諮問庁 | : | 国税庁長官 |
諮問日 | : | 平成26年 8月15日(平成26年(行情)諮問第445号) |
答申日 | : | 平成27年 6月26日(平成27年度(行情)答申第167号) |
事件名 | : | 特定年度分の税理士試験研究認定申請者名簿等の一部開示決定に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
以下に掲げる文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした各決定については,別紙2に掲げる部分を開示すべきである。
文書1 税理士試験研究認定申請者名簿(平成23年度ないし平成25年度分)
文書2 認定申請者名簿(税法)(平成23年度ないし平成25年度分)
文書3 認定申請者名簿(会計学)(平成23年度ないし平成25年度分)
第2 | 異議申立人の主張の要旨 |
1 異議申立ての趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成26年4月3日付け官人6-5ないし6-7により国税庁長官(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った各一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。
(1)異議申立書
異議申立人がした行政文書開示請求に対し,一部不開示と決定した処分は,法5条1号の解釈適用を誤ったものである。
(2)意見書
ア 下記第3の1ないし3の諮問庁の説明について
本件開示請求の経緯,法令,開示文書についての記載であり,事実と相違なく,争わない。
イ 下記第3の4の諮問庁の説明について
(ア)第1段落及び第3段落については,法令の記載及びただし書の適用に関する記載であり,事実と相違なく,争わない。
(イ)第2段落については争う。
本件開示文書については,論題,研究領域以外の箇所については,他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる情報に該当する可能性があると思料するが,単に論題,研究領域のみを開示するのであれば,他の情報と照合することによっても,特定の個人を識別することはできない。
そもそも,異議申立人は当初の行政文書開示請求書には,論文題目の開示を求めていたところ,本件対象文書のとおり当該情報を含む行政文書の名称に補正するよう求められ,そして,当該文書に個人を特定する箇所が含まれていたため,本来請求していた部分が不開示とされたものである。すなわち,諮問庁が開示請求の趣旨を失念し,「開示する箇所」と「不開示にする箇所」を誤ったものであるといわざるを得ない。
また,当該研究内容の題目の情報が公にされても,既に研究に対してなされた国税審議会の認定には何らの影響もなく,税理士試験も終了しているため,個人の権利利益が害されるおそれは一切ない。むしろ,納税という憲法上の義務を負う国民は,当然に租税公課について関心を持っているものであり,研究内容の題目は税に関する解釈や争点を明確にする性質のものであるため,一層の公開が図られることが望ましいと思料する。
ウ 異議申立人の主張について
以上のとおり諮問庁は,法5条1号の適用を誤ったというべきで,不当であり,原処分は取消しされなければならず,個人が特定できる情報を除いては部分ないし全部公開すべきである。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
1 本件異議申立ての併合及び諮問について
本件異議申立ては,「平成23年度税理士試験研究認定申請者名簿,平成23年度分認定申請者名簿(税法)及び認定申請者名簿(会計学)」,「平成24年度税理士試験研究認定申請者名簿,平成24年度分認定申請者名簿(税法)及び認定申請者名簿(会計学)」及び「平成25年度税理士試験研究認定申請者名簿,平成25年度分認定申請者名簿(税法)及び認定申請者名簿(会計学)」の開示請求に対する別紙1の各一部開示決定に対してなされたものであり,本件諮問に当たり,当該3件の異議申立てを併合し,諮問を行う。
2 本件開示請求書等について
本件開示請求は,国税庁長官(処分庁)に対して本件対象文書の開示を求めるものである。
処分庁は,対象となる年分ごとの本件対象文書を特定し,平成26年4月3日付け官人6-5,6-6及び6-7により,その一部については,法5条1号の不開示情報に該当するとして,法9条1項に基づき一部開示決定(原処分)を行っている。
これに対し,異議申立人は,原処分の取消しを求めていることから,以下,原処分で不開示とした部分(以下「本件不開示部分」という。)の不開示情報該当性について検討する。
3 本件対象文書について
(1)税理士試験は,税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的として行うこととなっている(税理士法6条)。また,税法に属する科目等に関する研究により修士の学位等を授与された者で税理士試験において税法に属する科目のいずれか1科目について合格した者が,当該研究が税法に属する科目等に関するものであるとの国税審議会の認定を受けた場合には,試験科目のうちの当該1科目以外の税法に属する科目について,免除することとしている(税理士法7条2項)。さらに,会計学に属する科目等の研究により修士の学位等を授与された者で,税理士試験において,会計学に属する科目のいずれか1科目について合格した者が,当該研究が会計学に属する科目等に関するものであるとの国税審議会の認定を受けた場合には,試験科目のうちの当該1科目以外の会計学に属する科目について,免除することとしている(税理士法7条3項)。この国税審議会の認定を受けようとする者は,申請書等に次の書類を添付しなければならないこととなっている(税理士法施行規則2条3項及び3条2項)。
