諮問庁 | : | 国税庁長官 |
諮問日 | : | 平成26年 8月15日(平成26年(行情)諮問第444号) |
答申日 | : | 平成27年 6月22日(平成27年度(行情)答申第145号) |
事件名 | : | 特定大学院の学生が申請した税理士試験科目免除申請に関する文書の不開示決定(存否応答拒否)に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
「特定大学大学院の学生が申請した税理士試験科目免除申請に関する書類一式」(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,取り消すべきである。
第2 | 異議申立人の主張の要旨 |
1 異議申立ての趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成26年5月20日付け官人6-13により国税庁長官(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)についてその取消しを求める。
2 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。
(1)異議申立書
異議申立人が開示請求した文書は,文書の存否を応答するだけで個人が特定される情報に当たらず,法8条を根拠として開示拒否をすることは不当である。
(2)意見書
ア 下記第3の諮問庁の説明について
(ア)本件開示請求等について
本件開示請求の経緯についての記載であり,事実と相違なく争わない。
(イ)本件対象文書の存否応答拒否について
A 下記第3の2について
諮問庁は,本件対象文書の存否を答えることは,他の公になっている情報と照合することで特定の大学院で研究指導を受けた特定の個人が税理士試験科目免除申請を行ったか否かという事実(以下,第2において「本件存否情報」という。)を明らかにする結果を生じさせるものと認められると説明するが,理由が希薄に過ぎ,不当である。
すなわち,税理士免除申請を行った者が,1人若しくは極めて少数しか存在せず,かつ,当該申請者が免除申請を行った年度の税理士試験に合格しているような場合にのみ,本件存否情報を公開することが個人を特定する結果を生じさせる可能性があるにすぎず,そのような事情でなければ,対象文書存否の応答という極めて軽微な公開事項が個人の特定に直結することにはならない。
したがって,本件存否情報を明らかにする結果を生じさせるものと認められるという前提が,法8条の適用を誤ったものであり,処分庁の恣意的価値判断を基になされた原処分は不当であると思料する。
B 税理士試験科目免除申請等について
法令及び規則の記載であり,争わない。
C 法5条1号の該当性
免除申請書は特定の個人を識別することができる情報に該当すると思料するが,上記Aのとおり,本件対象文書の存否を答えることが,即時に本件存否情報を明らかにするわけではないのであるから,法6条に定める部分開示の検討をすることなく不開示の決定をなしたことは不当である。規定の内容及びただし書の規定に該当しないことについては争わない。
D 法5条2号の該当性
諮問庁は,本件対象文書の存否を答えることにより,特定の大学院の税理士試験科目免除申請の実績という情報を公にすることになり,大学院の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあると説明するが,不当である。
大学院の免除申請実績は,税理士試験受験者,大学院生が当然に興味を持つ事柄であり,これらは大学院によって積極的に公にされるべき性質のものであって,さもなくば,入学希望者,税理士を志望する受験者,在学する大学院生の正当な利益を害するおそれすらある性質の情報である。
ただし書に該当しないことについては争わない。
(ウ)異議申立人の主張について
諮問庁は,法8条を根拠として開示拒否をすることについては,理由を明示せず,法5条1号及び2号イに規定する不開示情報に該当するため,原処分の正当性を主張する。
しかし,法8条に該当しないのであれば,法6条に基づき部分開示の検討もするべきであって,その点においては,原処分の妥当性を左右するものである。
イ 主張
憲法が保障する表現の自由の一環とする知る権利を具体化した法は,5条においては,不開示情報に当らなければ,原則公開しなければならない。そして,公開の可否については,国民主権の理念により,厳格な基準により判断すべきであって,単に可能性があるにすぎない場合や行政の恣意的判断,拡大解釈は,法1条(目的)の立法趣旨を没却するものである。
本件情報公開は,何ら具体的で合理的な理由がされず,単なる可能性や諮問庁の価値判断が最優先で重視され不開示決定がなされ,理不尽極まりない。
したがって,今回の決定は不当であり,個人が特定できる情報及び印影等を除いては部分ないし全部公開すべきであると主張する。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
1 本件開示請求等について
本件開示請求は,国税庁長官(処分庁)に対して「特定大学大学院の学生が申請した税理士試験科目免除申請に関する書類一式」(本件対象文書)の開示を求めるものである。
