答申本文
諮問庁国税庁長官
諮問日平成21年 5月14日(平成21年(行個)諮問第74号)
答申日平成23年 6月13日(平成23年度(行個)答申第38号)
事件名特定日に特定番号で本人から受理した公益通報及びその処理に係るすべての書類の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論
 別表に掲げる文書1ないし文書5に記載された保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,別紙に掲げる部分を開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
 異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)12条1項の規定に基づく,平成○○年○月○○日付け官人○-○○において異議申立人から受理した公益通報及びその処理に係る全ての書類に記載された保有個人情報(以下「本件請求保有個人情報」という。)の開示請求に対し,同21年2月3日付け官人4-11により国税庁長官(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)を取り消し,原処分において不開示とされた部分に記載された保有個人情報(以下「本件不開示部分」という。)の開示を求めるというものである。

 異議申立ての理由
 異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね次のとおりである。

(1)  異議申立書
 次に記載するとおり,原処分は違法であるから,取り消されるべきである。

 個人識別情報であっても個人の権利利益を侵害せず不開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものは,法1条の目的に沿って開示すべきである。

 異議申立人が開示を求める保有個人情報が記載された文書は,異議申立人自身が作成した文書で,異議申立人の情報と調査対象法人の情報が記載されており,これを異議申立人に開示することは,何ら異議申立人の権利利益を侵害するものではなく,不開示にする必要のない情報である。また,仮に文理解釈上個人識別情報は不開示とせざるを得なくとも,不開示情報の性質と開示による公益を比較衡量することによる十分な検討を行い,公益上の裁量権(法16条)を行使して開示すべきである。

 特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれを諮問庁は不開示の理由とするが,このおそれの判断に当たっては,個別具体的に事案に則して,法人の性格や権利利益の内容,性質等に応じ,当該法人の権利の保護の必要性,当該法人と行政との関係等を十分考慮して適切に判断する必要があるところ,諮問庁はこれについて具体的な主張,立証を行っていないことから,不開示とする理由にはならない。

 諮問庁が説明する「行政機関の要請を受けて任意に提供を受けたものであり,通例として開示しないとされている情報であること」との不開示理由には,「任意に提供を受けたもの」が具体的に特定されておらず,不開示とする理由にはならない。

 特定法人の調査関係書類を不開示とすることにより利益を受けるのは,公益通報による処理を不当に行った大阪国税局及び国税庁である。公益通報の処理が適正に行われているのならば,本件対象保有個人情報を不開示とすることなく,むしろ積極的に開示すべきであって,開示しないのは,法の目的とは著しくかけ離れており,違法である。

(2)  意見書
 異議申立人が開示を求めているものの一部に法14条の不開示情報が含まれているとしても,不開示情報に該当する部分を区分することは容易であり,また,開示請求者以外の第三者の識別情報を除くことにより,開示しても開示請求者以外の第三者の権利利益が害されるおそれがないと認められるから,異議申立人に対し,当該部分を除いた部分につき法15条により開示しなければならないものである。

第3  諮問庁の説明の要旨
 本件開示請求等について
 本件開示請求は,処分庁に対し,平成○○年○月○○日付け官人○-○○において異議申立人から受理した公益通報及びその処理に係る全ての書類に記載された保有個人情報(本件請求保有個人情報)の開示を求めるものである。
 これに対し,処分庁は,本件対象保有個人情報を異議申立人が開示を求めている保有個人情報と特定し,その上で,平成21年2月3日付け官人4-11により,文書5の6頁ないし80頁に記載された保有個人情報について,法14条2号及び3号に該当するため不開示とする旨の一部開示決定(原処分)を行っている。
 以下,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。

