諮問庁 法務大臣
諮問日 平成26年 3月10日(平成26年(行個)諮問第27号)
答申日 平成27年 2月 2日(平成26年度(行個)答申第93号)
事件名 本人の司法書士試験筆記試験多肢択一式答案用紙の不訂正決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「平成25年度司法書士試験筆記試験午前の部及び午後の部多肢択一式答案用紙(受験地:さいたま,受験番号:特定番号)」(以下「本件答案用紙」という。)に記録された保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)の訂正請求につき,不訂正とした決定は,妥当である。


第2  異議申立人の主張の要旨

 1 異議申立ての趣旨

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)27条1項の規定に基づく本件対象保有個人情報の訂正請求に対し,平成25年12月26日付け法務省民二第868号により法務大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不訂正決定(以下「原処分」という。)の取消し及び平成25年度司法書士試験の採点のやり直しを求める。


2 異議申立ての理由

異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)異議申立書

ア 本件訂正請求は,採点者に対して採点結果の訂正を求めるものである。


イ 司法書士試験の採点に関して明確な違法不当な行為があったにもかかわらず,訂正が認められないことは,行政不服審査法1条1項の国民の権利利益の救済を図るという目的に反するものである。


ウ 本件訂正請求に係る保有個人情報の開示請求(平成25年11月13日受付第100293号の開示請求(同年12月12日法務省民事第785号)及び平成26年1月7日受付第100430号の開示請求(同年2月5日法務省民事第82号))の結果,目視において問題の正解肢に明確にマークがされているにもかかわらず,点数に反映されていない箇所があることが判明し,マークシートの読み取りミスがあることが判明した。


エ 司法書士試験は,憲法,民法,商法(会社法その他の商法分野に関する法令を含む。)及び刑法に関する知識等を確認するための試験であり,その知識は,マークシートの正解肢にマークがされているかどうかによって判断されるものである。目視により,二重マーク等の形跡がなく正解肢にマークがされていることが確認できるにもかかわらず,正解として点数に反映されないことは不当である。


オ マークシートの読み取りミスは,事務処理上の問題である。こういった事務処理上の問題は試験の目的の趣旨とは関係がないものである。司法書士試験は,必要な知識を有するかどうかを確認するためのものであり,知識の確認ができる又は不正確な知識の確認があったことが判明した場合には訂正される必要があり,誤りがあるにもかかわらず何ら処理がなされないことは違法である。


カ また,他の省庁がマークシートの読み取りミスが判明した場合の対応として,立場的に同等であるといえる厚生労働省は,第94回薬剤師国家試験において,答案を目視により再確認し採点のやり直しをしており,法務省も厚生労働省のように対応をすべきである。


キ よって,原処分は訂正すべき事実が存在するため,違法不当である。


(2)意見書

ア 諮問庁の保有個人情報の訂正請求の対象となるのは「事実」であって,試験の採点及び合否といった評価には及ばないとの主張に対して,総務省のホームページに記載されている訂正請求に関するよくある質問とその回答のQ8-2には,「保有個人情報の訂正請求は,「内容が事実でない」と思料する場合に行うことができることとされています。このため,その対象は「事実」に限られ,評価・判断には及びません。ただし,評価した行為の有無,評価に用いたデータ等は事実に当たりますから,訂正請求の対象となり得ます」と記載されている。


イ 以上より,評価に用いられたデータ等は訂正請求の対象となることが明記されており,本件対象保有個人情報は司法書士試験の合否(評価)を判断するデータの一部(本件対象保有個人情報に記載された正解肢にマークされた数により合否という評価が判断される。本件対象保有個人情報の記載がなければ採点はできない。)であり,本件対象保有個人情報の記載から読み取られた内容が不正解であり事実に反するため,当該事実を訂正する必要があり,当該訂正と併せて,諮問庁は,事実に対する正確な評価(採点のやり直し)をするべきである。

また,本件訂正請求は,本件対象保有個人情報の訂正と本件対象保有個人情報から読み取られたデータの訂正を求めるものである。


ウ 「行政文書」とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録(電子的方式,電磁的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)であって,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関か保有しているもの(行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条2項本文)を指し,本件対象保有個人情報から読み取られたデータは行政文書である。

