平成27年10月22日判決言渡
不開示決定処分取消等請求事件

判      決

主      文
1 内閣官房内閣総務官が平成26年3月24日付けで原告に対してした行政文書の不開示決定のうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する次の行政文書を不開示とした部分を取り消す。
(1)領収書,請求書及び受領書のうち,別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)

(2)政策推進費受払簿

(3)支払決定書のうち,別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)

(4)出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(出納管理簿の摘要欄が調査情報対策費又は活動関係費とされているもの。ただし,活動関係費のうち,別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)を除いたもの

(5)報償費支払明細書

2 内閣官房内閣総務官は,原告に対し,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,前項の(1)から(5)までに記載されたものの開示決定をせよ。

3 本件訴えのうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書中,第1項の(1)から(5)までに記載されたものを除いたものの開示決定の義務付け請求に係る訴えを却下する。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求
 内閣官房内閣総務官が平成26年3月24日付けで原告に対してした行政文書の不開示決定のうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書並びに領収書,請求書及び受領書を不開示とした部分を取り消す。

 内閣官房内閣総務官は原告に対し,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書並びに領収書,請求書及び受領書の開示決定をせよ。

第2  事案の概要
 本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(ただし,平成26年法律第67号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき平成24年12月から平成25年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書及び領収書等)の開示を求めた原告が,内閣官房内閣総務官から一部不開示決定(以下「本件決定」という。)を受けたことから,本件決定のうち同年1月1日から同年12月31日まで(以下「本件対象期間」という。)の支出に関する行政文書の不開示決定部分(以下「本件不開示決定部分」という。)につき,その取消しを求めるとともに,行政事件訴訟法3条6項2号所定の義務付けの訴えとして,本件不開示決定部分に係る文書について開示決定の義務付けを求める事案である。

 前提事実(当事者間に争いがない事実のほか各項掲記の証拠等によって容易に認められる事実。掲記した証拠番号には特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。)
(1) 内閣官房報償費の支出手続及び作成・保存される文書の概要
 内閣官房報償費の意義等
 内閣官房は,内閣法(ただし,平成25年法律第89号による改正前のもの。以下同じ。)12条1項に基づいて内閣に置かれている機関であって,①閣議事項の整理その他内閣の庶務,②内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務,③閣議に係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務,④行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務,⑤上記②ないし④に掲げるもののほか,行政各部の施策に関するその統一保持上必要な企画及び立案並びに総合調整に関する事務,⑥内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務をつかさどる(同条2項)ほか,政令の定めるところにより,内閣の事務を助ける(同条3項)ものとされている。このほか,中央省庁等改革基本法8条2項では,内閣官房は危機管理及び広報に関する機能をも担うものとされている。そして内閣官房には内閣官房長官一人が置かれ(内閣法13条1項),内閣官房長官は内閣官房の事務を統轄し,所部の職員の服務につき,これを統督する(同条3項)。内閣官房報償費は,内閣官房長官が取扱責任者として支出を行う経費として,毎年度予算措置が講じられている。

 内閣官房報償費が国庫から支出されるまでの手続
 内閣官房報償費の支出に当たっては,まず,その取扱責任者である内閣官房長官が,支出負担行為担当官である内閣官房会計担当内閣参事官に対し,請求書を提出する。内閣官房会計担当内閣参事官は,同請求書に基づき,支出負担行為を行い,官署支出官である内閣府大臣官房会計課長は同支出負担行為を確認した上で支出決定を行う(この際,支出負担行為即支出決定決議書が作成される。)(甲29)。そして,内閣府大臣官房会計課長から支払請求を受けた資金前渡官吏である内閣府大臣官房会計課用度・給与担当課長補佐は,支出のために必要な手続を行い,内閣官房報償費が内閣官房長官の手元に移される(弁論の全趣旨)。
 これらの過程で,請求書及び支出負担行為即支出決定決議書が支出計算書の証拠書類として作成され,支出計算書並びにその証拠書類である請求書及び支出負担行為即支出決定決議書は内閣府大臣官房会計課において管理,保管されている(甲29)。

 内閣官房報償費の取扱いに関する基本方針等及び目的類型
 内閣官房報償費の取扱いについては,「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方針」(平成14年4月1日内閣官房長官決定。甲5,乙1)が定められ,これに基づき「内閣官房報償費の執行に当たっての基本的な方針」(平成24年12月28日取扱責任者内閣官房長官A決定(乙2の1),平成25年4月1日同決定(乙2の2))及び「内閣官房報償費取扱要領」(平成24年12月28日取扱責任者内閣官房長官A決定。乙3)が定められており,本件対象期間における内閣官房報償費の取扱いについては,これらの定めによることとなる。
 これらの定めによれば,内閣官房報償費の執行は,①政策推進費(施策の円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費),②調査情報対策費(施策の円滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要な経費),③活動関係費(上記①及び②を行うに当たり,これらの活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するために必要な経費)の目的類型ごとに,それぞれの目的に照らして行うものとされている。

 国庫から内閣官房長官の手元に移った後の支払に関する取扱手続
(ア) 政策推進費の支払に当たっては,取扱責任者である内閣官房長官が政策推進費受払簿を作成し,その支払の管理を行っている。政策推進費受払簿は,国庫から入金され内閣官房長官の手元に渡った内閣官房報償費から内閣官房長官が政策推進費として使用する額を区分する(以下,当該行為を「政策推進費の繰入れ」という。)都度,並びに,一会計年度が終わる年度末及び内閣官房長官が交代する際に作成される。政策推進費受払簿には,別紙2のとおり,文書名(政策推進費受払簿)のほか,作成日付(①),金額(前回残額(②),前回から今回までの支払額(③),今回繰入前の残額(④),今回繰入額(⑤),現在額計(⑥),取扱責任者(内閣官房長官)の記名押印(⑦)及び取扱責任者が指名した事務補助者の記名押印(⑧)が記録されている。

(イ) 調査情報対策費及び活動関係費の支払に当たっては,内閣官房長官がその都度支払決定をして支払決定書を作成し,その支払の管理を行っている。支払決定書は,内閣官房長官が,調査情報対策費又は活動関係費の1件又は複数の支払に係る支払決定を行う都度作成される。内閣官房長官が指名した事務補助者は,支払決定書に基づき,調査情報対策費又は活動関係費の支払を行う。支払決定書には,別紙3のとおり,文書名(支払決定書)のほか,作成日付(支払決定の日付)(①),「下記の金額の支払を要する」旨の文言,金額(複数の支払を処理する場合はその合計額)(②),支払目的(目的類型別の区分を明示)(③),支払相手方等(④),取扱責任者である内閣官房長官の記名押印(⑤)並びに支払及び確認を行った日付,事務補助者の記名押印(⑥)が記録されている。

(ウ) 内閣官房長官は,その指名した事務補助者をして,内閣官房報償費の出納管理のために内閣官房報償費の出納を出納管理簿に記録させ,自ら又は指名した内閣官房内閣総務官室の職員により,出納管理簿が適正に記録されているかどうかについて確認を行う。出納管理簿には,別紙4のとおり,文書名(内閣官房報償費出納管理簿)のほか,内閣官房報償費の出納に係る年月日(①),摘要(使用目的等)(入金又は目的類型別の区分)(②),受領額(③),支払額(④),残額(⑤),支払相手方等(⑥),月分計(その月の受領額,支払額の各合計額)(⑦),累計(その年度の受領額,支払額の各累計額及び当該年度の残額。ただし,出納管理簿を月ごとに作成する場合には,会計年度の年度当初から当該月の月末までの受領額,支払額の各累計額及び当該月の月末の残額)(⑧),内閣官房長官が上記⑦,⑧について確認をした趣旨の押印(⑨)並びに年度末及び取扱責任者の異動があったときは,内部確認のため,確認に立ち会った者(事務補助者)及び上記の指名された確認者の各記名押印(⑩)が記録されている。

(エ) 会計検査院の検査を受けるものの計算証明に関しては,計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)が定められているところ,内閣官房報償費については,同規則11条にいう特別の事情があるとして,同規則の規定とは異なる取扱いにより,内閣官房報償費を使用目的別に分類した支払額を記載した報償費支払明細書を会計検査院に提出し,支払の相手方である役務提供者等の請求書,領収証書等の証拠書類について会計検査院から要求があった場合に提出が可能となるように証明責任者において保管することとする計算証明が認められている(甲8,9,16,17,弁論の全趣旨)。報償費支払明細書には,別紙5のとおり,文書名((報償費)支払明細書)のほか,支払明細書を提出した日付,支払年月日(①),支払金額(②),使用目的(目的類型別の区分)(③),取扱者名,備考,取扱責任者である内閣官房長官の氏名,前月繰越額(④),本月受入額(④),本月支払額(④)及び翌月繰越額(④)が記録されている。

(オ) 内閣官房報償費の支払に関して,役務提供者等の支払の相手方から受領した領収書,請求書及び受領書(これらを併せて,以下「領収書等」という。)が保管されている。領収書等には,内閣官房報償費の領収日等の日付,あて名,金額,相手方氏名などが記録されている。

(2) 本件決定に至る経緯等
 原告は,平成26年1月17日付け(同月20日受付け)で,内閣官房内閣総務官に対し,平成24年12月から平成25年12月31日までの内閣官房報償費について作成された内閣官房長官から内閣府大臣官房会計課長あての請求書(①),これを受けて作成された支出負担行為即支出決定決議書(②)及び支出計算書(③)並びに当該内閣官房報償費の支出に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書及び領収書等)の開示を求めた(甲1)。

 内閣官房内閣総務官は,平成26年3月24日付けで,原告に対し,本件対象期間についての上記アの請求書(①。ただし,平成25年3月分を除く。),支出負担行為即支出決定決議書(②。ただし,平成25年3月分を除く。)及び支出計算書(③。ただし,表紙及び該当ページのうち,個人に関する情報や,公にした場合に法人等の正当な利益を害するおそれがある部分を除く。)については開示するが,内閣官房長官の支出に係る内閣官房報償費の本件対象期間における支出に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書及び領収書等)については情報公開法5条6号及び同条3号の不開示情報が記録されているとして開示しないとする決定をした(本件決定)。
 なお,開示するとされた上記アの請求書と支出負担行為即支出決定決議書について平成25年3月分が除かれている理由は,該当する支出がなかったため文書が作成されておらず内閣官房内閣総務官が保有していないためである(甲2)。

 原告は,平成26年9月17日,大阪地方裁判所に対し,本件決定のうち平成25年1月1日から同年12月31日までの間(本件対象期間)の内閣官房報償費の支払(支出)に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書及び領收書等。以下「本件対象文書」という。)を不開示とした部分(本件不開示決定部分)の取消しに係る訴え(以下「本件取消しの訴え」という。)を提起するとともに,本件不開示決定部分に係る文書(本件対象文書)についての開示決定の義務付けを求める訴え(以下「本件義務付けの訴え」という。)を提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 争点
(1) 本案前の争点
 本件義務付けの訴えの適法性

(2) 本案の争点
 本案の争点は,本件不開示決定部分の適法性であり,具体的には,①本件対象文書に記録された情報が情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関する情報)に該当するか,②部分開示義務が認められるかなどが争点となる。

 本案前の争点(本件義務付けの訴えの適法性)に関する当事者の主張
(原告の主張)
 後記5の原告の主張のとおり,本件不開示決定部分は違法であって取り消されるべきである。
 また,原告は,前記のとおり,内閣官房内閣総務官に対して,本件対象文書について情報公開請求をなし,本件決定を受けた者であり,内閣官房内閣総務官が本件対象文書について開示決定をしないことは違法であるから,行政事件訴訟法37条の3第1項2号及び5項に基づき本件不開示決定部分に係る文書(本件対象文書)についての開示決定の義務付けを求める本件義務付けの訴えは適法である。

(被告の主張)
 本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号に定めるいわゆる申請型義務付けの訴えであると解されるところ,申請型義務付けの訴えの類型のうち,「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合」(同法37条の3第1項2号)の類型については,同条3項2号により併合提起された当該処分又は裁決の取消請求又は無効等確認請求が認容されることが訴訟要件となっている。
 本件義務付けの訴えについては,後記5の被告の主張のとおり,併合提起された本件取消しの訴えに係る請求が認容されることはない。したがって,本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項2号の訴訟要件を欠く不適法なものであるから,却下されるべきである。

 本案の争点(本件不開示決定部分の適法性。具体的には,①本件対象文書に記録された情報が情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関する情報)に該当するか,②部分開示義務が認められるかなど)に関する当事者の主張
(被告の主張)
(1) 本件対象文書に記録された情報の情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関する情報)の不開示情報該当性の判断に当たり考慮すべき事項(総論)
 内閣官房報償費の特殊性とその支払の相手方や具体的使途が特定ないし推測され,あるいは,憶測されることにより生じる支障の内容について
 内閣官房報償費は,内閣が国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,内閣官房長官が当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり,具体的な使途が特定されない段階で国の会計からの支出が完了し,その後は,取扱責任者である内閣官房長官が自ら出納管理を行い,その使用時期及び方法は,内閣官房長官による優れて政策的な判断の下に決定されるという特殊な性格を有している。そして,内閣官房報償費が使用される事務は,内閣が関与するもの全てにわたるものであって,その中には,外交,安全保障等の機密性が強く要求される事務に関するものも含まれている。
 仮に内閣官房報償費の支払の相手方である情報提供者や協力者の氏名が明らかとなれば,その相手方との信頼関係はもとより,多数の関係者との信頼関係も破壊され,相手方や関係者からの反発を招くことが想定される。また,内閣官房の行う事務は,国の政策の根幹に関わる総合調整等に係るものであるから,これに対する妨害工作等を行おうとする者が存することも容易に想定され,上記の情報提供者や協力者の氏名が明らかとなった場合には,第三者の不正工作を招くなどして,内閣官房長官の行う事務に支障を生ずることになる。殊に外交案件等について,国外の要人その他の関係者から外交政策等に係る情報や協力を得ようとする場合には,その相手方の氏名が明らかになれば,その相手方や当該相手方の属する国との信頼関係が損なわれることはもとより,我が国は秘密保持ができない国とみなされて国際的信用が失墜し,外交交渉等が立ち行かなくなる。
 さらに,仮に内閣官房報償費の支払の相手方や具体的使途までは特定ないし推測されなかったとしても,それらの事項について様々な憶測がされること自体によっても,支払の相手方や関係者と目された者がマスコミ等の注目を浴びるなどして困惑を覚えたり,態度を硬化させるなどして,当該案件について協力が得られなくなる。そればかりでなく,そのような萎縮的効果が生じることによって,広く内閣官房報償費を使用する事務に対する協力が得られにくくなるなど,広く内政・外政にわたる政策課題等に関わる内閣官房長官の事務の適正な遂行に支障が生じるおそれもある。

 上記アの支障が生じるおそれは,開示対象文書の記載内容のみならず当該文書に関連する他の情報や諸事情を併せ考慮して判断されるべきであること
 たとえ開示請求の対象文書に記載された情報それ自体からは,内閣官房報償費の支払の相手方やその具体的使途が判明しない場合であっても,これらの情報とこれに関連する他の情報や諸事情を総合し,更にはその時々に存在した政策課題等と照合して分析することによって,その支払の相手方や具体的使途が特定ないし推測される場合には,上記アのとおりの支障が生じるおそれがあるということができる。そのため,これらの諸事情を総合的に考慮することなく,単に対象文書に支払の相手方や具体的使途が直接記載されているかどうかということのみから,対象文書の不開示情報該当性を判断するのは相当ではない。
 本件対象文書については,後述するように,それぞれの不開示決定部分に関連して内閣官房報償費の支払の相手方や具体的使途を特定ないし推測させ得る事情が認められる。
 また,仮に個々の内閣官房報償費の支払の相手方や具体的使途までは特定ないし推測されなかったとしても,これらの事項について様々な憶測がされること自体によっても,内閣官房報償費を使用する事務に対する協力が得られにくくなるなどの支障が生じるおそれがある。例えば,「この内閣官房報償費は,あの案件との関係で誰それに支払われたのではないか。」といった憶測がマスコミ等により流布されることによって,支払の相手方と目された者が多大な困惑を覚え,態度を硬化させるなどして,以後の協力や情報提供が得られにくくなり,内閣官房報償費を使用する事務の遂行に支障を来す結果となることは想像に難くない。また,その具体的使途に関して,「あの支出は不適正な支出に違いない。」といった憶測が飛び交い,執行者の責任問題に発展したような場合には,内閣官房長官が以後の内閣官房報償費の使用をちゅうちょせざるを得なくなることも想定され,内閣官房報償費を使用する事務の遂行に支障を来すことが考えられる。
 以上によれば,本件対象文書の記載内容それ自体からは,内閣官房報償費の支払の相手方や具体的使途が判明しないからといって,このことから直ちに情報公開法5条3号及び6号の不開示情報に該当しないと判断することは相当ではなく,その不開示情報該当性を判断するに当たっては,本件対象文書に記載された情報のほか,これに関連する諸事情を踏まえて検討を行う必要がある。

 内閣官房報償費の支出に関する文書に外交関係の情報が含まれる場合における不開示情報該当性の判断の在り方
 上記アのとおり,内閣官房報償費は,国外の要人に対する情報収集・協力依頼を行うなど,対外的な政策推進,合意形成等のために使用される場合がある。このように内閣官房報償費に対外関係の支出が含まれる場合の情報公開法5条3号該当性の判断には,処分行政庁に広範な裁量が認められ,司法審査の在り方が同条6号の場合とは異なることに留意する必要がある。
 情報公開法5条6号においては,「国の機関(中略)が行う事務又は事業に関する情報」という行政事務の種類等の事項的要素と,「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」という定性的要素とが組み合わされて不開示情報の範囲が画されており,これらにつき覆審的司法審査が及び,不開示情報該当性が慎重に判断されることが前提とされている。
 これに対し,情報公開法5条3号においては,「国の安全が害されるおそれ」,「他国(中略)との信頼関係が損なわれるおそれ」等があると「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という定性的要素のみによって不開示情報の範囲が画され,これらの「おそれ」があると認めた行政機関の長の判断が合理性を持つものとして許容されるかどうかが司法審査の対象とされることになる。すなわち,上記の「おそれ」があるかどうかは,対象文書に記載された情報の内容・性質はもとより,国内外の政治情勢や外交関係等の諸事情を考慮して的確に判断する必要がある。その判断の事柄の性質上,優れて政策的な判断を含み,時には将来予測を含む高度の政治的判断が必要となる場合もあるから,その判断を上記諸事情に通暁する行政機関の長の裁量に委ねるのでなければ,到底適切な結果を期待することができない。したがって,前提事実の認定,それらの情報公開法5条3号の要件への当てはめ及びその充足性を判断して不開示情報に該当するとの認定(評価)を行うという過程の全ての段階において,裁判所は,行政機関の長の第一次的判断を尊重して覆審的司法審査を行わず,その判断が合理性を持つものとして許容されるかどうかについて司法審査を行うにとどめることとしたものである。
 そうすると,司法審査における上記のおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるかどうかの審理は,処分行政庁の判断が全く事実の基礎を欠くか又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるか否かという観点から行われるべきであり,これが認められる場合に限って,処分行政庁の判断は裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるものとして違法と評価されるというべきである。

 支払相手方が国会議員を含む公務員である場合について
 原告は,支払相手方が国会議員を含む公務員である場合,当該支払は違法なもの又は公務員の職務上の倫理に反するものになるから,それに係る文書に記載された情報は法的保護に値せず,開示することで厳正な公務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとはいえない旨主張する。
 しかしながら,そもそも内閣官房報償費の支出は,適正かつ効果的に執行されているのであり,しかも,その支出内容については,法令等に基づき会計検査院による会計検査の対象とされているところ,会計検査院から違法又は不当な支払であると認められるとして決算検査報告で指摘されたものはない。
 また,本件対象文書に係る内閣官房報償費の支出において,公務員を支払の相手方とするものがあり得るとしても,それは活動に要した実費を支払ったものであるか,又は,当該公務員が非公務員である相手方に代わって金員を受領したものであると考えられる。その場合,その支払は,当該公務員の職務との対価性があるわけでもないから,これが違法なもの又は公務員の倫理に反するものであるとする原告の指摘は明らかに当を得ていない。
 さらに,公務員を支払の相手方とするものに関しても,これを開示した場合には,内閣官房報償費を使用した活動の内容が特定されることとなり,あるいは事実と関係なく様々な憶測が世上に流布されることになり,同種の活動を行うことが以後不可能になるなどのおそれがあることは,非公務員を支払の相手方とするものと変わりがない。その結果,内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがあるとともに,他国等との信頼関係が損なわれるおそれがあり,また,他国等との交渉上不利益を被るおそれもあるというべきである。

