否かは,当該事務等の性質から判断すべきである。具体的には,事務等が高度の密行性・秘匿性を有する場合に,これに関する情報を公にすることは,当該事務等の性質と抵触し,事務等の存在意義を否定することになるから,これに関する情報を記録した文書が開示されると,事務等の適正な遂行に「支障を及ぼすおそれ」があると端的に解すべきである。
内閣官房報償費の支払事務については,多岐にわたる機能を果たす内閣官房の事務を円滑かつ効果的に遂行するために機動的に使用する経費としての役割の重要性,その支出に関する文書が極めて厳重に管理されているとの機密保護の必要性に照らせば,これに関する情報を記載した文書を開示しないことができるか否かは,公にすることにより内閣官房報償費に係る事務等の適正な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれがあるか否かにより決せられるべきである。
上記のおそれの有無を判断するに当たっては,対象文書に支払相手方を識別し得る情報が含まれているかだけでなく,内閣が推進しようとしている政策とそれに関連する活動を阻害し得る情報が含まれているか否かという観点から検討すべきところ,対象文書に具体的使途を識別し得る情報が含まれている場合には,推進しようとしている政策が推測されることになり,円滑かつ効果的な推進を期待できなくなるし,具体的使途を識別し得る情報が含まれない場合であっても,推進のために行われている活動を巡って様々な憶測と関心を巻き起こし,支払相手方や関係者と目された者が報道機関等の注目を浴びて詮索されるなどして困惑したり萎縮したりする結果,これらの者からの協力や支持を得られにくくなり,ひいては内閣官房長官においても,憶測と詮索により政策の推進が阻害される事態が生じることを懸念して,必要な支払や機動的な使用ができなくなることも十分に考えられる。さらには,内閣官房報償費の支払が報道機関はもとより他国においても強い関心を持つ事柄であることからすると,活動を阻害し得るような情報が含まれているかは,開示請求者や報道機関等が有している特殊な関連情報や,専門的な情報機関が入手し得る関連情報も考慮して判断すべきである。
具体的には,例えば,支払相手方の氏名や属性そのものの情報でなくとも,これに結びつき得る情報が明らかになった場合,相手方に関する一定の情報を有する者がこれと照合・分析することにより氏名・属性が開示された場合と同様の支障が生じることになる。そのような情報が開示されてしまうと,我が国は協力者等を秘匿できない国であるとして,他の事案に関する協力者等からの信頼を損う結果,今後の情報収集,協力依頼の活動に多大な支障を来すおそれがある。
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イ |
情報公開法5条3号の解釈方法(控訴に係る補充主張及び1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(1)イ〕に対する反論)
情報公開法5条3号は,不開示情報該当性について行政機関の長がした判断について広い裁量権を認めた趣旨の規定であるから,当該判断に至る過程で行政機関の長が行った各段階における裁量権の行使に逸脱・濫用があったことを基礎付ける具体的事実については,1審原告がその主張立証責任を負う。
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ウ |
支払相手方が公務員である場合(1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(1)ウ〕に対する反論)
内閣官房報償費が公務員あるいは公職の候補者に対する違法又は不当な支払に用いられているとの1審原告の主張は根拠のない憶測にすぎない。
民間人に交付するための使者として公務員が直接の支払相手方となる場合であっても,公務員の氏名や支払時期及び金額が明らかになると,当該公務員に対する不正な働き掛け等によって最終受領者である非公務員の氏名や具体的使途が明らかになるし,当時生じていた内政・外政に係る案件等と照合することによって,最終的受領者である民間人の氏名や具体的使途が明らかになる蓋然性がある。
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ア |
情報公開法6条2項の性格(1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(2)ア〕に対する反論)
情報公開法6条2項は,5条1号により不開示情報とされる個人識別情報について,6条1項のみに基づいて部分開示を義務付けることがそもそもできないことを前提に,情報を細分化した態様での部分開示をすることに法的根拠を与えた趣旨の創設的な規定であるから,6条1項が,同条2項に該当する場合に限定することなく,一般的に,情報を細分化した態様での部分開示を義務付けた趣旨の規定であると解することはできない。
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イ |
「独立した一体的な情報」の範囲(1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(2)イ〕に対する反論)
情報公開法6条2項が創設的な規定であることを前提とすれば,部分開示義務の対象となる「独立した一体的な情報」の範囲は,最小限の「記述等の部分」(同法6条2項)ごとに分断的に捉えるべきでなく,当該文書がいかなる趣旨・目的でどのような情報を記録したものであるかという文書の作成目的や機能との関係から,「社会的に有意な情報」としての意味を持つものかどうかにより決するべきである。
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(3) |
本案の争点(本件不開示決定部分の適法性)について
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ア |
本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する情報が記録された文書の不存在について(控訴に係る新主張)
上記情報が記録された領収書等,支払決定書及び出納管理簿の存在を否認する。
1審被告は,上記文書の存否を明らかにすると,本件対象期間における 本件公共交通機関の利用に係る交通費の支出の有無という対象文書に記録されている情報それ自体を明らかにし,ひいては内閣官房報償費の具体的使途の特定につながることから,原審においてこれを明らかにできなかった。原判決を受けて,内閣官房内閣総務官において上記文書の存否を改めて確認したところ,これが存在しないことが明らかになった(乙9)。
開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定に対する取消訴訟においては,取消しを求める者が当該決定時に行政機関が当該文書を保有していたことの主張立証責任を負うところ(最高裁平成26年7月14日第二小法廷判決),この理は,開示請求の時点において対象文書が特定されていなかったため,内閣官房内閣総務官において文書の存否を確認することができず,不開示決定に対する取消訴訟の審理において初めてこれを特定する主張がされた本件訴訟についても同様に当てはまる。
したがって,1審原告は,1審被告がその存在を否認する上記文書の存在を立証していないから,不開示決定に対する取消請求は認められない。
なお,原審の口頭弁論終結期日に至って,1審原告が主張する公共交通機関の内容が初めて特定され,その対象となる領収書等の存否は特に問題にされなかったとの原審の審理経過,領収書等の存否を明らかにすること自体が不開示情報そのものを明らかにすることになることからすれば,1審被告が当審において上記主張をすることについて故意又は重過失があるとはいえない。
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イ |
領収書等について(1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(3)イ]に対する反論)
間接支払類型による調査情報対策費や活動関係費に係る領収書等を開示すると,会合場所を提供する事業者や金融機関の従業員等に対して第三者が不正な働き掛けやサイバー攻撃などをした場合に,情報が漏洩する事態が生じることが十分に想定される(乙11,12)。
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ウ |
政策推進費受払簿について(控訴に係る補充主張)
ある時期に繰り入れられた政策推進費が,繰入れに近接した時期に全額支払われる場合,政策推進費受払簿が開示されることにより,政治情勢の推移,政策課題の緊急性と政策推進費の繰入れの間隔次第では,個別の支払額と支払時期が事実上特定ないし推測され得るところ,特に,本件対象期間における特定の月については,政策推進費の繰入れが3回存在し,その間隔がごく短期間であるために,その時々に生じていた政策課題等との照合も容易であることから,上記特定ないし推測の蓋然性が高まる。
内閣官房報償費の支出の対象は,国政の中枢を担う内閣官房において必要と考える重要な政策の推進のための諸活動であるところ,内閣官房の活動は,報道機関はもとより,与野党,経済界,市場関係者さらには各国からも注目されており,その動静が政治,経済,社会,外交に及ぼす影響は計り知れず,上記特定ないし推測がされない場合であっても,様々な憶測がされ,その憶測が正鵠を得たものでなかったとしても,思惑に基づいた反応が様々な形で現れ,関係者に不信感を抱かせるものである。内閣官房報償費について具体的使途が判明する文書が開示されていない現時点においてすら,情報交換の場を設けるだけでも過度に警戒されるなど,現に関係者の協力を得にくい状況が生じているものであって,情報収集や協力依頼に支障を来している。
