諮問庁 検事総長
諮問日 平成23年 3月25日 (平成23年(行情)諮問第135号)
答申日 平成24年 4月23日 (平成24年度(行情)答申第14号)
事件名 取調べ等の留意点の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論
 取調べ等の留意点」(以下「本件対象文書」という。)の開示請求につき,その一部を不開示とした決定については,諮問庁が,なお不開示とすべきとしている部分のうち,別紙に記載する部分を開示すべきである。

第2  異議申立ての趣旨及び理由
 異議申立ての趣旨
 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成22年12月3日付け最高検企第326号により検事総長(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

 異議申立ての理由
 異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。 

(1)  異議申立書
 法5条4号該当性について,不知である。異議申立人は,諮問庁に対し,原処分の同号該当性及び原処分の対象となった行政文書を公にすることにより,犯罪の防止,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報に関する立証を求める。
 今後,大阪地方検察庁特別捜査部の証拠改ざんを行った厚生労働省の元局長のえん罪事件捜査を端緒として全面可視化・司法取引等の導入により捜査手法が180度転換される予定である。
 とすると,本件開示請求は法5条4号該当性がなくなるものと推察される。
 特に文書の内容以前の目次までも開示しない態度は理解できない。

(2)  意見書
 諮問庁の判断及び理由について

(ア)  諮問庁は,理由説明書の「本件対象文書及び不開示情報該当性について」において,「本件対象文書に記載されている事項は,検察庁の部内資料であり,(中略)その記載内容から捜査手法や捜査上の留意点等が明らかになり,(中略)その取扱いに配慮を求める記載があることからも,(中略)捜査の基本を軽視することによって生ずる(中略),検察庁内部限定の捜査手法書であり,捜査・公訴の維持等において支障が生じる。」と主張している。
 しかしながら,諮問庁の主張を採用することはできない。

(イ)  添付資料1は,検察庁が犯則事件を手掛ける場合に,情報提供元となる国税庁と国税局(以下「国税庁等」という)の査察部の調査着手の端緒となる資料を提供する「資料調査課等の調査事務運営要領の制定について(事務運営指針)」という行政文書全80ページである。
 添付資料1では,「第2章 調査対象」,「第3章 選定事務」,「第4章 調査の事前準備」,「第5章 調査に当たっての留意事項等」が赤裸々に記載されているが不開示情報に該当していない。
不開示情報に該当しているのは,「第3章 選定事務」のうち,「資料調査課事案の選定基準(モデル)」のみである。
 添付資料2は,「大阪国税局の現況調査の手引(指示)」という行政文書である。この行政文書は,取扱注意となっているが一切の不開示部分もなく全部開示となっている。
 添付資料2では,「Ⅰ 4 現況調査の限界において(1)任意性
の確保(2)裁量権の逸脱,濫用の防止」,「Ⅱ 4 現況調査の実施に当たってのポイント10」,「Ⅲ 現況調査応答事例において 1 臨場時における対応 2 現物確認時における対応等」が赤裸々に記載されているが,一切不開示情報に該当していない。
 諮問庁の主張を採用すると,添付資料1及び添付資料2ともに,全部不開示とならなければならないことになる。
 諮問庁を国税庁等に置き換えてみよう。「添付資料1及び添付資料2は,国税庁等が,執務参考資料として発出した文書であり,その内容は国税査察官・国税調査官が調査に当たって留意すべき事項等である。そして,添付資料1及び添付資料2に記載されている事項は,その性格が国税庁等の部内資料であり(「取扱注意」の記載まである。),極めて詳細なものとなっている(全80ページと全35ページ)。したがって,添付資料1及び添付資料2を公にすれば,その記載内容から調査手法や調査上の留意点等が明らかになり,今後の調査や裁判において,納税者から対抗措置等が容易に講じられ,適正な税務調査の遂行が妨げられることになることとなり・・・中略・・・文書中に,その取扱いに配慮を求める記載があることからも,国税庁等外への流出を防ぐ必要がある。」
 以上述べたように国税庁等では,実際はほぼ全部開示となっているが,今回,諮問庁では全部不開示の結論が妥当であると主張されている。

