平成23年12月16日判決言渡 |
不開示処分取消等請求事件 |
判 決 |
主 文 |
1 | 本件訴えのうち,原告が昭和52年11月19日に中央労働基準監督署に提出した3通の労災補償給付請求書●●●●の欠損していない写しを開示する旨の決定をすることの義務付けを求める部分を却下する。 |
2 | 本件訴えのその余の部分に係る原告の請求をいずれも棄却する。 |
3 | 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 |
第1 | 請求 |
1 | 東京労働局長が原告に対して平成20年10月6日付けでした保有個人情報の開示をしない旨の決定(以下「本件不開示決定1」という。)を取り消す。 |
2 | 東京労働局長が原告に対して平成20年11月10日付けでした保有個人情報の開示をしない旨の決定(以下「本件不開示決定2」という。)を取り消す。 |
3 | 東京労働局長が原告に対して平成20年11月19日付けでした保有個人情報の開示をしない旨の決定(以下「本件不開示決定3」という。)を取り消す。 |
4 | 東京労働局長が原告に対して平成21年2月19日付けでした保有個人情報の開示をしない旨の決定(以下「本件不開示決定4」という。)を取り消す。 |
5 | 東京労働局長が原告に対して平成22年6月11日付けでした保有個人情報の開示をしない旨の決定(以下「本件不開示決定5」といい,本件不開示決定1ないし4と併せて「本件各不開示決定」という。)を取り消す。 |
6 | 東京労働局長は,原告に対し,原告が昭和52年11月19日に中央労働基準監督署に提出した3通の労災補償給付請求書●●●●の欠損していない写しを開示する旨の決定をせよ(この請求に係る訴えを,以下「本件義務付けの訴え」という。)。 |
第2 | 事案の概要 |
1 | 事案の要旨 原告は,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)13条1項の規定に基づき,東京労働局長に対し,5回にわたって保有個人情報の開示請求をしたが,東京労働局長は,開示請求に係る保有個人情報が記録された行政文書は,いずれも廃棄等により存在せず,当該保有個人情報を保有していないとして,同法18条2項の規定に基づき,保有個人情報の開示をしない旨の本件各不開示決定をした。 本件は,原告が,本件各不開示決定を不服としてその取消しを求めるとともに,本件不開示決定1においていまだ決定がされていないとする保有個人情報について東京労働局長がこれを開示する旨の決定をすることの義務付け(本件義務付けの訴え)を求めた事案である。 |
2 | 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,争うことを明らかにしない事実である。) |
(1) | 原告によるいわゆる労災保険給付請求等 |
ア | 原告は,昭和44年9月からA労働組合B支部に使用され,共済関係事務等の担当として就業していたが,慢性的な過重業務により頸腕症候群,腰痛症を発症したとして,昭和52年11月19日,中央労働基準監督署長(以下「中央労基署長」といい,同労働基準監督署を「中央労基署」という。)に対し,労働者災害補償保険法に基づき,療養補償給付及び休業補償給付の各請求(以下「本件労災保険給付請求」という。)をした。 これに対し,中央労基署長は,昭和59年3月30日付けで,原告の疾病が業務上のものであるとは認められないとして,療養補償給付及び休業補償給付のいずれも支給しない旨の決定(以下「本件不支給決定」という。)をし,原告にその旨を通知した。 |
イ | 原告は,本件不支給決定を不服として,昭和59年5月1日,労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対して審査請求をしたが,審査官は,平成7年2月23日,これを棄却する旨の決定をした。 原告は,同年4月18日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,同審査会は,平成10年10月21日,これを棄却する旨の裁決をした。(甲24,35,36,48) |
ウ | 原告は,国を被告として,平成11年2月8日,本件労災保険給付請求が2件の療養補償給付の請求(以下,この2件の請求について,原告がその請求書に付されたと主張する受付番号に従い,それぞれ「●●●●号の請求」〔昭和48年10月17日から昭和49年4月17日までの療養費に係るものとされる。〕,及び「●●●●号の請求」〔同年4月22日から昭和51年8月9日までの療養費に係るものとされる。〕という。)及び1件の休業補償給付の請求(同様に「●●●●号の請求」〔昭和50年8月4日から昭和52年11月10日までの問の85日分の休業補償に係るものとされる。〕という。)の合計3件の請求であり,本件不支給決定がこれら3件の請求に対する処分であることを前提に,本件不支給決定の取消しを求める訴訟(以下「別件不支給処分取消請求訴訟」という。)を提起した。 同訴訟においては,原告が●●●●号の請求をしたか否かを断定するのは困難であるが,これに対する処分がされた事実は認め難いとして,この処分の取消しを求める訴えを却下し,その余の請求を棄却する旨の第1審判決が言い渡され,この判決は,その後の控訴審及び上告審でも維持された(なお,原告の上告を棄却し,上告受理の申立てにつきいわゆる不受理とする決定がされたのは,平成15年10月9日である。)。(乙13,16の1,17)。 |
エ | 原告は,国及び中央労基署長を被告として,平成16年4月27日,●●●●号の請求に対する処分をしないことについての不作為の違法確認等及び国家賠償を求める訴訟(当庁平成16年。以下「別件違法確認等請求訴訟」という。)を提起した。 同訴訟においては,●●●●号の請求があったとは認められないとして,中央労基署長を被告とする不作為の違法確認等を求める訴えをいずれも却下し,国を被告とする国家賠償を求める請求についてはこれを棄却する旨の第1審判決が言い渡され,この判決は,その後の控訴審及び上告審でも維持された(なお,原告の上告を棄却し,上告受理の申立てにつき不受理とする決定がされたのは,平成17年10月13日である。)。(乙12ないし14,17) |
オ | 原告は,国を被告として,平成18年3月29日,●●●●号の請求があったにもかかわらず国がこれをなかったとしたことは意図的な虚偽であり違法である等として,国家賠償を求める訴訟(以下「別件損害賠償請求訴訟」という。)を提起した。 同訴訟においては,●●●●号の請求があったとは認められない等として,請求を棄却する旨の第1審判決が言い渡され,この判決は,その後の控訴審及び上告審でも維持された(なお,原告の上告を棄却し,上告受理の申立てにつき不受理とする決定がされたのは,平成20年3月25日である。)。(乙16の1・2,17,18) |
(2) | 本件各不開示決定に係る経緯 |
ア | 本件不開示決定1 |
(ア) | 原告は,平成20年9月5日,東京労働局長に対し,行政機関個人情報保護法13条1項の規定に基づき,「請求人が,昭和52年11月19日に中央労働基準監督署に提出した3通の労災補償給付請求書●●●●の原本及び欠損していない写し」の開示請求をした(以下「本件開示請求1」といい,本件開示請求1に係る保有個人情報が記録されている文書を「本件開示請求文書1」という。また,本件開示請求文書1のうち,本件労災保険給付請求の際に原告が提出したとする各請求書については,付されたとする受付番号に従い,「●●●●号の請求書」のようにいい,特に原本又は写しの別を明らかにする必要がある場合には,「●●●●号の請求書の原本」や「●●●●号の請求書の写し」のようにいう。)。 |
(イ) | 東京労働局長は,平成20年10月6日,本件開示請求1に対し,●●●●号の請求書は取得しておらず,●●●●号及び●●●●号の各請求書については,文書の保存期間の満了により廃棄したとして,行政機関個人情報保護法18条2項の規定に基づき,全部を開示しない旨の本件不開示決定1をし,そのころ,原告にその旨を通知した。 |
イ | 本件不開示決定2 |