したがって,政策推進費受払簿に記録された情報(出納管理簿のうち政策推進費の繰入れに係る項目に記載された情報及び報償費支払明細書のうち政策推進費の繰入れに係る項目に記載された情報を含む。)は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
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エ |
支払決定書について(1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(3)ウ〕に対する反論)
1通で1件の支払を処理した支払決定書が開示された場合,個別に支払決定を行った時期や支払額のほかに,調査情報対策費・活動関係費という区分や,支払相手方や具体的な支払目的が明らかになる。また,1通で複数の支払を処理した支払決定書が開示された場合であっても,支払相手方や具体的な支払目的が記録されているため,これが明らかになる。
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オ |
出納管理簿について(控訴に係る補充主張)
出納管理簿の月分計欄には,受領や支払があった月ごとに当該月の受領額,支払額の各合計額が記録されているところ,これらが開示されると,それを基礎として,ある月と他の月の各合計額を対比してその推移や増減を明らかにすることができ,これにより各月の支払の特徴を分析し,当時の内政・外交の状況等を照合・分析することによって,特定の事案との関係が特定ないし推測される結果,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を来すおそれがある。これは累計欄についても同様である。
したがって,出納管理簿のうち月分計欄及び累計欄に記録された情報(報償費支払明細書のうち繰越記載部分及び一覧表の合計欄に記録された情報を含む。)は情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
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カ |
報償費支払明細書について(控訴に係る補充主張)
報償費支払明細書を公にすることにより,慶弔費と謝礼の支払金額が明らかになると,その支払を受けた者が他者の支払額と比較できるようになるため,その者に不満等を抱かせるおそれがあり,ひいては内閣官房の行う将来の情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがある。
慶弔費については,その支払時期が明らかになると,当該支払時期と重要政策課題のキーパーソン等に関する慶弔の時期とを調査・照合することにより,その支払相手方が特定され,ひいては内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を来すおそれがある。すなわち,慶弔費は,その時期を事前に予測して支払を決定することが困難であり,かつ直ちに支払を要し,支払決定は当該慶弔に近接した時期に行われるため,慶弔費の支払決定を単体で行っていることが多いから,他の関連する情報を照合・分析することにより,慶弔費の支払日及び支払額を特定し得る。特に,本件対象期間における特定の月については,1日2回の支払決定等があり,3回の慶弔費の支出があるところ,そのような支払決定等がされている報償費支払明細書は他に存在しないため,慶弔費の支払日や支払額が特定され得る。そして,我が国が長期間にわたって取り組んでいる重要政策課題の協力者等,多数回にわたって慶弔費の支払を受けている者については,慶弔時期と慶弔費の支払時期との偶然とは考え難い一致が判明して,支払相手方が特定されるおそれが極めて高い。そうすると,当該支払相手方との信頼関係が破壊されるなどして,内閣官房による将来の情報収集・協力依頼の活動等に支障を及ぼすおそれがある。
慶弔費と謝礼以外の費目についても,支払日や支払額が明らかになり,これを基礎に各月の支払日や支払額を対比してその推移や増減を明らかにすることができ,当時の内政・外交の状況等を照合・分析することによって,その支払相手方や具体的使途が特定ないし推測され得る。仮に,特定されなかったとしても,これらについて種々の憶測を呼ぶことは避けられず,支払相手方と目された者が社会的に非難を浴びる状況を協力者等が目の当たりにするなどして,協力者等をして我が国には適切な情報管理を期待できないとの不信感を抱かせ,信頼関係が破壊されるおそれがある。
したがって,報償費支払明細書の調査情報対策費及び活動関係費に係る各項目に記録された情報は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
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キ |
政策推進費受払簿,出納管理簿及び報償費支払明細書に記録された情報の情報公開法5条3号該当性について(控訴に係る補充主張)
政策推進費受払簿,出納管理簿及び報償費支払明細書に記録された情報で外交関係に関する支出に係るものについては,その開示により支払相手方等が特定されるおそれが抽象的であっても存在するのであれば,非公開を当然の前提として行ってきた情報収集・協力依頼の前提が失われることになる。諸外国においては,我が国の内閣官房報償費に相当する費用については,その全体について安全保障上問題がないと判断された場合にのみ総額を公表するにとどめているから(乙14),本件対象文書を一部でも公開することは他国等との信頼関係を破壊するものである。
したがって,他国等との信頼関係が損なわれるおそれがあると認めた行政機関の長の裁量権の行使に逸脱・濫用があったとはいえず,上記の情報は,情報公開法5条3号の不開示情報に該当する。
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ク |
支払決定書及び出納管理簿に記録された情報の部分開示義務について(1審原告の控訴に係る補充主張〔前記3(3)オ〕に対する反論)
1通の支払決定書に記録された情報は,その全体が相まって支払決定という社会的に有意な一つの情報を成すから,「支払相手方等」のみを除いた部分の開示義務があるとはいえない。
出納管理簿は,政策推進費受払簿や支払決定書の記載内容を転記する二次的な文書にすぎないのではなく,その全体が相まって独立した一体的な情報を成すから,「支払相手方等」のみを除いた部分の開示義務があるとはいえない。
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ケ |
出納管理簿及び報償費支払明細書に記録された情報の部分開示義務について(控訴に係る補充主張)
出納管理簿には,個々の支出に関する情報のみならず,月単位,年度単位の入出金状況に関する情報が記録されており,内訳である一覧表全体の記載がまとまりのある一つの情報を形成しているから,その全体が相まって独立した一体的な情報を成す。
報償費支払明細書には,個々の支出に関する情報のみならず,月全体としての収支状況に関する情報が記録されており,内訳である一覧表全体の記載がまとまりのある一つの情報を形成しているから,その全体が相まって独立した一体的な情報を成すところ,慶弔費及び謝礼が含まれる調査情報対策費及び活動関係費に係る部分を除いて部分開示をした場合,開示された項目の支払金額等を照合・分析すれば,慶弔費及び謝礼の支払金額が容易に特定されるものであり,支払年月日が特定されるおそれがあるものであって,不開示情報が記録されている部分を除いた場合,その他の記録部分から不開示情報が明らかになるため,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができないことになる。
したがって,出納管理簿及び報償費支払明細書の月別の収支に関する情報を記録した部分は,繰越部分と一覧表が相まって独立した一体的な情報を成すものであるから,部分開示義務は生じない。
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1 |
情報公開法5条6号及び3号の各不開示事由の解釈及びその審理方法等
(1)のとおり1審原告の控訴に係る補充主張に対する判断を,(2)のとおり1審被告の控訴に係る補充主張に対する判断をそれぞれ付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1(59頁末行~64頁16行目)のとおりであるからこれを引用する。ただし,60頁25行目の「おそれ」から同頁末行の「解すべきである。」までを,「同号所定の「おそれ」の程度についても,文書を開示することにより同号所定の「支障」を及ぼす蓋然性を有するといえることが求められるものと解される。」と改める。
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ア |
情報公開法5条6号の解釈方法(前記第2の3(1)ア)
1審原告は,情報公開法5条6号が不開示事由を抽象的に定めているのはやむを得ないためにすぎないから,不開示を例外とする厳格な限定解釈が求められるところ,「支障を及ぼすおそれ」があるというためには,支障が生じる抽象的な可能性があるだけでは足りず,法的保護に値する程度の蓋然性があることが求められ,開示された情報から支障の原因となる情報が容易に推認できるような場合がこれに当たるというべきであって,開示された情報を手がかりとした第三者の不正工作等の違法な活動が介在することで他の情報が入手されることにより不開示とすべき情報が明らかになるとの無制限かつ連鎖的な判断をすることは許されないと主張する。