① 修士の学位等を授与されたことを証する書面
② 成績証明書
③ 修士の学位等取得に係る学位論文の写し
④ 第4号様式による指導教授の証明書
⑤ 上記に掲げる書類のほか国税審議会が必要があると認めたもの
(2)上記(1)により提出された書類を基に本件対象文書を作成している。
(3)本件対象文書のうち「税理士試験研究認定申請者名簿」の不開示部分には,税理士試験に合格した者又は税理士試験の一部科目に合格した者に付番される「合格番号」,「一合番号」のほか,「受験地」,「受験番号」,「氏名」,修士の学位を取得した「大学院名」,「研究科名」,取得した修士の「学位名」,当該大学院の「指導教授」及び学位論文の「論題」等が記載されている。
また,「認定申請者名簿(税法)」及び「認定申請者名簿(会計学)」の不開示部分には,税理士試験に免除された者に付番される「免除番号」のほか,「ふりがな」,「氏名」,「生年月日」,修士の学位を取得した「大学院名(在籍期間)」,「研究科・学位の名称」,当該大学院の「指導教授(専門分野)」,学位論文の「論題」,当該大学院で履修した科目のうち「演習以外の科目名(担当者)単位数」及び「備考」等の事項が記載されている。
4 本件不開示部分の不開示情報該当性について
法5条1号は,個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを不開示情報と規定している。
本件不開示部分は,上記3(3)で述べたように,特定個人及び特定個人の指導教授に関する情報が記載されたものであり,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することができないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報に該当すると認められる。
また,本件不開示部分は,法5条1号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものとは認められず,さらに同号ただし書ロ及びハに該当する事情も認められない。
したがって,本件不開示部分は,法5条1号の不開示情報に該当すると認められる。
5 異議申立人の主張について
(1)異議申立人は,異議申立ての理由において,法5条1号の解釈適用誤りである旨主張する。
しかしながら,上記3(3)のとおり,本件不開示部分は,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することができないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報に該当すると認められる。
(2)以上のとおり,異議申立人の主張には理由がなく,原処分の妥当性を左右するものではない。
6 結論
以上のことから,本件対象文書につき,本件不開示部分は法5条1号の不開示情報に該当すると認められるため,原処分において不開示としたことは妥当であると判断する。
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
①平成26年8月15日 諮問の受理
②同日 諮問庁から理由説明書を収受
③同年9月4日 審議
④同月5日 異議申立人から意見書を収受
⑤平成27年6月10日 本件対象文書の見分及び審議
⑥同月24日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件対象文書について
本件対象文書は,税理士試験研究認定申請(以下「認定申請」という。)を行った申請者(以下「申請者」という。)につき,氏名,合格番号等の識別番号,修士の学位等を取得した大学院等の名称,指導教授及び論題等が,1名につき1行の形式で記載された一覧表である。
処分庁は,本件対象文書について,法5条1号に該当する部分を不開示とする各一部開示決定(原処分)を行った。
これに対し,異議申立人は,原処分の取消しを求め,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示部分の不開示情報該当性について検討する。
2 不開示部分の不開示情報該当性について
(1)法5条1号該当性について
本件対象文書については,申請者ごとに各行に記載された情報が,それぞれ一体として各申請者の個人に関する情報であって,当該個人を識別できるもの(以下「個人識別情報」という。)であり,法5条1号本文前段に該当する。
また,指導教授,大学院・研究科・学位,論題及び科目名(演習以外の科目名も含む。)の各情報については,それぞれ各行ごとに一体として当該指導教授又は当該科目の担当者の個人識別情報にも該当するものと認められる。
次に,法5条1号ただし書該当性について検討すると,税理士試験の受験者のうち誰がどの大学院・研究科において,いかなる研究を行って学位を得,認定申請を行ったかという事実は,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているとはいえないことから,同号ただし書イには該当せず,同号ただし書ロ及びハに該当すると認めるべき事情も存しない。
(2)法6条2項の部分開示について
ア 文書1ないし文書3の申請者の氏名及び生年月日(文書1を除く。),文書1の「合格番号」,「一合番号」,「受験地」及び「受験番号」の各欄並びに文書2及び文書3の免除番号について