(2) 部分開示義務について(独立した一体的な情報を更に細分化することを求めることができないこと)(総論)
 独立した一体的な情報を更に細分化して部分開示すべき義務はないこと
 情報公開法5条1号柱書きが,「個人に関する情報(中略)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と規定し,同法6条2項も,「当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分」と規定して,「情報」とその一部分を成す構成要素である「記述等」を明確に区別していることに照らせば,情報公開法において,開示又は不開示の対象とされる「情報」とは,「記述等」の複合した一定のまとまりを持った単位の意味において用いられていることは明らかというべきである。この点,大阪府公文書公開等条例に関する平成13年3月27日の最高裁判決(以下「最高裁平成13年判決」という。)が,大阪府公文書公開等条例10条の部分開示規定は「非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも実施機関に義務付けているものと解することはできない」と判示しているのも同趣旨である。
 したがって,情報公開法6条2項は,同法5条1号の不開示情報に該当する情報のうち個人識別情報について,同法6条1項の規定のみに基づいては個人識別部分のみを除いて開示するという態様の部分開示を義務付けることができないことを前提に,特に上記の態様の部分開示をすることの法的根拠を与えた趣旨の規定である。
 これに対し,原告は,不開示情報が記録されている部分と記録されていない部分が分離可能であれば,不開示情報が記録されていない部分を開示しなければならないと主張するが,かかる原告の主張は,情報公開法6条1項が個人に関する情報以外の情報についても,独立した一体的な情報を更に細分化した態様の部分開示を義務付けていることを前提とするものであり,上記規定の趣旨や構造を正解しないものであって,失当である。

 独立した一体的な情報として把握される範囲について
 上記アにいう「独立した一体的な情報」をどのように把握すべきかについては,社会通念に照らして合理的に解釈されるべきであり,具体的には,当該文書の作成の名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,当該記述等の形状,内容等を総合考慮の上,不開示事由を定める規定の趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきである。
 もっとも,上記判断基準は,独立した一体的な情報として把握すべき範囲を,最小限の意味のある記載(情報公開法6条2項にいう「記述等の部分」)によって決するとするものではなく,たとえ当該文書中の「記述等の部分」がそれなりに意味のある記載であっても,当該文書がいかなる趣旨・目的でどのような情報を記録したものであるかという文書の作成目的や機能との関係から,社会的に有意な「情報」としての意味を持つものでなければ,公開の対象となる「情報」に当たるということはできなない。上記判断基準は,当該「記述等の部分」とその他の「記述等の部分」と相まって一つの社会的に有意な「情報」としての意味を持つものであって初めて,公開の対象となる独立一体性を持った一つの情報に当たるとするものであり,最小限の「記述等の部分」ごとに分断的に捉えるのは相当ではない。

(3) 本件対象文書ごとの検討(各論)
 領収書等
(ア) 政策推進費に係る領収書等
 政策推進費に係る領収書等に記載された情報が開示された場合には,以下に述べるとおり,内閣官房長官による必要な情報収集・協力依頼の活動が事実上困難となり,ひいては内閣の政策運営全体に支障を来すおそれがある。
a  相手方等との信頼関係が損なわれるおそれがあること
 政策推進費に係る領収書等が開示され,支払の相手方が判明した場合,内閣官房長官と接触して,極めて機密性の高い重要事案について交渉を行い,あるいは合意形成に向けた関係者への働きかけ等の協力依頼や情報収集等の依頼を受けた人物が特定され,それに要する活動費を得ていた事実が明らかになる。そのような人物は,通常はその事案に係る利害関係人の意思決定に一定の影響力を持つ立場の者であったり,あるいは,情報収集の意味がある重要な情報を保有し得る地位にある者等である。このような人物が上記のような協力等をした事実が明らかになれば,当該人物や政府に対する利害関係人の反発や警戒を引き起こし,あるいは,その接触の相手方がいかなる人物であるかということや,相手方が受け取った金額等がマスコミ等で取り上げられるなどして,様々な憶測が世上に流布されることなどによって,当該相手方の社会的地位や利害関係人の意思決定に対する影響力を損ねるおそれがある。また,接触の相手方としては,事柄の性質上,このような情報が当然に秘匿されるものと考えるのが通常であるから,これが公とされること自体によって当該相手方やその関係者との信頼関係が損なわれるおそれがある。そして,このような事態が生じた場合,将来にわたり,当該相手方や関係者からの情報提供や協力が得られなくなることは明らかである。
 また,政策推進費の個々の支払の額が明らかになると,以前に情報収集・協力を行った相手方及びその後に情報提供・協力を行おうとする相手方は,自らが受領した,あるいは受領する対価の額と他者に支払われた額とを比較することができるようになり,その結果,当該相手方に不満や不快感を抱かせることにより信頼を損ねる結果となり,将来の協力の確保等に支障を来すおそれがある。そればかりか,場合によっては,当該相手方が,腹いせから,これまでの活動等に関するあらゆる情報を暴露するなどの行動に出るおそれもあり,そのような事態に至ったときには,関係者等の多くの者に不利益が及び,内閣の情報収集・協力依頼等の活動全般に支障を来すことになりかねない。
 さらに,国の情報公開制度によって,「内閣官房報償費に係る情報が公開された」という事実自体によって,明らかになった情報に係る相手方のみならず,他の事案における情報収集・協力依頼の相手方に対しても,情報提供や協力をした場合,その事実が公になる危険性があるとの不安を生じさせ,相手方が情報提供や協力をちゅうちょし,その者からの協力が得られなくなるおそれも高いことから,内閣における必要な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがある。

b  第三者による不正な工作等を受けるおそれがあること
 政策推進費に係る領収書等が開示された場合には,支払の相手方の氏名,接触した日付及び金額等が明らかになることとなり,これらの情報と当時の内政・外政上の案件等の内容,関係者等の各種情報と照合し,分析を加えるなどして,明らかになった事案の内容やその事案に対する内閣の対処方針,調整の内容等が他者に知られ,あるいは推測されるところとなる。その結果,その事案に関する合意等の実現を妨害しようとする者が,内閣官房長官が接触した相手方に働きかけて,内閣官房長官に提供した情報や依頼を受けた内容等に係る情報を漏洩させたり,事実と異なる情報を内閣官房長官に提供させるなどの不正な工作等に及ぶおそれがある。

c  我が国が外交上及び安全保障上不利益を被るおそれがあること
 特に,相手方が外交,安全保障の分野における重要人物である場合を始めとして,相手方から得た情報等の内容が特定の外交交渉等に関わるものであった場合には,我が国に対する相手方の協力等の事実が明らかになれば,当該相手方の社会的な地位や利害関係人(国)の意思決定に対する影響力を害するおそれがあるばかりか,関係諸国との信頼関係が損なわれ,外交上の不利益を受けるおそれがある。特に相手方の属する国において自由主義,民主主義に基づく諸権利が制限されている場合,相手方が我が国へ協力したことに伴うリスクがより大きくなり,当局からの監視や摘発を受けることなどによって,相手方の生活上の平穏が害されたり,生命・身体に危害を受けるおそれがあり,その結果,その相手方を通じた情報収集や働きかけは全く不可能となる。
 また,他国においても,その性格上,当然に使途を明らかにせずに使用するものと認識されている経費について,その使途を明らかにしたということになれば,我が国は,外交や安全保障等の重要分野に関して秘密保持ができない国であるとして国際的な信頼を損ない,他国等が我が国との重要事案に関する水面下での交渉を拒否するおそれがあることが容易に想定される。また,第三国等からその明らかになった情報を基にして様々な不正な工作等を受けるおそれもある。

d  原告の主張に対する反論
 原告は,内閣官房長官は,真に機密性がある場合には,領収書等の保管義務がない政策推進費によって支出し,かつ,領収書等を保管しなければよいのであるから,領収書等を保管している場合には,その領収書等の支出は「機密性」が低いと判断されたものであって,これが開示されることにより国の事務又は事業の適正な遂行に具体的な支障を及ぼすおそれはない旨主張する。
 しかしながら,内閣官房報償費の類型については目的によって区分されており,機密性の高低によって支出の区分を決定しているものではなく,いわんや,領収書等の保管義務を免れるために政策推進費によって支出するという使用の仕方が認められているものでもない。また,機密性の高低と領収書等の保管の有無が必ずしも関連しているわけではないから,領収書等が保管されているからといって,機密性が低いということもできない。

(イ) 調査情報対策費に係る領収書等
 各使用目的ごとの調査情報対策費に係る領収書等が開示された場合には,以下に述べるとおり,内閣官房長官による必要な情報収集・協力依頼の活動が事実上困難となり,ひいては内閣の政策運営全体に支障を来すおそれがあるから,情報公開法5条3号及び6号の不開示情報に該当すると認められる。
a  情報収集等の対価として使用されている場合
 調査情報対策費のうち情報収集等の対価として使用された分に係る領収書等が開示されると,当該領収書等に記録された特定の者との接触の事実や個々の支払額が公になるところ,これらを公にしないことを当然の前提として,その者と接触が行われ,必要な情報収集や協力依頼が行われるのであるから,この場合,政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。

b(a) 会合のために使用されている場合
 内閣の政策等の企画及び立案並びに総合調整等は,社会の重大な関心事であり,ときに,その政策運営を阻害しようとして,内閣に関する情報を不正に入手しようとする者等が存在することが想定される。そして,調査情報対策費のうち会合のために使用された分に係る領収書等に記載されている情報が明らかになった場合,内閣に関する情報を不正に入手しようとする者や内閣の政策運営を阻害しようとする者等が,会合場所における人の出入り等を自ら監視し又は配下の者に監視させたり,盗聴器を設置したり,配下の者をその会合場所を提供する業者の従業員として就職させることなどによって,直接情報を収集するなどの不正な工作等に及ぶおそれがある。あるいは,その会合場所を提供する業者又はその従業員に働きかけて,接触の相手方やその内容等に係る情報を漏洩させたり,同様の会合が開催される場合に事前の情報提供をさせることなどのおそれがある。

(b) 当該会合場所が以後使用できなくなるおそれがあること
 調査情報対策費が使用されるような重要な会合の開催については,秘密を要するため,おのずと会合場所には秘密を保つことができるための一定の条件が要求される場合がある。会合場所の決定に当たっては,会合の秘密が保持されるように,会合場所の構造等に配慮するほか,長期間を費やして信頼関係を築いた業者が選定されている。仮にそのような会合場所に関する情報が明らかになると,上記(a)で述べたような事態が生じるおそれがあるほか,マスコミ等を介して世間の注目を浴びることにより,その後その場所を同種の会合等で利用することができなくなる結果,当該会合に係る事案のみならず,他の案件を含めた内閣官房長官による情報収集等の活動全般に支障を及ぼすおそれがある。

(c) 政策推進費に係る領収書等の場合と同様に,相手方との信頼関係が損なわれるなどのおそれがあること
 調査情報対策費に係る領収書等自体には,会合の相手方(参加者)に関する情報は記載されていなかったとしても,調査情報対策費のうち会合のために使用された分に係る領収書等が開示され,役務提供者である会合場所の業者名や会合場所が明らかになる結果,既に公表された情報や関係者等からの情報の漏洩等により入手した情報などを他の情報等と照合,分析することにより,会合の相手方が明らかになる可能性がある。そうすると,特定の者との接触の事実が公になるおそれが生じ,政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様に,相手方との信頼関係が損なわれるおそれがある。
 また,会合の場所や費用に関する情報が明らかになると,以前に情報提供を行った相手方及びその後に情報提供を行おうとする相手方は,自らが出席した会合と他の会合との比較をすることができるようになる。そうすると,不満,不快感を抱かせることにより信頼を損ね,政策推進費に係る領収書等が公開されたのと同様の支障が生じるおそれがある。

(d) 会合が外交関係や安全保障に関する情報収集,協力依頼等のためのものである場合
 調査情報対策費が使用される会合が外交関係や安全保障に係るものである場合には,調査情報対策費に係る領収書等が開示されることによって,上記(a)ないし(c)で述べたような支障が生じ,他国等との信頼関係が損なわれ,外交上及び安全保障上の不利益を被るおそれがある。

(ウ) 活動関係費に係る領収書等
 活動関係費に係る領収書等が開示された場合には,内閣官房長官による必要な情報収集・協力依頼の活動が事実上困難となり,ひいては内閣の政策運営全体に支障を来すおそれがある。以下,活動関係費の使用目的区分ごとに,詳述する。
a  交通費として使用されている場合
(a) 関係者からの情報の漏洩等を誘発するおそれがあること
 内閣の政策等の企画及び立案並びに総合調整等は,社会の重大な関心事であり,その政策運営を阻害しようとして,内閣に関する情報を不正に入手しようとする者等も存在することが想定される。タクシー,ハイヤー等の交通事業者に関する情報が明らかになると,その後,内閣に関する情報を不正に入手しようとする者や,内閣の政策運営を阻害しようとする者が,当該事業者及びその従業員に働きかけ,その事業者が保管する書類等と照合させることにより,内閣官房報償費から支払われている利用分を特定又は推定することが可能となる。その上で,利用時間,利用者の氏名・役職,利用中の会話,目的地や自宅・勤務先等の乗降地,これらの場所で接触した者等に係る情報を漏洩させ,あるいは,同様の利用がある場合に事前にその情報を漏洩させ,配下の者を当該事業者の従業員として就職させて直接情報を収集させるなどの不正な工作等に及ぶおそれがある。

(b) 当該交通事業者を以後利用できなくなるおそれがあること
 交通事業者については,情報収集・協力依頼の相手方等が利用することを踏まえ,信頼のおける交通事業者を厳選しているが,交通事業者に関する情報が明らかになると,不正な工作等を避けるため,交通事業者を頻繁に変更する必要があり,信頼のおける交通事業者を確保することが困難となるおそれもあるから,当該事案のみならず,その後の内閣における情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがある。

(c) 政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様に,相手方との信頼関係が損なわれるなどのおそれがあること
 交通事業者名が明らかになると,当該交通事業者及びその従業員からの情報の漏洩等により入手した情報等や他の情報等と照合,分析することにより,例えば,当該事業者を利用した会合の開催やその会合の出席者に関する情報が明らかになる可能性があり,会合の場所や特定の者との接触の事実が公になるおそれが生じるなど,調査情報対策費のうち会合のために使用された分に係る領収書等が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。

b  会合のために使用されている場合
 政策推進のための会合に係る経費を,調査情報対策費からではなく活動関係費から支払うこともあるところ,当該会合に係る領収書等の情報が開示されると,会合の場所や特定の者との接触の事実が明らかになるおそれがあり,調査情報対策費のうち会合のために使用された分に係る領収書等が開示された場合と同様の支障を生じるおそれがある。

c  謝礼のために使用されている場合
 情報収集・協力依頼の相手方等に対し,事務補助者をして出納管理を行わせ,謝礼を渡すことがあり,その領収書等の情報が明らかになった場合には,次のようなおそれが生じる。
 ある者が謝礼として内閣官房報償費(関係活動費)を受けた事実が明らかになると,その者が内閣官房報償費の対象となる情報収集・協力依頼の相手方等であることが公になるおそれが生じ,政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障がある。
 また,謝礼の額に関する情報が明らかになると,謝礼を受けた者は自らが受けた謝礼の額と他者が受けた謝礼の額とを比較できるようになり,その結果,当該相手方に不満や不快感を抱かせることにより,信頼を損ね,将来の情報収集・協力依頼の活動全般に支障を及ぼすおそれがある。

d  贈答品のために使用されている場合
(a) 関係者からの情報の漏洩等を誘発するおそれがあること
 活動関係費が贈答品のために使用されている場合,当該贈答品の購入に係る領収書等が開示され,購入先の事業者等に関する情報が明らかになると,その後,内閣に関する情報を不正に入手しようとする者や,内閣の政策運営を阻害しようとする者等が,当該事業者に働きかけて,贈答先や贈答品の内容等に係る情報の漏洩が生じるおそれがあり,あるいは,同様の注文がある場合に事前にその情報を漏洩させるおそれがある。このような弊害は,当該事業者等に相手方との会合場所に直接贈答品を届けさせるような場合などについては一層顕著であり,マスコミによる関係者等への取材等によって,上記情報の漏洩が誘発されることになる。
 さらには,これにとどまらず,漏洩させた情報を基に,内閣官房長官又はその指示を受けた者に成りすまして,相手方との信頼関係を害したり,相手方の生命・身体の安全を損なう行為をするなどの不正な工作等に及ぶことも考えられ,内閣官房長官の情報収集・協力依頼の活動全般に支障を及ぼすおそれがある。
(b) 政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様に,相手方との信頼関係が損なわれるなどのおそれがあること
 贈答品を受け取った情報収集・協力依頼の相手方等が当該贈答品の価格を知った場合,それ自体が儀礼にもとる事態である上,自己に対する贈答品と他者に対する贈答品の価格を比較することにより,不満や不快感等を抱かせることもあり,相手方の信頼を損ね,将来の情報収集活動等に支障を及ぼすおそれがある。
 また,贈答品の購入先の事業者等が明らかになれば,他の情報と照合,分析することにより,贈答品を贈る相手方が明らかになるおそれがある。その結果,特定の者との接触の事実が公になるおそれが生じ,政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。

e  慶弔費として使用されている場合
 活動関係費が香典等の慶弔費として使用されている場合,当該慶弔費の領収書等に記録された相手方が明らかになった場合,香典等を受け取った者が重要事案に関する情報収集や協力依頼の相手方等であることが明らかになるおそれがあり,政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。
 また,香典等の額に関する情報が明らかになると,香典等を受けた者は,他者が受けた香典等の額との比較ができるようになり,不満や不快感等を抱かせることもあり,当該相手方の信頼を損ね,将来の情報収集活動等に支障を及ぼすおそれがある。

f  支払関係経費として使用される場合
 振込手数料等の支払関係経費に係る領収書等に記録された情報が公になった場合,例えば,振込に利用された金融機関に関する情報が明らかになり,内閣に関する情報を不正に入手しようとする者や内閣の政策運営を阻害しようとする者等が,当該金融機関及びその従業員に働きかけ,内閣官房報償費の振込合計金額や個別の振込先に係る情報を漏洩させ,あるいは配下の者を当該金融機関の従業員として就業させて直接情報を収集するなどの不正な工作等に及ぶおそれがある。
 また,金融機関名が明らかになった場合,内閣官房報償費の振込先である情報収集・協力依頼の相手方,会合場所の業者,交通事業者,贈答品の購入先の事業者等に関する情報が明らかになるおそれがあり,その結果,内閣における情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがある。

(エ) 原告の主張に対する反論
 公共交通機関に係る交通費の領収書等について
(a) 原告は,公共交通機関に係る領収書等を開示したとしても特段の支障は生じない旨主張する。
 しかしながら,一般に,領収書等の日付,金額並びに当該領収書等の発行者である公共交通機関の住所及び名称の記載に加えて,その利用者名が領収書等の宛名として記載されているものと考えられる。それらが開示されると,内閣官房報償費を利用して関係者が移動した日時,利用区間や利用地域のほか,一定期間における移動の頻度及び目的地等が明らかとなる。取り分け当該公共交通機関の路線の規模が小さく,地域性が高いような場合には,判明した利用日時,目的地等とその時々に生じた内政・外政に係る案件等とを照らし合わせることによって,その利用目的や関係者等が推知される可能性が一層高まることになる。
 したがって,鉄道等の公共交通機関を利用した場合であっても,その領収書等の記載から,利用日時や目的地等が明らかとなり,利用目的や関係者等,ひいては内閣官房長官が当時行っていた協力依頼又は交渉の内容や情報収集等の活動内容が推知されることが十分考えられる。このような支障が生じるおそれが存することは,鉄道等には多数の乗客が乗車し,乗務員等が個々の乗客が何人であるかを把握することが困難であるという事情があることによって,何ら左右されるものではない。
 また,内閣が行う情報収集及び協力依頼等に関する情報を不正に入手しようとする者が,公共交通機関の職員に働きかけて領収書等が発行された乗車関係について情報漏洩をさせたりするなどの不正な工作等に及ぶおそれがあることは,いずれの公共交通機関を利用した場合であっても差異はないというべきである。