引用に係る補正後の原判決説示(60頁24行目~61頁3行目)のとおり,「支障」の程度は実質的なものであることが必要であり,「おそれ」の程度についても,文書を開示することにより同号所定の「支障」を及ぼす蓋然性が要求されると解すべきであり,これら「支障」や「おそれ」の程度については,開示によって支障を及ぼすおそれがあるとされる事務又は事業の性質を踏まえた判断を行う必要がある。
そして,一般的に,我が国の行政全般を担う内閣の動向に関心を有し,不正な手段によってでも情報を得ようとする第三者が国の内外を問わず存在することや,このような第三者が,内閣官房報償費の支払相手方や関係者等を探索した上で,これに接触して,買収,監視,盗聴,脅迫等の様々な不正工作によって情報を得たり,相手方や関係者等から情報を漏洩させたりすること,さらには,これらの者に対してサイバー攻撃等の不正なアクセスを図ろうとすることは,十分に考えられるところである。
そうすると,6号に該当する「支障」や「おそれ」の有無は,不開示事由の有無が問題とされる情報の類型等に応じて,第三者による不正工作が行われる具体的,現実的な可能性や,これにより漏洩する情報の内容,性質等を検討した上で判断すべきものであり,それにより「支障」や「おそれ」があると判断される場合が実際にあり得る以上は,第三者の不正工作等の違法な活動が介在することで不開示とすべき情報が明らかになるとの連鎖的な判断が許されないとはいえない。
したがって,上記主張は採用できない。
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イ |
情報公開法5条3号の解釈方法(前記第2の3(1)イ)
1審原告は,情報公開法5条3号の不開示事由は,本件対象文書のうち,どの文書のどの部分が安全保障上あるいは外交上の情報であるのかが分からず,1審原告の側が,行政機関の長の裁量の逸脱や濫用を基礎付ける事実を把握して主張,立証することは不可能であると主張する。
3号の不開示事由が規定された趣旨については,引用に係る原判決説示(61頁4~25行目)のとおり,我が国の安全,他国等との信頼関係及び国際交渉上の利益を確保することが国民全体の利益を擁護するために政府に課された重要な責務であって,情報公開法においてもこれらの利益は十分に保護されるべきと考えられたことによるものであるところ,同号の規定する情報を記録した文書に当たるか否かについては,①この点が当該不開示処分の適法性を基礎付ける事項であること,また,②公開することにより「国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」があることは行政機関の長が事情をよりよく把握しているものであることからすると,行政機関の長において,同号の規定する情報を記録した文書に当たる根拠となる事実を主張,立証する責任を負うものと解するのが相当である。
もっとも,同号の規定された趣旨からすると,行政機関の長において,当該情報の具体的な内容まで明らかにすることまで求められているわけではなく,不開示処分のされた文書に記録されている情報の性質,内容等から,一般的,類型的にみて同号所定のおそれがあると判断される事情を主張,立証すれば足りるというべきである。
また,同号の文理及び趣旨に照らすと,同号該当性の判断には行政機関の長に一定の裁量が認められるのであり,行政機関の長が同号に該当するとして不開示決定をした場合には,裁判所は,当該行政文書に同号に規定する不開示情報が記録されているか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるかどうかを審理判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断が社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えると認められる場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当である。
そして,1審原告の側においては,本件において実際に行っているように,一般的,類型的にみて同号所定のおそれがあるとはいえないことの根拠となる事情について主張,立証することにより,行政機関の長に裁量の逸脱や濫用があることの違法をいうことができるのであって,情報公開法5条3号に係る前記のような解釈方法が違法,不当なものということはできない。
1審原告の上記主張は採用することができない。
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ウ |
支払相手方が公務員である場合(前記第2の3(1)ウ)
1審原告は,支払相手方が国会議員や公務員の場合は,当該公務員が内閣官房報償費の最終的受領者であり得るところ,このような場合の支払は,賄賂性や公務員倫理上の問題が生じるから,情報公開法5条6号所定の事業等の「適正な遂行」に当たらず,不開示事由に該当しないこと,公職の候補者に内閣官房報償費を支払う場合は,政治資金規正法に違反し得るなど,法的保護に値しない支払になるから,支払相手方の氏名を開示すべきこと,会計検査院は報償費支払明細書に基づいて内閣官房報償費について検査するが,これには支払相手方である国会議員や公務員の氏名は記載されないから,これによる検査をもって不当な目的での支出がないとすることはできないことを主張する。
しかし,引用に係る原判決説示(62頁8~13,17~25行目,63頁12行目~64頁13行目)のとおり,内閣官房長官が行う協力依頼や交渉等の相手方が公務員であったとしても,その立場や対価が支払われる対象となる活動の内容,当該活動をするに至った経緯等は様々なものが考えられるから,支払相手方が公務員というだけで,直ちに当該対価の支払が賄賂性を帯びている,又は公務員の職業倫理に反するものであるということはできず,これは国会議員等についても同様であるといえる。また,内閣に対して独立した地位を有する会計検査院は,内閣官房報償費の支出について,使用目的別に分類した支払額等を記録した報償費支払明細書に基づいて検査し,支払相手方である役務提供者等の領収書等について提出を要求できるところ,その検査において特段の指摘がされたなどの事情は認められない。
また,1審原告は,民間人に交付するための使者として公務員に内閣官房報償費を支払う場合は,本件対象文書には当該公務員の氏名が記載されるにすぎず,当該公務員は守秘義務を負い,民間人を特定できる情報を開示し得ないから,当該公務員の氏名を開示しても,実際に支払を受けた民間人が明らかになることはないと主張する。
しかし,引用に係る原判決説示(62頁13~17行目)のとおり,このような場合,当該公務員の氏名とその他の記録事項等とを照合すれば,当該公務員が代わって受領した相手方である民間人が特定され,具体的使途等が明らかになる可能性があり,内閣官房の事務に支障等が生じることは,当該相手方等の記録が民間人である場合と変わるものではない。
したがって,上記主張はいずれも採用できない。
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ア |
情報公開法5条6号の解釈方法(前記第2の4(1)ア)
1審被告は,情報公開法5条6号の不開示事由該当性は,当該事務等の性質から判断すべきであり,事務等に高度の密行性・秘匿性が認められる場合は,それに関する情報を記録した文書が開示されると,事務等の適正な遂行に「支障を及ぼすおそれ」があると端的に解すべきであるところ,内閣官房報償費の支払事務に関する情報を記載した文書を開示することにより生じる支障のおそれの有無を判断するに当たっては,対象文書に支払相手方を識別し得る情報が含まれているかだけでなく,内閣が推進しようとしている政策とそれに関連する活動を阻害し得る情報が含まれているか否かという観点から検討すべきであって,対象文書に具体的使途を識別し得る情報が含まれない場合であっても,推進のために行われている活動を巡って様々な憶測と関心を巻き起こし,支払相手方や関係者と目された者が報道機関等の注目を浴びて詮索されるなどして困惑したり萎縮したりする結果,これらの者からの協力や支持を得られにくくなり,ひいては内閣官房長官においても,憶測と詮索により政策の推進が阻害される事態が生じることを懸念して,必要な支払や機動的な使用ができなくなることも十分に考えられるなどと主張する。
前記(1)アに説示したとおり,6号に該当する「支障」や「おそれ」の有無は,不開示事由の有無が問題とされる情報の類型等に応じて,第三者による不正工作が行われる具体的,現実的な可能性や,これにより漏洩する情報の内容,性質等を検討した上で判断すべきものであるところ,1審被告が6号の不開示事由に該当することを主張した文書についての判断は,後記4のとおりである。
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イ |
情報公開法5条3号の解釈方法(前記第2の4(1)イ)
1審被告は,情報公開法5条3号は,不開示情報該当性について行政機関の長がした判断について広い裁量権を認めた趣旨の規定であるから,当該判断に至る過程で行政機関の長が行った各段階における裁量権の行使に逸脱・濫用があったことを基礎付ける具体的事実については,1審原告がその主張立証責任を負うと主張する。
前記(1)イの説示のとおり,同号の文理及び趣旨に照らすと,行政機関の長が同号に該当するとして不開示決定をした場合には,裁判所は,当該行政文書に同号に規定する不開示情報が記録されているか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるかどうかを審理判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断が社会通念上合理的なものとして許容される限度を越えると認められる場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当である。