当該部分のうち,氏名(ふりがなを含む。)及び生年月日は,いずれも特定の個人を識別することができることとなる部分(以下「個人識別部分」という。)であることから,部分開示の余地はなく,申請者ごとに付される合格番号,一合番号及び受験番号(受験地も一体のものと考えられる。)についても,それぞれ各申請者固有のものであり,これらを公にすることにより,一定の者には当該個人を特定する手掛かりとなり,税理士試験を受験している事実を知られ,当該個人の権利利益が害されるおそれがないとは認められないことから,部分開示をすることはできない。
イ 文書1の「指導教授」欄並びに文書2及び文書3の「指導教授(専門分野)」欄の指導教授名及び「演習以外の科目名(担当者)単位数」欄の担当者名について
当該部分には,それぞれ当該指導教授又は担当者の氏名が記載されており,個人識別部分に該当することから部分開示の余地はない。
ウ 文書1ないし文書3の「論題」欄について
(ア)当該部分には,申請者の修士の学位等を取得した際の学位論文の題名が記載されているものと認められる。
学位論文の公表状況について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,多くの大学院が,自らのウェブサイトで学位論文の題名を公表し,あるいは論文集を一般に又は一定の条件下で閲覧させるなどして公表しているとのことであった。
当審査会事務局職員をして大学院のウェブサイトを確認させたところ,諮問庁が説明するとおり,学位論文の題名及び執筆者を掲載し,又は論文集を一般に又は一定の条件下で閲覧に供している大学院が多数存することが認められた。
(イ)そこで検討すると,学位論文の題名及び執筆者については,上記のように一般に又は一定の範囲の者には知り得る状況にあることに鑑みると,これを公にすると,一定の者には当該執筆者を特定する手掛かりとなり,当該個人が税理士試験を受験している事実を知られ,その権利利益が害されるおそれがないとは認められないことから,部分開示をすることはできない。
エ 文書1の「大学院名」,「研究科名」及び「学位名」並びに文書2及び文書3の「大学院名(在籍期間)」及び「研究科・学位の名称」の各欄,「指導教授(専門分野)」欄の専門分野,「演習以外の科目名(担当者)単位数」欄の科目名及び単位数並びに「備考」欄について
(ア)当該部分のうち,下記(ウ)に掲げる部分を除く部分については,各申請者が在籍し,又は在籍していた大学院及び研究科,取得した学位,履修した科目名,過去の認定の有無等が記載されているところ,これらを全て公にすると,これらの各情報を相互に照合し,さらには,既に明らかにされている認定申請年度,合格科目等と照合することなどにより,一定の関係者には当該申請者を特定する手掛かりとなり,税理士試験を受験している事実を知られ,当該個人の権利利益が害されるおそれがないとは認められない。
(イ)そこで,上記各欄のうち一部のみを開示することの可否を検討すると,①大学院名に係る欄については,当該年度に認定申請を行った申請者が1名ないし数名にとどまるものが約半数を占め,②研究科,学位及び演習以外の科目名に係る各欄についても,特定の大学院にしか存しないものが複数認められるため,これらの欄を公にすることにより,申請者が特定され,あるいは一定の者には申請者を特定する手掛かりとなる上,各欄を更に細分化して,各行ごとに個々の欄の開示・不開示を判断することについては,申請者を推認されることとならない欄を一定の基準によって特定することはできないことから,結局,上記各欄を公にすることにより,個人の権利利益が害されるおそれがないとは認められず,部分開示をすることはできない。
(ウ)しかしながら,文書2及び文書3の「大学院名(在籍期間)」欄のうち在籍期間については,これと同旨の情報である文書1の「在籍期間」欄が開示されており,文書2及び文書3においてのみ不開示とする合理的理由はなく,上記(イ)のとおり大学院名等を不開示とすれば,在籍期間のみを公にしても,申請者を特定する手掛かりとなるとはいえず,個人の権利利益が害されるおそれはないと認められるので,部分開示すべきである。
また,「備考」欄のうち,何も記載されず空白となっている欄については,これを公にしても,個人の権利利益が害されるおそれはないと認められるので,部分開示すべきである。
3 異議申立人のその他の主張について
異議申立人のその他の主張は,当審査会の判断を左右するものではない。
4 本件各一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした各決定については,別紙2に掲げる部分は,同号に該当せず開示すべきであるが,その余の部分は,同号に該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であると判断した。
(第4部会) |
委員 鈴木健太,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子
別紙1
|
異議申立てに係る処分 |
対象行政文書 |
1 |
平成26年4月3日付け官人6-5 |
○平成23年度 税理士試験研究認定申請者名簿 ○(平成23年度分) 認定申請者名簿(税法) 認定申請者名簿(会計学) |
2 |
平成26年4月3日付け官人6-6 |
○平成24年度 税理士試験研究認定申請者名簿 ○(平成24年度分) 認定申請者名簿(税法) 認定申請者名簿(会計学) |
3 |
平成26年4月3日付け官人6-7 |
○平成25年度 税理士試験研究認定申請者名簿 ○(平成25年度分) 認定申請者名簿(税法) 認定申請者名簿(会計学) |
別紙2(開示すべき部分)
1 文書2及び文書3の「大学院名(在籍期間)」欄のうち,在籍期間
2 文書2及び文書3の「備考」欄のうち,空欄となっている部分