(b) そして,別紙1交通事業者目録記載の6類型の交通事業者(以下「本件公共交通機関」という。)が運営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)が開示された場合であっても,その記載内容から利用目的や関係者等,ひいては内閣官房長官が当時行っていた活動内容が推知されるおそれがあることは,上記(a)と同様であるし,本件公共交通機関の利用に係る領収書等であっても,領収書等が作成されるようなものについては,一般に,領収書等の日付,金額並びに当該領収書等の発行者である当該交通機関の住所及び名称に加えて,その利用者名が領収書等のあて名として記載されているものと考えられるが,領収書等によっては,例えば,乗車日,利用区間,乗車券番号,利用者の会員番号(一部),当該領収書等の発行者である本件公共交通機関の管理番号等が記載されることもあるものと考えられることからすれば,それらが開示されると,内閣官房報償費を利用した者の氏名,会員番号(一部),当該利用者が移動した日時,利用区間や利用地域のほか,一定期間における移動の頻度及び目的地等とその時々に生じた内政・外政に係る案件等とを照らし合わせることによって,その利用目的や関係者等が特定ないし推測される可能性がある。取り分け本件公共交通機関の規模が小さく,地域性が高いような場合には,上記の情報を照らし合わせることによって,その利用目的や利用者等が特定ないし推測される可能性が一層高まることになる。このような可能性は現実的なものである上,内閣官房報償費については,その特殊性ゆえに,記者等が独自の取材により有する種々の情報が数多く存在しており,不正な働きかけによって得られた情報等の存在も否定できないことから,これらの情報と本件公共交通機関の利用に係る領収書等に記載された情報を照らし合わせることにより,不開示情報が特定又は推測される可能性が高いから,本件公共交通機関を利用したものとそれ以外のものとを区別して不開示情報該当性の有無を論じることは相当でない。
 また,本件公共交通機関の利用に係る領収書等に利用者の氏名等の記載がない場合であっても,上記のとおり,同領収書等には,利用者等の特定につながり得る会員番号(一部),乗車券番号及び本件公共交通機関における管理番号等の種々の情報が記載されていると考えられる。そうすると,内閣官房に関する情報を不正に入手しようとする者において,これらの情報を基に,本件公共交通機関の職員に働きかけて利用者等を特定したり,本件公共交通機関のシステムに不正アクセスするなどして利用者等を特定することは十分に考えられる。なお,第三者等の不正な働きかけによって個人情報が流出するような事案は,公表されているだけでも枚挙にいとまがないのであって,上記のような不正な働きかけによって利用者が特定される可能性が抽象的なものにとどまるなどといえないことは明らかである。現代の高度情報化社会においては,個人に関する微細な情報であっても,これを基にインターネット等を通じて当該個人の特定に至り得ることは周知の事実であり,特に内閣官房報償費については,その特殊性ゆえに,その使途等について不正な働きかけを行ってまで入手しようとする者がおり,そのような者は謀報活動に必要な高度の知識・技能を有していることも十分に考えられるから,単に本件公共交通機関の利用に係る領収書等に利用者の氏名ないし名称が記載されていないことをもって,利用者等が特定されるおそれが抽象的なものにとどまるなどといえないことは明らかである。そして,このような支障が生じるおそれがあることは,本件公共交通機関に多数の乗客が乗車しており,乗務員等が個々の乗客が何人であるかを把握することが困難であるという事情があることよって,何ら左右されるものではない。
 さらに,本件公共交通機関の利用に係る領収書等に利用者の氏名等が記載されておらず,利用者等が特定されない場合であっても,当該公共交通機関の種類,利用日時,利用区域,金額等の記載内容から,一定期間における利用の頻度や目的地等が明らかになり,これとその時々に生じた内政・外政に係る案件等の情報を照らし合わせることによって,利用目的や関係者等,ひいては内閣官房長官が当時行っていた活動内容が推知され,内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途が特定ないし推測されるおそれがある。
 加えて,本件公共交通機関の利用に係る領収書等の開示により,内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途について特定ないし推測まではされない場合であっても,それらの事項については様々に憶測されることになり,それは内閣官房報償費の領収書等という客観的な根拠に基づくものであって,何ら根拠のない憶測とは社会の受け止め方も大きく異なる。そのため,領収書等という客観的な根拠に基づいて内閣官房報償費という国の重要政策課題に関する費用が特定の地域や特定の人物に支出されている旨の憶測がされた場合,憶測がされた政策に反対する団体等が当該地域や当該人物のもとに押し寄せて大規模な反対活動等を行ったり,当該地域や当該人物がマスコミ等の注目を浴びるなどすることが十分に考えられるから,結果的にそれが当を得たものでなかったとしても,そのような状況を目の当たりにした政府の協力者等が態度を硬化させ,将来の情報収集・協力依頼等の活動全般に支障を及ぼすことが十分に考えられる。したがって,本件公共交通機関の利用に係る領収書等に基づいて憶測がされる場合であっても,内閣官房の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかである。

(c) 原告は,タクシーやハイヤーの利用に係る領収書等が開示されたとしても,その利用者等を特定することは不可能であり,特にあて名の記載のないタクシーの領収書の場合,これが開示されても利用者は特定できないとして,内閣官房の事務の遂行に具体的な支障は生じない旨主張する。
 しかしながら,タクシー及びハイヤーの利用に係る領収書等にはその利用日付(日時),金額,車両番号並びに当該領収書等の発行者の住所及び名称等が記載されていると考えられ,領収書等によってはこれらに加えて,利用者名が記載されることもあるものと考えられる。そのため,タクシー及びハイヤーの領収書等が開示されると,これらの記載により利用者等が特定され得るから,このことによって内閣官房の事務の適正な遂行に支障を生ずるおそれがある。タクシー及びハイヤーの領収書等にあて名の記載がない場合であっても,その事業主体である一般乗用旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運転者が乗務したときは,運転者名,乗務した乗用自動車の自動車登録番号等当該自動車を識別できる記号,番号その他の表示及び旅客が乗車した区間等を運転者ごとに記録させなければならないとされ(旅客自動車運送事業運輸規則25条3項,1項),また,一般に,タクシー及びハイヤーの運転者は,乗務終了後の精算業務等のため,各旅客ごとの乗務日時,乗降場所及び運賃(料金)等を記録した運転日報(乗務記録)を作成している。そのため,当該領収書等に記載された利用日付(日時),金額,車両番号及び発行者の名称等の情報と,上記(b)で述べたような不正な働きかけ等によって入手可能な当該事業者の運転日報(乗務記録)等に記載されている車両番号,乗降日時及び乗降場所等の情報を照らし合わせることによって,当該タクシー及びハイヤーの利用日時や目的地等が判明し得る。これとその時々に生じた内政・外政に係る案件等の情報を照らし合わせることによって,利用目的や関係者等,ひいては内閣官房長官が当時行っていた活動内容が推知され,内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途が特定ないし推測させるおそれがある。

b  支払関係費に係る領収書等について
 原告は,金融機関での振込手数料に係る領収書等がなくとも,金融機関に対する不正工作は実行できるのであるから,同領収書等を開示しても,単に内閣の業務の遂行に支障が出る抽象的な可能性があるというだけにすぎない旨主張する。
 しかしながら,金融機関名が明らかではない場合であっても,金融機関に対する不正な工作等が明らかになった場合には,それが明らかではない場合と比較して当該金融機関に対する不正な工作等のおそれは格段に高まることになる。その場合には,内閣における情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがあるというべきであり,このおそれが抽象的な可能性にとどまるものとはいえない。

c  会合に係る領収書等について
 原告は,マスコミ等によって報道されている会合に係る領収書等は,最低限開示されるべきである旨主張する。
 しかしながら,マスコミ等によって報道されている会合の費用が,内閣官房長官等の私財によって賄われたものであるか,あるいは,内閣官房報償費を使用したものかという情報自体が,その会合の特殊性を際立たせて社会の重大な関心事となり,その結果,会合相手や場所が注目され,上記(イ)で述べたことと同様の支障が生じることとなる。
 したがって,マスコミ等によって報道されている会合とそれ以外の会合とに区別して不開示情報該当性の有無を論じることは相当ではなく,原告の上記主張は理由がない。

(オ) 小括
 以上のとおり,領収書等に記録された情報は,これが開示された場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を来すおそれがあるから情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 また,領収書等のうち,外交関係等の支出に係るものについては,前述したところからすれば,これが開示されると,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあることが明らかであり,内閣官房内閣総務官がそのようなおそれがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとは到底認め難い。
 したがって,内閣官房内閣総務官の上記判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記領収書等に記録されている情報については,同条3号の不開示情報にも該当すると認められる。

 政策推進費受払簿に記録されている情報
(ア) 使途が特定又は推測される結果,領収書等が開示された場合と同様の支障を来すおそれがあること
 政策推進費受払簿には,日付(繰入日)とともに,前回から今回までの支払額や今回繰入額等が記載されており,これらを含む情報が明らかになると,政策推進費の特定日における繰入額が明らかとなり,前回繰入日から今回繰入日までの支払額が明らかとなる。そして,前回残額に記載された額と前回から今回までの支払額,現在残高を見比べることによって,前回から今回までに繰入額の中から幾らの政策推進費が支払われたかが明らかとなる。そうすると,当該支払の具体的な時期が前回繰入日から今回繰入日までのいずれかであり,その具体的な金額が前回から今回までの支払額の全部又は一部であることが明らかとなるから,個々の政策推進費の支払時期と支払額が事実上特定ないし推測されることになる。殊に,前回繰入日から今回繰入日までの期間が短い場合には,その短期間のうちに繰入額の中から支払われた額が判明するから,個々の政策推進費の支払時期と支払額の特定ないし推測は一層容易となる。その結果,これらの情報と当時の内政・外政の状況など他の情報とを照合,分析することにより,特定の事案との関係が特定ないし推測され,ひいては具体的使途や支払の相手方が特定ないし推測されることとなり,領収書等に記載されている情報が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。
 また,政策推進費の具体的使途や支払の相手方が特定ないし推測されるまでには至らない場合でも,支払額やその支払時期が特定ないし推測され,上記関連情報と合わせ見ることにより特定の事案との関係や支払の相手方及び関係者が憶測される。そのこと自体によっても,そのような憶測を受けた相手方や関係者がマスコミ等で取り上げられるなどして困惑を覚えたり萎縮したりする結果,当該事案について協力が得られなくなるばかりでなく,そのような一般的な萎縮効果によって広く内閣官房報償費を使用する事務に対する協力が得られなくなり,以後の情報提供や協力を得ることが困難となることが優に想定される。

(イ) 事実と関係なく様々な憶測が世上に流布されるおそれがあること
 政策推進費受払簿に記録されている情報が明らかになると,そこに記載されている日付と前後して発生した内政・外政上の重要事案と関連付けて,事実と関係なく様々な憶測が世上に流布することが想定されると,内閣官房報償費の制度自体や執行の仕方について国民の誤解を招き,これらに対する国民の支持・信頼が損なわれるおそれがある。
 その結果,情報提供者,協力者,内閣官房長官の指示を受けた者が内閣官房報償費を使用して活動を行うことに殊更慎重になり,活動手段の選択肢が事実上狭められるという弊害が生じ,内閣官房長官が行う情報収集・協力依頼の活動全般に支障が及ぶことになる。加えて,国民の支持・信頼が損なわれることを懸念して,新たな情報提供者,協力者の確保に困難を来したり,世間において関係あると憶測された事案と同種の事案が発生した際における内閣の対応が事実上制約されるなど,今後の内閣における情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがある。

(ウ) 原告の主張に対する反論
 原告は,政策推進費受払簿の記載から明らかになるのは,前回繰入時から今回繰入時までの一定期間内における政策推進費の支払合計額のみであって,それ以上に政策推進費の具体的使途や支払の相手方の氏名等を明らかにするものではない旨主張する。
 しかしながら,政策推進費受払簿に記載された情報が開示されれば,政策推進費の「一定期間における支払総額」のみならず,個々の支払額及び支払時期が事実上特定ないし推測される結果となること,これらの情報と当時に懸案となっていた政策課題等や当時の内政・外政の状況など他の情報とを照合,分析することにより,特定の事案との関係が特定ないし推測され,ひいては具体的使途や支払の相手方が特定ないし推測されることは,上記(ア)のとおりである。
 そして,内閣官房長官が処理に当たるべき行政事務は,国政の根幹に関わる極めて重要なものであり,当然のことながら,社会の耳目を集め,日々,その一挙手一投足が注目を浴び,連日,その言動等が報道されている。また,内閣官房報償費の使用に関しては高度の秘密保持の要請があるがゆえに,マスコミの関心も高く,独自の調査・取材に基づき様々な報道がされている。このような状況下においては,たとえ政策推進費受払簿に政策推進費の具体的使途やその相手方の記載がないとしても,上記のように,その開示によって,個々の政策推進費の支払額や支払時期が事実上特定ないし推測されることになれば,独自の調査に基づき他の情報と照合するなどして,具体的使途や相手方が推知されることは,十分に想定される。
 また,原告は,政策推進費受払簿が開示されたとしても,対象期間に支出された回数等が判明しない限り,支払の相手方等の特定又は推測はおよそ不可能である旨主張するが,政策推進費受払簿を開示した場合に生じる支障は,その記載内容自体から具体的使途や支払の相手方が特定又は推測される場合に限られず,そのほかの情報等を照らし合わせることによって,具体的使途や支払の相手方が特定又は推測され,ないしは憶測される場合によっても生じるのであり,このことは,対象期間に支出された回数等が判明しない場合であっても異なるところはない。
 したがって,原告の主張は理由がない。

(エ) 小括
 以上のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報は,これが開示された場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を来すおそれがあり,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 また,政策推進費が外交関係等に支出された場合に上記情報を開示すれば,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官がそのようなおそれがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上記判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記情報は,同条3号の不開示情報に該当すると認められる。

 支払決定書に記録された情報
(ア) 支払の目的,相手方等が明らかになり,領収書等が開示された場合と同様の支障を来すおそれがあること
 支払決定書には,支払決定の日付,金額(複数の支払を処理する場合はその合計額),支払目的(調査情報対策費,活動関係費という目的類型の区分のほか,個別,具体的な使途も記録されている。複数の支払に係る支払決定書については,代表的な使途が記録される。),支払相手方の氏名ないし名称(複数の支払に係る支払決定書については,一つないし複数のものが記録されている。)などが記録されている。
 そうすると,支払決定書が開示された場合には,支払決定を行った時期や支払額のほかに,調査情報対策費,活動関係費という支払目的類型の区分,さらには,より具体的な使途及び情報収集・協力依頼の相手方やこれらの諸活動に当たり利用している会合場所に係る事業者,交通事業者等が明らかになるから,領収書等に記録されている情報が明らかになった場合と同様の支障が生じるおそれがある。

(イ) 事実と関係なく様々な憶測が世上に流布するおそれがあること
 支払決定書が開示された場合,特定の事案との関係について事実と関係なく様々な憶測が世上に流布することが想定され,それにより,内閣官房報償費の制度自体や執行の仕方について国民の誤解を招き,これらに対する国民の支持ないし信頼が損なわれるおそれがあり,その結果,内閣官房報償費を使用した活動一般が萎縮し,内閣による必要な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがある。

(ウ) 原告の主張に対する反論
a  原告は,支払決定書は,毎月の調査情報対策費及び活動関係費の各支出がまとめて記録されているものにすぎないから,これらの文書が開示されても,各月の支出の金額と日時,代表的な相手方と支出目的が判明するのみであって,国の事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼす具体的なおそれはない旨主張する。
 しかしながら,支払決定書の作成頻度は月1回とは限らず,また,調査情報対策費又は活動関係費の各支払につき作成されるのであって1枚の支払決定書により1件の支払を処理しているものも含まれている。そのため,1枚の支払決定書により1件の支払を処理している場合において,支払決定書に記載された情報が明らかとなれば,個別に支払決定を行った時期や支払額のほかに,調査情報対策費,活動関係費という目的類型別の区分や,更に具体的な支払目的・内容,情報収集・協力依頼の相手方等が明らかになる。他方で,1枚の支払決定書により複数の支払を処理している場合にも,相手方や具体的な支払目的・内容等が個別に記載されているものについては,これが開示されることにより支払の相手方や具体的な使途が明らかとなる。また,このような記載がない場合においても,支払決定書の開示により,各月ごとの調査情報対策費,活動関係費それぞれの支払決定書の作成量や作成頻度,支払合計額が明らかになれば,これらの情報とその時々の内政・外政に係る案件等とを照合,分析するなどして,特定の案件との関係が特定ないし推測され得る。また,支払の相手方等について様々な推測,憶測がされること自体によっても,その相手方と目された者が,マスコミ等の注目を浴びるなどして,多大な困惑を覚え,以後の協力をちゅうちょするなど,内閣官房報償費を使用した活動に支障が生ずるおそれがある。
 したがって,原告の主張には理由がない。

b  また,原告は,会合費,交通費,贈答品等の購入費や支払関係費用など,情報提供者やそれに準ずる者に直接支出されないものについては,その支出関係文書が開示されたとしても,国の事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼす具体的なおそれはない旨主張する。
 しかしながら,支払相手方以外の記載が明らかになった場合であっても,これらの情報と当時の内政・外政の状況など他の情報とを照合,分析することにより,各支出と特定の事案との関係を特定又は推測することができ,その具体的使途や支払相手方が特定又は推測される結果,領収書等に記載されている事項が明らかになった場合と同様の支障を来すおそれがあること,特定の事案との関係について,事実と関係なく様々な憶測が世上に流布することにより,内閣官房報償費を使用した活動一般が萎縮し,内閣による必要な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがあることは,前記ア及びイで述べたとおりである。

(エ) 小括
 以上のとおり,支払決定書に記録された情報が開示された場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を来すおそれがあるから,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 また,前述したところからすれば,上記情報が開示された場合,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官がそのようなおそれがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上記判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記情報については,同条3号の不開示情報に該当すると認められる。

(オ) 部分開示義務の有無について
 原告は,支払決定書には「支払相手方等」をわざわざ全件記録しなくてもよいことになっているから,「支払相手方等」を除いたその余の記録事項だけであっても,有意な情報として作成しているのであり,上記その余の記録事項はそれ自体独立した一体的情報に当たるから,「支払相手方等」の記録を除いた部分について情報公開法6条1項に基づき,部分開示をすべきである旨主張する。
 しかしながら,支払決定書には,調査情報対策費又は活動関係費の1件の支払又は複数の支払ごとに,いつ,誰に対し,幾らの額の支払をするのかが記載されるのであり,その支払がいかなる事業者等や,情報収集・協力依頼の相手方に対してされたかということが,支払の日付や金額と相まって,調査情報対策費や活動関係費の支払に関する情報としての意味を持つものであり,一通の支払決定書に記録された情報は,その全体が相まって支払決定という社会的に有意な一つの情報を成すものであるから,原告の上記主張は理由がない。
 この点を措くとしても,支払決定書のうち「支払相手方等」の記載を除いた残余の記載部分も,これが開示された場合には,その時々の内政・外政に係る案件等と照合,分析するなどして,特定の案件との関係が特定又は推測され得るものであり,支払の相手方等について様々な推測,憶測がされること自体によっても,その相手方と目された者が,マスコミ等の注目を浴びるなどして,多大な困惑を覚え,以後の協力等をちゅうちょするなど,内閣官房報償費を使用した活動に支障が生ずるおそれがあるものであるから,いずれにしても,部分開示義務はない。

 出納管理簿に記録された情報
(ア) 政策推進費受払簿及び支払決定書の場合と同様の支障を来すおそれがあること
 出納管理簿には,国庫から内閣官房報償費への入金,内閣官房報償費から政策推進費への繰入れ,調査情報対策費及び活動関係費の支払決定があるごとに,当該出納についての「年月日」(政策推進費の繰入日,調査情報対策費及び活動関係費の各支払日),「摘要(使用目的等)」,「受領額」(国庫からの入金額)又は「支払額」(政策推進費の繰入額,調査情報対策費及び活動関係費の各支払額),「残額」等の各項目が記録され,調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定については「支払相手方等」が記録される。また,「月分計」欄には,各月における受領額,支払額の各合計額が記録され,「累計」欄には,年度当初から当該月の月末までの受領額,支払額の各累計額及び残額が記録されている。
 これらの記録のうち,調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に対応する各項目には,支払決定書に記録された情報と同じ情報が記録されることから,これらの情報が開示された場合には,支払決定書が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。
 また,政策推進費の支払(繰入れ)に係る各項目には,政策推進費受払簿に記録された情報と同じ情報が記録されることから,これらの情報が開示された場合には,政策推進費受払簿が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。

(イ) 使途が特定又は推測され,あるいは,事実と関係なく様々な憶測が世上に流布するおそれがあること
 月分計欄に記録された情報が明らかになると,それを基にある月の受領額(国庫からの入金額),支払額(政策推進費の繰入額,調査情報対策費及び活動関係費の各支払額)の各合計額が明らかとなり,各月の支払の特徴を分析し,当時の内政・外政の状況等を照合,分析することによって,特定の事案との関係が特定ないし推測される結果,具体的使途や相手方が特定ないし推測されることになり,内閣官房長官の行う事務の適正な遂行に支障を来すおそれがある。
 累計欄についても,同欄に記録された年度当初から当該月の月末までの受領額,支払額の各合計額及び残額が明らかになると,年度当初から本件対象期間までの国庫からの入金と支払の各総額が明らかになるから,この間の支払額等の特徴から,当時の内政・外交事案と照合,分析するなどして,特定の事案との関係が特定ないし推測されることになる。
 また,前述のとおり,特定の事案との関係について,事実と関係なく様々な憶測が世上に流布すること自体によっても,内閣官房報償費を使用した活動一般が萎縮し,必要な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれがある。のみならず,そのような憶測がされ,相手方等と目された者がマスコミ等に注目されるなどして,多大な困惑を覚え,態度を硬化させることも想定され,内閣官房報償費を使用した事務の活動全般に支障を来すおそれがある。