そして,上記法の趣旨に照らすと,裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付ける具体的事実それ自体は,開示を求める側である1審原告において負うことになるというべきであるところ,1審被告が3号の不開示事由に該当することを主張した文書についての判断は,後記4のとおりである。
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2 |
部分開示義務の存否等
(1),(2)のとおり1審原告の控訴に係る補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3の2(64頁18行目~66頁4行目)のとおりであるからこれを引用する。ただし,66頁4行末尾を改行して,「以上の説示に反する限りで,1審原告の主張は採用できない。」を加える。
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(1) |
情報公開法6条2項の性格(前記第2の3(2)ア)
1審原告は,情報公開法6条2項は,個人識別情報が含まれる情報について,独立した一体的な情報を細分化した上で部分開示を特別に義務付けることを可能にしたとの創設的な規定ではなく,5条1号により不開示事由とされる「個人に関する情報」との定めが包括的・一般的であるため,そのような性質を持つ「個人に関する情報」を記載した文書についても6条1項の部分開示の趣旨が確実に実現されるよう念のために置かれた確認的な規定にすぎず,同条2項を創設的な規定と解した最高裁平成13年3月27日判決は,最高裁平成19年4月17日判決により実質的に変更されていると主張する。
しかし,引用に係る原判決説示(64頁18行目~65頁22行目)のとおり,情報公開法6条1項は,その文理に照らすと,1個の行政文書に複数の情報が記録されている場合において,それらの情報のうちに不開示事由に該当する情報があるときは,当該情報を除いたその余の情報を開示することを行政機関の長に義務付けたものと解され,不開示事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分を開示することまでを義務付けたものと解することはできない。そうすると,同条2項に定める場合を除いては,行政機関の長において,1個の情報を細分化することなく一体として不開示決定をしたときに,開示請求者が,同条1項を根拠として,開示することに問題のある部分のみを除外してその余の部分を開示するよう請求する権利はなく,裁判所も,当該不開示決定の取消訴訟において,行政機関の長がこのような態様の部分開示をすべきであることを理由として当該不開示決定の一部を取り消すことはできないと解すべきである(最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁参照)。
したがって,この判決が実質的に変更されたとの点も含め,1審原告の上記主張は採用できない。
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(2) |
「独立した一体的な情報」の範囲(前記第2の3(2)イ)
1審原告は,情報公開法6条2項が確認的な規定であることを前提とすると,部分開示義務の対象となる「独立した一体的な情報」の範囲は,「最小限の有意な情報」と限定的に解釈すべきであり,それが不開示情報に当たるか否かは,同法5条6号及び3号の不開示事由とされている「おそれ」等を生じさせる原因となる情報の範囲で画すべきであって,「おそれ」等を生じる原因とならない「最小限の有意な情報」は全て公開すべきことになると主張する。
しかし,前記(1)の説示のとおり,同法6条2項が確認的な規定であるとの前提が認められない上,引用に係る原判決説示(65頁23行目~66頁2行目)のとおり,部分開示義務の対象となる「独立した一体的な情報」の範囲は,当該行政文書の作成名義,作成の趣旨・目的,作成時期,取得原因,当該記述等の形状,内容等を総合考慮の上,同法の不開示事由に関する規定の趣旨に照らして,社会通念に従って判断するのが相当であるから,これに反する限りで上記主張は採用できない。
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3 |
認定事実
原判決の「事実及び理由」の第3の3(66頁6行目~74頁21行目)のとおりであるからこれを引用する。ただし,69頁13行目の「乙2,3」を「乙1~3」に改める。
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4 |
本案の争点(本件不開示決定部分の適法性。具体的には,①本件対象文書に記録された情報が情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関する情報)に該当するか,②部分開示義務が認められるか等)について
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(1) |
領収書等について
領収書等について,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認める。その理由は,アのとおり補正し,イのとおり1審原告の控訴に係る補充主張に対する判断を,ウのとおり1審被告の控訴に係る補充主張に対する判断をそれぞれ付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の4(1)(75頁5行目~93頁11行目)のとおりであるからこれを引用する。
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(ア) |
81頁20行目冒頭から85頁11行目末尾までを次のとおり改める。
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「c 前記bの説示は,内閣官房が非公式の協力依頼や交渉,情報収集等の活動を行うに際して公共交通機関が利用された場合についても同様に当てはまり,これは領収証等に支払相手方の氏名ないし名称が記録されているか否かを問わないというべきである。
すなわち,証拠(乙7,8)及び弁論の全趣旨によれば,上記領収書等には,利用者名が記載されていない場合であっても(これが記載されている場合には,利用者すなわち情報提供者の氏名等が明らかになるから,政策推進費の領収書等と同様の支障が生じ得る。),日付,金額,代金の支払方法,交通事業者の名称等,乗車日,利用人数及び利用区間に加えて,会員番号や預かり番号,航空券番号といった種々の情報が記載されることがあることが認められる。
そして,一般に,公共交通機関といっても,料金体系と対比するなどして,その利用区間(目的地)が明らかになれば(例えば,特急料金が支払われているような場合),内閣が特定地域において協力依頼や情報収集活動を実施したことを推知させるものといえるし,その営業地域がごく限られている公共交通機関にあっては,利用区間(目的地)が明らかにならない場合であっても,公共交通機関の名称自体から,当該地域における活動等を推知することが可能となることもあり得る。これに,その当時の内政・外政の状況等とを照合,分析することにより,内閣が特定の地域において,その関心を有する特定の政策課題に対し,協力依頼や情報収集を行ったことを推知させることにつながるものといえる。
また,内閣が協力依頼や情報収集活動を行う特定の政策課題は,それが困難な問題を含むものであるほど,相当長期間にわたり,継続しで粘り強い活動をする必要があることが容易に想定されるところ,開示された上記領収書等から得られる上記の地域性や,往来の頻度(一定期間の領収書等を分析することで,一定期間に同一地域への移動がどの程度あったかが明らかになるといえる。)に関する情報を基に,その当時の内政・外政の状況等を照合,分析することにより,特定地域において,内閣が関心を有する特定の政策課題に対する協力依頼や情報収集活動が継続的に行われていることが,相当程度の蓋然性をもって推知される場合があり得る。このような場合には,第三者が当該交通事業者に事前に働き掛けて情報提供を依頼する方法,当該交通事業者の施設や利用者を監視する方法,当該交通事業者のサーバーにアクセスして情報を流出させる方法(なお,証拠〔乙11,12〕によれば,政府機関のみならず民間業者を対象としたサイバー攻撃が激化,巧妙化していることが認められる。また,近時,旅行業者に標的型メール攻撃が行われた結果,数百万人の顧客個人情報が不正に流出した可能性があることは,公知の事実である。)等により,不正に情報を得ようとすることも考えられ,こうした工作の結果,当該公共交通機関の利用者の氏名等が明らかになる可能性がある。
このように,支払相手方の氏名等の記載のない公共交通機関の利用に係る交通費の領収書等であっても,それが開示されることにより明らかとなる情報は憶測を呼ぶ程度の抽象的なものとみるのは相当ではなく,上記の説示に照らすと,当該領収書等の開示により,内閣の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認めることができる。また,外交関係事項に関するものについては,当該領収書等の開示により,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると内閣官房内閣総務官が判断したことにつき裁量権の逸脱又は濫用があるとは認められず,その判断に相当の理由があるということができる。したがって,当該領収書等に記録された情報は,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。」
(イ) |