(ア) | 原告は,平成20年9月11日,東京労働局長に対し,行政機関個人情報保護法13条1項の規定に基づき,「別件不支給処分取消請求訴訟において裁判所に提出された,別紙記載の乙号証を複写した原紙が編綴されている各綴一式」の開示請求をした(以下「本件開示請求2」といい,本件開示請求2に係る保有個人情報が記録されている文書を「本件開示請求文書2」という。なお,本件開示請求2の開示請求書の「別紙」は,別紙1のとおりである。)。 |
(イ) | 東京労働局長は,平成20年11月10日,本件開示請求2に対し,本件開示請求文書2に係る乙号証の原紙は廃棄したとして,行政機関個人情報保護法18条2項の規定に基づき,全部を開示しない旨の本件不開示決定2をし,そのころ,原告にその旨を通知した。 |
ウ | 本件不開示決定3 |
(ア) | 原告は,平成20年10月20日,東京労働局長に対し,行政機関個人情報保護法13条1項の規定に基づき,「請求人が,昭和52年11月19日に中央労働基準監督署に提出した3通の労災補償給付請求書原本から複写した各請求書」の開示請求をした(以下「本件開示請求3」といい,本件開示請求3に係る保有個人情報が記録されている文書を「本件開示請求文書3」という。)。 |
(イ) | 東京労働局長は,平成20年11月19日,本件開示請求3に対し,本件開示請求文書3のうち1通は取得しておらず,2通は文書の保存期間の満了により廃棄したとして,行政機関個人情報保護法18条2項の規定に基づき,全部を開示しない旨の本件不開示決定3をし,そのころ,原告にその旨を通知した。 |
エ | 本件不開示決定4 |
(ア) | 原告は,平成20年12月22日,東京労働局長に対し,行政機関個人情報保護法13条1項の規定に基づき,「請求人の,昭和52年11月19日付労災保険給付請求,昭和59年3月30日付不支給決定に関係する,別紙記載の保有個人情報」の開示請求をした(以下「本件開示請求4」といい,本件開示請求4に係る保有個人情報が記録されている文書を「本件開示請求文書4」という。なお,本件開示請求4の開示請求書の「別紙」は,別紙2のとおりである。)。 |
(イ) | 東京労働局長は,平成21年2月19日,本件開示請求4に対し,開示請求のあった関係文書を保有していないとして,行政機関個人情報保護法18条2項の規定に基づき,全部を開示しない旨の本件不開示決定4をし,そのころ,原告にその旨を通知した。 |
オ | 本件不開示決定5 |
(ア) | 原告は,平成22年5月19日,東京労働局長に対し,行政機関個人情報保護法13条1項の規定に基づき,「請求人にかかる保険給付記録票(原本)が編綴されていた綴一式,及び同綴の名称ないし名称がわかるもの(中央労働基準監督署)」の開示請求をした(以下「本件開示請求5」といい,本件開示請求5に係る保有個人情報が記録されている文書を「本件開示請求文書5」という。また,本件開示請求1ないし5を併せて「本件開示請求」という。)。 |
(イ) | 東京労働局長は,平成22年6月11日,本件開示請求5に対し,対象の保有個人情報は廃棄済みであるとして,行政機関個人情報保護法18条2項の規定に基づき,全部を開示しない旨の本件不開示決定5をし,そのころ,原告にその旨を通知した。 |
(3) | 本件各不開示決定に係る不服申立て |
ア | 原告は,平成20年11月27日,厚生労働大臣に対し,本件不開示決定1ないし3の取消し等を求める旨の審査請求をしたが,厚生労働大臣は,情報公開・個人情報保護審査会の答申を踏まえ,平成22年12月21日,これを棄却する旨の裁決をした。 |
イ | 原告は,厚生労働大臣に対し,平成21年3月12日に本件不開示決定4の取消しを求める審査請求を,平成22年8月9日に本件不開示決定5の取消しを求める審査請求を,それぞれしたが,これらはいずれも審理中である。 |
(4) | 本件訴えの提起 原告は,平成22年9月30日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。 |
3 | 争点 |
(1) | 本件不開示決定1の適法性(争点1) |
(2) | 本件不開示決定2の適法性(争点2) |
(3) | 本件不開示決定3の適法性(争点3) |
(4) | 本件不開示決定4の適法性(争点4) |
(5) | 本件不開示決定5の適法性(争点5) |
(6) | 本件義務付けの訴えの適法性等(争点6) |
4 | 争点に関する当事者の主張の要点 |
(1) | 本件不開示決定1の適法性(争点1)について |
(原告の主張の要点) |
ア | 本件不開示決定1の対象とされる文書の範囲について 本件開示請求文書1は,本件労災保険給付請求に係る各請求書の「原本」及び「欠損していない写し」のそれぞれであるところ,本件不開示決定1の処分理由の記載に照らすと,本件不開示決定1は,「欠損していない写し」についての決定をしていないものと考えられる。 このことからすれば,東京労働局長は,本件開示請求文書1を原本のみとし,「欠損していない写し」は含まれないと判断したものと考えられるから,本件不開示決定1には,対象文書の特定を誤った違法がある。 なお,「欠損していない写し」とは,請求書の最上部にある「支給決定支払決議書」の不動文字が消去されていないもので裏面を含めたもののことである(原告の有する各請求書の控えである甲6ないし8参照)。 |
イ | 中央労基署が●●●●号の請求書を取得したこと 原告は,本件労災保険給付請求に際し,中央労基署長に対し,療養補償給付に係る請求書として●●●●号及び●●●●号の各請求書を,休業補償給付に係る請求書として●●●●号の請求書を,それぞれ提出した。 被告は,●●●●号の請求はなかった旨を主張するが,原告が●●●●号の請求をしたことは,本件不支給決定に係る各伺い書(甲13,14)の「受付番号」欄に「第●●●●,●●●●号」と記載されていることや,本件労災保険給付請求に係る調査復命書(甲30)に●●●●号の請求に係る療養期間(昭和49年4月22日から昭和51年8月9日まで)の記載があること,本件労災保険給付請求において原告が作成して提出した「労災請求に関する意見書」(甲32)の記載内容(原告が休業補償給付請求書ほか2通を提出した等とするもの)等によっても裏付けられる。 他方,●●●●号の請求がなかったとすると,●●●●号の請求に係る請求権が時効により消滅しているにもかかわらず,本件不支給決定で時効が理由とされていないことや,●●●●号の請求と●●●●号の請求の間に長期の空白期間が生じるといった不都合が生じる。 別件不支給処分取消請求訴訟における被告の応訴態度や経過(甲21,22等)からすれば,●●●●号の請求があったことは,被告も承知していたと推測されるところであり,以上を踏まえれば,●●●●号の請求は存在していなければならないから,中央労基署において●●●●号の請求書を取得したことは明らかというべきである。 この点,被告は,●●●●号及び●●●●号の各請求書を取得したとする一方,●●●●号の請求書は取得していない旨を主張するが,●●●●号及び●●●●号の各請求書を取得したことを示すものを含め,主張の裏付けとなる証拠を何ら提出していない。 |
ウ | 各請求書及びその写しが廃棄されていないこと |
(ア) | 被告は,●●●●号及び●●●●号の各請求書を取得した事実はあるものの,その原本及び写しのいずれについても,文書の保存期間の満了により平成元年12月31日をもって廃棄された旨を主張する。 しかし,以下の①ないし③の点からすれば,●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本を含む本件労災保険給付請求に関する文書の保存期間はいまだ満了していないものと解すべきであるし,仮に,保存期間を満了したものであるとしても,以下の④ないし⑥の点等からすれば,保存期間の満了によりこれらが廃棄されたとするのは,極めて不自然,不合理である。 以上のほか,中央労基署長の作成に係る別件不支給処分取消請求訴訟に関する平成11年2月12日付けの報告書(甲24)に,添付書類として●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本が添付されていたこと(甲25の「関係資料一覧表」の文書番号5及び6番。なお,甲48の審査請求処理経過簿参照)等も踏まえれば●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本が保存期間の満了により廃棄されたということはできない。 |