(ウ) 原告の主張に対する反論
 原告は,出納管理簿の書式上,「支払相手方等」の欄に,「本欄は記載した場合,支障があると思われる場合は省略することができる」との注記(以下「本件注記」という。)が存することをもって,「支払相手方等」を省略していない場合には,開示によって行政執行に実質的な支障を生じるおそれはない旨主張する。
 しかしながら,本件注記は,支払相手方等の情報については,機微に触れる場合もあることから,必要以上に記録することなく慎重に取り扱うことを注意的に記載したものにすぎず,仮に支払相手方等を記載した場合に支障があると思われる場合であっても,必ずその記載を省略することとはされていない。実際にも,本件注記があるからといって,「支払相手方等」の欄について記録を省略する扱いはされておらず,支払相手方の氏名・名称がすべからく記載されているのが実情である。したがって,本件注記が存在することを考慮しても,「支払相手方等」の欄に記載されている情報の不開示情報該当性が左右されるものではない。
 よって,原告の主張は理由がない。

(エ) 小括
 以上のとおり,出納管理簿に記載されている情報は,これが開示された場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を来すおそれがあり,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 また,上記情報のうち,外交関係に関する支出に係るものについては,これが開示された場合,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官がそのようなおそれがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上記判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記情報については,同条3号の不開示情報にも該当する。

(オ) 部分開示義務の有無について
 原告は,不開示情報が記録されている部分と記録されていない部分が分離可能であれば,不開示情報が記録されていない部分につき部分開示義務があるし,また,出納管理簿が内閣官房報償費の出納管理のため内閣官房報償費全体の出納状況を一覧できるように作成されている文書であること,出納管理簿の書式において省略できる旨の注記(本件注記)があることなどからすれば,出納管理簿から「支払相手方等」を除いた記録は独立した一体的情報であると考えられるから,上記事項を除いた部分について情報公開法6条1項に基づく部分開示をすべきである旨主張する。
 しかしながら,出納管理簿は,内閣官房報償費を何の目的で,誰に対してどの程度使用しているかを月ごとにまとめた上で,当該年度に係る累計額を記録して,月ごと,年度ごとの内閣官房報償費の入出金状況全体を一覧できるようにし,内閣官房長官において,内閣官房報償費の個々の入金,繰入れ及び支払のみならず,これらの入出金の総計と残額の全体が相互に適正に記録されているかどうかを確認する趣旨・目的で作成されるものである。そのため,出納管理簿においては,国庫からの入金,政策推進費への繰入れ,調査情報対策費及び活動関係費の各支払の項目は,それぞれが個別の情報として独立した意味を持つものではなく,これらの入出金相互の関係が矛盾なく記録されているかどうか,その月ごとの合計額,年度ごとの累計額が個々の入金額,繰入額,支払額と整合するかどうかを全体として内閣官房長官による確認の対象とすることが,同文書が担う重要な機能にほかならない。したがって,出納管理簿のこれらの「記述等の部分」全体を一体として捉えることによって,初めて出納管理簿が月ごと,年度ごとの内閣官房報償費の入出金状況全体を一覧できる事項を記録したものであるとの意味内容が明らかとなり,入出金相互の関係が矛盾なく記録されているかどうか,これらの入出金の記録が月ごとに合計額の記載と整合するかどうかが,内閣官房長官の確認の対象とされることで,出納管理簿の作成の趣旨・目的が達せられるのである。したがって,出納管理簿に記載されている上記の各記述が全体として相まって一つの「情報」を構成しているというべきである。
 この点を措くとしても,「支払相手方等」の記載を除いた残余の記載部分も,これが開示された場合には,当時の内政・外政の状況など他の情報と照合,分析することにより,特定の事案との関係が特定ないし推測される結果,具体的使途や相手方が特定ないし推測されることになる。また,特定の事案との関係について事実と関係なく様々な憶測が世上に流布すること自体によっても,内閣官房報償費を使用した活動一般が萎縮し,内閣による必要な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれもある。
 よって,いずれにしろ,内閣官房内閣総務官は,「支払相手方等」を除いた部分のみを部分的に開示する義務を負わない。

 報償費支払明細書に記録された情報
(ア) 政策推進費受払簿,支払決定書及び出納管理簿の場合と同様の支障を来すおそれがあること
 報償費支払明細書は,会計検査院に提出するため,内閣官房報償費の使途を目的別に分類して支払額を記載したものであり,政策推進費受払簿及び支払決定書に記録されている情報が転記されているのであるから,報償費支払明細書が開示された場合には,政策推進費受払簿ないし支払決定書が開示された場合と同様の支障が生じるおそれがある。
 また,報償費支払明細書に記載された情報のうち,「前月繰越額」は出納管理簿の各月の当初時点における残額に,「本月受入額」及び「本月支払額」は出納管理簿の月分計欄における「受領額」及び「支払額」に,「翌月繰越額」は出納管理簿の累計欄における残額に,それぞれ相当するものであるから,これらの情報が開示されると,出納管理簿の月分計欄ないし累計欄に記載された情報が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。

(イ) 原告の主張に対する反論
a  原告は,報償費支払明細書が開示されても,具体的使途や支払の相手方の氏名等が明らかになるものではない旨主張する。
 しかしながら,調査情報対策費及び活動関係費に係る各項目には,支払の相手方や個別具体的な使途の記載まではないが,これが開示されるとその支払日や具体的金額が明らかになるから,これらの情報と当時の内政・外政の状況など他の情報とを照合,分析することにより,その具体的使途や支払の相手方が特定ないし推測されることになる。しかも,その使途や支払の相手方について種々の憶測を呼ぶことは避けられないことから,相手方と目された者が困惑を覚え,態度を硬化させるなどして,以後の情報提供や協力依頼をちゅうちょすることになり,内閣官房報償費を使用した事務の適正な遂行に支障を来すおそれがある。また,上記各情報で外交関係の支出に係るものについては,内閣官房内閣総務官において,これを開示した場合には情報公開法5条3号に規定する支障を生じるおそれがあると判断したことが,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであると認めることはできないから,その判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用を認める余地もない。

b  原告は,報償費支払明細書は,会計検査院に開示しても支障のない限度で記録したものであるから,これを一般に公開しても行政執行に支障のおそれが生じることはあり得ない旨を主張する。
 しかしながら,上記(ア)のとおり,報償費支払明細書は,内閣官房報償費の使途を目的別に分類して支払額を記載したものであり,政策推進費受払簿及び支払決定書に記載されている情報が転記されているのであって,会計検査院に対して明らかにしても支障がないことを考慮して作成されたものではない。そもそも会計検査院の職員は,報償費支払明細書とともに,必要に応じて領収書等も確認することができるのであり,報償費支払明細書に会計検査院に対して明らかにしても支障のない程度の項目のみを記載するなどということには全く意味がない。また,会計検査院は,憲法90条の規定に基づき,全ての国の収入支出の決算について毎年検査する権限を有しており,会計検査院の職員は,国会公務員法100条1項の規定により守秘義務が課され,その違反に対しては刑事罰(同法109条12号)も予定されている。そして,内閣官房報償費に係る会計検査の際には,一定の限定された会計検査院職員が官邸に来訪し,官邸において会計検査をするなど,機密性に十分に配慮がされている。これに対し,情報公開法に基づく開示の場合は,何人でも文書を入手でき,守秘義務はもとより入手した文書の使途も何ら限定されていない。
 したがって,報償費支払明細書の記載を会計検査院に対して明らかにしていることをもって,これを開示しても情報公開法5条3号及び6号に規定する支障を生じるおそれがないということはできない。

(ウ) 小括
 以上のとおり,報償費支払明細書に記載された情報が開示された場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を来すおそれがあり,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 また,上記情報が開示された場合,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官がそのおそれがあると判断したことが,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上記判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記情報は,情報公開法5条3号の不開示情報に該当すると認められる。

(原告の主張)
(1) 本件対象文書に記録された情報が情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関する情報)に該当しないこと(総論)
 情報公開法5条6号及び同条3号の解釈について
 情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権利につき定めることにより,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的としており(同法1条),その観点から,行政機関の保有する行政文書の開示の請求権者を特に限定せず(同法3条),また同法5条各号に掲げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き,行政機関の長に対して開示請求に係る行政文書の開示を義務付けている(同法5条)。
 そこで,例外的に不開示事由を定めた情報公開法5条6号にいう国の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合として不開示決定をした場合には,その処分者が所属する行政主体である国が,当該行政文書には同号所定の不開示事由があることを主張立証する必要があり,同号にいう「支障」の程度は実質的なものであることが必要であり,「おそれ」の程度も法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。
 また,情報公開法5条3号にいう国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれについても,国が当該行政文書には同号所定の不開示事由があることを主張立証する必要があり,同号にいう「害される」,「損なわれる」及び「不利益」の各程度も実質的なものであることが必要であって,「おそれ」の程度も法的保護に値する蓋然性が要求される。

 支払相手方が公務員である場合
 支払相手方が公務員である場合は,金員の交付が賄賂性を帯びる違法なものか,又は政治資金規正法に違反したり,公務員の職務上の倫理に反する性格を帯びるものであったりする。したがって,支払相手方が公務員の場合の本件対象文書に記録された情報は法的保護に値せず,開示することで公務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある等とはいえないので,情報公開法5条3号や6号に定める不開示情報に該当しない。

(2) 部分開示義務について
 情報公開法は,開示請求のあった行政文書を原則的に公開するように規定し(5条),さらに不開示情報が含まれる場合であっても可能な限りその部分を除いて開示すべきと規定する(6条)ことで,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資するという目的(1条)を果たそうとしている。
 このような開示を原則とし,不開示を例外としている情報公開法の趣旨からすると,不開示情報が記録されている部分と記録されていない部分が分離可能であれば,実施機関は不開示情報が記録されていない部分を開示しなければならないのであって,部分開示義務を負うと解すべきである。
 この点,被告は,最高裁平成13年判決を援用するが,そもそも大阪府公文書公開等条例10条の沿革等に照らすと,同条例の解釈上部分開示義務を認めなかった最高裁平成13年判決自体妥当でないし,その後の最高裁判例は,行政機関の長が独立した一体的な情報を更に細分化して行政文書の部分開示をすべき義務はないという見解を採用しておらず,最高裁平成13年判決は実質的に判例変更されているとみるべきである。また,大阪府公文書公開等条例10条と情報公開法6条とは条文の構造が異なるから,最高裁平成13年判決の射程は情報公開法には及ばない。
 本来,一つの文書には様々な情報が重層的に記録され,それらが集積されることによってより大きな情報を構成し,そして一つの文書を構成している。そうすると,仮に個人識別情報以外の不開示事由がある行政文書については,行政機関の長が独立した一体的な情報を更に細分化し当該不開示情報が記録されていない部分を開示する態様の部分開示の義務を負わないと解したとしても,その「独立した一体的な情報」は,文書の作成名義,作成目的,記録内容等から的確に判断する必要がある。
 そして,支払日や支払金額についてのみを見ても,それ自体有意な情報として独立した一体的情報であるから,本件対象文書に関しては,少なくとも支払日や支払金額については,「独立した一体的情報」として部分開示義務がある。かかる主張が正当であることは,最高裁平成13年判決の後に言い渡された外務省報償費に関する平成20年1月31日の東京高等裁判所の判決(東京高等裁判所平成20年1月31日・季報情報公開・個人情報保護31号44頁,最高裁判所平成21年2月17日第三小法廷決定(上告棄却及び上告不受理決定)及び最高裁判所平成21年2月17日第三小法廷決定(上告不受理決定)で確定)において開示された文書(甲33,34)をみても,明らかに一つの文書の中で支払相手方等についてはマスキングをした上で,支払日や支払金額について開示していることからも裏付けられる。

(3) 本件対象文書ごとの検討(各論)
 領収書等について
(ア) 領収書等について,支出の相手方に対して第三者が不正な働きかけを行うことにより,内閣(官房)の情報が流出し,あるいは今後内閣(官房)が情報提供を受けられなくなり,内閣の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれまではない。真に機密性がある場合には,内閣官房長官等は,領収書等の保管義務まではない政策推進費によって支出し,領収書等を保管しなければよいのであって,わざわざ領収書等を保管している場合には,内閣官房長官等がその領収書等の支出は機密性が低いと判断したものであって,これが開示されることにより国の事務又は事業の適正な遂行に具体的な支障を及ぼすおそれはない。

(イ) 特に,調査情報対策費や活動関係費については,情報提供者やそれに準ずる者に直接支出するのではない場合(具体的には,会合としての支出,交通費,贈答品等の購入費,支払関係費用としての支出の場合)については,領収書等をすべて開示しても,国の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは考えられない。被告は,このような場合においても不正工作がされるおそれがある旨を指摘するが,不正工作に応じた業者はもはや利用されなくなることに鑑みれば,内閣官房長官等が会合に利用する業者,交通事業者,振込に利用する金融機関などが不正工作に遭って簡単に顧客に関する情報を漏洩することなど考えられない。

(ウ) また,その中でも特に,以下の各領収書等については,具体的な「支障」など存在し得ない。
a  公共交通機関に対して支出された交通費に関する領収書等
 公共交通機関に対して支出された交通費に関する領収書等については,これが開示され,第三者が当該公共交通機関の従業員等に対する不正工作をしたとしても,当該領収書等に係る利用者の現実的な特定方法は想定し難いから,誰が利用したかを特定されるおそれは抽象的なものにとどまるというほかなく,少なくとも公共交通機関に対して支出された交通費に関する領収書等も開示されるべきである。
 すなわち,まず,別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等については,これらの公共交通機関は,不特定多数の者が利用するという特質を有していることからすれば,これらの公共交通機関に係る領収書等が開示され,第三者が当該公共交通機関の従業員等に対する不正な働きかけをしたとしても,当該領収書等に係る利用者の現実的な特定方法など想定し難いのであって,結局,当該公共交通機関を誰が利用したか特定されるおそれはないし,おそれがあるとしても抽象的なおそれにとどまる。
 次に,タクシー,ハイヤーの利用に係る交通費の支払に関する領収書等についても,これらの交通事業者からすれば,交通事業者に支払われる費用が内閣官房報償費として支払われているのか,その他の内閣の一般の予算から支払われているのか,全く不明である。そうすると,第三者が開示された領収書等をみて交通事業者に不正な働きかけをしたとしても交通事業者の方がどの支出が内閣官房報償費として支払われたものかが不明である以上,その際どのような人物が乗車していたのか,あるいは,内部でどのような話がされていたのかについて,特定しようがなく,内閣の事務の遂行等に具体的な支障など発生しようがない。また,タクシーに関する領収書等の場合,領収書のあて名の記載のない,印字されたレシートが添付されている場合も存在するところ,仮にこれが開示されたところで,領収書等のあて名がなく誰が支出したかすら不明であるから,内閣の事務の遂行等に具体的な支障など発生しようがない。
 以上に対し,被告は,公共交通機関の路線の規模が小さく,地域性が高いような場合には,内政・外交に係る案件と照らし合わせることによって,目的等が推知される可能性が高い等と主張するが,仮に交通費としての利用区間や利用地域が判明したとしても,タクシーやハイヤー等乗車人数が限定される個別性の高い交通機関と比較すれば第三者が不正な働きかけをすることで利用者の特定をすることは不可能,あるいは少なくとも著しく困難である。さらに,内政・外交に関する情報と総合的に考量したとしても,いかなる内政上,外交上の重要政策等について内閣官房報償費が用いられたのか推知できるものとはいえない。仮に交通費としての利用区間や利用地域が判明したことにより,内閣官房報償費が何に使用されたかについて憶測が生じたとしても,かかる憶測の類は現時点でも様々に生じているのであって,かかる憶測のみによって,関係者の協力が得にくくなる等という内閣官房の行う事務の遂行等に具体的な支障が生じる具体的なおそれはない。

b  金融機関での振込手数料(支払関係費)に係る領収書等
 内閣官房報償費を使用するにあたり,金融機関での振込みという手段を用いることは,誰にでも想定できる。したがって,金融機関に対する不正な働きかけをしようと考える者であれば,振込手数料に係る領収書等がなくとも,これを実行できる。単なる振込手数料の領収書等を開示したところで,不開示情報該当性にいう「支障」が生じるとは考えられない。

c  書籍代に係る領収書等
 国内外の出来事や政府・国会の動きなどに関する報道によって,内閣官房が関心を寄せている政策課題は誰でも想定できる。また,内閣官房が関心を持っている政策課題は国内外を問わず多岐にわたっている。したがって,ある政策課題について不正な働きかけをしようと考える者にとっては,一般の書店の領収書等が開示されるかどうかにかかわらず,内閣官房の関心のある政策課題について「不正な工作」を実行しているはずである。よって,一般の書店で書籍を購入した場合にかかる領収書等が開示され,内閣官房が購入した書籍名が開示されることになったとしても,開示される前と比較して,「支障」や「おそれ」があるとは考えられない。

d  会合費に係る領収書等
 不特定多数の者が日々出入りする旅館・ホテルに対して不正な働きかけを行ったとしても,その会合の内容や会合に参加した者を特定することなどできない。したがって,かかる領収書等を開示したとしても何ら「支障」は生じない。
 旅館・ホテルほど不特定多数の者が出入りしているといえない料亭・レストランについても,会合の内容について把握しているとは考え難く,不正な働きかけを行ったとしても,会合の内容を特定することなどまず無理である。また,内閣官房が調査情報対策費若しくは活動関係費の目的達成のために選択した料亭・レストランは,情報管理が徹底されているからこそ会合の場所として選択されたのであり,顧客からの信頼が最も重要な財産なのであるから,不正な働きかけに対して会合に関する情報を漏えいさせることなど,あり得ず,「支障は生じない。
 さらに,本件対象期間中である特定年月日,B首相が,A内閣官房長官,C内閣官房内閣総務官と,東京都の特定ホテル内の特定レストランにおいて,特定政党に所属しているD氏らと会合を開いたことが,マスコミによって報道されており,この会合の支払は,会合費として支出されているものと考えられる。つまり,会合費といっても,マスコミによって会合場所や参加者が報道されている場合もある。このような場合,不正な働きかけを行おうとする者は,領収書等の開示の有無にかかわらず,当該マスコミ報道を手掛かりに不正な働きかけを実行しているのであるから,領収書等が開示されたとしても,「支障」が生じる可能性に変わりはない。したがって,マスコミ等によって報道されている会合に係る領収書等は,最低限開示されるべきである。

 政策推進費受払簿に記録されている情報
 政策推進費受払簿に記録されている情報が開示されても,前回繰入時から今回繰入時までの一定期間内における政策推進費の支払合計額が明らかになるだけであって,それ以上に政策推進費の具体的使途や支払の相手方の氏名等の情報が明らかになるものではない。したがって,政策推進費受払簿に記録されている情報が開示されたとしても国の事務又は事業の適正な遂行等に支障を及ぼすおそれはない。
 これに対し,被告は,前回繰入日から今回繰入日までの期間が短い場合には,政策推進費の支払時期と支払額が事実上特定ないし推測され,さらに他の情報と照合,分析されることにより,特定の事案との関係が特定ないし推測され,ひいては,具体的使途や支払の相手方が特定ないし推測され,事務に支障をきたす旨主張する。しかしながら,かかる主張が成り立つには,第1に,前回繰入日から今回繰入日までの間に,内閣官房が関与している政策案件のうち,特に重要な政策である1件か2件前後にしか政策推進費を配っていないという事実上の扱いや慣例なりが証明されなければならず,それがない限り,被告が主張するような合理的な推測はよそ不可能であるところ,政府の関与するどのような政策案件に政策推進費を配布するかは内閣官房長官の判断によるのみであり,その支出に関する具体的な基準等は一切明らかにされていないから,時々の政策案件を照合しても,支払案件やその相手方を特定することはおよそ不可能であり,被告の主張は成り立たない。また,被告の主張が成り立つには,第2に,前回繰入日から今回繰入日までの間に政策推進費が内閣官房長官から最終受取人にまで支払われていることの証明が必要であるが,繰入行為とは,内閣官房報償費を内閣官房長官が自ら管理する政策推進費に区分することをいうにすぎず,最終受取人にまで支払ったことを意味しない。内閣官房長官が第三者に支払を依頼し,その者の手元で保管されている可能性もあるから,およそその支払先の特定又は推測は不可能で,憶測の域を出ないから,被告の主張は成り立たない。さらに,被告の主張が成り立つには,第3に,前回繰入日から今回繰入日までの間に生じた政策案件についてだけ,政策推進費が支出されていることの証明が必要であるところ,政策推進費の支払は過去の政策案件に対して行う場合もあれば将来発生する案件に対して行う場合もあるというのであるから,被告の主張は成り立たない。