処分庁は,平成26年5月20日付け官人6-13により,本件対象文書の存否を答えることは,法5条1号及び2号イに規定する不開示情報を開示することとなるため,法8条の規定に基づき,本件対象文書の存否を明らかにせずに開示請求を拒否する旨の不開示決定(原処分)を行っている。
これに対し,異議申立人は,原処分の取消しを求めていることから,以下,原処分の妥当性について検討する。
2 本件対象文書の存否応答拒否について
本件対象文書の存否を答えることは,他の公になっている情報と照合することで特定の大学院で研究指導を受けた特定の個人が税理士試験科目免除申請を行ったか否かという事実(以下,第3において「本件存否情報」という。)を明らかにする結果を生じさせるものと認められることから,本件存否情報の不開示情報該当性について検討する。
(1)税理士試験科目免除申請等について
税理士試験は,税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的として行うこととなっている(税理士法6条)。
また,税法に属する科目等に関する研究により修士の学位等を授与された者で税理士試験において税法に属する科目のいずれか1科目について合格した者が,当該研究が税法に属する科目等に関するものであるとの国税審議会の認定を受けた場合には,試験科目のうちの当該1科目以外の税法に属する科目について,免除することとしている(税理士法7条2項)。さらに,会計学に属する科目等の研究により修士の学位等を授与された者で,税理士試験において,会計学に属する科目のいずれか1科目について合格した者が,当該研究が会計学に属する科目等に関するものであるとの国税審議会の認定を受けた場合には,試験科目のうちの当該1科目以外の会計学に属する科目について,免除することとしている(税理士法7条3項)。この国税審議会の認定を受けようとする者は,申請書等に次の書類を添付しなければならないこととなっている(税理士法施行規則2条3項及び3条2項)。
① 修士の学位等を授与されたことを証する書面
② 成績証明書
③ 修士の学位等取得に係る学位論文の写し
④ 第4号様式による指導教授の証明書
⑤ 上記に掲げる書類のほか国税審議会が必要があると認めたもの
(2)法5条1号該当性
法5条1号は,個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを不開示情報と規定している。
本件対象文書の存否を答えることは,他の情報と照合することにより特定の個人が税理士試験科目免除申請を行ったか否かという事実(本件存否情報)を明らかにすることになるため,特定の個人を識別することができる情報であると認められる。
また,本件存否情報は,法5条1号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものとは認められず,さらに同号ただし書ロ及びハに該当する事情も認められない。
したがって,本件存否情報は,法5条1号の不開示情報に該当すると認められる。
(3)法5条2号該当性
法5条2号は,法人その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを不開示情報と規定している。
本件対象文書の存否を答えることは,特定の大学院の税理士試験科目免除申請の実績という情報を公にすることになり,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものと認められる。
また,法5条2号ただし書に該当する事情も認められない。
したがって,本件存否情報は,法5条2号イの不開示情報に該当すると認められる。
3 異議申立人の主張について
(1)異議申立人は,異議申立ての理由において,文書の存否を応答するだけで個人が特定される情報に当たらず,法8条を根拠として開示拒否をすることは不当である旨主張する。
しかしながら,上記2のとおり,本件不開示情報は法5条1号及び2号イに規定する不開示情報に該当し,かつ,同条1号ただし書イないしハ及び2号ただし書のいずれにも該当しない。
(2)以上のとおり,異議申立人の主張には理由がなく,原処分の妥当性を左右するものではない。
4 結論
以上のことから,本件開示請求については,本件対象文書の存否を答えるだけで,法5条1号及び2号イに規定する不開示情報を開示することになるため,法8条に基づく原処分は妥当であると判断する。
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
①平成26年8月15日 諮問の受理
②同日 諮問庁から理由説明書を収受
③同年9月4日 異議申立人から意見書を収受
④平成27年5月21日 審議
⑤同年6月18日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件対象文書について
本件対象文書は,「特定大学大学院の学生が申請した税理士試験科目免除申請に関する書類一式」である。
なお,このうち「学生」について,異議申立人は,現に大学院に所属している大学院生のみならず,特定大学大学院で修士号を取得した元大学院生を含む前提で主張を行い,諮問庁も同様の前提に立って説明を行っているものと解されることから,以下,「学生」には過去に学生であった者を含むものとして検討する。