① | 本件労災保険給付請求に関する文書は,同一案件に係るものとして一括してつづり,処理されるべきものである(労働基準監督署文書取扱及び保存規程〔乙11の1,19。以下「昭和51年文書規程」という。〕中の文書取扱規程〔以下「昭和51年文書取扱規程」という。〕20条1項,平成13年に制定された労働基準監督署・公共職業安定所文書管理規程〔乙20のもの〕28条1項参照)。 |
② | 上記のように,同一案件に係る文書は一括してつづらなければならず,その場合の保存期間は最も長いものを基準とし,同一事案に関連するものは取りまとめて編集するとされている(昭和51年文書規程中の文書保存規程〔以下「昭和51年文書保存規程」という。〕5条2項・3項,8条2項,平成21年に改正された後の労働基準監督署・公共職業安定所文書管理規程〔甲17のもの〕43条4項,45条1項参照)。 |
③ | その上で,係争中の案件に係る文書を廃棄することは,労働者災害補償保険法に抵触するものでもあるから,昭和51年文書保存規程6条にいう保存期間の起算に係る「文書が完結した」日とは,処分が確定した日と解すべきである。 |
④ | 文書の廃棄には一定の手続を経ることが必要とされる(昭和51年文書保存規程17条,労働基準監督署・公共職業安定所文書管理規程〔甲17のもの〕45ないし48条参照)ところ,本件労災保険給付請求に関する文書については,所定の廃棄の記録はなく,廃棄したとする年月日も不明である。 |
⑤ | 廃棄処分は,文書庫責任者である業務課等の長が行うものとされる(昭和51年文書保存規程3条2項,17条参照)から,業務課等への文書の引継ぎがなければその後の廃棄もないと考えられるところ,別件損害賠償請求訴訟における被告の準備書面(甲19)によれば,係争中の案件に係る文書は,主務各課(昭和51年文書保存規程8条1項参照)が引き続き保管するものとされている上,保存期間を満了した文書の主務各課から業務課等への引継ぎがあったことを示す記録もない。 |
⑥ | 別件損害賠償請求訴訟の控訴審において,被告は,少なくとも本件労災保険給付請求に係る保険給付記録票(以下「本件保険給付記録票」。という。)については,平成19年8月31日時点でその原本を保存していることを認める旨の主張(甲37の準備書面参照)をしていた。 |
(イ) | また,仮に,各請求書の原本が廃棄されたものであるとしても,写しは写しとして別途存在し得るものである。 すなわち,審査請求があった場合には,請求書の原本から2部の写しを作成し,1部を審査官に提出し,1部をその控えとして労働基準監督署が保有することになるから,審査請求の時点が各請求書の欠損していない写しが作成されたはずである。そして,被告の主張するように,●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本及び写しが,平成元年12月31日にいずれも廃棄処分されたとすると,審査請求のために作成された写しが,その決定が出る前に廃棄されたことになり,写しを保有した意味がない。また,前記(ア)で述べた平成11年2月12日付けの中央労基署長の報告書(甲24)に添付されていた●●●●号及び●●●●号の各請求書が原本ではなく写しであったとしても,同報告書が作成された当時,写しが存在していたことに変わりはない。したがって,●●●●号及び●●●●号の各請求書の「欠損していない写し」についても,平成元年12月31日に廃棄されていないはずである。 |
(被告の主張の要点) |
ア | 「欠損していない写し」についても決定がされたこと 本件不開示決定1は,原告が提出したとするものも含めた本件労災保険給付請求の各請求書の原本及び欠損していない写しのいずれについても,これを保有していないことを理由としてされた処分であり,対象文書の特定に誤りはない。 |
イ | 中央労基署が●●●●号の請求書を取得していないこと ●●●●号の請求書については,そもそも中央労基署がこれを取得した事実はなく,本件開示請求1がされた時点で東京労働局はこれに係る保有個人情報を保有していなかった。 なお,●●●●号の請求が存在しないことは,別件違法確認等請求訴訟においても認められている。 |
ウ | ●●●●号及び●●●●号の各請求書が廃棄されたこと |
(ア) | ●●●●及び●●●●号の各請求書については,中央労基署がこれを取得した事実はあるものの,その保存期間の満了日である平成元年12月31日をもって廃棄されたから,本件開示請求1がされた時点で東京労働局はこれに係る保有個人情報を保有していなかった。 すなわち,昭和51年文書保存規程の別表「文書編集類別基準表」(以下「昭和51年類別基準表」という。)によれば,労災保険給付の請求書は,「不支給・支給制限関係綴」に編綴され,保存期間は5年とされていた。そして,昭和51年文書保存規程6条は,保存期間の起算について,その文書が完結した年の翌年の始めから起算する旨を定めていたところ,本件不支給決定がされたのは昭和59年3月30日であることから,●●●●号及び●●●●号の各請求書は,その保存期間の満了日である平成元年12月31日をもって廃棄処分された。 |
(イ) | この点,原告は,●●●●号及び●●●●号の各請求書が廃棄されていない旨を主張する。 しかし,①文書が一括して保存されるべきであるとすることについて,原告は,通常業務における文書の取扱いに関する昭和51年文書取扱規程と完結した後の簿冊・書類名ごとの保存に関する昭和51年文書保存規程とを混同しているといわざるを得ないし,原告が指摘する各規程の定めも,保存期間の異なる行政文書を一括して保存すべき旨を定めたものではなく,②昭和51年文書保存規程6条にいう「文書が完結した」の意義については,昭和51年文書取扱規程の他の定めの内容に照らせば,当該文書の決裁又は発送が終了したことを意味すると解すべきである。 また,③文書の廃棄手続に関する記録が存在しないからといって,直ちに当該文書が廃棄されていないということはできないし,④原告が指摘する別件損害賠償請求訴訟の控訴審における被告(同訴訟の被控訴人)の主張は,東京労働局が保管していた訟務関係綴(労災保険給付に関する処分の取消しを求める訴えがあった場合に,その訴えの提起から訴訟の終了までの間に作成される各種文書を編綴したものをいう。以下同じ。)に本件保険給付記録票の写しがつづられていたことを,原告(同訴訟の控訴人)の釈明の求めに応じて説明したものにとどまる(なお,後記(2)(被告の主張の要点)イ(ウ)で述べるとおり,本件保険給付記録票の原本は,平成17年10月13日をもって保存期間満了により廃棄された。)。 |
(2) | 本件不開示決定2の適法性(争点2)について |
(原告の主張の要点) |
ア | 対象文書の特定の誤り 本件開示請求文書2は,別件不支給処分取消請求訴訟において乙号証として提出された文書(以下「別件の乙号証」という。)の元になった文書(複写元の文書)が編綴されている各綴一式であり,中央労基署が保有する文書がつづられた各綴一式のことである。 この点,被告は,本件開示請求2について,原告に確認をし,別件の乙号証に係る証拠説明書(甲2,乙2.別紙1)の「書証の標目」欄に「写し」と表示されたものの複写の元となった文書の開示を求める趣旨である旨の回答を得たと主張するが,そのような事実はない。 |
イ | 本件開示請求文書2が廃棄されていないこと 被告は,本件開示請求文書2が,文書の保存期間の満了により平成元年12月31日又は平成17年10月13日をもって廃棄された旨を主張するが,前記(1)(原告の主張の要点)ウ(ア)で述べたところのほか,本件各開示請求とは別に原告がした平成19年1月15日付けの保有個人情報の開示請求(甲16)について,本件労災保険給付請求に関して中央労基署が作成した調査復命書等の原本が存在することを前提とした補正がされたことも踏まえれば,本件開示請求文書2が廃棄されたはずはない。 |
(被告の主張の要点) |
