平成24年9月27日判決言渡 |
損害賠償請求事件 |
判 決 |
主 文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 |
第1 | 請求 被告は,原告に対し,10万円を支払え。 |
第2 | 事案の概要 本件は,原告が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づく行政文書の開示請求に対する防衛大臣の不作為について行政不服審査法7条に基づき異議申立てをしたのに対し,同大臣がこれに応答しなかったことは同法50条に違反するところ,かかる違法行為により10万円に相当する精神的損害を被ったとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を求める事案である。 |
1 | 前提事実 |
(1) | 原告は,平成23年9月24日,防衛大臣に対し,情報公開法3条及び4条1項に基づき,別紙記載の各行政文書の開示請求をし,防衛大臣は,同月27日,これを受け付けた(乙3の1~5。以下,別紙の①~⑤の開示請求を,順に「本件開示請求1~5」といい,併せて「本件各開示請求」という。)。 |
(2) |
ア | 防衛大臣は,平成23年10月27日,本件開示請求1,2,4及び5につき,情報公開法10条2項に基づき,それぞれ,開示決定等に係る事務処理及び調整に時間を要するとして,同年11月28日を延長後の開示決定等期限とする旨を記載した「開示決定等の期限の延長について(通知)」と題する各文書を送付した(乙4の1,2,4,5。以下,これによる開示決定等期限の延長を併せて「本件各延長決定」という。)。 |
イ | 防衛大臣は,平成23年10月27日,本件開示請求3につき,情報公開法11条に基づき,情報公開法所定の期間内に当該開示請求に係る文書の全てについて開示・不開示の決定を行う場合,他の業務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがあるとして,同年11月28日までに可能な部分について開示決定等を行い,残りの部分については同年12月26日までに開示決定等を行う旨を記載した「開示決定等の期限の特例規定の適用について(通知)」と題する文書を送付した(乙4の3。以下,これによる開示決定等期限の延長を「本件特例延長決定」といい,本件各延長決定と併せて「本件各延長決定等」という。)。 |
(3) | 原告は,平成23年11月8日付けで,防衛大臣に対し,行政不服審査法7条に基づき,本件各開示請求について防衛大臣の不作為があるとして,不作為についての異議申立てを行い,防衛大臣は,同月9日,これを受理した(乙1。以下,上記異議申立てを「本件異議申立て」という。)。 |
2 | 原告の主張 |
(1) | 防衛大臣は,本件異議申立ての受理から20日経つにもかかわらず,行政不服審査法50条に基づく当該異議申立ての却下,ないしは「申請に対するなんらかの行為をするか,又は書面で不作為の理由を示」すことを怠っている。 |
(2) | 上記事実は,行政不服審査法50条に違反するものであり,原告は,行政手続の怠慢により必要な措置を受けられなかったことに対して損害賠償を求めるものである。 |
3 | 被告の主張 |
(1) | 行政不服審査法50条が規定する不作為についての異議申立ての適法要件は,①不作為庁になされた申立てであること,②異議申立書の記載に不備がないこと,③申請人が異議申立人となっていること,④その申請が法令に基づく申請に当たること,⑤申請から相当の期間が経過しているにもかかわらず処分がなされないことである。これらのうちどれか一つでも欠けると,申立ては不適法として却下される。 このうち,上記⑤の「相当の期間」は,当該申請に基づく処分をなすのに通常必要とする期間であり,法律によって処分をなすべき期間を定めているものについては,法定期間を経過してもなお不作為状態が続く場合は,当該不作為は原則として違法となる。 |
(2) | これを本件についてみると,本件各開示請求に対しては,処分行政庁である防衛大臣が,平成23年10月27日,本件各開示請求の開示決定等の期限について適法に延長したにもかかわらず,原告は,本件各開示請求の開示決定等の期限が未到来である同年11月8日に,防衛大臣に対し,本件異議申立てを行った。 このように,本件異議申立ては,情報公開法が認めている開示決定の期限の前に行われており,上記(1)⑤の「相当の期間が経過しているにもかかわらず処分がなされない」との要件を欠くものであるから,不適法である。 |
(3) | 以上のとおり,本件異議申立ては不適法であって却下されるべきものであり,そうすると,本件異議申立てに対しては応答義務が生じないことになるから,防衛大臣が本件異議申立てに応答しなかったことに職務上の法的義務違反があるとはいえない。よって,防衛大臣の上記対応に国家賠償法1条1項所定の違法はないというべきである。 |
第3 | 当裁判所の判断 |
1 | 前記前提事実及び証拠(甲4,乙1,3,4,7〔枝番があるものはこれを含む。〕)によれば,次の事実が認められる。 |
(1) | 原告は,平成23年9月24日,防衛大臣に対し,本件各開示請求をし,防衛大臣は,同月27日,これを受け付けた。 |