また,仮に行政文書に該当しないとしても,本件対象保有個人情報に含まれるものである(本件対象保有個人情報の記載内容を採点という評価をするために機械を使用して変形させたもの=本件対象保有個人情報の記載内容)。


エ 上記より,評価に用いられたデータ等は訂正請求の対象となるものであり,本件対象保有個人情報から読み取られたデータは評価に用いられたデータであり(本件対象保有個人情報を機械で読み取ることで判明するデータにより合否を判断している,当該データ及び本件対象保有個人情報を諮問庁が保持していなければ,諮問庁が採点という評価をすることはできない。平成25年成績通知書を作成することができない。(当該成績通知書が行政文書に該当する場合には,当該文書の訂正も併せて求める。)),当該データが事実に反する以上,訂正をする必要がある。


オ また,諮問庁の,法29条に規定する保有個人情報の訂正請求に理由があると認められる場合には,当該保有個人情報の「内容が真実ではない」場合に限られるとの主張に対して,本件対象保有個人情報から読み取ることができる内容(採点結果)が事実ではないため,訂正すべき事実の記載が存在している。

また,仮に,諮問庁が本件対象保有個人情報及び本件対象保有個人情報から読み取られたデータの記載に関して訂正すべき事実がないというのならば,本件対象保有個人情報をよく確認した上で,記載どおりの正確な事実の採点を速やかに行うべきである。なぜなら,本件対象保有個人情報の記載内容に対する正確な採点がなされていないからである。また,仮に,採点に関し誤りが正されず,正確さが求められないというのならば,試験などせずに全員合格とすればいいのである。正確な採点がされないのならば,もはや当該試験は試験ではないからである。


カ そもそも,当該採点ミスは,諮問庁のミスである。諮問庁がマークシートの正解にマークされた数と採点の結果として判断された正解の数が明らかに異なることが判断できるというような明白な誤りがあるにもかかわらず,諮問庁が速やかに訂正をせず,当該事実に対する異議申立ての機会も与えず,ミスを隠蔽することは公正,正確な採点をすることが求められる採点者としてあるまじき行為である。(違法又は不当な行政行為)。諮問庁は,正確な採点がなされていないことによる信義誠実の原則に違反(民法1条2項)し,公正な採点がなされていないことによる平等原則に違反(憲法14条)する。


キ 司法書士試験は,司法書士という資格の付与に対する行政行為の分類上の許可に該当する(法律行為的行政行為)。当該許可申請に対する当該処分は,瑕疵ある行政行為であり,諮問庁が速やかに当該処分を取り消すことを併せて求める。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件訂正請求の対象となった保有個人情報は,「平成25年度司法書士試験筆記試験午前の部及び午後の部多肢択一式答案用紙(受験地:さいたま,受験番号:特定番号)」に記録された保有個人情報(本件対象保有個人情報)である。


2 異議申立人が主張する本件異議申立ての理由は,おおむね,次のとおりである。

 (1)司法書士試験は,憲法,民法,商法(会社法その他の商法分野に関する法令を含む。)及び刑法に関する知識等を確認するための試験であり,目視により正解肢にマークがされていることが確認できるにもかかわらず,正解として点数に反映されないことは不当である。

マークシートの読み取りミスは,事務処理上の問題であり,試験の目的の趣旨とは関係がないから,知識の確認ができる又は不正確な知識の確認があったことが判明した場合には訂正される必要があり,誤りがあるにもかかわらず何ら処理がなされないことは違法である。


 (2)厚生労働省は,第94回薬剤師国家試験において,答案を目視により再確認し,採点のやり直しをしていることから,法務省も同様の対応をすべきである。


3 異議申立人が主張する上記2の理由について,以下検討する。

法29条に規定する保有個人情報の訂正請求に理由があると認められる場合とは,当該保有個人情報の「内容が事実でない」場合に限られるところ,本件対象保有個人情報は,異議申立人が平成25年度司法書士試験筆記試験当日に作成した同試験の答案用紙であり,当該保有個人情報について,何ら訂正すべき事実の記載は存在しない。