 支払決定書に記録された情報
(ア) 支払決定書はほぼ毎月1回,調査情報対策費で1枚,活動関係費で1枚作成され,月の各支出をまとめて1枚で記録されているものにすぎない。そして,支払決定書に関する支払目的や相手方については,領収書等の単位で複数ある支出のうち,基本的には代表的なものを記録するに過ぎず,支払目的も会合費,交通費といった概括的なものにとどまる。
 したがって,支払決定書が開示されたとしても,月に1度まとめた支出の金額と日時,代表的な相手方と代表的な支出目的が判明するのみであるから,国の事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとは認められない。また,少なくとも,情報提供者やそれに準する者に直接支出するのではない場合(支出目的が会合としての支出,交通費,贈答品等の購入費,支払関係費用としての支出の場合)については,同支払類型に係る支出が開示されたとしても国の事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとは認められない。

(イ) なお,支払決定書は,調査情報対策費と活動関係費を支出するときに,その支払の適正さを担保するために作成されるところ,請求書が添付されることもあって,支払決定書には「支払相手方等」をわざわざ全件記録しなくてもよいことになっている。そうすると,「支払相手方等」を記録しなくても,その余の記録事項だけでも有意な情報として,支払決定書を作成していることは明らかであって,上記その余の記録事項は「独立した一体的な情報」であると解釈できるから,仮に代表的な相手方が開示されることによって,国の事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとしても,内閣官房内閣総務官は,代表例である支払相手方等の記録を除いた部分について部分開示をすべき義務を負う。

 出納管理簿に記録された情報
(ア) 出納管理簿は,内閣官房報償費の出納管理のために,当該年度等における報償費全体を一覧できるように作成されたものである。記録されている情報は,政策推進費受払簿や報償費支払明細書に記録されている情報と大差なく,開示によって大きな支障が生じることはあり得ない。
 なお,出納管理簿には「支払相手方等」の欄があり,支払相手方の兵名等が記録されていることも考えられるが,出納管理簿の書式において「支払相手方等」の欄には「本欄は記載した場合,支障があると思われる場合は省略することができる」との注記(本件注記)があることからすれば,「支払相手方等」を省略していない場合には,開示によって行政執行に実質的な支障を生じるおそれがないというべきであって,出納管理簿全体につき不開示情報に該当する情報の記載はないというべきである。

(イ)a  仮に出納管理簿全体を開示することによって何らかの支障が生じ得るとしても,①国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る項目に記録された情報は,すでに開示されている国庫に対する請求書と同様の情報が記録されているに過ぎず,不開示情報には該当せず,②政策推進費の繰入れに係る各項目の記録については,政策推進費受払簿に記録された情報と同様の情報が記録されているに過ぎないのであって,政策推進費受払簿が不開示情報に該当しないのと同様に,これも不開示情報には該当しない。
 そして,上記各部分については,調査情報対策費や活動関係費の各支出が記録されている部分と容易に区分して除くことができ,かつ,それのみで有意の情報が記録されていると認められるのであるから,情報公開法6条1項に基づく部分開示をすべきである。

b  また仮に,「支払相手方等」の記録部分を開示した場合に事務の処理に支障が生じるとしても,出納管理簿が内閣官房報償費の出納管理のため内閣官房報償費全体の出納状況を一覧できるように作成されている文書であることや,出納管理簿の書式において上記(ア)のとおり「支払相手方等」の欄の省略を認める注記(本件注記)があることなどに照らすと,出納管理簿から「支払相手方等」を除いた記録は「独立した一体的な情報」であると解釈できるから,内閣官房内閣総務官は,出納管理簿から「支払相手方等」の記録を除いた部分について部分開示をすべき義務を負う。

 報償費支払明細書に記録された情報
 報償費支払明細書が開示されたとしても,政策推進費受払簿が開示された場合と同様に,具体的使途や支払の相手方の氏名等が明らかになるものではないから,何ら支障が生じないことは,政策推進費受払簿の開示の場合と同様である。また,報償費支払明細書は,国の機密保持上,会計検査院に対して開示をしても支障のない限度での項目のみを記録したものであるから,これを一般に公開しても行政執行に支障のおそれが生じるとは考えられない。
 これに対し,被告は,報償費支払明細書のうち調査情報対策費や活動関係費の支払決定に基づく欄について,支払日や支払金額が明らかにされると他の情報と照合,分析されることにより,具体的使途や支払の相手方が特定ないし推測されることになるほか,憶測を呼ぶこと自体から事務の適正な遂行に支障が生じる等と主張するが,調査情報対策費や活動関係費については,支払日や役務提供等を受ける前又は後に当該役務提供者等が作成した請求書に基づき支払決定をすることとされているところ,当該支払日は必ずしも実際の役務提供日と一致するものではなく,特に支払決定は複数の支出につきまとめて行う場合には支払決定書からはそれぞれの支出の日付や金額が判明することはないほか,支払決定書のみから当該支払が複数の支出につきまとめて行われたものか否かを判別することもできない。そして,支払決定書の記録と報償費支払明細書の記録とを照らし合わせても,具体的使途等が特定ないし推測されるとは考え難く,本件においてかかるおそれがあることを認める証拠は何ら提出されていない。また,開示することにより憶測を呼ぶことがあったとしても,かかる憶測の類は現時点でも様々に生じているのであって(甲19の3ないし16頁),かかる憶測のみによって,関係者の協力が得にくくなる等という内閣官房の行う事務の遂行等に具体的な支障が生じる具体的なおそれはない。
 また,被告は,会計検査院に開示しても支障がないことを考慮して作成されたものではないこと,会計検査院の職員は必要に応じて領収書等も確認することができるため,会計検査院に対して明らかにしても支障のない程度の項目のみを記載することには意味がないこと,会計検査院の職員には守秘義務が課されていること等を主張するが,そもそも報償費支払明細書には支払相手方の記載や個別具体的な使途の記載はなく,これが全て開示されたとしても支払相手方や具体的支払決定書が明らかになるものではなく,内閣官房の事務に何らの具体的支障も生じないし,調査情報対策費や活動関係費についても,その多くは複数の支出についてまとめて支払決定がされた日が記載されているにすぎず,それらには過去や将来の支出も記載されているし,また,複数の領収書等について支払決定がされた場合には具体的な支出日や金額は判明せず,複数の領収書等による支払決定か否かも判別できないことからすると,報償費支払明細書が開示されたとしても,実際に内閣官房報償費が支出された日や具体的な金額が判明するわけではなく,被告の主張はそもそもその前提において失当である。また,報償費支払明細書の支払明細書繰り越し部分の記載において,その月に支出された内閣官房報償費の合計額が明らかになるが,支出合計額が明らかになったところで,支払相手方や具体的使途が明らかになっていない以上,内閣官房の事務に何らの具体的支障も生じない。

第3  当裁判所の判断
 情報公開法5条6号及び3号の各不開示事由の解釈及びその審理方法等
(1) 情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的としており(1条),その観点から,行政機関の保有する行政文書の開示の請求権者を特に限定せず(3条),また,5条各号に掲げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き,行政機関の長に対して開示請求に係る行政文書の開示を義務付けている(5条)。
 このうち,情報公開法5条6号は「国の機関…が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,…当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報として定めているが,その趣旨は,国の機関等が行う事務又は事業は,公共の利益のために行われるものであり,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については,不開示とする合理的な理由があると考えられたためである。このような不開示事由に該当しない限り原則的には行政機関の長に行政文書の開示を義務付けているという同法の構造や,同法5条6号の不開示情報を定めた趣旨に照らすと,同号所定の不開示事由があるとして文書を不開示にした場合,かかる不開示処分をした行政機関の長の所属する行政主体である国(被告)が,当該行政文書には同号所定の不開示事由があること,すなわち,当該行政文書には「国の機関…が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,…当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」が記録されていることを主張立証する必要があると解するのが相当である。
 そして,ここにいう「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要であって,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求されると解すべきである。そして,これら「支障」や「おそれ」の程度については,開示によって支障を及ぼすおそれがあるとされる事務又は事業の性質を踏まえた判断を行う必要があるというべきである。

(2) 次に,情報公開法5条3号は「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として定めているが,その趣旨は,我が国の安全,他国等(他国若しくは国際機関)との信頼関係及び我が国の国際交渉上の利益を確保することは,国民全体の利益を擁護するために政府に課された重要な責務であって,同法においてもこれらの利益は十分に保護されるべきと考えられたことによるものである。そして,公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがある情報については,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判断に高度の政治的判断を伴うこと,我が国の安全保障上又は対外関係上の専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。このような同法5条3号の文言及び趣旨に照らすと,同号該当性の判断には行政機関の長に一定の裁量が認められるのであり,行政機関の長が同号に該当するとして不開示決定をした場合には,裁判所は,当該行政文書に同号に規定する不開示情報が記録されているか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるかどうかを審理判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断が社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えると認められる場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当である。

(3) 支払相手方が公務員である場合について
 原告は,内閣官房報償費の支払の相手方が公務員である場合は,金員の交付自体賄賂性を帯びるものか,又は政治資金規正法に違反したり,公務員の職業上の倫理に反する性格を帯びるものであるから,本件対象文書につき支払相手方の氏名等が公になったとしても,およそ当該情報は法的保護に値するものではなく,開示することで公務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある等とはいえないとして,不開示情報該当性が認められない旨主張する。
 しかしながら,内閣官房内閣総務官であったEは,別事件において,支払相手方として公務員の氏名が記録されている場合が仮にあるとすれば,活動に要した実費又は非公務員である相手方に代わって受領するものであると証言しているところ(甲17),同証言内容の信用性に特に疑問を差し挟むべき事情もないから,内閣官房報償費の受取りが公務員の職業倫理上不適切なものということはできない。また,このような場合,当該公務員の氏名とその他の記録事項等と照合すれば,当該公務員が代わって受領した相手方である民間人が特定され,具体的使途等が明らかになる可能性があり,内閣官房の事務に支障等が生じることは,当該相手方等の記録が民間人である場合と変わるものではない。また,仮にEの上記別事件における証言内容にもかかわらず,内閣官房長官が行う協力依頼や交渉等の相手方が公務員であったとしても,その立場や対価が支払われる対象となる活動の内容,また当該活動をするに至った経緯等は様々なものが考えられるのであって,後述のとおり,本件対象文書に係る内閣官房報償費が不適正な目的に使用されていると認めることはできないことからすると,相手方が公務員というだけで,直ちに当該対価の支払が賄賂性を帯びており,又は公務員の職業倫理に反するものであるということはできない。そして,当該相手方等の氏名が明らかになった場合には,上記に述べたような支障等が生じることは,当該相手方等の記録が民間人である場合と変わるものではないと認められる。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

 不適正な目的で支出されているかについて
 内閣官房報償費の支払の相手方が公務員である場合には不開示事由該当性が認められない旨の原告の主張は,情報公開法5条6号にいう「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」については当該事務又は事業自体が適正なものであることを要するところ,国会議員を含む公務員に対して支払われている場合は政治献金等の不適正な目的に使用されていることから,本件対象文書を開示しても,そもそも適正な事業の遂行に支障を及ぼすおそれはないため,同号にいう不開示情報には該当しない旨を主張する趣旨と解される。
 そこで検討するに,内閣官房報償費は,内政上・外政上の重要政策等に関する情報収集等に用いられる経費であって,具体的使途や相手方等に関する情報については厳格な秘密が守られるべきことを前提としている。そして,会計検査院は内閣に対して独立の地位を有するものであるところ(会計検査院法1条),内閣官房報償費の支出等については,計算証明規則11条の規定に基づき,同規則が規定する会計検査院の検査を受けるものの計算証明に関する取扱いとは異なる取扱いとして,内閣官房報償費を使用目的別に分類した支払額等を記録した報償費支払明細書を会計検査院に提出し,支払の相手方である役務提供者等の領収書等について会計検査院から要求があった場合に提出が可能となるように証明責任者において保管することとする計算証明が認められている(甲8,9)のは,このような内閣官房報償費の性質を反映したものということができる。
 このような内閣官房報償費の性質や,内閣官房報償費については,かかる性質を踏まえ,一般の計算証明とは異なる取扱いを認めた上で,内閣に対し独立の地位を有する会計検査院による検査を受けるものであること等に鑑みれば,内閣官房報償費に関する行政文書について情報公開法5条6号の不開示事由該当性が問題となる場合には,上記内閣官房報償費の性質を踏まえてされた会計検査院の検査において特段の指摘がされていない以上,当該行政文書に係る内閣官房報償費が不適正な事務に用いられたことが明白であるというような具体的な立証がない限り,内閣官房報償費の支出は適正な事務に当たるものと推認するのが相当である。
 この点,本件対象文書に係る内閣官房報償費については,内閣官房報償費の使途の適正等に関し,会計検査院の検査によって特段の指摘がされた等の事情は認められず(弁論の全趣旨),その他,当該内閣官房報償費の支払が明白に不適正なものであることを認める的確な証拠はないことからすれば,本件対象文書に係る内閣官房報償費のうち公務員を支払相手方とするものについて,これが不適正な事務に用いられたことが明白であると認めることはできない。
 そうすると,内閣官房報償費の支払の相手方が公務員であるものについて,情報公開法5条6号にいう不開示情報該当性が認められない旨の原告の主張は理由がない。

 部分開示義務の存否等
(1) 情報公開法5条は,開示請求に係る行政文書に同条各号に掲げる「情報」(不開示情報)のいずれかが記録されている場合を除き,当該行政文書を開示しなければならない旨規定するところ,同法6条1項は,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,「不開示情報が記録されている部分」を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならないとして,行政機関の長に対し部分開示を義務付けている。これに対し,同条2項においては,開示請求に係る行政文書に同法5条1号の不開示情報(個人識別情報)が記録されている場合において,当該情報のうち,特定の個人を識別することができることとなる「記述等の部分」を除くことにより,公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,「当該部分を除いた部分」は,同号の「情報に含まれないものとみなして」同法6条1項の規定に基づく部分開示を行う旨規定している。
 以上のような規定の文言からすると,情報公開法においては,「情報」と「記述等の部分」とが明確に区別され,「情報」は「記述等」 の複合した一定のまとまりをもった単位として用いられているものと解することができる。

(2) そうすると,情報公開法6条1項は,その文理に照らすと,1個の行政文書に複数の情報が記録されている場合において,それらの情報のうちに不開示事由に該当する情報があるときは,当該情報を除いたその余の情報を開示することを行政機関の長に義務付けているものと解すべきであって,同項は,不開示事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを開示することまでをも行政機関の長に義務付けているものと解することはできない。
 したがって,情報公開法6条2項の定める場合を除いて,行政機関の長において,1個の情報を細分化することなく一体として不開示決定をしたときに,開示請求者が,同条1項を根拠として,開示することに問題のある部分のみを除外してその余の部分を開示するよう請求する権利はなく,裁判所もまた,当該不開示決定の取消訴訟において,行政機関の長がこのような態様の部分開示をすべきであることを理由として当該不開示決定の一部を取り消すことはできないと解すべきである。

(3) そして,問題とされている行政文書について,独立した一体的な情報をどのように把握すべきかについては,情報公開法には明文の規定はないから,社会通念に照らした合理的な解釈を行うべきであって,具体的には,当該行政文書の作成名義,作成の趣旨・目的,作成時期,取得原因,当該記述等の形状,内容等を総合考慮の上,同法の不開示事由に関する規定の趣旨に照らして,社会通念に従って情報の独立一体性を判断するのが相当である(本件各文書において,独立した一体的な情報をどのように把握すべきかについては,本件各文書の不開示情報該当性において,個別に判断する。)。

 認定事実
 前記前提事実,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 内閣官房の事務等
 内閣官房は内閣法12条1項により内閣に置かれている補助機関であるとともに,内閣の首長としての内閣総理大臣の職務を直接に補佐する機能を担っている(中央省庁等改革基本法8条1項)。内閣の事務及び内閣総理大臣の職務は,我が国の行政全般に及ぶことから(憲法65条,72条),内閣官房のつかさどる事務も我が国の行政全般に及ぶものであるが,具体的に内閣官房が行う事務としては,内閣法12条2項に定めるものとして,閣議事項の整理その他内閣の庶務(1号),内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務(2号),閣議に係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務(3号),行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務(4号),その他行政各部の施策に関するその統一保持上必要な企画及び立案並びに総合調整に関する事務(5号),内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務(6号)等が掲げられている。また,中央省庁等改革基本法8条2項では,内閣官房は,これらの事務に係る機能のほか,危機管理及び広報に関する機能を担うものとされている。
 内閣官房の主任の大臣は内閣総理大臣であり(内閣法24条),内閣官房長官は内閣官房の事務を統轄し,所部の職員の服務を統督するものである(同法13条3項)。

(2) 内閣官房報償費の性質等
 内閣官房報償費は,内閣官房の行う事務を円滑かつ効果的に遂行するために,当面の任務と状況に応じて機動的に使用することを目的とした経費として,毎年度国会で予算措置が講じられているものであって,内閣官房報償費の支出方法や目的等について特段の法令が存在するものではない。
 内閣官房長官は,平成14年4月1日,内閣官房報償費の取扱いに関して,その管理執行体制等を明確に定めることにより,内閣官房報償費の持つ性格に留意しつつその透明性を可能な限り高め,厳正かつ効果的な執行を確保することを目的として,「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方針」を定めた(甲5,乙1)。これによると,内閣官房報償費の取扱責任者である内閣官房長官は,毎年度(内閣官房長官が異動する場合にあっては,異動の都度),内閣官房報償費の目的類型を明らかにした上で,その執行にあたっての基本的な方針を定め,これに基づき自らの責任と判断により内閣官房報償費の執行にあたるものとし,内閣官房報償費の支払に関する関係書類の記録,管理及び内部確認等を行うため別途取扱要領を定めることとされている。

 A内閣官房長官は,平成24年12月28日,内閣官房報償費の厳正かつ効果的な執行を確保するため,上記アの取扱要領として「内閣官房報償費取扱要領」(乙3)を定めた。同取扱要領においては,内閣官房報償費の取扱いについて,以下のとおり定められている。
(ア) 出納管理の記録
 内閣官房報償費の出納にあたっては,別記様式1(別紙4参照)に定めるところにより内閣官房報償費の受領時期及び受領金額並びに内閣官房報償費の支払時期,支払金額及び目的類型(内閣官房長官が上記アの基本方針の第2に基づく基本的な方針において定めた目的類型)等を記録した記録簿(出納管理簿)を整備するものとする。この出納管理簿に係る事務は内閣官房長官が指名した者に行わせることとし,内閣官房長官自らが定期的に出納管理簿の記録の確認にあたるものとする。

(イ) 内部確認の実施
 内閣官房長官は,内閣官房内閣総務官室の職員(上記(ア)により指名されている者を除く。)のうちから指名した者に,出納管理簿が適正に記録されているかどうかについて毎年度末(内閣官房長官が異動する場合にあっては,その時)確認を行わせるものとする。

(ウ) 支払事務の管理
 内閣官房長官が自ら出納管理等の実施事務にあたる内閣官房報償費の支払に関しては別記様式2(別紙2参照)により,また内閣官房長官が指名した事務補助者をして出納管理等の実施事務に当たらせる内閣官房報償費の支払に関しては別記様式3(別紙3参照)により,それぞれ管理するものとする。

(エ)  支払関係書類の保管
 内閣官房報償費の支払関係書類のうち別記様式1ないし3については,内閣官房長官が指名した事務補助者をして保管させるものとし,別記様式1ないし3以外の内閣官房報償費の支払関係書類等については,内閣官房長官が保管を行うものとする。

 また,A内閣官房長官は,平成24年12月28日,上記アの基本方針の第2に基づき,平成24年度の内閣官房報償費の執行にあたっての基本的な方針として,「内閣官房報償費の執行に当たっての基本的な方針」(乙2の1)を決定し,内閣官房報償費の執行は,①政策推進費(施策の円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費),②調査情報対策費(施策の円滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要な経費),③活動関係費(上記①及び②を行うにあたり,これらの活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するために必要な経費)の3つの目的類型ごとに,それぞれの目的に照らして行うものとする旨,さらに,内閣官房報償費は,国の機密保持上,その使途等を明らかにすることが適当でない性格の経費として使用されてきたことに鑑み,検証の過程において更に吟味し,真にその経費の性格に適したものに限定して使用するものとする旨を明らかにした(乙2の1)。
 そして,A官房長官は,平成25年4月1日,上記アの基本方針の第2に基づき,平成25年度の内閣官房報償費の執行にあたっての基本的な方針として,「内閣官房報償費の執行に当たっての基本的な方針」(乙2の2)を決定し,上記の平成24年度の内閣官房報償費の執行に当たっての基本的な方針と同様の方針を決定した(乙2の2)。