(ウ)  諮問庁は,本件対象文書は,「全検察官を対象としたものでなく,部下を指導する立場にある決裁官等という検察庁内部においてもごく限られた検察官を対象に,執務資料としての利用を念頭において作成されたものであって,」との主張であるが,その真偽が定かではない。
 本件対象文書は,当時の検事総長がいい加減な捜査が横行している現状を憂慮して制定しているものであることからすれば,全検察官を対象に捜査(操作でない)方法に関する執務資料として提供されたものと考えることの方が自然である。
 諮問庁の主張の目的は,「文書中に,その取扱いに配慮を求める記載があることからも,検察庁外への流出を防ぐ必要がある」との一点にある。
 また,どのような配慮を求める記載なのかについて,諮問庁における具体的な主張がない。
 国税庁等においては,取扱注意・部内秘の行政文書であろうが,法制定の趣旨を正確に理解しているため開示決定がなされている。
 審査会からの求めがあれば,異議申立人は,後日証拠提出する用意がある。
 これに対し諮問庁は,法制定の趣旨が全く理解できておらず,国民の税金で作成された本来公開されるべき行政文書を隠蔽しようとしている。

(エ)  そもそも本件対象文書は,「これが公になれば,捜査・公訴の維持等において支障が生じるおそれが極めて高い行政文書である」と,最高検察庁内部において詳細に検討されたか疑わしい。
 特定検察官による特定個人の刑事事件の証拠改ざんによるえん罪事件の対応に忙殺され,当初から全部不開示の結論ありきで説明されている蓋然性が高い。
 どのように内部で検討したのか,その検討過程を全面的に可視化し説明せよ。

(オ)  本件対象文書は,これが公になれば,捜査・公訴の維持等において支障が生じるおそれが極めて高い行政文書ではなく,諮問庁が理由説明書において自白しているように,「捜査の基本を軽視することによって生じる捜査・公判への支障を憂慮し,それを戒めるための検察庁内の行政文書」である。

(カ)  以上のことから,諮問庁が主張するように「これが公になれば,捜査・公訴の維持等において支障が生じるおそれが極めて高い」とは到底判断することができない。

 以上のとおり,法5条4号に該当するため不開示とした原処分は,不当である。
  (添付資料省略)

第3  諮問庁の説明の要旨
 理由説明書
(1)  本件対象文書及び不開示情報該当性について
 本件対象文書は,最高検察庁刑事部が,主に決裁官を対象に,部下職員を指導する際の執務参考資料として発出した文書であり,その内容は,検察官が取調べに当たって留意すべき事項等である。
 そして,本件対象文書に記載されている事項は,その性格が検察庁の部内資料であり,かつ,決裁官の執務のための資料であることから,捜査や取調べにとどまらず,公判の在り方に関するものも含まれ,極めて詳細なものとなっている。
 したがって,本件対象文書を公にすれば,その記載内容から捜査手法や捜査上の留意点等が明らかとなり,今後の捜査及び公判において,被疑者及び被告人等から対抗措置等が容易に講じられ,適正な捜査や公判の遂行が妨げられることになる。
 また,本件対象文書は,全検察官を対象としたものではなく,部下を指導する立場にある決裁官等という検察庁内部においてもごく限られた検察官を対象に,執務資料としての利用を念頭において作成されたものであって,現に,文書中に,その取扱いに配慮を求める記載があることからも,検察庁外への流出を防ぐ必要がある。本件対象文書の内容は,捜査や公判遂行時における要点等を指導する際の決裁官のバイブルとも言うべきものであって,捜査の基本を軽視することによって生じる捜査・公判への支障を憂慮し,それを戒めるための検察庁内部限定の捜査手法書とも言えるものである。そしてこれが公になれば,捜査・公訴の維持等において支障が生じるおそれが極めて高いことから,法5条4号の不開示理由に該当する。