88頁末行の「活動関係費」から89頁4行自の「その余の」までを削る。
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(ウ) |
90頁3行自の「低い等というという」を「低い等という」と改め,同24行自の「乗用自動車」を「事業用自動車」に改める。
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(エ) |
90頁16行目末尾を改行して次のとおり加え,以後の項を順次繰り下げる。
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「(ウ)1審原告は,本件公共交通機関に対して支出された交通費に関する領収書等については,これが開示され,第三者がその従業員等に対する不正工作をしたとしても,当該領収書等に係る利用者の現実的な特定方法は想定し難く,誰が利用したかを特定されるおそれは抽象的なものにとどまるから,原判決別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等については,不開示事由があるとはいえないと主張ずる。
しかし,第三者が当該交通事業者に事前に働き掛けて情報提供を依頼する方法,当該交通事業者の施設や利用者を監視する方法,当該交通事業者のサーバーにアクセスして情報を流出させる方法等の不正工作の結果,当該公共交通機関の利用者の氏名等が明らかになる可能性があることは前記ウ(イ)cで説示したとおりであって,上記主張は採用できない。」
(オ) |
91頁18行目の「関係活動費」を「活動関係費」に改める。
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(カ) |
93頁3行目の「領収書等」から8行目の「その余の」までを削り,9行目の「同条」を「情報公開法5条」に,10行目の「上記その余の領収書等」を「これ」にそれぞれ改める。
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(ア) |
1審原告は,間接支払類型の場合は,領収書を発行した業者に対して第三者が不正工作等をしても,交通機関の利用者や車内における会話内容,会合の参加者や会合場所内における会話内容,贈答品の内容や送り先,金融機関での振込みの内容を特定するのは不可能であり,不正工作により情報が流出することは現実的には想定できないから,不開示事由はないと主張する(前記第2の3(3)イ)。
しかし,引用に係る補正後の原判決説示(90頁5行目~91頁末行)のとおり,内閣官房報償費が用いられるのは内政上・外政上の重要政策に関するものであることを踏まえると,不正手段を用いてでも,我が国の政府の情報収集等を行おうとする者が存在することが推認でき,間接支払類型においても,交通費,会合費用,贈答品等の購入費用及び支払関係費用に係る領収書等の開示を契機とした不正行為等が行われるおそれは具体的なものというべきである。
したがって,上記主張は採用できない。
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(イ) |
1審原告は,領収書等は,支払相手方や支払目的の記載がないものがあるから,支払の日時,支払金額のみで「最小限の有意な情報」といえるとして,領収書等に記録された支払相手方と支払目的の記載は,他の記載とともに「独立した一体的な情報」を構成していると考えることはできないから,1審被告は他の記載部分を開示すべき義務を負うと主張する(前記第2の3(3)オ)。
しかし,前記2(1)の説示のとおりの情報公開法6条2項の性格,同(2)の説示のとおりの独立した一体的な情報の範囲の解釈に照らせば,引用に係る補正後の原判決説示のとおり(92頁2行目~93頁初行),領収書等は,誰が,誰から,いつ,いくらの金員の支払を受けたのかといった事項を明らかにするものであると解され,1通の領収書等に記録された情報は,金員の受領又は請求という社会的に有意な一つの事実に関連した情報であって,社会通念上独立した一体的な情報を成すものということができるから,各支払に対応する領収書等に記録された情報のうち「支払日」や「支払金額」の記録部分のみを開示すべきものということはできない。
したがって,1審原告主張の各部分(支払相手方と支払目的が記録された部分)を除いた他の記載部分について同法6条1項に基づく部分開示義務があるとはいえないから,上記主張は採用できない。
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ウ |
1審被告の控訴に係る補充主張に対する判断
1審被告は,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する情報が記録された上記情報が記録された領収書等,支払決定書及び出納管理簿の存在を否認するなどして開示義務を争う(前記第2の4(3)ア)。
しかし,これら文書が存在するとしても,前記アのとおり,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められるから,この点については判断を要しない。
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(2) |
政策推進費受払簿について
政策推進費受払簿について,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認める。その理由は,1審被告の控訴に係る補充主張に対する判断も含め,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の4(2)(93頁13行目~96頁6行目)のとおりであるからこれを引用する。
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イ |
93頁24行目冒頭から95頁16行目末尾までを次のとおり改める。
「 そうすると,政策推進費受払簿の開示により,今回繰入日及び今回繰入額のほか,前回繰入日から今回繰入日までの支払額が明らかになるが,それ自体からは,支払相手方や具体的使途まで判明するわけではない。
しかし,政策推進費受払簿の記載上,繰入れがほぼ各月ごとに2回又は3回の頻度行われ,いずれの繰入れも次の繰入れがされるまでに残額が0円になるような運用がされている期間があると認められるところ(甲24,25,弁論の全趣旨),ある時期に繰り入れられた政策推進費が繰入れに近い時期に全額あるいは大部分の額が支払われるような場合には,その支払額と支払時期が相当程度特定ないし推認されることになる。そして,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,報償費が使用されるものと考えられる出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,推進しようとしている政策や施策,その支払相手方や具体的使途についても,相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。
しかも,内閣官房報償費は,内閣官房の行う事務(引用に係る原判決の認定事実(1)参照)を円滑かつ効果的に遂行するために支出されるものであり,その支出について報道機関,内外の関係機関,関係者からの注目度が高いことからすると,開示請求者,報道機関,専門的な情報機関等が関連する情報を多数有していることは十分あり得るところであるから,それらの情報と政策推進費受払簿に記載された上記の情報とを照合,分析することにより,上記の確からしさの程度は一層高まるものというべきである。また,政策推進費受払簿にある繰入額の推移や支払額についての情報を一定の長期にわたり集積し,内閣の推進しようとした政策や施策と照合,分析することによっても,確からしさの程度を高めることができるものということができる。内閣官房報償費への注目度の高さからして,関連する情報を違法又は不正に入手しようとする者が存在することも,無視することはできない。
このように,政策推進費の個別の支払額,支払時期,推進しようとしている政策や施策,支払相手方,具体的使途が相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があることからすると,内閣において,推進しようとする政策や施策のために必要な政策推進費を支出することをためらったり,支出に当たっての機動性を欠くことを余儀なくされることが予測されるし,また,その支払を受ける相手方においても,特定されることをおそれて,その受取りをためらったり,政策や施策への協力を取りやめようとしたりすることが予測されるところである。
以上のような事情によれば,政策推進費受払簿を開示することにより情報公開法5条6号が規定する「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす」蓋然性があるというべきである。
この点につき,1審原告は,政策推進費受払簿に記録されている情報が開示されても,政策推進費の支払相手方や具体的使途等の情報が明らかになるものではなく,1審被告が主張するような合理的な推測はおよそ不可能であり,支払先の特定又は推測は依然として憶測の域を出ないものであるなどとして,国の事務又は事業の適正な遂行等に支障を及ぼす蓋然性があるとはいえないと主張する。
しかし,政策推進費受払簿の開示により,そこに含まれている個々の支払の全てについて,支払の金額,支払相手方,具体的使途等が判明するとまではいえないのは確かであるものの,前記のとおり,相当程度の確からしさをもってこれらを特定ないし推認することが可能になる場合が一定の割合で存在することとなると,政策推進費を支払う側も受け取る側もより一層警戒感を強めてしまい,支払や受取り・協力をためらう事態が生じることが容易に予想されるのであり,このような状況の存在が,情報公開法5条6号に規定する「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす」蓋然性に当たるということができる。