(3) 内閣官房報償費の目的類型の内容と具体的使途(全体につき甲5,16,17,25,30,39,乙2,3)
 政策推進費
 政策推進費は,施策の円滑かつ効率的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費であり,内閣の重要政策(内政,外政の別を問わない。)の企画立案及び総合調整等に資するために使用される。具体的には,内閣官房長官が,内閣の重要政策の関係者等に対し,非公式に交渉や協力依頼等の活動を行う際,当該関係者等に対し合意や協力を得るために支払う対価や,情報の収集調査等のために支払う対価等に使用される。
 政策推進費は,内閣官房長官が,国庫から支出された内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分した上で(政策推進費の繰入れ),自ら出納管理を行い,直接相手方に支払うこととされている。

 調査情報対策費
 調査情報対策費は,施策の円滑かつ効率的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要とされる経費であって,情報収集等の対価や,会合経費等として使用される。
 調査情報対策費は,内閣官房長官が事務補助者をしてその出納管理に当たらせることとされている。

 活動関係費
 活動関係費は,政策推進,情報収集等の活動を行うに当たり,これらの活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するために必要な経費であり,具体的には,内閣官房長官の重要政策の関係者等に対する協力依頼・交渉や情報収集等の活動を行うに際して必要となる交通費等や会合の経費(調査情報対策費に係る会合の経費以外のもの),当該活動の相手方等に交付する活動経費,謝礼,慶弔費,贈答品の購入費用のほか,振込手数料等内閣官房報償費の支払関係の事務を遂行するために必要な費用等に使用されている。
 活動関係費は,内閣官房長官が事務補助者をして出納管理に当たらせることとされている。

(4) 本件対象文書について(全体につき甲16,17,39,弁論の全趣旨)
 領収書等
 領収書等は,内閣官房報償費の支払の相手方から交付された領収書,請求書及び受領書である。なお,政策推進費は,内閣官房長官として高度な政策的判断により機動的に使用することが必要な経費であることから,政策推進費に係る領収書等が存在するものもあれば,存在しないものもある。
 領収書等は,内閣官房報償費の支出ごとに作成されるものであり,その様式は作成者により様々であるが,領収日等の日付,あて名,金額,内閣官房報償費を受領した相手方の氏名ないし名称(情報提供者ないし協力者の氏名,会合場所の業者名,交通事業者名等)等が記録されている。
 なお,本件対象文書には,書籍類等に係る領収書等は存在しない。

 政策推進費受払簿
(ア) 政策推進費受払簿は,内閣官房長官が政策推進費の繰入れを行う都度並びに会計年度末及び内閣官房長官が交代する際に作成される。

(イ) 政策推進費受払簿の様式は,別紙2のとおりである。政策推進費受払簿には,文書名(政策推進費受払簿)のほか,作成日付(①),金額(前回残額(②),前回から今回までの支払額(③),今回繰入前の残額(④),今回繰入額(⑤)及び現在額計(⑥))が記録され,取扱責任者(内閣官房長官)の記名押印(⑦),確認を行った事務補助者の記名押印(⑧)がされている。

 支払決定書
(ア) 支払決定書は,調査情報郊策費及び活動関係費を支出する際,取扱責任者である内閣官房長官が,調査情報対策費又は活動関係費の1件又は複数の支払に係る支払決定を行うために作成する文書である。
 調査情報対策費及び活動関係費の出納管理に当たっている事務補助者は,当該費用を支払う相手方(役務提供者等)から提出された請求書を基に支払決定書を作成し,内閣官房長官の支払決定の決裁を受けた上で,これに基づき,役務提供者等に対する支払をする。

(イ) 支払決定書の様式は別紙3のとおりである。支払決定書には,文書名(支払決定書)のほか,作成日付(支払決定の日付)(①),「下記の金額の支払を要する。」旨の文言,金額(複数の支払を処理する場合はその合計額)(②),支払目的(調査情報対策費・活動関係費の別のほか,より個別具体的な使途についても記録されている。なお,複数の支払に係る支払決定については,代表的なものの使途が記録されている。)(③),支払相手方等の氏名ないし名称(なお,複数の支払に係る決定の場合には,代表として1つのみ記録されることもある。)(④),取扱責任者である内閣官房長官の記名押印(⑤)。支払及び確認を行った日付,事務補助者の記名押印(⑥)等が記録されている。

 出納管理簿
(ア) 出納管理簿は,内閣官房報償費全体の出納管理のために,月ごとの内閣官房報償費の出納の状況をまとめたもので,更に当該年度に係る累計額を記録して,当該年度等における内閣官房報償費全体を一覧することができるように作成された文書である。出納管理簿は,内閣官房報償費の取扱責任者である内閣官房長官が指名した事務補助者が作成することとされており,内閣官房長官は,自ら記録の確認を行うほか,内閣官房内閣総務官室の職員のうちから指名した者をして,適正に記録されているかについて確認を行わせることとされている。

(イ) 出納管理簿の様式は,別紙4のとおりである。出納管理簿には,文書名(内閣官房報償費出納管理簿)の記録のほか,内閣官房報償費の出納について作成された一覧表が記録されており,当該一覧表には,「年月日」(①),「摘要(使用目的等)」(②),「受領額」(③),「支払額」(④),「残額」(⑤),「支払相手方等」(⑥)の各項目がある。また,月分計(その月の受領額,支払額の各合計額)(⑦),累計(その年度の受領額,支払額の各累計額及び年度末における残額)(⑧),内閣官房長官が上記⑦,⑧について確認をした趣旨の押印(⑨),年度末及び取扱責任者である内閣官房長官の異動があったときは,内部確認のため,確認に立ち会った者(事務補助者)及び上記の指名された確認者の各記名押印(⑩)が記録されている。

(ウ) 出納管理簿は,内閣官房報償費の出納がある都度記録されるが,具体的には,(a)国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)があった際,(b)内閣官房長官が内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分した際(政策推進費の繰入れの際),(c)調査情報対策費及び活動関係費の支払決定があった際に,それぞれ対応する一覧表の各項目への記録がされることになる。これらの項目は,内閣官房長官から支出負担行為担当官である内閣官房会計担当内閣参事官に対して提出される請求書(前記前提事実(1)イ),政策推進費受払簿及び支払決定書に基づいて記録されるため,基本的にこれら文書に記録された情報がそのまま記録されている。
 具体的には,上記(a)の際には,「年月日」欄に国庫から内閣官房報償費の支出(受領)があった年月日を,「摘要(使用目的等)」欄に「入金」を,「受領額」欄に入金額を,それぞれ記録する。
 上記(b)の際には,「年月日」欄に政策推進費受払簿の作成年月日を,「適用(使用目的等)」欄に「政策推進費」を,「支払額」欄に政策推進費の繰入額を,「残額」欄に残額を,それぞれ記録する。
 上記(c)の際には,「年月日」欄に支払決定日を,「摘要(使用目的等)」欄には調査情報対策費・活動関係費の別のほか,より個別具体的な使途を(なお,複数の支払に係る支払決定については,支払決定書と同様,そのうち代表的なものについての使途が記録されている。),「支払額」欄に支払決定額を,「残額」欄に残額を,「支払相手方等」欄には支払相手方の氏名ないし名称を,それぞれ記録する(なお,複数の支払に係る支払決定書が作成されている場合には,支払決定書と同様,そのうち一人又は複数の氏名が記録されている。)。また,支払相手方等の欄には「(注)本欄は記載した場合,支障があると思われる場合は省略することができる」との注記(本件注記)がある。

 報償費支払明細書
(ア) 報償費支払明細書は,月ごとに,内閣官房報償費の支出を目的類型別に分類して支出額を記録してまとめたものである。内閣官房報償費については,その特殊な性質に鑑み,会計検査院の検査を受けるものの計算証明に関し,計算証明規則11条に基づき,特別の事情があるとして,同規則の規定とは異なる取扱いとして,報償費支払明細書を会計検査院に提出すれば,内閣官房報償費に係る支払相手方から提出された領収書等の証拠書類については,会計検査院から要求があった場合に提出が可能となるように証明責任者において保管することとする計算証明が認められている。

(イ) 報償費支払明細書の様式は,別紙5のとおりである。報償費支払明細書には,文書名((報償費)支払明細書),支払明細書を提出した日付に加え,前月繰越額,本月受入額,本月支払額,翌月繰越額の各記録(別紙5の様式の④の部分。以下「支払明細書繰越記録部分」という。),取扱責任者である内閣官房長官の氏名が記録されているほか,政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費の各支出に関する一覧表が記録されている。一覧表には,「支払年月日」(①)。「支払金額」(②),「使用目的(目的類型別の区分)(③),「取扱者名」,「備考」及び支払金額について「合計額」の項目が設けられており,これらの各項目については,基本的には政策推進費受払簿と支払決定書に記録された情報が転記されており,具体的には,一覧表における「支払年月日」欄には,政策推進費受払簿及び支払決定書に記録された年月日が,「使用目的」欄には政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費の別が記録されているが,支払決定書と異なり,調査情報対策費及び活動関係費の場合,「使用目的」欄には具体的な使途等の記録はなく,また,支払相手方等の氏名ないし名称の記録もない。

 本案の争点(本件不開示決定部分の適法性。具体的には,①本件対象文書に記録された情報が情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関する情報)に該当するか,②部分開示義務が認められるかなど)について
 本件対象文書は,①領収書等,②政策推進費受払簿,③支払い決定書,④出納管理簿,⑤報償費支払明細書からなるところ,これら各文書に記録されている情報につき,それぞれ,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性が認められるかどうかにつき,以下検討する。
(1) 領収書等について
 政策推進費に係る領収書等について
(ア) 前記認定事実(3)アによれば,政策推進費は,内閣官房長官の高度な政策的判断により機動的に用いることが予定された経費であり,具体的には,内閣官房長官が関係者等に対する協力依頼や交渉等の活動を非公式に行うに際して支払う対価や,情報の収集調査等を行うに際して支払う対価などに使用されるものである。
 前記認定事実(1)のとおり,内閣官房は,内閣の補助機関であるとともに,内閣の首長である内閣総理大臣の職務を直接補佐し,内政・外政に関する重要政策等や行政各部の施策の統一等に関する企画・立案や総合調整,内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務等,我が国の政策運営に関する重要な事務を所掌するほか,危機管理に関する機能を担っているところ,内閣官房長官は,内閣官房の事務を統轄するものであることから,上記のような内閣官房の所掌事務を的確に行うため,その時々の政策的判断により,重要政策等の関係者に対し,非公式に協力依頼や交渉等の働きかけを行い,重要事項につき関係者や外部の情報提供者等からの情報収集を行うなど様々な活動が必要となると考えられる。そして,そのような活動を実効的に行うためには,当該関係者や情報提供者等に対し,合意・協力や情報提供に対する相当の対価の支払をするなど,一定の経費の支出が必要となることも十分考えられるのであって,そのような経費については,内閣官房長官が行う上記のような活動の性質上,その時々の判断で機動的に使用することが必要となるため,政策推進費は,前記認定事実(3)アのとおり,内閣官房長官が自ら出納管理を行い,直接相手方に交付することとされ,これにより機動的かつ柔軟な使用が可能とされているものと解される。

(イ) 上記(ア)のような政策推進費の支払相手方となる非公式の協力依頼・交渉等の相手方である関係者や情報提供者等は,内閣の重要政策等といったその内容に照らしても,内閣官房長官と接触を行った事実や相当の対価を受けた事実等が公にされないことを前提に,協力,交渉や情報提供等に応じる場合が通常であると推認できる。しかるに,前記認定事実(4)アによれば,政策推進費に係る領収書等には,その支払相手方である上記関係者や情報提供者等の氏名ないし名称,支払われた金額,領収日等の日付等が記録されていることから,これが開示された場合には,当該関係者等からの信頼が失われ,上記活動の目的である重要政策等に関する事務の遂行に支障が生じるおそれがあると認められるとともに,内閣官房の秘密保持に対する信頼が低下し,関係者等の協力や情報提供等が受けにくくなるなど,今後内閣官房において行われる活動全般に著しい支障が生じることも予想される。また,当該関係者や情報提供者等に対する不正な働きかけが可能となり,それらの者の安全が害されるおそれや,情報の漏洩等のおそれも認められる。
 さらには,領収日等の日付,支払金額等の記録と支払相手方の氏名等を照らし合わせることにより,協力依頼・交渉や情報提供の内容等を推知することも相当程度可能になると考えられ,それにより,内閣の行う施策の内容やその方針等そのものが推知され,ひいては我が国の政策活動全般に関し,著しい支障が生じるおそれがある。取りわけ,政策推進費は上記のように内閣官房長官が自ら出納を管理し,相手方に交付するものであることから,特に重要性・秘匿性の高い事項に使用されている可能性があり,上記のような支障が生じるおそれがより一層高いものといえる。
 そして,政策推進費の使途や支払の相手方等が明らかとなるということになれば,これらの情報を明らかにしないことを前提とした内閣官房の活動が不可能となり,内政・外政に関する重要政策等に係る企画・立案や総合調整等を行う内閣官房の事務の遂行が阻害されることも予想される。
 以上からすると,政策推進費に係る領収書等に記録されている情報は,公にすることにより,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報であると認めることができ,情報公開法5条6号の不開示情報に該当すると認められる。

(ウ) また,上記(ア)のとおり,内閣官房の所掌事務が内閣の政策運営全般に関する事項に及んでいることからすれば,上記のような非公式に行う協力依頼や交渉等の活動が,他国等との間における外交条件等の外交関係に関するものである場合も当然あり得る。さらに,上記のとおり内閣官房の所掌事務が我が国の政策運営に係る重要事項に及ぶことからすれば,未だ外交問題とまでは認識されていないが,立案・実施等の際には他国等の利害にかかわり,その処理如何によっては外交問題に発展しかねないような政策案件もあり得るところ,このような政策案件において上記のような非公式に行う協力依頼や交渉等の活動がされている可能性も否定できない。このような場合において,政策推進費に係る領収書等が開示され,我が国が外交条件等の外交関係に関する事項や他国等の利害に関係する事項(これらを併せて,以下「外交関係事項」という。)につき,特定の者に対する働きかけを行ったり,情報収集等を行ったりなどしたことが明らかとなれば,他国等との信頼関係が損なわれ,我が国の安全が害され,又は他国等との交渉上の不利益が生じる可能性があることも一概に否定することはできず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえないから,当該判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められない。
 したがって,政策推進費に係る領収書等のうち外交関係事項に係るものについては,当該領収書等に記録されている情報は,公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるということができ,情報公開法5条3号の不開示情報に該当すると認められる。

(エ) 以上からすれば,政策推進費に係る領収書等に記録された情報は,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。

 調査情報対策費に係る領収書等について
(ア) 前記認定事実(3)イのとおり,調査情報対策費は,施策の円滑かつ効率的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要とされる経費であり,情報収集等のための対価や会合経費として使用されるものである。

(イ) 情報収集等の対価に係る領収書等について
 前記認定事実(4)アのとおり,情報収集等の対価として使用された調査情報対策費に係る領収書等には,支払相手方である情報提供者等の氏名ないし名称や支払った金額,領収日等の日付が記録されていることから,これが開示された場合には,上記アの政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じ得るものと認められる。したがって,情報収集等の対価として使用された調査情報対策費に係る領収書等には,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報が記録されていると認めることができる。

(ウ) 会合経費に係る領収書等について
 前記認定事実(4)アのとおり,調査情報対策費に係る領収書等には,支払の相手方である当該会合を行った会合場所の業者名が記録されていることから,これが開示された場合には,当該会合場所が明らかになる。その場合には,会合場所の業者等に働きかけを行うことによって,当該会合に参加した者が特定されるおそれがあり,このときには上記アの政策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じ得るものと認められる。
 また,そのような会合場所については,そこで行われる会合の内容の重要性,機密性に鑑みれば,相当信用し得る場所や業者を選定していると考えられるため,他の会合においても同じ場所や業者を反復して用いる場合も多いものと推測される。そのため,当該会合場所が明らかになることにより,内閣の行う内政・外政に関する重要政策や我が国の政策運営等に関する情報を不正に入手しようとする者や重要政策の関係者・情報提供者等に対する働きかけを行おうとする者が,当該会合場所に対する監視,盗聴等を行ったり,会合場所の従業員等に対する不正な工作を行ったりし,内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報を入手して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するなどの可能性がある。
 さらに,上記のような活動,情報が外交関係事項につき生じたものである場合には,前記のとおり,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は交渉上不利益を被る可能性があることも一概に否定することはできず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえない。
 以上からすると,会合の経費として使用された調査情報対策費に係る領収書等に記録された情報が開示された場合,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認めることができ,また,当該領収書等のうち外交関係事項に関するものについては,当該情報の開示により,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めたことにつき相当な理由があると認めることができるから,当該領収書等には,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報が記録されていると認めることができる。

(エ) 小括
 以上からすれば,調査情報対策費に係る領収書等に記録された情報は,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当するということができる。

 活動関係費に係る領収書等について
(ア) 前記認定事実(3)ウのとおり,活動関係費は,政策推進,情報収集等の活動を行うに当たり,これらの活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するために必要な経費である。

(イ) 交通費として使用されている場合
a  前記認定事実(3)ウによれば,活動関係費には,内閣官房が非公式の協力依頼や交渉,情報収集等の活動を行う際に,その相手方等の移動手段として,タクシーやハイヤー等の交通事業者を利用した場合に,その対価として支払われるものがあると認められる。

b  前記認定事実(4)アのとおり,領収書等には,支払の相手方の氏名ないし名称が記録されていることから,交通費として使用された活動関係費に係る領収書等が開示された場合,当該交通事業者の名称が明らかになる。そして,内閣官房が内閣の重要政策等について行う非公式の協力依頼や交渉,情報収集等の活動を行うに際してタクシーやハイヤー等の交通事業者が利用された場合には,当該交通事業者の従業員等に対する働きかけにより,当該交通事業者の利用者の氏名等が明らかになるおそれがあるというべきである。また,当該交通事業者が明らかになることにより,内閣の行う政策等に関する情報を不正に入手しようとする者や,重要政策等の関係者や情報提供者等に働きかけを行おうとする者が,当該交通事業者に接触し,内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報を入手して悪用したり,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害したりする可能性がある。そして,内閣官房が内閣の重要政策等について行う非公式の協力依頼や交渉,情報収集等の活動を行うに際して利用するタクシーやハイヤー等の交通事業者については,特に信用することができる交通事業者を利用するものと推認されるところ,以後当該交通事業者を利用する際,情報の機密性の確保や関係者の安全確保等にも不安が生じることが考えられ,これにより,内閣官房の行う事業の遂行に支障が生じるおそれがある。
 また,上記のような事態が外交関係事項につき生じたものである場合には,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も一概に否定できず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえない。