(2)  結論
 以上のとおり,法5条4号に該当するため不開示とした原処分は,妥当である。

 補充理由説明書1
(1)  表紙をめくった最初のページについて
 表紙をめくった最初のページについて,その不開示情報該当性につき検討した結果,当該ページの1行目から3行目までの部分のみであれば,これを開示しても犯罪の予防,捜査,公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすとまでは言えず,不開示情報に該当しないことから開示することとする。

(2)  目次について
 表紙をめくった2枚目及び3枚目は,本件対象文書の目次であるが,「目次」の記載と当該目次中の「第1」ないし「第4」と記載された項目(以下「大項目」という。)の各記載について,その不開示情報該当性につき検討した結果,当該部分のみであれば,これを開示しても犯罪の予防,捜査,公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすとまでは言えず,不開示情報に該当しないことから開示することとする。
 また,目次中の大項目及び大項目中を細分した項目(以下「小項目」という。)に対応するページ数と小項目ごとに振られた番号を開示するとともに,本文1ページ,12ページ,19ページ及び50ページの各上部に記載された大項目並びに全てのページ数についても開示することとする。

(3)  その他の記載について
 本件対象文書中,処分庁が不開示とした部分のうち,上記(1)及び(2)に記載した部分以外については,なお不開示とすることが妥当であるので,以下に補充して理由を述べる。  

 不開示とした部分に共通する事項について
 本件対象文書は,部下を指導する立場にある決裁官等という検察庁内部においてもごく限られた検察官を対象に作成されたもので,決裁官のバイブルであるとともに,捜査の基本を軽視することによって生じる捜査・公判への支障を憂慮し,それを戒めるための検察庁内部限定の捜査手法書とも言えるものであることは,既に理由説明書において説明したとおりである。
 すなわち,本件対象文書は,正に取調べ等の留意事項そのものであり,これを公にした場合,取調べ対象者が,検察の方針等を踏まえた弁解を準備するなど,捜査に支障を来すため,その事項及び内容は法5条4号に該当することは言うまでもない。
 一方で,検察は,制度の改革や時代背景,捜査技術の進展等にも迅速に対応しなければならず,取調べ等を行う際の留意事項や基本方針等に関わる決裁官の部下検察官に対する指導の在り方も時代に即応し,時々刻々と変化するものである。特に,本件対象文書は,被害者参加制度や裁判員制度の施行等,検察の現場がかつて経験したことのない大きな変革期である平成21年1月に作成された,あくまでも「当面」の執務参考資料として,限られた検察官にのみ配布されたものであり,そうであるがゆえに,保存期間を1年未満と設定したところである。
 したがって,このような「当面」の執務参考資料を開示した場合,その時点における検察の方針と作成時点における検察の方針,すなわち本件対象文書に記載された内容とが必ずしも合致しないこともあり得ることから,検察の活動について国民に誤った認識を抱かれることともなりかねず,今後の捜査・公判への協力が得られなくなるおそれがある以上,本件対象文書が法5条4号及び6号に該当する内容を有するものであることもまた言うまでもない。
 また,本件対象文書が若手検察官に配布されないこととしているのは,経験の浅い検察官にこの種のものを閲読させると,全て同文書の内容をうのみにしてしまう可能性があり,事案の内容や対象者の性格等に応じて工夫した取調べ等を行わなくなる結果,取調べ能力が向上しないこととなりかねないからである。更に言えば,あくまでも,本件対象文書に記載された内容は,作成当時における当面の留意事項であるにもかかわらず,若手検察官がこれをうのみにしてしまうことにより,上記のような時代の変化に即応できなくなるおそれがあるためでもある。