そして,処分庁は,本件対象文書の存否を明らかにせずに,開示請求を拒否する不開示決定を行い,諮問庁も原処分を妥当としている。
これに対し,異議申立人は,原処分の取消しを求めていることから,以下,存否応答拒否の妥当性について検討する。
2 存否応答拒否の妥当性について
(1)本件存否情報について
諮問庁は,本件対象文書の存否を答えることは,他の公になっている情報と照合することで特定大学大学院で研究指導を受けた特定の個人が税理士試験科目免除申請を行ったか否かという事実を明らかにするものと認められる旨主張する。
上記「他の公になっている情報」について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁は,大学院が修士論文を大学院のウェブサイト等で公開している場合における当該論文,申請者自身によりウェブサイトで公開されている修士論文やそれに類似する情報を指すと説明する。
しかし,当審査会事務局職員をして特定大学大学院のウェブサイトを確認させたところ,同サイトでは,多数の学生が修士の学位を取得し,税理士試験科目免除を受けたことが公表されており,「特定大学大学院の学生が申請した税理士試験科目免除申請に関する書類一式」の存否を答えたとしても,修士論文等に係る公開情報と照合して当該免除申請を行った個々の学生を特定することはできないものと認められる。
したがって,本件対象文書の存否を答えることによって,税理士試験科目免除申請を行った特定の個人が明らかになるとはいえず,その存否を答えることによって明らかになる情報は,「特定大学大学院の学生が税理士試験科目免除申請を行った事実の有無」(以下「本件存否情報」という。)であると解される。
(2)法5条1号該当性について
本件存否情報は,税理士試験科目免除申請を行った学生に係る個人に関する情報であるが,上記(1)のとおり,他の情報と照合しても,特定の個人を識別することはできず,また,特定大学大学院においては多数の学生が修士の学位を取得し,税理士試験科目免除を受けているのであるから,個々の申請者を特定する手掛かりになるともいえず,本件存否情報を公にすることにより当該個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条1号本文前段及び後段のいずれにも該当しない。
(3)法5条2号イ該当性について
ア 諮問庁は,本件対象文書の存否を明らかにすることにより,特定大学大学院の税理士試験科目免除申請の実績という情報を公にすることになるので当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある旨主張する。
この点について,当審査会事務局職員をして諮問庁に対し,更に具体的な説明を求めさせたところ,諮問庁は,次のとおり説明する。
(ア)本件と同様の開示請求を他の大学院についても行うことなどにより,大学院別の免除申請件数を把握することにつながり,それにより大学院によって有利・不利があるとの誤解を招きかねず,ひいては学生の確保という大学経営に係る競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断した。異議申立人も,意見書において「大学院の免除申請実績は,税理士試験受験者,大学院生が当然に興味を持つ事柄」と主張しており,入学希望者,税理士を志望する受験者,在学する大学院生にとっては,重要項目であることがうかがえる。
(イ)また,本来であれば,免除申請件数の多寡によって,大学院の指導体制や審査体制,修士論文の質,国税審議会の審査の通りやすさ等の優劣が決せられるものでは到底ないが,大学院の税理士試験科目免除申請の実績という情報を国税庁が公にすることで,ミスリードとなる可能性は否めず,大学院間の公正な競争を阻害するおそれがあるため,この点から考えても,存否応答拒否が妥当であると判断した。
イ そこで検討すると,本件存否情報により明らかとなるのは,特定大学大学院における税理士試験科目免除申請の「有無」にとどまるところ,上記(1)のとおり,特定大学大学院は,自らウェブサイトにおいて多数の「学生」が修士の学位を取得し,税理士試験科目免除を受けたことを公表しているのであるから,本件存否情報を明らかにしても,同大学院を運営する法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イには該当しない。
(4)したがって,本件存否情報は,法5条1号及び2号イに該当せず,本件対象文書の存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきである。
3 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条1号及び2号イに該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,当該情報は同条1号及び2号イのいずれにも該当せず,本件対象文書の存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきであると判断した。
(第4部会) |
委員 鈴木健太,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子