また,異議申立人は,同試験の採点のやり直しを求めているところ,保有個人情報の訂正請求の対象となるのは「事実」であって,試験の採点及び合否といった評価・判断には及ばない。


4 以上のことから,異議申立人の主張は理由がなく,原処分は,妥当である。


第4  調査審議の経過

   当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成26年3月10日   諮問の受理

② 同日           諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月24日        異議申立人から意見書を収受

④ 平成27年1月15日   審議

⑤ 同月29日        審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象保有個人情報について

本件対象保有個人情報は,「平成25年度司法書士試験筆記試験午前の部及び午後の部多肢択一式答案用紙(受験地:さいたま,受験番号:特定番号)」に記載された保有個人情報であり,異議申立人は,不訂正とした原処分の取消し等を求めている。

諮問庁は,本件対象保有個人情報については,本件答案用紙に記載された保有個人情報であり,何ら訂正すべき事実は存在しない旨主張し,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象保有個人情報の訂正の要否について検討する。


2 訂正請求対象情報該当性について

(1)訂正請求の対象情報について 

ア 訂正請求については,法27条1項において,同項1号ないし3号に該当する自己を本人とする保有個人情報について,その内容が事実でないと思料するときに行うことができると規定されている。


イ また,訂正請求者は,開示を受けた保有個人情報のうち,①どの部分(「事実」に限る。)につき,②どのような根拠に基づき当該部分が事実でないと判断し,③その結果,どのように訂正すべきと考えているのか等について,請求を受けた行政機関の長が当該保有個人情報の訂正を行うべきか否かを判断するに足る内容を,行政機関の長に自ら根拠を示して明確かつ具体的に主張する必要がある。そして,請求を受けた行政機関の長が,当該訂正請求に理由があると認めるときは,法29条に基づき,当該訂正請求に係る保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で,当該保有個人情報の訂正をしなければならず,一方,訂正請求者から明確かつ具体的な主張及び根拠の提示がない場合や当該根拠をもってしても訂正請求者が訂正を求めている事柄が「事実でない」とは認められない場合には,「当該訂正請求に理由があると認めるとき」に該当しないと判断することになる。


(2)訂正請求対象情報該当性について 

     本件対象保有個人情報は,異議申立人が,本件試験において自ら本件答案用紙の選択肢欄に記載した情報であり,法に基づく保有個人情報開示請求により処分庁から開示を受けた自己を本人とする保有個人情報であることから,法27条1項1号に該当し,かつ,当該情報は,評価や判断を内容とするものではないことから,同条の訂正請求の対象となる「事実」にも該当するものと認められる。


3 訂正の要否について

本件対象保有個人情報は,本件答案用紙の選択肢欄に記載された情報であることから,本件において訂正を要する場合とは,当該情報が本件試験において異議申立人が記載した情報と異なる場合であると解される。

そこで検討すると,異議申立人は,本件対象保有個人情報は自らが記載したとおりの内容となっていることを前提として種々主張しており,本件対象保有個人情報の訂正を行うべきであると判断するに足りる事情については何ら主張しておらず,法29条に規定する「当該訂正請求に理由があると認めるとき」に該当すると認めるべき事情は存しない。

したがって,本件対象保有個人情報について,法29条に基づく訂正義務があるとは認められない。


4 異議申立人のその他の主張について

異議申立人は,本件異議申立てにおいて,本件対象保有個人情報から読み取られたデータも訂正請求の対象となるなどと主張し,本件試験の採点のやり直しや採点結果の訂正を求めている。

しかし,保有個人情報の訂正請求は,法27条1項各号において,開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報であることが要件とされているところ,異議申立人が主張する「本件対象保有個人情報から読み取られたデータ」は,開示決定に基づき開示を受けた本件対象保有個人情報と異なり,本件異議申立ての対象となる保有個人情報には含まれないから,本件において採点結果の訂正等を求める異議申立人の主張は採用できない。

異議申立人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


5 本件不訂正決定の妥当性について

以上のことから,本件対象保有個人情報の訂正請求につき,不訂正とした決定については,本件対象保有個人情報は,法29条の保有個人情報の訂正をしなければならない場合に該当するとは認められないので,妥当であると判断した。


(第4部会)

委員 鈴木健太,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子