 表紙をめくった最初のページの4行目以下について
表紙をめくった最初のページの4行目以下の記載は,取調べ等における留意事項を具体的かつ詳細に明らかにするものではないが,これが公にされた場合,先に述べたとおり,当時の取調べ等における留意事項や捜査方針が,現在も全く変わることなく維持されているかのような印象を国民に与え,その記載振りから,「検察は,常に事件を類型化し,取調べ等の段階で一定の類型の事件とそれ以外の事件とで差別化を図っているのではないか」ひいては「一定の類型の事件にのみ力を注ぎ,それ以外の事件を軽視しているのではないか」などの誤った印象を国民に与えるおそれがあり,そのことは,検察に対する信頼を失わせることにつながりかねず,その場合には,将来,捜査・公判への国民の協力が得られなくなり,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持等に支障を及ぼすおそれがある。
 また,当該4行目以下の内容は,それ自体,具体的な取調べ手法等に言及するものではないとしても,その記載振りから,常に一定の類型の事件とそれ以外の事件とでは取調べの在り方に差異があるべきとの誤った先入観を若手検察官に与えるおそれがあり,取調べ能力の向上や時代の変化への即応という観点からは,問題があるというほかなく,検察組織全体の業務遂行に支障を生じさせるおそれがあり,ひいては犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持等にも支障を及ぼすおそれがある。
 よって,これらの観点から,当該4行目以下の記載は,法5条4号及び6号の不開示情報に該当する。

 目次の小項目について
 目次の小項目については,これを公にすると,検察がどのようなことに留意して取調べ等を遂行しているかを直接世間に知らしめることとなり,取調べ等を始めとする捜査における考え方や方針などが公になり,取調べに対する意図的な妨害行為等を誘発するおそれがあるので,法5条4号に該当し不開示とすべきである。

 本文について
 本件対象文書の本文の一部には,過去,検察庁において公にされた文書の内容に類するような記載になっているものもあるが,それらが公になっているからといって,本件対象文書の当該部分を開示した場合,本件対象文書が決裁官の決裁や指導の観点から記載した取調べの留意点であることから,決裁官がどのような項目について留意した指導決裁を行うのかが明らかになり,これを開示した場合,決裁官の決裁業務に支障を来すとともに,それら以外の公表等がなされた事項については,決裁官が留意していないなどの誤解を招き,ひいては国民からの捜査協力が得られなくなるなどの支障を来すことから,法5条4号及び6号の不開示情報に該当する。また,過去,検察庁において,少なくとも取調べに当たって留意すべき点として,本件対象文書ほどに詳細に記載されたものはなく,さらに,本件対象文書の性格が検察庁の内部資料であり,かつ,決裁官等の執務のための資料であって,捜査や取調べにとどまらず,公判の在り方に関するものまで,体系的に,また,極めて詳細に記載しているものであることからして,たとえ過去の公表文書の中に,部分的には本件対象文書の本文の内容に似た記載があったとしても,当該部分を本件対象文書の一部として公にするのは,その位置付けや意義が大きく異なるため,過去の公表等の事実をもって開示の結論に至るべくもないことは言うまでもない。

(4)  結論
 以上により,本件対象文書中の不開示部分につき,上記(1)及び(2)により開示することとした部分以外については,法5条4号及び6号に該当するので,不開示とした原処分は妥当である。