(2) | 本件各開示請求の内容は,別紙記載のとおりであるところ,原告作成に係る開示請求書(乙3の1~5)の記載だけからは,本件各開示請求が,開示請求書記載の行政文書の全部につき開示を求める趣旨であるのか,それとも,当該行政文書のうち開示請求書記載の事業に関する情報が記録されている部分につき開示を求める趣旨であるのかが必ずしも明らかではなかった。 そのため,防衛省所部職員は,原告に対し,平成23年10月21日付けで,本件各開示請求につき,「開示決定等の対象は該当箇所のみで可。」との補正をすることが可能であるか否か,及び,その旨が明確に示されれば本件各開示請求に係る事務作業に要する時間を大幅に短縮することが可能である旨を連絡した。これに対し,原告は,相互に密接な関連を有する行政文書となるのでその全てにつき開示請求をする旨回答した。 |
(3) | 防衛大臣は,平成23年10月27日,本件開示請求1,2,4及び5につき,情報公開法10条2項に基づき,同年11月28日を延長後の開示決定等期限とする本件各延長決定を行うとともに,本件開示請求3につき,情報公開法11条に基づき,同年11月28日までに可能な部分の開示決定等を行い,残りの部分については同年12月26日までに開示決定等を行う旨の本件特例延長決定を行った。 |
(4) | 防衛大臣は,本件各延長決定等を行った平成23年10月27日前後の期間において,原告からだけでも本件各開示請求を含めて124件の開示請求を受けており(対象文書の総数は,A4判用紙約6万枚),他に処理すべき開示請求事案と合わせれば合計約260件(対象文書の総数は,A4判用紙約11万4000枚)に達する開示請求に対応しなければならなかった。 また,防衛大臣は,同時期に,原告からの開示決定等に対する異議申立てを154件受理しており,他の異議申立て事件を合わせて約190件の異議申立ても処理しなければならない状況にあった。 |
(5) | 原告は,平成23年11月8日付けで,防衛大臣に対し,本件異議申立てを行った。 |
2 | 本件各延長決定等の適法性について |
(1) | 情報公開法10条は,1項において,開示決定等は開示請求があった日から30日以内にしなければならない旨を定めるとともに,2項において,事務処理上の困難その他正当な理由があるときは,1項に規定する期間を30日以内に限り延長することができる旨を定めている。そして,上記にいう「事務処理上の困難」とは,当該開示請求に対し同条1項に規定する期間内に開示決定等を行うことが行政機関側の事情により困難であることを意味し,開示請求に係る行政文書の量の多少,開示請求に係る行政文書の開示・不開示の審査の難易,当該時期における他に処理すべき開示請求事案の量のほか,行政機関の他の事務の繁忙,勤務日等の状況なども考慮して,当該開示請求の事務処理が困難となるか否かにより判断される。 また,情報公開法11条は,開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため,開示請求があった日から60日以内にその全てについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には,前条の規定にかかわらず,開示請求に係る行政文書のうちの相当の部分につき当該期間内に開示決定等をし,残りの行政文書については相当の期間内に開示決定等をすれば足りる旨定めている。そして,上記にいう「開示請求に係る行政文書が著しく大量」かどうかは,1件の開示請求に係る行政文書の物理的な量とその審査等に要する業務量だけによるわけではなく,行政機関の事務体制,他の開示請求事案の処理に要する事務量,その他事務の繁忙,勤務日等の状況なども考慮した上で判断される。 |
(2) | これを本件についてみると,前記1で認定した事実及び証拠1(乙7)によれば,本件各開示請求の対象文書は,本件開示請求1につきA4判用紙3枚,本件開示請求2につき同1枚,本件開示請求3につき同27枚,本件開示請求4につき同1枚,本件開示請求5につき同3枚であったが,いずれも対象文書の特定につき補正の手続を要したこと,特定された対象文書には情報公開法5条所定の不開示情報が含まれている可能性があったため,開示・不開示の判断につき慎重な検討を要し,関係部署との調整などの事務処理を行う必要があったこと,防衛大臣は,本件各延長決定等を行った平成23年10月27日前後の期間において,原告からだけでも本件各開示請求を含めて124件の開示請求を受けており(対象文書の総数は,A4判用紙6万枚),他に処理すべき開示請求事案と合わせれば合計約260件(対象文書の総数は,A4判用紙約11万4000枚)に達する開示請求に対応しなければならなかったこと,加えて,防衛大臣は,同時期に,原告からの開示決定等に対する異議申立てを154件受理しており,他の異議申立て事件を合わせて約190件の異議申立ても処理しなければならない状況にあったこと,以上の事実が認められる。 |