したがって,上記主張は採用できない。
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ウ |
95頁18行目冒頭から96頁初行末尾までを次のとおり改める。
「 上記のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報が開示された場合,一定期間内における支払合計額が明らかにはなるが,ある支払についての支払日と支払額,具体的な使途や支払相手方がそれ自体から特定される蓋然性があるとは考え難いものではある。
しかし,前記認定事実(4)イのとおり,政策推進費受払簿には,前回繰入後の政策推進費の残額,前回繰入時から今回までの政策推進費の支払額,今回の繰入前の政策推進費の残額,今回の繰入額,今回繰入後の政策推進費の合計額等が記録されるものであり,これが開示された場合,前回繰入時から今回繰入時までの一定期間内における政策推進費の支払合計額は明らかになるものである。そして,政策推進費受払簿の記載上,繰入れがぼぼ各月ごとに2回又は3回の頻度行われ,いずれの繰入れも次の繰入れがされるまでに残額が0円になるような運用がされている期間があると認められるところ(甲24,25,弁論の全趣旨),ある時期に繰り入れられた政策推進費が繰入れに近い時期に全額あるいは大部分の額が支払われるような場合には,その支払額と支払時期が相当程度特定ないし推認されることになる。そして,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,報償費が使用されるものと考えられる出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,推進しようとしている政策や施策,その支払相手方や具体的使途についても,相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。
しかも,内閣官房報償費は,内閣官房の行う事務(引用に係る原判決の認定事実(1)参照)を円滑かつ効果的に遂行するために支出されるものであり,その支出について報道機関,内外の関係機関,関係者からの注目度が高いことからすると,開示請求者,報道機関,専門的な情報機関等が関連する情報を多数有していることは十分あり得るところであるから,それらの情報と政策推進費受払簿に記載された上記の情報とを照合,分析することにより,上記の確からしさの程度は一層高まるものというべきである。また,政策推進費受払簿にある繰入額の推移や支払額についての情報を一定の長期にわたり集積し,内閣の推進しようとした政策や施策と照合,分析することによっても,確からしさの程度を高めることができるものということができる。内閣官房報償費への注目度の高さからして,関連する情報を違法又は不正に入手しようとする者が存在することも,無視することはできない。
さらには,上記のような特定が相当程度の確からしさをもってされる場合があることによって,また,それに至らない場合であっても,様々な推測や憶測がされることによって,外政事案に関係する者が内閣の関係者との接触に萎縮し,あるいは必要以上に警戒するなどして,内閣においてその協力を得にくくなり,今後の重要な外政事案に関する内閣による情報収集や協力依頼といった活動全般に支障を来すこととなると内閣官房内閣総務官が判断することにも一定の合理性があるといえる。
情報公開法5条3号の不開示事由の判断枠組みは,前記1(2)のとおりであり,同号該当性の判断には行政機関の長に一定の裁量が認められるのであるから,行政機関の長が同号に該当するとして不開示決定をした場合には,裁判所は,当該行政文書に同号に規定する不開示情報が記録されているか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるかどうかを審理判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断が社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えると認められる場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当である。そして,上記説示に照らせば,政策推進費が外交関係事項に支出された場合に,政策推進費受払簿に記録された情報を開示すれば,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると内閣官房内閣総務官が判断したことが,合理的なものとして許容される限度を超えると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開法5条3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。
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(3) |
支払決定書について
支払決定書については,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認める。その理由は,アのとおり補正し,イのとおり1審原告の控訴に係る補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の4(3)(96頁8行目~98頁13行目)のとおりであるからこれを引用する。
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(ア) |
96頁15行目の最初の「支払決定書」から19行目の「それ以外の」までを削り,22行目の「同条」を「情報公開法5条」に改める。
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(イ) |
98頁5行目の「支払決定書」から10行目の「その余の」までを削り,11行目の「同条」を「情報公開法5条」に改める。
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(ア) |
1審原告は,支払決定書は,調査情報対策費と活動関係費につき,月に1度まとめて各1枚作成するところ,「支払相手方等」欄は一番件数の多いものを代表的なものとして一部が記載されるにすぎないから,間接支払類型に関する支払が記載されている場合には,不開示事由があるとすることはできないと主張する(前記第2の3(3)ウ)。
しかし,引用に係る補正後の原判決説示(96頁9~23行目)のとおり,支払決定書は,調査情報対策費及び活動関係費を支出する際に,支払決定を行うために作成する文書であり,支払決定には1件又は複数の支払に係る決定があるところ,1件の支払に係る決定の場合は,当該支払の個別具体的な使途と支払相手方の氏名ないし名称が記録され,また,複数の支払に係る決定の場合は,代表的な使途と支払相手方の氏名等が記録されるものであって,これを開示するといずれにせよ具体的使途と支払相手方の氏名等が明らかになり,調査情報対策費と活動関係費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じることとなる。
したがって,上記主張は採用できない。
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(イ) |
1審原告は,支払決定書は,「支払相手方等」欄は一番件数の多いものが代表的なものとして記載されるにすぎないから,この欄の記載は本質的な部分ではなく,他の部分のみで「最小限の有意な情報」といえるとして,支払決定書に記録された支払相手方と支払目的の記載は,他の記載とともに「独立した一体的な情報」を構成していると考えることはできないから,1審被告は他の記載部分を開示すべき義務を負うと主張する(前記第2の3(3)オ)。
しかし,前記2(1)の説示のとおりの情報公開法6条2項の性格,同(2)の説示のとおりの独立した一体的な情報の範囲の解釈に照らせば,引用に係る補正後の原判決説示のとおり(96頁25行目~98頁3行目),支払決定書は,調査情報対策費又は活動関係費の支払につき,いつ,何について,誰に対する,いくらの支払決定を行ったかという事項を明らかにするものであり,1通の支払決定書に記録された情報は,支払決定という社会的に有意な一つの事実に関連した情報であって,社会通念上独立した一体的な情報を成すものということができるから,支払決定書に記録された情報のうち「支払日」や「支払金額」の記録部分のみを開示すべきものということはできない。
したがって,1審原告主張の各部分(支払相手方と支払目的が記録された部分)を除いた他の記載部分について同法6条1項に基づく部分開示義務があるとはいえないから,上記主張は採用できない。
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(4) |
出納管理簿について
出納管理簿については,既に開示されている請求書と同じ情報が記載されていることから,国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る部分は,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当するとは認めないが,その他の部分については,同条6号及び同条3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認める。その理由は,アのとおり補正し,イのとおり1審原告の控訴に係る補充主張に対する判断を,ウのとおり1審被告の控訴に係る補充主張に対する判断をそれぞれ付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の4(4)(98頁15行目~105頁21行目)のとおりであるからこれを引用する。