 補充理由説明書2
(1)  目次の小項目について
   本件対象文書は,当面の執務参考資料として,部下を指導する立場にある決裁官等という検察庁内部においてもごく限られた幹部職員を対象に作成されたものであり,その内容も作成時点における検察の方針であるから,必ずしも現在の検察の方針と合致するものではなく,これが公になると,検察の活動について国民に誤った認識を抱かれることにもなりかねないことは,既に理由説明書及び補充理由説明書1において説明したとおりである。
 本件対象文書の目次の小項目に記載されている事項は,大項目とは異なり,単なる論点の羅列ではなく,取調べ等における具体的な場面を想定した留意点や問題点そのものであり,これが明らかになれば,検察がどのようなことに留意して取調べ等を遂行しているかを直接世間に知らしめることとなる。
 そして,自らの刑責を免れようとする者や捜査及び公判を混乱させようと企てる者に対し,意図的な妨害行為等を行う際の有用な情報を与えることとなり,上記留意点及び問題点を直接突いた妨害行為(例えば,上記留意点や問題点を熟知した上での口裏合わせなどの罪証隠滅工作等)が行われるなどして,時間的・制度的制約の中で行われる犯罪の捜査に重大な支障を及ぼすおそれがある。それのみならず,捜査段階で生じた支障が公判にも引き継がれ,無用な争点が生じるなどして公判の混乱及び長期化を招くなど,適切な公訴の維持にも支障を及ぼすおそれがある。
 よって,小項目に記載されている事項は,いずれも法5条4号の不開示情報に該当し,開示できる部分はない。
 なお,これら小項目は,その内容に応じ,それぞれ関連するものが大項目に集約される構成となっており,小項目を一部でも開示すれば,同一の大項目中の他の小項目を推測させることとなり,そのような理由からしても,たとえ一部であれ開示することはできない。

(2)  結論
   以上により,本件対象文書中の不開示部分につき,目次の小項目については,法5条4号に該当するので,不開示とした原処分は妥当である

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

 平成23年3月25日  諮問の受理
 同日  諮問庁から理由説明書を収受
 同年4月14日 
 審議
 同月21日   異議申立人から意見書を収受
 同年6月30日    本件対象文書の見分及び審議
 同年11月7日    諮問庁から補充理由説明書1を収受
 同月10日    審議
 同月17日    審議
 平成24年1月17日    諮問庁から補充理由説明書2を収受
 同年2月23日    審議
 同年4月19日    審議

第5  審査会の判断の理由
 本件異議申立てについて
 本件開示請求は,「取調べ等の留意点」の開示を求めるものであり,これに対し,処分庁は,本件対象文書を特定し,その一部につき,法5条4号に該当することから不開示とする原処分を行ったところ,異議申立人は,原処分の取消しを求めている。
 これに対し,諮問庁は,当初原処分を妥当としていたところ,上記のとおり,いくつかの部分については開示するとしているため,諮問庁が,なお不開示とすべきとしている部分の不開示情報該当性について検討する。

 本件対象文書の不開示情報該当性について
 当審査会において見分したところ,本件対象文書は,既に開示されている表紙のほか,表紙の次ページである,本件対象文書の使用上の留意事項が記載された部分(以下「留意事項記載部分」という。),目次及び本文から構成されていることが認められる。

(1)  留意事項記載部分について
 標記の不開示部分につき,諮問庁は,そのうち1行目から3行目までについては開示することとしているが,その他の部分(以下「本件不開示部分1」という)については,なお不開示とすべきであると説明している。

 諮問庁は,本件不開示部分1の不開示情報該当性につき,次のように説明している。
 本件対象文書は,作成当時における「当面」の執務資料であったものであり,本件不開示部分1が開示されると,当時の取調べ等における留意事項や捜査方針が,現在も全く変わることなく維持されているかのような印象を国民に与え,その記載振りから,「検察は,常に事件を類型化し,取調べ等の段階で一定の類型の事件とそれ以外の事件とで差別化を図っているのではないか」ひいては「一定の類型の事件にのみ力を注ぎ,それ以外の事件を軽視しているのではないか」などの誤った印象を国民に与えるおそれがあり,そのことは,検察に対する信頼を失わせることにつながりかねず,その場合には,将来,捜査・公判への国民の協力が得られなくなり,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持等に支障を及ぼすおそれがある(法5条4号該当)。また,本件不開示部分1は,その記載振りから,常に一定の類型の事件とそれ以外の事件とでは取調べの在り方に差異があるべきとの誤った先入観を若手検察官に与えるおそれがあり,取調べ能力の向上や時代の変化への即応という観点からは,問題があるというほかなく,検察組織全体の業務遂行に支障を生じさせるおそれがあり(同条6号該当),ひいては犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持等にも支障を及ぼすおそれがある(同条4号該当)。