(3) | 上記の事実関係の下では,本件開示請求1,2,4及び5についてされた本件各延長決定は,情報公開法10条2項に基づいて適法にされたものと認められ,また,本件開示請求3についてされた本件特例延長決定は,情報公開法11条に基づいて適法にされたものと認められる(なお,仮に,本件特例延長決定が「開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため」との要件を満たしていないために違法と判断される余地があるとしても,本件特例延長決定は,行政処分であると解されるから,重大かつ明白な瑕疵があるために無効と判断される場合を除き,行政争訟手続によって取り消されない限り,これにより開示決定等の期限が延長されたことを前提として判断をすべきものである。しかるところ,上記の事実関係の下では,本件特例延長決定に重大かつ明白な瑕疵があるとはいえない。)。 |
3 | 本件異議申立てに防衛大臣が応答しなかったことが違法か否かについて 上記2にみたとおり,本件各開示請求については,処分行政庁である防衛大臣により,その開示決定等期限が適法に延長されたところ,原告は,延長後の開示決定等期限が到来する前である平成23年11月8日に,防衛大臣に対し,本件異議申立てを行ったものである。 そうすると,本件異議申立ては,本件各開示請求について防衛大臣に「不作為」(行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分その他公権力の行使に当たる行為をすべきにもかかわらず,これをしないことをいう。行政不服審査法2条2項参照)があるとはいえないことから,不適法であると解される。 以上のとおり,本件異議申立てが不適法である以上,異議申立てがあった日の翌日から起算して20日以内に,防衛大臣に応答すべき義務があるとはいえないことになるから(行政不服審査法50条1項,2項参照),防衛大臣が上記期間内に本件異議申立てに応答しなかったことに職務上の法的義務違反があるとはいえない。したがって,防衛大臣の上記対応に国家賠償法1条1項所定の違法はない。 |
4 | 結論 よって,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
東京地方裁判所民事第43部 |
① | 請求する行政文書の名称等を「統合幕僚監部において,『警察との共同に関する研究』に関して『行政文書ファイル等』(防衛省行政文書管理規則(平成23年防衛省訓令第15号))として管理されている行政文書の全て。(計画の実施に関わるものであり,ロジ関連のものは除く)。*ただし同種研究が平成22年度も行われていれば,平成22年度のものを希望。更に『行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令』別表でいう『七 電磁的記録』があれば,それを希望。」とする開示請求(以下「本件開示請求1」という。乙第3号証の1) |
② | 請求する行政文書の名称等を「『各種事態発生時における広報の機能発揮に関する検討』に関して『行政文書ファイル等』(防衛省行政文書管理規則(平成23年防衛省訓令第15号))として管理されている行政文書の全て。*ただし同種検討が平成22年度も行われていれば,平成22年度のものを希望。更に『行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令』別表でいう『七 電磁的記録』があれば,それを希望。」とする開示請求(以下「本件開示請求2」という。乙第3号証の2) |
③ | 請求する行政文書の名称等を「統合幕僚監部において,『共同現地研究(報道官)』に関して『行政文書ファイル等』(防衛省行政文書管理規則(平成23年防衛省訓令第15号))として管理されている行政文書の全て。(計画の実施に関わるものであり,ロジ関連のものは除く)。*ただし同種研究が平成22年度も行われていれば,平成22年度のものを希望。更に『行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令』別表でいう『七 電磁的記録』があれば,それを希望。」とする開示請求(以下「本件開示請求3」という。乙第3号証の3) |
④ | 請求する行政文書の名称等を「『原子力災害派遣訓練に関する現地研究』に関して『行政文書ファイル等』(防衛省行政文書管理規則(平成23年防衛省訓令第15号))として管理されている行政文書の全て。*ただし同種研究が平成22年度も行われていれば,平成22年度のものを希望。更に『行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令』別表でいう『七 電磁的記録』があれば,それを希望。」とする開示請求(以下「本件開示請求4」という。乙第3号証の4) |
⑤ | 請求する行政文書の名称等を,「統合幕僚監部において,『戦没者の取扱いに検討』に関して『行政文書ファイル等』(防衛省行政文書管理規則(平成23年防衛省訓令第15号))として管理されている行政文書の全て。(計画の実施に関わるものであり,ロジ関連のものは除く)。*ただし同種検討が平成22年度も行われていれば,平成22年度のものを希望。更に『行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令』別表でいう『七 電磁的記録』があれば,それを希望。」とする開示請求(以下「本件開示請求5」といい,本件開示請求1ないし4と併せて「本件各開示請求」という。乙第3号証の5) |