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(ア) |
99頁15行目の「一覧表のうち」から22行目末尾までを次のとおり改める。
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「 一覧表のうち上記(ア)(b)の政策推進費の繰入れに係る各項目の記録については,前記認定事実(4)エのとおり,政策推進費受払簿lこ記録された情報と同様の情報が記録されているものである。そうすると,前記(2)のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報は情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認められることからすれば,出納管理簿の一覧表のうち政策推進費の繰入れに係る各項目の記録部分についても同様の結論となる。」
(イ) |
100頁3行目の「かかる出納管理簿」から8行目の「それ以外の」までを削り,12行目の「同条」を「情報公開法5条」に改める。
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(ウ) |
101頁7行目の「このほか,」から102頁2行目末尾までを次のとおり改める。
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「 このほか,一覧表のうち,月分計部分及び累計部分並びにそれぞれに対する内閣官房長官の確認印については,当該情報が開示されると,各月における内閣官房報償費の支払合計額,年度当初から特定の月の月末までの間の内閣官房報償費の支払合計額及び年度末における内閣官房報償費の残額が明らかになるものであるから,前記(2)及び後記(5)と同様に,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。」
(エ) |
104頁11行目の「記録された情報」から17行日末尾までを次のとおり改める。
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「記録された情報については,一覧表の上記ア(ア)(a)の国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る項目の記録を除く部分には,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報が記録されていると認められるから,上記部分の記録全てが一体として不開示情報に該当する」
(オ) |
105頁1行目の「一方,」から11行目末尾までを次のとおり改める。
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「以上からすれば,内閣官房内閣総務官は,出納管理簿について,国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る項目の記録についてのみ,同法6条1項に基づく部分開示をすべき義務があるものと認められる。」
(カ) |
105頁14行目の「調査情報対策費」から19行目の「適法である。」までを次のとおり改める。
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「国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る項目に係る部分を除く部分については,いずれも情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められるから,これを不開示とした部分は適法である。」
イ |
1審原告の控訴に係る補充主張(調査情報対策費及び活動関係費に係る部分)に対する判断
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(ア) |
1審原告は,間接支払類型に関する支出が記載されている場合には,不開示事由があるとすることはできないと主張する(前記第2の3(3)エ)。
しかし,前記(3)イの説示と同様であって,かかる主張は採用できない。
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(イ) |
1審原告は,出納管理簿は,政策推進費受払簿及び支払決定書の記載内容を転記する二次的な文書にすぎず,「支払相手方等」については省略を認める本件注記が記載されており,支払相手方等を記載した部分を除いた他の部分で「最小限の有意な情報」といえるのであって,出納管理簿に記録された支払相手方と支払目的の記載は,他の記載とともに「独立した一体的な情報」を構成していると考えることはできないから,1審被告は他の記載部分を開示すべき義務を負うと主張する(前記第2の3(3)オ)。
しかし,前記2(1)の説示のとおりの情報公開法6条2項の性格,同(2)の説示のとおりの独立した一体的な情報の範囲の解釈に照らせば,引用に係る補正後の原判決説示のとおり(102頁4行目~105頁11行目),出納管理簿は,国庫からの入金に係る情報(入金回数,年月日,受領額,残額),政策推進費からの繰入れに係る情報(年月日,支払額,残額),調査情報対策費及び活動関係費の支払に係る情報(使用目的の類型,年月日,支払額,残額,支払相手方等),月分計に係る情報並びに累計に係る情報が,それぞれ独立した一体的な情報であり,「支払に係る情報」が全体として独立した一体的な情報を成すものということができるから,そのうち「支払日」や「支払金額」の記録部分のみを開示すべきものということはできない。
したがって,1審原告主張の各部分(支払相手方と支払目的が記録された部分)を除いた他の記載部分について同法6条1項に基づく部分開示義務があるとはいえないから,上記主張は採用できない。
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(ア) |
1審被告は,出納管理簿の月分許欄には,受領や支払があった月ごとに当該月の受領額,支払額の各合計額が記録されているところ,これらが開示されると,それを基礎として,ある月と他の月の各合計額を対比してその推移や増減を明らかにすることができ,これにより各月の支払の特徴を分析し,当時の内政・外交の状況等を照合・分析することによって,特定の事案との関係が特定ないし推測される結果,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を来すおそれがあり,これは累計欄についても同様であるから,月分計欄及び累計欄に記録された情報は情報公開法5条6号の不開示情報に該当すると主張する(前記第2の4(3)オ)。
上記情報が同条6号の不開示情報に該当することは前記アのとおりである。
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(イ) |
1審被告は,出納管理簿に記録された情報で外交関係に関する支出に係るものについては,その開示により支払相手方等が特定されるおそれが抽象的であっても存在するのであれば,非公開を当然の前提として行ってきた情報収集・協力依頼の前提が失われることになるところ,諸外国においては,我が国の内閣官房報償費に相当する費用については,その全体について安全保障上問題がないと判断された場合にのみ総額を公表するにとどめていることからすると,本件対象文書を一部でも公開すことは他国等との信頼関係を破壊するものであり,他国等との信頼関係が損なわれるおそれがあると認めた行政機関の長の裁量権の行使に逸脱・濫用があったとはいえず,上記の情報は,情報公開法5条3号の不開示情報に該当すると主張する(前記第2の4(3)キ)。
上記情報が同号の不開示情報に該当することは前記アのとおりである。
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(5) |
報償費支払明細書について
報償費支払明細書については,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認める。その理由は,アのとおり補正し,イのとおり1審被告の控訴に係る補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の4(4)(105頁23行目~108頁19行目)のとおりであるからこれを引用する。
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(ア) |
106頁4行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。
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「 前記認定事実(4)オのとおり,一覧表のうち政策推進費の繰入れの場合には,政策推進費受払簿に記録された情報が転記されており,政策推進費受払簿作成(政策推進費繰入れ)の日付,当該繰入れに係る金額が記録されるところ,前記(2)のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報については,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報該当性が認められるから,報償費支払明細書の政策推進費の繰入れに係る各項図についても同様の結論となる。」
(ウ) |
106頁18行目冒頭から107頁25行目末尾までを次のとおり改める。