 上記の諮問庁の説明について検討する。
 諮問庁の上記の説明は,要するに,本件不開示部分1が開示されると,検察庁において,事件を類型化した上,ある種の事件については尽力しつつ,その他の事件については軽視しているのではないかというような「誤解」や「誤った印象」を国民に与えることとなり,その結果,国民からの捜査等への協力が得られなくなる,又はその記載内容をうのみにした若手検察官の能力向上等を阻害するおそれがあるという趣旨のもの(法5条4号及び6号該当)と解される。
 まず,一般的に,行政文書中の特定の記載内容が必ずしも実態とは一致しておらず,正確性を欠くという場合に,それにより国民に誤解や誤った印象を与えてしまい,その結果,法5条4号及び6号に該当すると認められるかには疑問がある。また,一般論として,そのような事例があり得ることを否定しないとしても,本件不開示部分1に記載されているのは,ある種の事件においては,本件対象文書だけではなく,他の資料も参考とすべきであるという趣旨のものであり,このような内容が公になったからといって,誤った印象を国民に与え,捜査・公判の維持に支障を及ぼすおそれがある,又は若手検察官の能力向上等を阻害するおそれがあるとは認められず,行政機関の長が犯罪の捜査及び公訴の維持に支障を及ぼすおそれがあると認めることにつき相当の理由があるとも認められない。
 したがって,本件不開示部分1については,法5条4号及び6号に該当するとは認められず,開示すべきである。

(2)  目次について

 当審査会において見分したところ,目次は,「第1」から「第4」までの4つの大項目から構成されており,さらに,各大項目には,複数の小項目が含まれていることが認められる。諮問庁は,4つの大項目,大項目の中にある小項目の番号及び右端の各大項目・小項目のページ番号については開示することとし,小項目の具体的記載内容(以下「本件不開示部分2」という。)については,不開示とすべきとしている。

 諮問庁は,本件不開示部分2の不開示情報該当性につき,次のように説明している。
 本件不開示部分2を開示すると,検察庁がどのようなことに留意して取調べ等を遂行しているかを直接世間に知らしめることとなり,取調べ等を始めとする捜査における考え方や方針などが公になり,取調べに対する意図的な妨害行為等を誘発するおそれがある。そして,自らの刑責を免れようとする者や捜査及び公判を混乱させようと企てる者に対し,意図的な妨害行為等を行う際の有用な情報を与えることとなり,本件不開示部分2に記載された点を直接突いた妨害行為が行われるなどして,時間的・制度的制約の中で行われる犯罪の捜査に重大な支障を及ぼすおそれがある。また,捜査段階で生じた支障が公判にも引き継がれ,無用な争点が生じるなどして公判の混乱及び長期化を招くなど,適切な公判の維持にも支障を及ぼすおそれがある。したがって,本件不開示部分2は,法5条4号及び6号に該当する。

 上記の諮問庁の説明について検討する。
 当審査会において見分したところ,本件不開示部分2には,本文の内容に対応した項目が記載されており,その内容はある程度具体的なものであるとともに,それらのうち,相当数は設問形式で記載されていることが認められるが,そのいずれもが,取調べ等の場面において検討すべき論点,問題点等を挙げているにすぎないものであり,不開示部分2中において,それに対する具体的な対応策・解決策までもが記載されているわけではなく,また,採り上げられている論点,問題点等自体は,一般的に推測可能なところを大きく超えるものではない。
 そうすると,下記で検討するとおり,本件対象文書の本文の具体的な記載内容が不開示とされるのであれば,本件不開示部分2が開示されることのみによって,本文に記載されている問題意識・着眼点等の具体的な内容,対処方向等を示すものとは言えず,それらの一端を開示するのと同様の結果を生じさせるものとも言えないから,捜査・公訴等の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,犯罪の捜査及び公訴の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるとも認められない。
 したがって,本件不開示部分2については,法5条4号及び6号に該当するとは認められず,開示すべきである。