ア | 対象文書の特定に誤りがないこと 東京労働局の担当官は,本件開示請求文書2の特定に当たり,原告の開示請求の趣旨をしんしゃくした上でこれを特定する必要があると考え,原告に対し,対象文書の内容についての確認をし,別件の乙号証に係る証拠説明書(甲2,乙2。別紙1)の「書証の標目」欄に「写し」と表示されたものの複写の元となった文書の開示を求めるものである旨の回答を得て,これを踏まえ本件開示請求文書2を特定した。 したがって,本件開示請求文書2の特定に誤りはない。 |
イ | 本件開示請求文書2が廃棄されたこと |
(ア) | 前記アの経緯を経て特定された本件開示請求文書2に該当する文書(別紙1の乙6ないし20,21の1ないし26,24,25,30ないし36,37の1ないし3,38ないし47)については,①乙34,35及び37の1ないし3は,●●●●号及び●●●●号の各請求書及び本件不支給決定に係る各通知書等であり,②乙36は,本件保険給付記録票であり,③その余は,中央労基署が作成した実地調査復命書につづられていたものである。 |
(イ) | 前記(ア)①の●●●●号及び●●●●号の各請求書については,前記(1)(被告の主張の要点)ウのとおり,平成元年12月31日をもって廃棄された。 また,本件不支給決定に係る各通知書等は,昭和51年類別基準表によれば,不支給決定決議文書とともに「不支給・支給制限関係綴」に編綴され,保存期間は5年とされており,同様に,上記同日をもって廃棄された。 |
(ウ) | 前記(ア)②の本件保険給付記録票については,昭和51年類別基準表によれば,「給付記録票(カード)」に該当し,保存期間は10年とされており,平成6年12月31日をもって保存期間満了となるところ,労働省労働基準局補償課長(当時)の発出に係る「労災保険給付関係争訟等に係る関係書類の保存,整備等について」と題する事務連絡(平成元年12月21日付け事務連絡第39号。乙15。以下「平成元年事務連絡」という。)により保存期間を延長して保管され,別件違法確認等請求訴訟の確定により,平成17年10月13日をもって保存期間満了により廃棄された。 |
(エ) | 前記(ア)③の実地調査復命書については,昭和51年類別基準表によれば,「各種復命書綴」に編綴され,保存期間は5年とされており,平成元年12月31日をもって保存期間満了となるところ,原告が本件不支給決定に対して昭和59年5月1日付けで審査請求をしていたので,平成元年事務連絡により保存期間を延長して保管され,別件違法確認等請求訴訟の確定により,平成17年10月13日をもって保存期間満了により廃棄された。 |
(3) | 本件不開示決定3の適法性(争点3)について |
(原告の主張の要点) 原告は,本件不開示決定1が「欠損していない写し」について決定していないと考えたことから,改めて本件開示請求3をしたものであり,これに関する主張は,前記(1)(原告の主張の要点)イ及びウのとおりである。 |
(被告の主張の要点) 本件開示請求文書3は,本件開示請求文書1のうち「欠損していない写し」に係るものであり,本件開示請求3がされた時点で東京労働局がこれに係る保有個人情報を保有していなかったことは,前記(1)(被告の主張の要点)イ及びウで述べたとおりである。 |
(4) | 本件不開示決定4の適法性(争点4)について |
(原告の主張の要点) |
ア | 対象文書の特定の誤り 原告が本件開示請求4で開示請求をした別紙2記載の各保有個人情報が記録された各文書のうち,①同別紙記載1に係る文書は,本件労災保険給付請求の各請求書を受理した際に対応した職員が原告とのやり取りを記録したものを,②同別紙記載15に係る文書は,原告が労働基準監督署に面会を求めた際の対応を記録したものを,③同別紙記載18に係る文書は,本件不支給決定に係る各通知書の労働基準監督署用の控え(甲25の文書番号5及び6)及びこれを原告に通知したことを記録したものを,それぞれ指しているから,これらが本件開示請求文書4に含まれないとした本件不開示決定4には,対象文書の特定を誤った違法がある。 この点,被告は,本件各開示請求とは別に原告がした過去の開示請求によって,東京労働局が保有するものは既に開示されていたこと等を踏まえ本件開示請求文書4を特定した旨を主張するが,原告が既に開示を受けていたのは中央労基署が保有するものであるから,被告の上記主張は,事実と異なる。 |
イ | 本件開示請求文書4が作成されており,その後に廃棄されていないこと 本件開示請求文書4は,いずれも中央労基署等において作成されたはずである。 すなわち,①別紙2記載1,2,3,5,15等に係る文書は「職業性疾病の補償事務手引」(甲50)により,②別紙2記載7に係る文書は「労災保険審査請求事務取扱手引」(甲49)により,③別紙2記載18に係る文書のうち本件不支給決定を原告に通知したことを示す記録は「業務上疾病の認定事務手引」(甲26)により。それぞれ作成が求められていた。また,④別紙2記載6に係る各復命書については,被告も作成したことを認めているから,原告がこれまでに開示を受けたことがないものも含め,他の復命書等(甲30,39,40)とともに作成されていたはずであり,⑤別紙2記載20に係る文書は,労災保険給付請求をした労働者ごとに作成されるはずのものであるから,原告についても作成されたはずである。 以上のとおり,本件開示請求文書4はいずれも作成されたはずであるところ,これらが廃棄されたといえないことは,前記(1)(原告の主張の要点)ウ(ア)で述べたところのほか,本件不支給決定について原告がした審査請求に係る審査請求処理経過簿(甲48)において,審査官が平成6年3月17日に中央労基署に対し不支給決定伺い書の提出を依頼した旨の記載があることからも裏付けられる。 |
(被告の主張の要点) |
ア | 対象文書の特定に誤りがないこと 別紙2記載の各保有個人情報が記録された各文書は,取得されたか否かを確認できないものもあるが,仮に中央労基署においてそれらを取得していたとすれば,①保険給付請求書処理簿(別紙2記載1),②実地調査復命書(別紙2記載2ないし14,19及び20),③不支給決定の通知書及び保険給付請求書(別紙2記載15及び18)並びに④本件保険給付記録票(別紙2記載20)となる。 そして,東京労働局長は,同局において保管している原告に係る文書が,審査関係綴(審査官等に対する審査請求や労働保険審査会と対する再審査請求があった場合に,原処分庁において手控えとして作成,保存する文書〔審査庁に対して提出した文書の写し〕一式をいう。以下同じ。)及び訟務関係綴のみであることや,訟務関係綴に編綴されていた乙号証の写し(地裁分)と審査関係綴は,いずれも既に原告に開示されていたこと,原告が本件開示請求4で開示請求をした別紙2記載の各保有個人情報に上記審査関係綴及び訟務関係綴の中に編綴されていない文書が多く含まれていたこと等を踏まえ,本件開示請求4が,中央労基署の保有する上記各文書の原本の開示を求めるものであると判断し,本件開示請求文書4を特定した。 したがって,本件開示請求文書4の特定に誤りはない。 |
イ | 本件開示請求文書4が廃棄されたこと 前記アのとおり特定された本件開示請求文書4のうち,②本件労災保険給付請求に関する実地調査復命書,③本件不支給決定に係る各通知書並びに●●●●号及び●●●●号の各請求書並びに④本件保険給付記録票の各原本は,前記(2)(被告の主張の要点)イで述べたとおり,いずれも保存期間の満了により廃棄された。 他方,①保険給付請求書処理簿については,昭和51年類別基準表によれば,「給付請求書受付処理簿」に編綴され,保存期間は5年とされていたところ,本件不支給決定がされたのは昭和59年3月30日であることから,その保存期間の満了日である平成元年12月31日をもって廃棄された。 |
(5) | 本件不開示決定5の適法性(争点5)について |
(原告の主張の要点) |