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「 そうすると,報償費支払明細書の一覧表に記録された情報が開示されれば,調査情報対策費及び活動関係資の支払相手方までは,それ自体からは判明しないものの,支払決定日や具体的金額が明らかになる。この支払決定日は実際の役務提供日と一致するものではなく,支払決定が複数の支出についてまとめて行われる場合には,報償費支払明細書それ自体からは,支払相手方についてはもちろん,個々の支出の日付や金額いかんが判明することはないし,その支払が複数の支出についてまとめて行われたものであるのか否かも判明するものではない。
しかし,上記のとおり支払決定日や具体的金額が明らかになると,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,報償費が使用されるものと考えられる出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,その支払相手方や具体的使途についても,相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。特に,関係活動費のうちの慶弔費については,単体での支払決定がされていることが少なくなく(弁論の全趣旨),死亡したのが重要人物であればあるほど,慶弔費の支払時期が容易に判明することになるため,支払相手方や具体的使途を特定ことが一層可能になる。また,協力者等への謝礼の支払も単体での支払決定がされていることが少なくないため(弁論の全趣旨),それが協力者等への謝礼であることが推測されること自体により,内閣官房による将来の情報収集,協力依頼に対して支障が生ずるおそれがあると考えられる。
そして,開示請求者,報道機関,専門的な情報機関等が関連する情報を多数有していることは十分あり得るところであるから,それらの情報と報償費支払明細書の情報とを照合,分析することにより,また,報償費支払明細書にある支出の推移や支払額についての情報を一定の長期にわたり集積し,内閣の推進しようとしたものと考えられる政策や施策,報償費が使用されるものと考えられる出来事等と照合,分析することによっても,上記の確からしさの程度を高めることができること,関連する情報を違法又は不正に入手しようとする者が存在することを無視することはできないことは,前記(2)で政策推進費受払簿について述べたところと同様である。
このように,調査情報対策費及び活動関係費の個別の支払額,支払時期,支払の相手方,具体的使途が相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるとすると,内閣において,調査情報対策費及び活動関係費を支出することをためらったり,支出に当たっての機動性を欠くことを余儀なくされることが予測されるし,また,その支払を受ける相手方においても,特定されることをおそれて,その受取りをためらったり,政策や施策への協力を取りやめようとしたりすることが予測されるところである。
以上のような状況の存在が,情報公開法5条6号に規定する「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす」蓋然性に当たるということができる。
また,前記(2)と同様の理由により,調査情報対策費又は活動関係費が外交関係事項に支出された場合に,報償費支払明細書に記録された情報を開示すれば,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると内閣官房内閣総務官が判断したことが,合理的なものとして許容される限度を超えると認めることはできず,他にこれを認める足りる証拠はない。
したがって,当該情報は,情報公開法5条3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報にも該当すると認められる。」
(エ) |
108頁2行目の「先月繰越額」を「前月繰越額」に改める。
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(オ) |
108頁5行目の「明らかとなるが,」から14行目末尾までを次のとおり改める。
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「明らかになるものであるから,前記イと同様に,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。以上は,一覧表の「合計」欄の記載についても同様である。」
(カ) |
108頁15行目冒頭から19行目末尾までを削る。
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(ア) |
1審被告は,報償費支払明細書を開示することにより慶弔費と謝礼の支払金額が明らかになると,その支払を受けた者が他者の支払額と比較できるようになり不満等を抱かせるおそれがあること,慶弔費については,その時期を事前に予測して支払を決定することが困難であり,かつ直ちに支払を要し,支払決定は当該慶弔に近接した時期に行われるため,支払決定を単体で行っていることが多いとの特殊性からすると,支払時期が明らかになると,当該支払時期と重要政策課題のキーパーソン等に関する慶弔の時期とを調査・照合することにより,その支払相手方が特定されるおそれが高いこと,その他の費目についても,支払日や支払額が明らかになり,これを基礎に各月の支払日や支払額を対比してその推移や増減を明らかにすることができ,当時の内政・外交の状況等を照合・分析することによって,その支払相手方や具体的使途が特定ないし推測され得るし,仮に,特定されなかったとしても,種々の憶測を呼び,支払相手方と目された者が社会的に非難を浴びる状況を協力者等が目の当たりにすることを指摘して,当該支払相手方や協力者等との信頼関係が破壊されるなどして,内閣官房による将来の情報収集・協力依頼の活動等に支障を及ぼすおそれがあるから,報償費支払明細書の調査情報対策費及び活動関係費に係る各項目に記録された情報は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当すると主張する(前記第2の4(3)カ)。
上記情報が同号の不開示情報に該当することは前記アのとおりである。
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(イ) |
1審被告は,報償費支払明細書に記録された情報で外交関係に関する支出に係るものについては,その開示により支払相手方等が特定されるおそれが抽象的であっても存在するのであれば,非公開を当然の前提として行ってきた情報収集・協力依頼の前提が失われることになるところ,諸外国においては,我が国の内閣官房報償費に相当する費用については,その全体について安全保障上問題がないと判断された場合にのみ総額を公表するにとどめていることからすると,本件対象文書を一部でも公開ることは他国等との信頼関係を破壊するものであり,他国等との信頼関係が損なわれるおそれがあると認めた行政機関の長の裁量権の行使に逸脱・濫用があったとはいえず,上記の情報は,情報公開法5条3号の不開示情報に該当すると主張する(前記第2の4(3)キ)。
上記情報が同号の不開示情報に該当することは前記アのとおりである。
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5 |
本案前の争点(本件義務付けの訴えの適法性)及び義務付け請求の適否について
本件訴えのうち本件不開示決定部分の開示決定の義務付けを求める請求に係る部分は,行政事件訴訟法3条6項2号に基づく義務付けの訴えとして提起されたものであるところ,上記説示のとおり,本件決定のうち本件対象文書中,出納管理簿のうち,国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る部分を不開示とした部分は取り消されるべきものであるから,これらの各不開示部分の開示決定の義務付けに係る部分は,同法37条の3第1項2号の要件を満たし,当審口頭弁論終結時(平成28年6月14日)においても,これらの不開示部分が情報公開法5条3号及び6号に該当するものとは認められず,他にこれを不開示とすべき事由も見当たらないから,行政事件訴訟法37条の3第5項の規定により,内閣官房内閣総務官に対し,上記の文書の開示決定をすべき旨を命ずるのが相当である。
他方,本件決定のうち,本件対象文書中上記を除く部分の取消しを求める1審原告の請求は理由がないから,本件義務付けの訴えのうちこれら各部分の開示決定の義務付けの請求に係る部分は,いずれも同法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を満たさない不適法なものとして,却下を免れない。
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第4 |
結論
したがって,本件決定のうち,本件対象文書中,出納管理簿のうち国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る部分を不開示とした部分に係る取消請求並びにこの部分の開示決定の義務付け請求はいずれも理由があるから認容し,本件決定のうち,本件対象文書中上記を除く部分の取消請求は理由がないから棄却し,これら各部分の開示決定の義務付けに係る訴えは不適法であるから却下するのが相当である。
よって,1審被告の控訴に基づき主文2ないし5項のとおり原判決を変更し,1審原告の控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
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