(3)  本文について

 諮問庁は,本文について,目次の大項目に相当する見出しが記載された部分(本文1ページ,12ページ,19ページ及び50ページの最上段)及び各ページの下部に記載されたページ数については,開示することとしているが,その余の部分である本文の記載内容(以下「本件不開示部分3」という)については,不開示とすべきとしているため,その不開示情報該当性について検討する。

 諮問庁は,本件不開示部分3の不開示情報該当性につき,次のように説明している。
 本件対象文書は,主として決裁官となる検察官を対象として,部下職員を指導する際の執務参考資料として発出された文書であり,検察官が取調べに当たって留意すべき事項等が記載されているため,これが開示されると,その記載内容から捜査手法や捜査上の留意点等が明らかとなり,今後の捜査及び公判において,被疑者及び被告人等から対抗措置等が容易に講じられ,適正な捜査や公判の遂行が妨げられることになる。また,検察庁において,過去に公表された文書中に,本件対象文書の本文中の記載と部分的に類似した記載のあるものがあるとしても,取調べに当たって留意すべき点として,本件対象文書ほどに詳細に記載されたものはなく,さらに,本件対象文書の性格が検察庁の内部資料であり,かつ,決裁官等の執務のための資料であって,捜査や取調べにとどまらず,公判の在り方に関するものまで,体系的かつ詳細に記載しているものであり,過去に公表したものとは性格が異なる。

 上記の諮問庁の説明について検討する。

(ア)  見出しについて
 まず,本件不開示部分3のうち,目次の小項目(本件不開示部分2)と同一の記載である見出しの部分について検討すると,諮問庁が目次の右端に記載されたページ数を開示することとしており,上記で検討したとおり,当審査会においては目次中の小項目は開示すべきであると考える以上,標記不開示部分についても,法5条4号及び6号に該当するとは認められず,開示すべきである。

(イ)  上記(ア)以外の部分について
 当審査会において見分したところ,本件不開示部分3のうち,上記(ア)で検討した見出しを除いた部分には,上記の目次の小項目(本件不開示部分2)及び上記(ア)の見出しに記載された論点,問題点等に対する考え方や解決策とも言えるものが記載されており,その内容は,相当程度に詳細かつ具体的なものであると認められる。
 そうすると,これを開示すると,その記載内容から捜査手法や捜査上の留意点等が詳細かつ具体的に明らかとなり,今後の捜査及び公判において,被疑者及び被告人等から対抗措置等が容易に講じられるおそれがあることは否定し難いから,犯罪の捜査及び公訴の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められる。
 また,過去に検察庁において公表された文書との相違点に関する諮問庁の説明についても,首肯できるものであり,過去の公表文書の有無やその内容によって,上記の判断が左右されるものとも認められない。
 したがって,本件不開示部分3のうち上記(ア)記載の見出しの部分を除いた部分については,法5条4号に該当するものと認められるので,同条6号につき判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。

 異議申立人の主張について
 異議申立人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。

 本件一部開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条4号に該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が,同条4号及び6号に該当することから,なお不開示とすべきとしている部分のうち,別紙記載の部分については,同条4号及び6号に該当するとは認められず,開示すべきであるが,その余の部分については,同条4号に該当すると認められるので,同条6号につき判断するまでもなく,不開示とすることが妥当であると判断した。

(第1部会)
  委員 小林克已,委員 中村晶子,委員 村上裕章






別紙(開示すべき部分

1 表紙の次ページの4行目以下
2 目次中の小項目の全て
3 目次の小項目に対応した本文中の見出しの全て