ア | 対象文書の特定の誤り 本件開示請求文書5は,本件保険給付記録票を含む「保険給付記録票(原本)が編綴されていた綴一式,及び同綴の名称ないし名称がわかるもの」である。 すなわち,被告は,審査資料にもなく,中央労基署長の作成に係る別件不支給処分取消請求訴訟に関する平成11年2月12日付けの報告書(甲24)に添付された関係資料一覧表(甲25)にも記載のなかった本件保険給付記録票について,同訴訟において,平成14年6月ころに「発見できた」(甲22)として,これを乙号証として提出し,また,前記(1)(原告の主張の要点)ウ(ア)⑥のとおり,別件損害賠償請求訴訟の控訴審において平成19年8月31日の時点で本件保険給付記録票が保存されていたことを認めている。これらからすれば,本件保険給付記録票の原本は,これまでに原告の開示請求に応ずる等して提出された資料とは別の綴において,原告に関する関係文書とともに保管されていたと考えられるから,原告は,本件開示請求5において,本件保険給付記録票の原本及びこれが編綴されていた当該綴の開示を求めたものである。 |
イ | 本件開示請求文書5が存在し,その後に廃棄されていないこと 被告は,本件保険給付記録票について,他の労災保険給付請求者のものと一緒に編綴されていたと主張するが,もしそうであったとすると,昭和58年度中に保険給付の支払を終了した他の記録票とともに,平成6年12月31日をもって保存期間満了により廃棄されたはずであるから,廃棄されたのが平成17年10月13日であるとする被告の主張とは整合しない。このことからすれば,本件保険給付記録票は,他の労災保険給付請求者のものとともに編綴されていたのではなく,原告に係る他の関係文書一式とともに保管されていたと考えられるから,本件開示請求文書5である本件保険給付記録票の原本及びこれが編綴されていた綴は存在するはずである。 また,本件開示請求文書5が廃棄されていないことは,前記(1)(原告の主張の要点)ウ(ア)⑥で述べたとおりである。 |
(被告の主張の要点) |
ア | 対象文書の特定に誤りがないこと 保険給付記録票は,労働保険番号順に配列し,保管することとなっているから,本件保険給付記録票がつづられた綴には,他の労災保険給付請求者の保険給付記録票も編綴されている。したがって,本件開示請求文書5は,綴一式ではなく,本件保険給付記録票の原本のみとなるから,これを本件開示文書5であると特定したことに誤りはない。 |
イ | 本件開示文書5が廃棄されたこと 前記アのとおり特定された本件開示文書5である本件保険給付記録票の原本は,前記(2)(被告の主張の要点)イ(ウ)で述べたとおり,平成17年10月13日をもって廃棄された。 |
(6) | 本件義務付けの訴えの適法性等(争点6)について |
(原告の主張の要点) 前記(1)(原告の主張の要点)アで述べたとおり,本件不開示決定1は,「欠損していない写し」について決定しておらず,かつ,本件労災保険給付請求の各請求書の欠損していない写しは存在するから,開示されなければならない。したがって,本件義務付けの訴えは適法であり,かつ,その請求には理由がある。 |
(被告の主張の要点) 前記(1)(被告の主張の要点)アで述べたところからすれば,本件義務付けの訴えは行政事件訴訟法37条の3第1項2号所定の類型のいわゆる申請型義務付け訴訟に当たる。そして,本件不開示決定1が適法であり,取り消されるべきものに当たらないことは,前記(1)(被告の主張の要点)で述べたとおりであるから,本件義務付けの訴えは不適法である。 |
第3 | 当裁判所の判断 |
1 | 本件不開示決定1の適法性(争点1)について |
(1) | 本件不開示決定1の対象とされる文書の範囲について 争点6(本件義務付けの訴えの適法性等)にも関連する事項として上記の点について判断すると,行政機関個人情報保護法,13条1項2号は,保有個人情報の開示請求は,開示請求に係る保有個人情報が記録されている行政文書(同法2条3項参照)の名称その他の開示請求に係る保有個人情報を特定するに足りる事項を記載した書面を行政機関の長に提出してしなければならない旨を規定しているところ,前記第2,2「前提事実」(以下「前提事実」という。)(2)ア(ア)のとおり,原告は,この規定に基づき,本件開示請求1に係る保有個人情報が記録されている文書として,本件労災保険給付請求の際に提出したとする3通の請求書(●●●●号,●●●●号及び●●●●号の各請求書)の原本及びその「欠損していない写し」の開示を求めたものである。 そして,本件不開示決定1は,前提事実(2)ア(イ)のとおり,本件開示請求1に係る保有個人情報の全部を開示しないとしたものであるところ,本件開示請求1の内容が上記のようなものであったことに照らすと,本件不開示決定1については,原告が本件開示請求文書1において開示を求めたものが上記3通の請求書の原本及びその「欠損していない写し」であることを前提として,これらの全てを保有していないことを理由としてされた処分であることは明らかということができる。 原告は,本件不開示決定1では「欠損していない写し」の開示を求める部分についての決定がされていない旨を主張するが,上記に述べたとおりであって,採用することができない。 |
(2) | 本件開示請求文書1の存否について |
ア | 主張立証の在り方について 行政機関個人情報保護法12条1項が規定する開示請求権の対象となる保有個人情報とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして,当該行政機関が保有しているもののうち,行政文書に記録されているものをいう(同法2条3項)。そうすると,行政機関において開示請求に係る保有個人情報が記録された行政文書を保有していることは,同法に規定するところに従って保有個人情報の開示がされる前提であるということができるから,同法13条1項の規定に基づく開示請求に対して行政機関が当該開示請求に係る保有個人情報が記録された行政文書を保有していないことを理由としてした当該保有個人情報を開示しない旨の決定の取消しを求める訴訟においては,当該決定の取消しを求める原告が,当該決定がされた時点において行政機関が当該保有個人情報が記録された行政文書を保有していたことを証明すべきものと解するのが相当である。 そして,過去の特定の時点において,行政機関が当該行政文書を保有していたことが認められた場合は,当該行政文書はその後も行政機関において保有されているものと推認することが排除されないということができるから,そのような場合にあっては,被告において,その後に当該行政文書が廃棄されたこと等の事実を主張立証すべきであると解される。 以下,これを前提に検討する。 |
イ | 本件開示請求文書1のうち●●●●号の請求に係るものについて |
(ア) | 原告は,本件労災保険給付請求の際に●●●●号の請求書を中央労基署長に提出して労災保険給付の請求をし,中央労基署においてこれを取得した旨を主張するが,前提事実(1)エ及びオのとおり,●●●●号の請求の存否は,別件違法確認等請求訴訟及び別件損害賠償請求訴訟においても主要な争点とされ,そのいずれの訴訟においても,●●●●号の請求があったとは認められない旨認定判断されたものである。そして,本件における原告の主張に一応沿うと見られる証拠もないわけではないものの,これらの証拠のみによっては,上記の各訴訟における従前の認定判断とは異なる認定判断をして,●●●●号の請求があったと認めるには足りず,また,これらの証拠と他の証拠及び弁論の全趣旨を総合勘案しても,なお,上記の各訴訟における従前の認定判断と異なる認定判断をすべきものとはいい難いものというべきである。 |
(イ) | 前記(ア)で述べたとおり,●●●●号の請求があったと認めることはできないから,中央労基署において本件労災保険給付請求の際に●●●●号の請求書を取得したと認めることはできず,他に,本件不開示決定1がされた時点までに,中央労基署又は東京労働局において●●●●号の請求書を取得したことをうかがわせる証拠ないし事情は見当たらない。そして,●●●●号の請求書の写しについても,同様に,中央労基署又は東京労働局において,これを取得し,又は作成したと認めることはできない。 |
(ウ) | したがって,本件不開示決定1がされた時点において,東京労働局が●●●●号の請求書の原本又はその「欠損していない写し」を保有していたと認めることはできないから,本件不開示決定1のうちこれらを開しない旨決定した部分に違法はないものというべきである。 |
ウ | 本件開示請求文書1のうち●●●●号及び●●●●号の各請求に係るものについて |