c(a) これに対し,本件公共交通機関に関する交通費の領収書等(ただし,領収書等に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものに限る。以下同じ。)については,別途の考慮が必要である。すなわち,本件公共交通機関は不特定多数の者が利用するという特質を有していることに照らすと,本件公共交通機関に係る領収書等が開示されたとしても,誰が利用したかを特定されるおそれは抽象的なものにとどまるというほかない(第三者が当該本件公共交通機関の従業員等に対する不正な働きかけをしたとしても,当該領収書等に係る利用者の現実的な特定方法は想定し難い。)。なお,領収書等が開示された場合,当該本件公共交通機関の名称それ自体により,あるいは当該領収書等に利用区間等や領収書等の発行場所が記録されているものについてはかかる情報が明らかになることにより,内閣官房報償費を用いた本件公共交通機関の利用区間や利用地域が判明する可能性はある。しかし,このような利用区間や利用地域が判明したからといって,当該内閣官房報償費が支出された本件公共交通機関の利用者を特定することは,やはり想定し難く,また,利用目的や関係者等のほか,内閣官房長官が当時行っていた活動内容が推知されるおそれがあるとも認められない。この点は,当該公共交通機関の路線の規模が小さく,地域性が高いような場合についても同様である。
 そして,本件公共交通機関の交通費に係る領収書等が開示され,当該支出に係る移動の日時や,利用区間や利用地域のほか,一定期間における移動の頻度及び目的地等が判明した場合に,さらにその他の情報と総合的に考慮したとしても,いかなる内政上・外政上の重要政策等について内閣官房報償費が用いられたかが推知されるものとはいえないのであって,この点は,当該公共交通機関の路線の規模が小さく,地域性が高いような場合についても同様である。仮に,利用地域が判明したことにより,当該公共交通機関の規模や地域性の高さ等の事情に基づいて,当該地域に関する内政上・外政上の重要政策等について内閣官房報償費が用いられたのではないかという憶測が生じることがあったとしても,かかる憶測のみによつて,関係者等の協力が得にくくなるなどして内閣官房の行う事務の遂行等に具体的な支障が生じるおそれがあるとも認め難い。
 この点,被告は,本件公共交通機関が発行する領収書等であっても,領収書等によっては,利用者の会員番号(一部),当該領収書等の発行者である本件公共交通機関の管理番号等が記載されていることもあることからすれば,それらが開示されると内閣官房報償費を利用した者の会員番号(一部),当該利用者が移動した日時,利用区間や利用地域のほか,一定期間における移動の頻度及び目的地等とその時々に生じた内政・外政に係る案件等とを照らし合わせることによって,その利用目的や関係者等が特定ないし推測される可能性があり,取り分け本件公共交通機関の規模が小さく,地域性が高いような場合には,利用目的や利用者等が特定ないし推測される可能性が一層高まる等と主張する。
 しかしながら,領収書等に利用者の会員番号(一部)が記載されており,第三者が本件公共交通機関の従業員等に対する不正な働きかけや,本件公共交通機関のシステムに対する不正なアクセスを試みたとしても,開示された情報が会員番号の一部のみであることからすれば,特定の利用者が特定ないし推知される可能性が高いとまではいえない。この点は,本件公共交通機関の規模には大小様々なものがあることや,内閣官房報償費を巡ってはその特殊性ゆえにマスコミ等がこれらの記載内容と照らし合わせる対象となる種々の情報を多数有していると考え得ることを考慮に入れても同様である。また,被告は,領収書等に本件公共交通機関の管理番号等が記載されている場合には,利用者個人が特定ないし推測される可能性があると主張し,証拠(乙8)によれば,本件公共交通機関の一つである日本航空株式会社のホームページに掲載された領収書表示サービスにより表示される領収書の見本には,利用者の氏名や領収済みの金額のほかに,航空券番号や「WEB」から始まる多数の数字とアルファベット文字で構成された文字列が記載されていることが認められる。しかしながら,上記見本は,利用者の氏名を特定してする領収書の例であるところ,利用者の氏名が記載される領収書について不開示情報該当性が認められることは上記のとおりであるから,上記見本のように利用者の氏名を特定してする領収書に航空券番号等が記載される例があるとしても,そのような例があること自体は,利用者の氏名が特定されていない領収書についての不開示情報該当性の判断に直接影響を及ぼすものとはいえない。この点を措くとしても,航空券番号や上記文字列に関連付けてどのような情報が本件公共交通機関の内部で管理,保存されているかについては明らかではなく,これらの情報が記載された領収書が開示された場合に,個人の特定や推測に至る具体的な可能性があるとまでは認められない。そうすると,我が国の社会が高度の情報化社会となり,インターネット等において情報が多数拡散していることを考慮してもなお,本件公共交通機関に関する交通費の領収書等に記載された管理番号や文字列から利用者の特定ないし推測に至るおそれは抽象的なものにとどまるものといわざるを得ない。なお,被告は,支払相手方や具体的使途について特定ないし推測されないまでも,領収書等という客観的な根拠に基づき様々に推測されること自体,内閣官房の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある等とも主張するが,かかるおそれも抽象的なものといわざるを得ず,被告の主張は理由がない。
 以上からすると,本件公共交通機関に関する交通費の領収書等を開示した場合,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障が生じる具体的なおそれがあると認めることはできないから,上記領収書等に記録された情報は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当するとは認められない。

(b) 上記(a)のとおり,本件公共交通機関に関する交通費の領収書等が開示されたとしても,具体的な使途や相手方等が特定されるおそれがあるとは考え難いことからすれば,これを開示することにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益が被るおそれ等があるとも考え難い。そうであれば,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容される限度を超えるものであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきである。したがって,上記領収書等に記録された情報は,情報公開法5条3号の不開示情報に該当するとも認められない。

(ウ) 会合費用として使用されている場合
a  前記認定事実(3)ウのとおり,活動関係費には,政策推進のために開催される会合(調査情報対策費を使用してされる会合を除く。)の経費として使用されるものがあると認められる。かかる活動関係費は,情報提供者や協力者等に特定の事案に関する内々の情報提供や関係方面への働きかけ等を依頼するため,また,平素からこうした者との信頼関係を維持・強化するため,その者と会合を開催する場合の費用として使用されるものと解される。

b  そして,前記認定事実(4)アのとおり領収書等には支払相手方の氏名ないし名称が記録されていることから,会合費用に使用された活動関係費に係る領収書等が開示されると,その支払先である会合を行った会合場所が明らかになり,上記イ(ウ)の会合経費に使用される調査情報対策費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じ得るものと認められる。
 また,会合費用に使用された活動関係費に係る領収書等が開示されると,その支払金額も明らかとなり,過去又は将来の情報提供・協力依頼の相手方がその金額を知り得ることなどからすれば,それらの者との信頼関係に影響が及ぶことが考えられる。そうすると,会合場所や参加者がマスコミ等によって報道されている会合に係る領収書等であっても,その開示によって内閣の適正な事務に具体的な支障が及ぶものと認められる。

(エ) 活動経費,謝礼,慶弔費,贈答品の購入費用等として使用されている場合
a  前記認定事実(3)ウのような活動関係費の内容に照らせば,活動関係費には,内閣官房が非公式に行う協力依頼や交渉,情報収集等の活動の相手方に渡す活動経費,謝礼,慶弔費等の費用,また,当該相手方に渡す贈答品の購入費用として使用されるものがあると認められる。これは,情報提供者や協力者等に特定の事案に関する内々の情報提供や関係方面への働きかけ等を依頼するため,また,平素からこうした者との信頼関係を維持・強化するため,その者に贈答品や謝礼,また香典等の慶弔費を渡す場合の費用として使用されるものと解される。

b  そして,これらの費用に使用された活動関係費に係る領収書等が開示された場合,前記認定事実(4)アのとおり,領収書等には,支払相手方の氏名ないし名称が記録されていることから,活動経費,謝礼及び慶弔費に係る領収書等については,その支払相手方である協力依頼及び交渉の相手方,情報提供者等の氏名ないし名称が明らかになり,上記ア及びイで述べた政策推進費及び情報収集の対価として使用された調査情報対策費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じ得るものと認められる。

c  また,贈答品の購入費用として使用された活動関係費に係る領収書等に記録された情報が開示された場合には,支払相手方である贈答品の購入先の事業者や店舗等が明らかになることになる。贈答品を贈る相手が我が国の内外の重要政策や外交関係事項の関係者や重要情報の提供者等であると推認できることからすると,特に信頼の置ける事業者が選定されていると考えられるが,そのような贈答品の購入先の事業者等については,贈答品を購入するに際し,贈り先の相手方の住所や氏名等の個人情報等を伝える必要がある場合があると考えられ,また,内閣官房内閣総務官であったEによれば,贈答品を相手方との会合場所に直接届けてもらう場合もあるということであるから(甲16,17),当該事業者等が明らかになれば,内閣の行う内政・外政に関する重要政策や我が国の政策運営等に関する情報を不正に入手しようとする者や重要政策の関係者・情報提供者等に対する働きかけを行おうとする者が,当該事業者等に対する接触を行ったり,当該事業者等の従業員等に対する不正な工作を行ったりし,内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報等を入手して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するなどの可能性があり,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。そのような事態が外交関係事項につき生じたものである場合には,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も一概に否定できず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえない。

(オ) 内閣官房報償費の支払関係費用として使用されている場合
a  前記認定事実(3)ウのとおり,活動関係費には,振込手数料等,内閣官房報償費の支払関係の事務を遂行するために必要な費用等の経費に使用されているものがあると認められる。

b  支払関係費用として使用された活動関係費に係る領収書等が開示された場合,内閣官房報償費の支払を依頼した金融機関の名称等の情報が明らかになる。このような内閣官房報償費の支払事務等を行った金融機関は,支払われた内閣官房報償費の個別の振込先やその金額等に関する情報を有しているため,当該金融機関の名称等の情報が明らかになれば,内閣の行う内政・外政に関する重要政策や我が国の政策運営等に関する情報を不正に入手しようとする者や,重要政策の関係者・情報提供者等に働きかけを行おうとする者等が,当該金融機関の従業員等に接触したり,不正な工作を行ったりすることにより,内閣官房報償費の支払相手方,具体的には内閣官房長官が重要政策等に関する協力依頼や交渉等を行う関係者,情報提供者,会合場所等の情報を入手して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するなどの可能性があり,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
 また,上記のような事態が外交関係事項につき生じた場合には,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も一概に否定することができず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえない。

(カ) その他
 上記認定事実(4)アのとおり,本件対象文書には,書籍等の購入に係る領収書等は存在しないため,書籍等の購入に係る領収書等の不開示事由該当性については判断の限りではない。

(キ) 小括
 以上からすれば,活動関係費に係る領収書等のうち,本件公共交通機関に係る交通費に係るもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)に記録された情報は,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはできない。
 他方,その余の活動関係費に係る領収書等に記録された情報は,いずれも,公にすることにより内閣官房において行う我が国の重要政策等に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。また,上記領収書等のうち,外交関係事項に関するものについて,これを公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえず,その判断には相当な理由があると認められる。したがって,これら情報は,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。

 不開示情報該当性に係る原告の主張について
(ア) 原告は,政策推進費に係る領収書等について,内閣官房長官は真に機密性がある場合には領収書等の保管義務がない政策推進費によって支出し,かつ,領収書等を保管しなければよいのであるから,領収書等を保管している場合には,その領収書等の支出は機密性が低く,開示されることにより国の事務又は事業の適正な遂行に具体的な支障を及ぼすおそれはない旨主張する。
 しかしながら,内閣官房報償費の執行は,内閣官房報償費の執行に当たっての基本的な方針によって定められた目的類型ごとに,それぞれの目的に照らして行うものとされており(乙2),機密性の高低によって支出の区分を決定することとはされていない。また,内閣官房報償費の執行に当たっての基本的な方針においても,あるいは,内閣官房報償費取扱要領においても,機密性の高低によって領収書等の保管義務の有無を定めるというようなことはされていない(乙2,3)。これらからすると,保管されている領収書等についてはこれが開示されたとしても内閣の事務の遂行等に及ぼす支障の程度が低い等というということはできず,原告の上記主張は理由がない。

(イ) 原告は,調査情報対策費や活動関係費について,情報提供者やそれに準ずる者に直接支出するのではない場合(会合としての支出,交通費,贈答品等の購入費,支払関係費用としての支出の場合など,間接的に支出する場合)については,これを全て開示しても,情報公開法5条6号にいう「支障を及ぼすおそれ」(具体的おそれ)が生じ得ない旨を主張する。
 しかしながら,内閣官房報償費が用いられるのは内政上・外政上の重要政策に関するものであることを踏まえると,不正手段を用いてでも,我が国の政府の情報の収集等を行おうとする者が存在することは優に推認できるのであるから,不正行為等が行われるおそれというのは抽象的おそれにとどまらないというべきであって,原告の主張を容れることはできない。

(ウ) 原告は,交通費の支払についてされた領収書等のうち,本件公共交通機関に限らず,タクシーやハイヤー等乗車人数が限定されるものについても,第三者が不正な働きかけをすることで利用者の特定をすることは不可能,あるいは少なくとも著しく困難であると主張し,不開示情報該当性が認められないと主張する。
 しかしながら,タクシーやハイヤーの事業主体である一般乗用旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運転者が乗務したときは,運転者名,乗務した乗用自動車の自動車登録番号等当該自動車を識別できる記号,番号その他の表示とともに,個別の旅客が乗車した区間等を記録することを法令上義務付けられていること(旅客自動車運送事業運輸規則25条3項,1項)からすれば,これらの事業主体が提供する交通機関の利用の個別性,特定性が高いと認められること等に照らしても,これらの事業主体が発行した領収書等に記載された情報と,不正な働きかけによって入手可能なこれらの記録等が照らし合わされることによって,利用者が特定ないし推知される具体的なおそれがあると認められる。そして,かかる推知ないし特定のおそれは,利用日時や利用金額等の記載からも具体的に認められるから,領収書等のあて名の記載がない場合であっても,かかる特定ないし推知の具体的なおそれは同様に認められる。そうすると,原告の主張は理由がない。

(エ) 原告は,内閣官房長官等が会合に利用する業者が顧客に関する情報を漏洩すると以後当該業者等は利用されなくなることに照らすと,不正工作により情報が漏洩するなど考えられない旨を主張する。
 しかしながら,企業が従業員等の教育等に意を用いていてもなお企業の従業員等による情報漏洩等の事案が散見されることは公知の事実であって,内閣官房報償費の支払の相手方である業者等の従業員等が不正工作を受けて情報を漏洩するおそれがあることは優に認められるから,原告の主張は理由がない。

(オ) 原告は,関係活動費のうち支払関係費として,金融機関での振込手数料に係る領収書等については,その領収書等の開示の有無にかかわらず,金融機関に対する不正な働きかけがなされ得るから,その開示によっても,不開示情報該当性にいう「支障」はない等と主張する。
 しかしながら,金融機関での振込手数料に係る領収書等が開示されることによって,内閣官房報償費の振込先である情報収集・協力依頼の相手方,会合場所の業者等に関する情報が明らかになるおそれがあり,その結果,内閣における情報収集,協力依頼の活動全般に支障を来す具体的なおそれがあると認められる。そうすると,原告の主張は理由がない。

 部分開示の可否について
(ア) 原告は,領収書等に記録されているもののうち「支払日」や「支払金額」は,それ自体が有意な情報として独立した一体的情報であるから,部分開示義務があると主張する。
 しかしながら,前記2のとおり,情報公開法6条1項に基づく部分開示は,独立した一体的な情報を単位として行うものであって,独立した一体的な情報を細分化して部分開示を行うことを行政機関の長に対して義務付けることはできない。
 そうであるところ,前記認定事実(4)アのとおり,領収書等は,内閣官房報償費を支出するごとに作成されるものであり,様式は様々であるものの,領収日等の日付,あて名,金額,受領した相手方氏名等の記録がされていると認められる。このような領収書等は,概ね,誰が,誰から,いつ,いくらの金員の支払を受けたのか(領収書及び受領書の場合),誰が,誰に対し,いつ,いくらの金員の支払を求めるのか(請求書の場合)といった事項を明らかにするものであると解されるから,1通の領収書等に記録された情報は,金員の受領又は請求という社会的に有意な1つの事実に関連した情報であって,社会通念上独立した一体的な情報を成すものということができる。したがって,各支払に対応する領収書等に記録された情報のうち「支払日」や「支払金額」の記録部分のみ開示すべきものということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

(イ) また,上記のとおり,1通の領収書等に記録された情報は,金員の受領又は請求という社会的に有意な1つの事実に関連した情報であるから,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等のうち利用者の氏名ないし名称が記録されているものについて,当該利用者の氏名ないし名称が記録されている部分のみを除いて,その他の部分のみを開示すべきものということもできない。

 小括
 以上の検討によれば,領収書等に記録されている情報のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)に記録された情報は,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはできないから,本件不開示決定部分のうち上記領収書等を不開示とした部分は違法である。これに対し,その余の領収書等に記録されている情報は,いずれも同条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められるから,本件不開示決定部分のうち上記その余の領収書等を不開示とした部分は適法である。

(2) 政策推進費受払簿について
 情報公開法5条6号該当性について
(ア) 前記認定事実(4)イのとおり,政策推進費受払簿は,政策推進費の出納に関し,内閣官房長官が,国庫から支出された内閣官房報償費から,政策推進費として使用する額を区分(政策推進費の繰入れ)した際や,各年度末及び内閣官房長官が交代する際に作成される文書であり,そこに記録される情報は,前回繰入後の政策推進費の残額,前回繰入時から今回までの政策推進費の支払額,今回の繰入前の政策推進費の残額,今回の繰入額,今回繰入後の政策推進費の合計額等であり,具体的な政策推進費の使途や,支払相手方の名称等は記録されず,また,そこに記録されている日付は,政策推進費受払簿の作成年月日であり,政策推進費の支払年月日を意味するものではないと認められる。
 そうすると,政策推進費受払簿が開示された場合,前回繰入時から今回繰入時までの一定期間内における政策推進費の支払合計額が明らかになるものの,それ以上に政策推進費の具体的使途や支払の相手方の氏名等の情報が明らかになるものではないから,政策推進費受払簿を開示したとしても,内閣官房の行う事務の遂行等に支障を生じる具体的なおそれがあるとは認められない。

(イ) 被告は,政策推進費受払簿に記録された情報が明らかになることで,当該政策推進費の支出がされたと考えられる期間における内政・外政の重要政策等を照らし合わせることにより,政策推進費の具体的使途や支払相手方等が明らかになるおそれがある旨主張する。
 しかしながら,上記のとおり,政策推進費受払簿の記録からは,具体的使途や相手方等の記録はもちろん,個別の支払の行われた年月日やその金額も明らかにはならないのであって,政策推進費受払簿を開示しても,政策推進費の具体的使途や相手方等が推知される具体的なおそれがあるとは認め難いから,被告の上記主張は採用することができない。なお,被告は,政策推進費受払簿を開示することにより個々の繰入額が判明することのほか,繰入後さしたる期間を置かずに当該繰入額が支払われる場合もあり得ることを踏まえると,政策推進費の個々の支払日と支払額が事実上特定ないし推測される蓋然性は相当高い等と主張する。しかし,政策推進費受払簿に区分された内閣官房報償費が直ちに進行中の政策案件について最終受取人にまで支払われるものとは定められていないことや,実際に,政策推進費受払簿において区分された年月日は実際の個々の支払の年月日とは必ずしも一致しない扱いとされていると認められること(甲17)からすれば,政策推進費に区分される期間が短かったとしても,政策推進費からの特定の支払について支払日と支払額が事実上特定ないし推測される蓋然性があるとは認められない。この点は,内閣官房報償費について,その特殊性から,照合,分析の対象とされる種々の情報があり得ることを考慮しても,同様である。
 また,被告は,政策推進費受払簿を開示することにより,政策推進費の具体的使途や支払の相手方等について,当時の内政や外政の状況と結びつけて,事実とかかわりなく様々な推測や憶測が飛び交うこと自体によって,関係者の協力が得にくくなったり,国民からの信頼が失われたりして,内閣官房の行う事務の遂行に支障をもたらすおそれがある旨主張する。しかしながら,政策推進費の具体的使途や支払相手方等が明らかにされない以上,被告主張のような推測や憶測のみによって,関係者等の協力が得にくくなるなどして内閣官房の行う事務の遂行等に具体的な支障が生じるおそれがあるとは認め難い。また,内閣官房を含めた政府は,その活動に関し,当然国民やマスコミ等からの注目を受ける立場にあることも考慮すれば,当該推測や憶測のみで内閣官房の行う事務の遂行等に具体的な支障が生じるおそれがあると認めることはできず,被告の上記主張は採用することができない。

(ウ) 以上からすれば,政策推進費受払簿を開示した場合,内閣官房の行う事務の適正な遂行につき支障が生じる具体的なおそれがあると認めることはできないから,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当するとは認められない。

 情報公開法5条3号該当性について
 上記のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報が開示されたとしても,一定期間内における支払合計額が明らかになるのみで,具体的な使途や相手方等が特定されるおそれがあるとは考え難いことからすれば,これを開示することにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれ等があるとは考え難いから,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容される限度を超えるものであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきである。したがって,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開法5条3号の不開示情報に該当するとは認められない。

 小括
 以上の検討によれば,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはできないから,本件不開示決定部分のうち,政策推進費受払簿を不開示とした部分は違法である。

(3) 支払決定書について
 不開示情報該当性について
 前記認定事実(4)ウのとおり,支払決定書は,調査情報対策費及び活動関係費についての支払決定を行う際に作成される文書であり,支払相手方等の氏名ないし名称(複数の支払決定をしている場合には,1つ又は複数件のものが記録されている。)が記録されており,また,支払目的として,調査情報対策費・活動関係費の別のほか,個別具体的な使途についての記録がされていると認められる。
 上記のような支払決定書の性格やその記載内容に鑑みれば,支払決定書のうち本件公共交通機関の利用に係る交通費に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)については,前記(1)ウ(イ)cで検討したのと同様に,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当するとは認められず,それ以外の支払決定書については,これが開示された場合,前記(1)イ及びウで検討した調査情報対策費及び活動関係費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じると認められるから,同条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。