(ア) | 中央労基署において本件労災保険給付請求の際に●●●●号及び●●●●号の各請求書を取得したことは,当事者間に争いがないところ,被告は,これらの請求書はいずれも文書の保存期間の満了により本件開示請求1がされるよりも前に廃棄されたから,東京労働局は,本件開示請求1がされた時点において,これらを保有していなかった旨を主張する。 そこで検討するに,証拠(乙11の1,19)によれば,本件労災保険給付請求がされた当時に中央労基署において施行されていた昭和51年文書保存規程4条1項は,保存を要する文書(完結文書及び簿冊。同規程1条1項参照)を別表の基準により類別整理する旨を,同規程5条は,保存を要する文書の保存期間を第1類から第5類までとして永年,10年,5年,3年及び2年に区分する旨を,同規程6条は,文書の保存期間は,その文書が完結した年の翌年の初めから起算する旨を,それぞれ定め,同規程別表である昭和51年類別基準表は,労災業務関係の分掌区分中の「簿冊・書類名」として「不支給・支給制限関係綴」を設け,その保存期間を第3類である5年とする旨を定めていたことが認められる。 そして,前提事実(1)アのとおり,●●●●号及び●●●●号の各請求に対して本件不支給決定がされ,それらの通知書に係る日付が昭和59年3月30日であったことからすれば●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本は,昭和51年文書規程の定めに従えば,いずれも上記の「不支給・支給制限関係綴」に編集されて保存され,その保存期間は5年であって,各請求書の上欄を用いてされた決裁(甲11,12)に基づき本件不支給決定がされた年の翌年の初めである昭和60年1月1日から起算して5年を経過する日である平成元年12月末日の経過をもって,その保存期間を満了することとなるものと解するのが相当である。 |
(イ) | ところで,原告は,●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本を含む本件労災保険給付請求に関する文書の保存期間が満了していない旨を主張し,その根拠として,①昭和51年文書取扱規程20条1項や昭和51年文書保存規程8条2項の定めによれば,労災保険給付請求に関する文書は一括して保存すべきものとされており,現に本件労災保険給付請求の関係文書は一括して保存されていたはずであるところ,その場合の保存期間は,同規程5条2項の定めにより,そのうちの長期のものによるとされること,②同規程6条にいう「文書が完結した」とは,当該文書に係る決裁を了し,その通知が発送されたことをいうのではなく,当該処分が確定した日(本件にあっては別件不支給処分取消請求訴訟に係る原告の上告の棄却等の決定がされた平成15年10月9日)であると解すべきであることを,それぞれ主張する。 しかし,①原告が指摘する昭和51年文書取扱規程(乙19)は,各労働基準監督署における文書の接受から決裁を経た上での施行までの取扱いについて定めたものであって(1条,7条ないし27条等),文書の保存の在り方について定めたものではないし,昭和51年文書保存規程8条2項(乙11の1,19)も,原告の主張するように同一事案に関連する文書をそれぞれの完結した年又はその保存期間のいかんにかかわらず一括して保存すべき旨を定めたものと解することはできず,他に,同規程において,原告の主張するような定めがされていたことを認めるに足りる証拠もない。 また,②昭和51年文書保存規程6条にいう文書の保存期間の起算に係る「文書が完結した」の意義についても,昭和51年文書規程において,原告が主張するように「処分が確定した」ことであると解すべき根拠となる定めは見当たらない。かえって,昭和51年文書取扱規程が,決裁を受け,又は発送その他の施行がされた文書のその後の取扱いに関する定めを設けていないこと(乙19)からすれば,昭和51年文書規程は,決裁を受け,又は発送等がされたことをもって,当該文書が完結したものとし,以降は,昭和51年文書保存規程の「完結文書」(1条1項)としてその定めるところに従って保存等がされるべきものとしていたと解されるから,「文書が完結した」の意義については,当該文書が決裁を受け,又は発送等がされたことをいうと解するのが相当である。 原告の上記の主張は,いずれも採用することができない。 |
(ウ) | 次いで,原告は,保存期間が満了したものであるとしても,●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本を含む本件労災保険給付請求に関する文書が廃棄されたとはいえない旨を主張し,その根拠として,①廃棄手続に関する記録が存在しないこと,②本件保険給付記録票が保存期間の満了後である平成19年8月31日の時点で存在していたこと(甲37),③●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本が保存期間の満了後である平成11年2月12日付けの中央労基署長の作成に係る報告書に添付書類として添付されていたこと(甲24,25)を,それぞれ主張する。 ところで,①昭和51年文書保存規程17条1項は,文書が保存期間を満了したときは,署長の決裁を受けた後,関係台帳に所要事項を記入する等した上で,廃棄処分に付するかのとする旨を定めており(乙19),本件において,廃棄処分に係る決裁の文書等について,それらが作成されたか否かも含めてその存在は確認されていない(争いがない)。しかし,既に述べたように●●●●号及び●●●●号の各請求書に係る保存期間の満了する日が平成元年12月末日であることを考慮すると,このような時期に保存期間の満了した文書につき廃棄処分に係る決裁の文書等が現在見当たらないとの一事をもって,直ちに,当該文書につき廃棄されたとの事実を認めることが妨げられるとまでいうことはできないものと考えられる(なお,原告は,別件損害賠償請求訴訟において提出された被告の準備書面〔甲19〕を挙げて,係争中の案件に係る文書については主務各課が引き続き保管するものとされていた旨を主張するが,上記の準備書面の記載をもって直ちに原告の主張するような事実の存在を認めるには足りず,他に上記の主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。)。 また,②本件保険給付記録票については,後記2(2)エで述べるとおり,その保存期間の経過した後である平成17年10月13日ころに廃棄されたものと認めるのが相当であり,さらに,③中央労基署長の作成に係る別件不支給処分取消請求訴訟に関する平成11年2月12日付けの報告書(甲24)に添付されたとされる●●●●号及び●●●●号の各請求書(甲25の文書番号5及び6番)が原本であったことを認めるに足りる証拠はない(同訴訟において乙号証として提出された●●●●号及び●●●●号の各請求書は,いずれも写しを原本として提出されたものである〔甲2,乙2〕。)。 |
(エ) | 以上を総合すると,●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本については,その保存期間の末日である平成元年12月末日の経過をもって保存期間を満了し,そのころに廃棄されたものと推認され,本件全証拠をもっても,このように推認することを妨げるような事情を認めるには足りない(なお,平成元年12月21日付けの平成元年事務連絡において,労災保険給付に関する処分について審査請求がされた場合には,争訟終結までの間,処分の直接の根拠となった資料のほか,処分に関連する資料で将来必要になると見込まれるものを保存することが求められていた〔乙15〕から,●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本を上記のとおり廃棄したことについては,行政庁の内部の取扱いとじて議論の余地が残るものであるとしても,そのような事情をもっては,なお,上記の推認を覆すには足りないものというべきである。)。 したがって,本件不開示決定1がされた時点において,東京労働局がこれらを保有していたと認めることはできないから,本件不開示決定1のうち●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本を開示しない旨決定した部分に違法はないものというべきである。 |
(オ) | 他方,●●●●号及び●●●●号の各請求書の欠損していない写し」(その最上部に「支給決定支払決議書」の不動文字が記載されたもので裏面を含めたもの)について検討するに,証拠(甲49)及び弁論の全趣旨によれば,労働基準監督署長の処分について審査請求がされた場合,運用上,原処分庁は,審査庁に対し,処分の正当性を主張する書面を提出するとともに,証拠書類として請求書の原本の写し等を提出するものとされていることが認められ,その際,原処分庁が,手控えとして,提出した書面や証拠書類の写し一式を作成し,審査関係綴として保存する取扱いをしていることは,当事者間に争いがない。 ところで,原告が控えとして保有しているとするもの(甲6,8)を参照しても,原告が問題とする「支給決定支払決議書」の不動文字の部分が,審査請求や再審査請求の審理において,原処分の当否を判断する上で特に必要となるものでないことは明らかであり,中央労基署において,審査庁等への提出に係る●●●●号及び●●●●号の各請求書の写しの手控えを作成するに当たって,当該不動文字の部分が欠落した形でその表面につき写しを作成したとしても不自然とまではいい難く,また,●●●●号の請求については,原告が請求書の控えとして保有しているものにも,裏面に関するものがなく(甲6),●●●●号の請求については,その請求書の裏面の記入がなかったことは,原告の自認するところであって(なお,甲8参照),他に,中央労基署において,原告のいう「欠損していない写し」について,これを作成して保存していたことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,●●●●号及び●●●●号の各請求書の「欠損していない写し」についても,本件不開示決定1がされた時点において,東京労働局がこれらを保有していたと認めることはできないから,本件不開示決定1のうち●●●●号及び●●●●号の各請求書の「欠損していない写し」を開示しない旨決定した部分についても,違法はないものというべきである。 |
(3) | 小括 本件不開示決定1については,原告のその余の主張を考慮したとしても,その適法性に疑問を生じさせるような証拠ないし事情は見当たらない。 したがって,本件不開示決定1は適法であるということができる。 |
2 | 本件不開示決定2の適法性(争点2)について |
(1) | 本件不開示決定2における対象文書の特定の誤りに関する原告の主張について 前提事実(2)イ(ア)のとおり,原告は,本件開示請求2において,「別件不支給処分取消請求訴訟において裁判所に提出された,別紙記載の乙号証を複写した原紙が編綴されて。いる各綴一式」の開示請求をしたものである。そして,被告は,本件開示請求2に係る保有個人情報の範囲について,前記第2,4(2)(被告の主張の要点)に記載のとおりであると理解したと主張し,それについては,そこに掲げられた各文書に係る原本がこれに当たるとしたものと解されるところ,このような被告の主張に関する文書は,仮に存在したとすれば,その性質等に照らすと,本件開示請求文書2に含まれ得るというべきである。原告は,本件開示請求文書2には他の保有個人情報も含まれる旨主張するが,そのような事情をもって,上記のような理解の下にその対象とされる保有個人情報についてされた本件不開示決定2について,その適法性を左右するものに当たるとは解し難い。 |
(2) | 本件不開示決定2に係る本件開示請求文書2の存否について |
ア | 本件不開示決定2に係る本件開示請求文書2の範囲は,前記(1)で述べたとおりであるところ,被告は,これらは保存期間の満了により廃棄された旨を主張するので,以下検討する。 |
イ | 別紙1記載の別件の乙号証中の「証拠の標目」欄に「写し」と記載されたもののうち,①乙34は●●●●号の請求書に,乙35は●●●●号の請求書に,乙37の1ないし3は本件不支給決定に係る各通知書(甲9,10参照)及びその封筒に,それぞれ対応し,②乙36は本件保険給付記録票(甲15参照)に対応することは,弁論の全趣旨により明らかである。そして,③その余のものについては,本件労災保険給付請求に関して中央労基署において作成された実地調査復命書につづられていた文書が複写の元となっていたものである(弁論の全趣旨)。 |
ウ | 前記イ①のうち●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本については,前記1(2)ウで述べたとおり,平成元年12月末日の経過をもって保存期間を満了し,そのころに廃棄されたものと認めるのが相当である。 また,本件不支給決定に係る各通知書及びその封筒の各原本については,前提事実(1)アのとおり,本件労災保険給付請求に対して本件不支給決定がされたものであることからすれば,●●●●号及び●●●●号の各請求書の原本と同様に,昭和51年類別基準表の「不支給・支給制限関係綴」に編集されて保存され,平成元年12月末日の経過をもって保存期間を満了し,そのころに廃棄されたものと推認するのが相当である。 |
エ | 前記イ②の本件保険給付記録票の原本については,証拠(乙11の1)及び弁論の全趣旨によれば,昭和51年類別基準表の労災業務関係の分掌区分中の「簿冊・書類名」を「給付記録票(カード)」とするものに該当し,その保存期間は10年であったと認められるから,既に述べたところによりそれが完結した年と認められる昭和59年の翌年の初めである昭和60年1月1日をその保存期間の起算日とし,平成6年12月末日の経過をもって保存期間を満了すべきものであったということができる。 もっとも,前提事実(1)イのとおり,当時は原告が本件不支給決定についてした審査請求がいまだ審理中であったところ,本件保険給付記録票の原本については,既に述べた平成元年事務連絡に沿って,争訟終結まで保存されることになったことは,被告の自認するところである。そして,前提事実(1)ウのとおり,本件不支給決定に関連する別件違法確認等請求訴訟に係る原告敗訴の第1審判決が平成17年10月13日に確定したことからすれば,本件保険給付記録票の原本につき,そのころ廃棄したとする被告の主張に沿う事情について,これを推認することが不合理であるとはいい難い(なお,上記の間に,平成13年に定められた労働基準監督署・公共職業安定所文書管理規程〔乙20〕が施行されているが,その定めの中にも,上記のように推認することを妨げるものは見当たらない。)。 |
オ | 前記イ③の本件労災保険給付請求に係る実地調査復命書につづられていた文書の原本については,証拠(乙11の1)及び弁論の全趣旨によれば,昭和51年類別基準表の各課等共通のものの分掌区分中の「簿冊・書類名」を「各種復命書綴」とするものに該当し,その保存期間は5年であったと認められるから,●●●●号及び●●●●号の各請求書と同様に,それらが完結した年と認められる昭和59年の翌年の初めの日を起算日とし,平成元年12月末日の経過をもって保存期間を満了すべきものであったということができるが,前記エで述べたところと同様に,平成元年事務連絡に沿って,争訟終結まで保存されることとなり,別件違法確認等請求訴訟に係る原告敗訴の第1審判決が確定した平成17年10月13日ころに廃棄されたものと認めるのが相当である。 |
カ | この点,原告は,本件開示請求文書2が廃棄されたとはいえない旨を主張するが,前記1(2)ウで述べたところに照らし,その主張を採用することはできない。 なお,原告は,本件各開示請求とは別に原告がした平成19年1月15日付けの保有個人情報の開示請求(甲16)について,本件労災保険給付請求に関して中央労基署が作成した調査復命書等の原本が存在することを前提とした補正がされた旨を主張する。しかし,①原告は,上記の日に,東京労働局長に対し,行政機関個人情報保護法13条1項の規定に基づき,「昭和52年11月19日付私の労災保険給付請求に係る関係文書全部(含,(再)審査請求,訴訟関係文書)」の開示請求をした(甲16)ところ,②東京労働局長は,原告の①の開示請求の対象となる行政文書の特定が困難であったことから,同開示請求について,「東京労働局が保有する昭和52年11月19日付私の労災保険給付請求に係る不支給処分取消請求に関する国側が提出した書証(乙号証)の写し(地裁分のみ。)」(東労発総個開第18-110号。以下,補正後のこの保有個人情報の開示請求を「18-110号の開示請求」という。)ほか1件の開示請求とする旨の補正を経た上で,平成19年2月1日付けでこれを受理し(乙24,弁論の全趣旨),③東京労働局長は,18-110号の開示請求に対し,平成19年3月26日,全部を開示する旨の決定をし,原告にその旨を通知した(乙25)ことが認められる。このような経過に照らせば,当該補正が原本の存在を前提とするものでなかったことは明らかというべきであり,他に原告の主張に係る事実を認めるに足りる証拠もない。 |