 部分開示の可否について

(ア) 原告は,支払決定書には支払相手方等の氏名を記録しないことができるとされているとおり,支払決定書は支払相手方等の氏名を除いても有意な情報として作成されており,その余の記録事項が独立した一体的な情報であると認められるから,当該その余の記録事項について情報公開法6条1項に基づく部分開示をすべきである旨主張する。
 しかしながら,前記認定事実(4)ウのとおり,支払決定書には,「支払決定書」との文書名,支払決定の日付,金額,支払目的,支払相手方等,取扱責任者である内閣官房長官の記名押印,支払及び確認を行った日付,事務補助者の記名押印等が記録されていると認められるところ,これら支払決定書の記録内容に加え,支払決定書が調査情報対策費及び活動関係費の支払決定のために作成されるものであることやその体裁(別紙3参照)に照らせば,支払決定書は,概ね,調査情報対策費又は活動関係費の支払につき,いつ,誰に対する,何について,いくらの支払決定を行ったかという事項を明らかにするものであるといえる。そうすると,1通の支払決定書に記録された情報は,支払決定という社会的に有意な1つの事実に関連した情報であって,社会通念上独立した一体的な情報を成すものということができる。
 したがって,各支払決定に対応する支払決定書に記録された情報のうち,相手方氏名等の記録部分等を除外して,その他の部分のみ開示すべきものということはできず,上記原告の主張は採用することができない。

(イ) 原告は,支払決定書に記録されているもののうち「支払日」や「支払金額」は,それ自体が有意な情報として独立した一体的情報であるから部分開示義務があるとも主張する。
 しかしながら,支払決定書が,概ね,調査情報対策費又は活動関係費の支払につき,いつ,何について,誰に対する,いくらの支払決定を行ったかという事項を明らかにするものであり,1通の支払決定書に記録された情報は,支払決定という社会的に有意な1つの事実に関連した情報であって,社会通念上独立した一体的な情報を成すものということができることは上記(ア)のとおりであるから,支払決定書に記録された情報のうち「支払日」や「支払金額」の記録部分のみ開示すべきものということはできない。そうすると,原告の主張は採用することができない。

 小括
 以上の検討によれば,支払決定書に記録されている情報のうち本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)に記録された情報については,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはできないから,本件不開示決定部分のうち上記支払決定書を不開示とした部分は違法である。これに対し,その余の支払決定書に記録されている情報については,いずれも同条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められるから,本件不開示決定部分のうち,上記その余の支払決定書を不開示とした部分は適法である。

(4) 出納管理簿について
 不開示情報該当性について
(ア) 前記認定事実(4)エのとおり,出納管理簿は,内閣官房報償費の出納に関する情報を一覧表にしてまとめたものであり,一覧表には,(a)国庫からの内閣官房報償費の支出(受領),(b)政策推進費の繰入れ,(c)調査情報対策費及び活動関係費の支払決定がそれぞれあるごとに,これらに係る内閣官房報償費の各出納についての「年月日」,「摘要(使用目的等)」,「受領額」,「支払額」,「残額」,「支払相手方等」の各項目の記録がされているほか(別紙4の様式の①から⑥までの部分),月分計部分及び累計部分(各月ごとまたは年度当初から一定時期までの報償費の受領額,支払額の各合計額等が記録された部分)並びにそれらについての内閣官房長官の確認印(同様式の⑦から⑨までの部分)があることが認められる。なお,出納管理簿には,年度末及び取扱責任者の異動があった場合には,内部確認として一覧表の枠外に立会者(事務補助者)及び確認者の記名押印がされている(別紙4の様式の⑩の部分)。

(イ) まず,一覧表のうち上記(ア)(a)の国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る各項目の記録については,前記認定事実(4)エによれば,内閣官房長官から内閣官房会計担当内閣参事官に対して提出される請求書に記録された情報と同様の情報が記録されているにすぎないものと認められる。そうすると,上記請求書については既に開示されているのであるから(前記前提事実(2)イ),上記のような情報が開示されても,内閣官房の事務に何らかの支障が生じるとは認められない。また,そのような情報について,他国等との関係で情報公開法5条3号に規定するようなおそれがあるとする内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容される限度を超えるものというべきであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。したがって,上記情報が同条6号及び3号の不開示情報に該当するとは認められない。

(ウ) 次に,一覧表のうち上記(ア)(b)の政策推進費の繰入れに係る各項目の記録については,前記認定事実(4)エのとおり,政策推進費受払簿に記録された情報と同様の情報が記録されているにすぎないと認められる。そうすると,前記(2)のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報には情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性が認められないことからすれば,出納管理簿の一覧表のうち政策推進費の繰入れに係る各項目の記録部分についても同様に,同条6号及び3号の不開示情報該当性は認められない。

(エ) 一方,一覧表のうち上記(ア)(c)の調査情報対策費及び活動関係費の支払決定に係る項目については,前記認定事実(4)エのとおり,「摘要(使用目的等)」の欄には支払決定書と同様個別具体的な使途が記録されており,「支払相手方等」の欄には支払決定書と同様支払相手方の氏名ないし名称が記録されていると認めることができる。上記のような調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る出納管理簿の記録内容に鑑みれば,かかる出納管理簿のうち,活動関係費に係る部分の中で,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除いたものに記録された情報については,前記(1)ウ(イ)cで検討したのと同様に,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはできない。他方,それ以外の上記(ア)(c)の調査情報対策費及び活動関係費に係る部分に記録された情報については,これが開示された場合,前記(1)イ及びウで検討した調査情報対策費及び活動関係費に係る領収書等や前記(3)で検討した支払決定書が開示された場合と同様の支障が生じると認められるから,同条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められる。
 この点につき,原告は,出納管理簿の調査情報対策費及び活動関係費の「支払相手方等」欄には,「(注)本欄は記載した場合,支障があると思われる場合は省略することができる」との注記(本件注記)があるため,そこには,公になると不都合な相手方については,そもそも記録されていないと考えられるから,記録されている支払相手方等の氏名ないし名称が明らかになっても特に支障は生じない旨主張する。しかしながら,これまで出納管理簿が情報公開の対象として公に開示されるものとして扱われていなかったことに照らせば,本件注記にいう「支障」とは,公にされた場合の支障を意味するとは考えられない上,本件注記には「省略することができる」と記載されているにすぎず,実際に省略されているとは限らない。実際にも,内閣官房内閣総務官であったEの証言(甲17,30)によれば,支払相手方等の欄の記録を省略したものはなく,全てについて氏名が記録されているというのであり,公にしても支障の生じないもののみが記録されているということはできない。また,仮に支払相手方等の欄が省略してある場合があったとしても,前記のとおり「摘要(使用目的等)」の欄に具体的な使途が記録されている以上,全体の記録からすれば,やはり上記のような支障が生じるものと認められ,いずれにしろ不開示情報該当性が認められるから,上記原告の主張を採用することはできない。

(オ) このほか,一覧表のうち,月分計部分及び累計部分並びにそれぞれに対する内閣官房長官の確認印については,当該情報が開示されたとしても,各月における内閣官房報償費の支払合計額,年度当初から特定の月の月末までの間の内閣官房報償費の支払合計額及び年度末における内閣官房報償費の残額が明らかになるのみであり,それにより内閣官房報償費の具体的使途や支払の相手方等が明らかになるわけではないから,内閣官房の行う事務の遂行に支障が生じるとは認められず,また,他国等との関係で情報公開法5条3号に規定するようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容される限度を超えるものというべきであって,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきであるから,当該情報について,同条6号及び3号の不開示情報に該当するとは認められない。
 これに対し,被告は,上記情報が明らかになることにより,当時の内政・外政の状況や他の月における合計額等の情報と照らし合わせ,内閣官房報償費の具体的な使途や支払相手方等が特定され,また特定されないにしても推測や憶測が飛び交い,これにより内閣官房の行う事業等につき支障が生じるおそれがある旨主張する。しかしながら,一定期間における支払合計額が明らかになるのみで,その具体的な使途や相手方等が特定される具体的なおそれがあるとは認められず,また,憶測や推測が飛び交うことにより,内閣官房の行う事務に支障が生じる具体的なおそれがあるということもできないから,被告の上記主張は採用することができない。

 部分開示の可否について
(ア) 出納管理簿には,前記認定事実(4)エのとおり,一覧表の内閣官房報償費に関する上記ア(ア)(a)から(c)までの出納に対応する情報が記録された部分と,月分計部分及び累計部分並びにそれらに対する内閣官房長官の確認印が記録されている部分がある。
a  まず,内閣官房報償費に関する上記ア(ア)(a)から(c)までの各出納に対応する出納管理簿の「年月日」,「摘要(使用目的等)」,「受領額」,「支払額」,「残額」,「支払相手方等」の各項目の記録部分については,その記録内容に加え,出納管理簿が内閣官房報償費の出納を管理するために作成されるものであること及びその体裁(別紙4参照)にも照らせば,概ね,内閣官房報償費の上記各出納について,それぞれ,いつ,いくらの内閣官房報償費を,誰に対し,何の目的で受領又は支出し,残額がいくらになったのかという事項を明らかにするものであると考えられるから,上記出納ごとに,これに対応する上記の各項目の記録が,それぞれ内閣官房報償費の出納という社会的に有意な1つの事実に関連した情報を形成しており,社会通念上それぞれ独立した一体的な情報を成すものということができる。

b  次に,月分計部分及び累計部分については,前記認定事実(4)エのとおり,各月における内閣官房報償費の受領額,支払額の各合計額(別紙4の様式の⑦の部分),年度当初から一定時点までの内閣官房報償費の受領額,支払額の各累計額とその時点における残額等の記録(同様式の⑧の部分)及びそれぞれに対する内閣官房長官の確認印(同様式の⑨の部分)があるが,これらの記録は,その体裁(別紙4参照)にも照らせば,各月又は年度当初から特定の月の月末までに合計いくらの内閣官房報償費を受け取り,支払を行ったか及びそれについて内閣官房長官が確認をしたという事実を明らかにするものと認められるから,各月ごとの月分計部分及びこれについての内閣官房長官の確認印と,累計部分及びこれについての内閣官房長官の確認印が,それぞれ社会的に有意な1つの事実に関連した情報を形成しており,社会通念上独立した一体的な情報を成すものということができる。

c  また,出納管理簿には,年度末及び取扱責任者の異動があった場合に一覧表の枠外に記録される立会者(事務補助者)及び確認者が記名押印をする部分があり,これらが不開示情報に該当しないことに争いはないところ,これらの部分は,独立した一体的な情報を成すものと考えられる。

d  この点,被告は,出納管理簿を作成する趣旨目的が,内閣官房報償費全体が適正に記録されているかどうかを確認するためであることに照らすと,出納管理簿に記録されている国庫からの入金と政策推進費への繰入れ,調査情報対策費及び活動関係費の各支払は,それぞれが個別の記録として独立の意味を持つものではなく,これらの入出金の相互の関係が矛盾なく記録されているかどうか,その月ごとの合計額,年度ごとの累計額との整合性があるかどうかを確認する上で,全体として意味を持つにとどまるのであって,出納管理簿1通ごとが独立した一体的な情報であるというべきである旨を主張する。しかし,企業会計においても家計においても,個別の入出金額の多寡やその目的,実際の現金残高や預貯金残高の推移やこれらの現在残高を把握することは重要であると考えられているところ,内閣官房報償費についても個別の入出金額の多寡やその目的,内閣官房長官の手元にある内閣官房報償費の残高の把握の重要性については変わりないと推認できるのであって,これらの情報を把握するのに出納管理簿は資するものと認められる。そして,出納管理簿の一覧表部分の作成に当たっては,支払日ないし受領日ごとに順次,他の書類から転記して作成しているものと推認することができるから,たとい被告が指摘するように出納管理簿を作成する主たる目的が,内閣官房報償費全体が適正に記録されていることを確認することにあるとしても,国庫からの入金に係る情報(入金回数,年月日,受領額,残額),政策推進費からの繰入れに係る情報(年月日,支払額,残額),調査情報対策費及び活動関係費の支払に係る情報(使用目的の類型,年月日,支払額,残額,支払相手方等),月分計に係る情報並びに累計に係る情報は,それぞれ独立した一体的な情報と認めるのが相当である。

(イ) そして,前記アで検討したとおり,出納管理簿に記録された情報については,一覧表の上記ア(ア)(c)の調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,活動関係費のうち本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)には情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報が記録されていると認められるから,上記各部分の記録全てが一体として不開示情報に該当する(なお,原告は,不開示情報が記録されている部分と記録されていない部分が分離可能であれば,不開示情報が記録されていない部分につき部分開示義務があると主張するが,上記2(1)及び(2)のとおり,情報公開法6条1項は不開示情報が記録されている部分と記録されていない部分が分離可能か否かによって部分開示義務の有無及び範囲を定めたものということはできないから,原告の上記主張は理由がない。また,原告は,調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る各項目のうち「支払相手方等」の記録部分を除いて部分開示をすべきであるとも主張するが,独立した一体的な情報を更に細分化して部分開示することを求めるものであり,採用することができない。)。一方,出納管理簿のその他の部分については不開示情報該当性が認められないところ,出納管理簿の様式(別紙4参照)に照らせば,上記不開示情報該当性が認められる部分については,他の部分と容易に区分して除くことができ,かつ当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認めることはできない。以上からすれば,内閣官房内閣総務官は,出納管理簿について,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,活動関係費のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)を除いて,同法6条1項に基づく部分開示をすべき義務があったものと認められる。

 小括
 以上の検討によれば,出納管理簿を不開示とする本件不開示決定部分のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,活動関係費のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)については,いずれも情報公開法6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められるから,上記情報を不開示とした部分は適法である。これに対し,出納管理簿を不開示とする本件不開示決定部分のうち,その余の部分を不開示とした部分は違法である。

(5) 報償費支払明細書について
 前記認定事実(4)オのとおり,報償費支払明細書には,内閣官房報償費の各支払(政策推進費の繰入れ並びに調査情報対策費及び活動関係費の支払決定)についてまとめた一覧表の記録部分と,支払明細書繰越記録部分(前月繰越額,本月受入額,本月支払額,翌月繰越額等の記録部分)があると認められる。

 一覧表の記録部分について
(ア) 政策推進費の繰入れの場合について
 前記認定事実(4)オのとおり,一覧表のうち政策推進費の繰入れの場合には,政策推進費受払簿に記録された情報が転記されており,政策推進費受払簿作成(政策推進費繰入れ)の日付,当該繰入れに係る金額が記録されるところ,前記(2)のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報については,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性が認められないから,報償費支払明細書の政策推進費の繰入れに係る各項目についても同様に,同条6号及び3号の不開示情報該当性は認められない。

(イ) 調査情報対策費及び活動関係費の支払決定の場合について
a  前記認定事実(4)オのとおり,一覧表のうち,使用目的が調査情報対策費及び活動関係費の場合には,基本的に支払決定書に記録された情報が転記されており,支払決定書に記録された情報のうち,支払決定の日付,支払決定に係る金額,調査情報対策費及び活動関係費の別等が記録されているが,支払決定書とは異なり,支払相手方の記録や個別具体的な使途の記録はないことが認められる。
 そうであれば,報償費支払明細書中,一覧表のうち使用目的が調査情報対策費及び活動関係費の場合に記録された情報が開示されたとしても,支払相手方や具体的な使途が明らかになることはないから,これにより内閣官房の事務に何らかの支障が生じるとは認められず,また,他国等との関係で情報公開法5条3号に規定するようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容される限度を超えるものといえ,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきであるから,当該情報について,同条6号及び3号の不開示情報該当性は認められない。

b  これに対し,被告は,調査情報対策費及び活動関係費の支払決定の場合,一覧表に記録された情報が開示されれば,その支払日や具体的金額が明らかになるところ,これらの情報と,その時々に生じていた内政・外政の状況など他の情報とを照合,分析することにより,具体的な使途や相手方等を特定ないし推測することが可能になる旨主張する。
 しかしながら,前記認定事実(3)イ,ウ及び弁論の全趣旨によれば,調査情報対策費及び活動関係費については,役務提供等を受ける前又は後に当該役務提供者等が作成した請求書に基づき支払決定をすることとされているところ,当該支払決定日は必ずしも実際の役務提供日と一致するものではなく,特に支払決定は複数の支出につきまとめて行う場合には支払決定書のみからはそれぞれの支出の日付や金額が判明することはないほか,支払決定書のみから当該支払が複数の支出につきまとめて行われたものか否かを判別することもできないものと認められる。そして,支払決定書の記録と報償費支払明細書の記録とを照らし合わせても,具体的な使途等が特定ないし推測されるとは考え難く,本件において,それ以上にそのようなおそれがあることを認めるに足りる証拠もないことからすれば,被告の上記主張を採用することはできない。
 また,被告は,個々の支出の具体的使途や相手方を特定することができないとしても,それに関する憶測ないし推測が飛び交うことにより,内閣官房の行う事務に支障が生じたり,外交上の問題が生じたりするおそれがある旨主張するが,憶測ないし推測が飛び交うことにより何らかの支障が生じる具体的なおそれがあると認めるに足りる証拠はなく,当該主張は採用することができない。

 支払明細書繰越記録部分について
 前記認定事実(4)オのとおり,支払明細書繰越記録部分には,内閣官房報償費全体の先月繰越額,本月受入額(国庫から支出を受けた内閣官房報償費全額),本月支払額の合計,翌月繰越額が記録されているのみであるから,当該情報が開示された場合,特定の月において,支出された内閣官房報償費の合計額が明らかとなるが,これにより内閣官房の行う事務の遂行に支障が生じるとは認められず,また,他国等との関係で情報公開法5条3号に規定するようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断は,合理性を持つものとして許容される限度を超えるものというべきであって,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきであるから,当該情報が同条6号及び3号の不開示情報に該当するとは認められない。また,一覧表の「合計」欄の記録も同様であり,以上の点は,出納管理簿の月分計欄ないし累計欄に記載された情報が開示された場合に,これにより内閣官房の行う事務の遂行に支障が生じると認められないこと(前記(4)ア(オ))と同様である。

 小括
 以上の検討によれば,報償費支払明細書については,いずれの記録部分についても,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性は認められないから,本件不開示決定部分のうち,報償費支払明細書を不開示とした部分は違法である。

(6) 本件取消しの訴えに係る請求について
 以上によれば,本件不開示決定部分については,本件対象文書中,①領収書等のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),②政策推進費受払簿,③支払決定書のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),④出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,活動関係費のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)を除いたもの,並びに,⑤報償費支払明細書を不開示とした点で違法であり,取消しを免れないが,その余を不開示とした点は適法である。

 本案前の争点(本件義務付けの訴えの適法性)及び義務付け請求の適否について
 本件訴えのうち本件不開示決定部分の開示決定の義務付けを求める請求に係る部分は,行政事件訴訟法3条6項2号に基づく義務付けの訴えとして提起されたものであるところ,上記説示のとおり,本件決定のうち本件対象文書中,①領収書等のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),②政策推進費受払簿,③支払決定書のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),④出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,活動関係費のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)を除いたもの,並びに,⑤報償費支払明細書を不開示とした部分は取り消されるべきものであるから,これら各不開示部分の開示決定の義務付けに係る部分は,同法37条の3第1項2号の要件を満たし,口頭弁論終結時(平成27年7月2日)においても,これら不開示部分が情報公開法5条3号及び6号に該当するものとは認められず,他にこれを不開示とすべき事由も見当たらないから,行政事件訴訟法37条の3第5項の規定により,内閣官房内閣総務官に対し,上記①から⑤までの文書の開示決定をすべき旨を命ずるのが相当である。
 他方,本件決定のうち,本件対象文書中上記①から⑤までを除く部分の取消しを求める原告の請求は理由がないから,本件義務付けの訴えのうちこれら各部分の開示決定の義務付けの請求に係る部分は,いずれも同法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を満たさない不適法なものとして,却下を免れない。

 結論
 よって,本件決定のうち,本件対象文書中,①領収書等のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),②政策推進費受払簿,③支払決定書のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),④出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,活動関係費のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)を除いたもの,並びに,⑤報償費支払明細書を不開示とした部分に係る取消請求並びにこれら各部分の開示決定の義務付け請求はいずれも理由があるから認容し,本件決定のうち,本件対象文書中上記①から⑤までを除く部分の取消請求は理由がないから棄却し,これら各部分の開示決定の義務付けに係る訴えは不適法であるから却下することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第7民事部




別紙1
交通事業者目録


 鉄道事業法による鉄道事業者(旅客の運送を行うもの及び旅客の運送を行う鉄道事業者に鉄道施設を譲渡し,又は使用させるものに限る。)
 軌道法による軌道経営者(旅客の運送を行うものに限る。)
 道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業者(路線を定めて定期に運行する自動車により乗合旅客の運送を行うものに限る。)
 海上運送法による一般旅客定期航路事業(日本の国籍を有する者及び日本の法令により設立された法人その他の団体以外の者が営む同法による対外旅客定期航路事業を除く。)を営む者
 航空法による本邦航空運送事業者(旅客の運送を行うものに限る。)
 本邦外の国若しくは地域において公共交通機関を経営する上記1ないし5に準じる事業者