キ | 以上のとおり,本件不開示決定2がされた時点において,東京労働局が同決定に係る本件開示請求文書2を保有していたと認めることはできないから,これらを開示しない旨決定した本件不開示決定2に違法はないものというべきである。 |
(3) | 小括 本件不開示決定2については,原告のその余の主張を考慮したとしても,その適法性に疑問を生じさせるような証拠ないし事情は見当たらない。 したがって,本件不開示決定2は適法であるということができる。 |
3 | 本件不開示決定3の適法性(争点3)について 原告は,本件開示請求3において,●●●●号,●●●●号及び●●●●号の各請求書の「欠損していない写し」の開示を求めたものであると解されるところ,本件不開示決定1がされた平成20年10月6日の時点において,東京労働局が,これらを保有していなかったことは,前記1(2)で述べたとおりであり,その後にこれらを保有するに至ったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,本件不開示決定3がされた時点において,東京労働局が同決定に係る本件開示請求文書3を保有していたと認めることはできないから,これらを開示しない旨決定した本件不開示決定3に違法はないものというべきであり,本件不開示決定3は適法であるということができる。 |
4 | 本件不開示決定4の適法性(争点4)について |
(1) | 本件不開示決定4における対象文書の特定の誤りに関する原告の主張について 前提事実(2)エ(ア)のとおり,原告は,本件開示請求4において,別紙2記載の各保有個人情報の開示請求をしたものである。そして,被告は,本件開示請求4に係る保有個人情報の範囲について,前記第2,4(4)(被告の主張の要点)に記載のとおりであると理解したと主張するものであるところ,このような被告の主張に関する文書は,仮に存在したとすれば,その性質等に照らすと,本件開示請求文書4に含まれ得るというべきである。原告は,本件開示請求文書4には他の保有個人情報も含まれる旨主張するが,そのような事情をもって,上記のような理解の下にその対象とされる保有個人情報についてされた本件不開示決定4について,その適法性を左右するものに当たるとは解し難い。 |
(2) | 本件不開示決定4に係る本件開示請求文書4の存否について |
ア | 本件不開示決定4に係る本件開示請求文書4の範囲は,前記(1)で述べたとおりであるところ,そのうち,本件労災保険給付請求に係る実地調査復命書,本件不支給決定に係る各通知書,●●●●号及び●●●●号の各請求書並びに本件保険給付記録票の各原本については,それらのいずれもが平成17年10月13日ころまでに廃棄されたと推認されるべきものであることは,これまでに述べたとおりである。 また,本件労災保険給付請求に係る保険給付請求書処理簿の原本については,証拠(乙11の1)及び弁論の全趣旨によれば,昭和51年類別基準表の労災業務関係の分掌区分中の「簿冊・書類名」を「給付請求書受付処理簿」とするものに該当し,その保存期間は5年であったと認められるから,既に述べたところによりそれが完結した年と認められる昭和59年の翌年の初めの日である昭和60年1月1日,をその保存期間の起算日とし,平成元年12月31日の経過をもって保存期間を満了し,そのころ廃棄されたものと推認するのが相当である。 |
イ | 原告は,本件開示請求文書4には,本件不支給決定に係る中央労基署の内部の決裁書類である各伺い書が含まれるところ,本件不支給決定について原告がした審査請求に係る審査請求処理経過簿(甲48)において,審査官が平成6年3月17日に中央労基署に対し上記の各伺い書の提出を依頼した旨の記載があることからすれば,その当時にそれらの原本が存在していたはずである旨を主張する。しかし,審査官による上記の依頼がされたからといって,そのことのみから,その当時に中央労基署が当該各伺い書の原本を保有していたことが直ちに導かれるものではないというべきであるから,原告の上記の主張については,採用することができない。 そうすると,本件不開示決定4がされた時点において,東京労働局が同決定に係る本件開示請求文書4を保有していたと認めることはできないから,これらを開示しない旨決定した本件不開示決定4に違法はないものというべきである。 |
(3) | 小括 本件不開示決定4については,原告のその余の主張を考慮したとしても,その適法性に疑問を生じさせるような証拠ないし事情は見当たらない。 したがって,本件不開示決定4は適法であるということができる。 |
5 | 本件不開示決定5の適法性(争点5)について |
(1) | 本件不開示決定5における対象文書の特定の誤りに関する原告の主張について 前提事実(2)オ(ア)のとおり,原告は,本件開示請求5において,「請求人にかかる保険給付記録票(原本)が編綴されていた綴一式,及び同綴の名称ないし名称がわかるもの(中央労働基準監督署)」の開示請求をしたものである。そして,被告は,本件開示請求5に係る保有個人情報の範囲について前記第2,4(5)(被告の主張の要点)に記載のとおりであると理解したと主張するものであるところ,このような被告の主張に関する文書は,仮に存在したとすれば,その性質等に照らすと,本件開示請求文書5に含まれ得るというべきである。原告は,本件開示請求文書5には他の保有個人情報も含まれる旨主張するが,そのような事情をもって,上記のような理解の下にその対象とされる保有個人情報についてされた本件不開示決定5について,その適法性を左右するものに当たるとは解し難い。 |
(2) | 本件不開示決定5に係る本件開示請求文書5の存否について 本件不開示決定5に係る本件開示請求文書5は,本件保険給付記録票の原本であるところ,これが平成17年10月13日ころに廃棄されたと推認されるべきものであることは,前記2(2)エで述べたとおりである。 そうすると,本件不開示決定5がされた時点において,東京労働局が同決定に係る本件開示請求文書5を保有していたと認めることはできないから,これらを開示しない旨決定した本件不開示決定5に違法はないものというべきである。 |
(3) | 小括 本件不開示決定5については,原告のその余の主張を考慮したとしても,その適法性に疑問を生じさせるような証拠ないし事情は見当たらない。 したがって,本件不開示決定5は適法であるということができる。 |
6 | 本件義務付けの訴えの適法性及び適否(争点6)について 本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号,37条の3第1項2号が規定するいわゆる申請型の義務付けの訴えであると解されるところ,このような訴えにおいては,法令に基づく申請を却下し,又は棄却する処分がされた場合において,当該処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるときに限り提起することができるとされるが,本件において,本件不開示決定1の取消しを求める原告の請求に理由がないことは,前記1で述べたとおりであるから,本件不開示決定1が取り消されるべきものであるということはできない。 したがって,本件義務付けの訴えは,同法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を満たさない訴えであり,不適法なものであるといわざるを得ない。 |
第4 | 結論 よって,本件訴えのうち本件義務付けの訴えに係る部分については不適法であるからこれを却下し,本件訴えのその余の部分に係る原告の請求についてはいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
東京地方裁判所民事第3部 |