 公益通報制度について
 公益通報者保護法は,公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関が採るべき措置を求めることにより,公益通報者の保護を図るとともに,国民の生命,身体,財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り,もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的に制定されたものである。
 国税庁においては,上記公益通報者保護法の制定趣旨に鑑み,内部の職員等及び外部の労働者からの通報を受けた場合に適切に処理するための内部規程を定めており,内部の職員等からの通報に関しては,平成18年3月17日付け官人4-13「公益通報関係事務取扱要領(内部の職員等からの通報編)の制定について(事務運営指針)」によることとしている。
 当該事務運営指針では,国税庁等及び国税庁等の職員についての職務上の法令違反行為又はその疑いのある事実(以下「通報対象事実」という。)の通報を受け付けた場合には,当該通報対象事実についての調査を行う必要性や問題点を検討し,その結果,調査を行うことが相当でない特段の事情が認められる場合を除き,必要な調査を行うこととしている。
 なお,本件においては,通報対象事実について必要な調査を行った上で,異議申立人に対し,当該調査結果を通知している。

 不開示情報該当性について
 本件開示請求は,異議申立人からされた「特定法人の税務調査において,特定税務署長等が不正な処理をしている」旨の公益通報に係る全ての書類を対象とするものであるため,当該公益通報の事務処理に関して複数存在する全ての文書に記載された保有個人情報が対象となるが,異議申立人から提出された文書を除き,そのほとんどが,当該特定法人に対する税務調査に関する情報であって,特定法人及び異議申立人以外の個人(特定法人の関係者)に関する情報である。
 これらの情報は異議申立人を本人とする保有個人情報には該当しないのであるが,本件不開示部分には当該特定法人の税務調査結果に加えて,異議申立人からの公益通報等に係る通報対象事実等に関する調査結果も記載されている部分があることから,特定法人等に関する情報の中に異議申立人の保有個人情報が一体となって混在している。
 その意味においては異議申立人の保有個人情報に該当すると言うこともできるが,当該情報は特定法人等に関する情報と一体となっており,容易に区分することが困難であると認められることから,当該特定法人等に関する情報が法14条各号に規定する不開示情報に該当すると認められるときは,法15条1項の適用はなく,その全てを不開示とすべきこととなる。

(1)  法14条7号イ該当性について
 法14条7号イは,国の機関が行う事務に関する情報であって,開示することにより,租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるものを不開示情報として規定している。
 本件不開示部分は,異議申立人からの公益通報を受け,処分庁が,通報対象事実を確認するために行った調査及び特定法人に対する税務調査の結果に関する情報である。
 具体的には,特定法人の概況,具体的な調査方針及び調査方法,問題事項等の有無及び内容,調査経過及び調査結果という特定法人に対して行われた税務調査における判断過程など,通報対象事実等の有無を判断する根拠となった事実やその判断過程に関する情報が具体的かつ詳細に記載されている。
 税務調査は,その内容が公にされることはないという前提の下,納税者との一定の協力関係を保ちながら行われている。
 税務調査に関する情報は,納税者にとって秘密にしておきたい極めて機微な情報を含むものであり,仮にこのような情報を納税者以外の第三者に開示されることとなれば,今後,当該納税者の協力が得られなくなるばかりか,自己の秘密が他人に開示されることもあり得ると知った他の納税者からも税務調査に対する協力が得られなくなるおそれがある。その結果,国税当局が行う調査事務に関し,正確な事実の把握が困難になるおそれが生じるなど,調査事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになる。
 したがって,これらの情報は,法14条7号イの不開示情報に該当すると認められる。

(2)  法14条3号イ該当性について
 法14条3号イは,法人その他の団体に関する情報又は開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを不開示情報として規定している。
 本件不開示情報は,上記(1)記載のとおり,特定法人に対する税務調査に関する情報であって,具体的かつ詳細に記載されているものである。
 当該情報は,当該特定の法人にとって機微な情報であり,当該情報が開示されると,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり,法14条3号イの不開示情報に該当すると認められる。

(3)  法14条2号該当性について
 法14条2号は,開示請求者以外の個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの等を不開示情報と規定している。
 本件不開示部分は,調査対象となった特定法人の関係者など,特定の個人の氏名等が記載されている。
 これらの情報は,異議申立人以外の特定の個人を識別することができる情報であることから,法14条2号の不開示情報に該当する。
 また,当該情報は,法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ,又は知ることが予定されているものとは言えないことから,法14条2号ただし書イに該当せず,同号ただし書ロ及びハに該当する情報にも該当しない。

(4)  異議申立人の主張について
 異議申立人は,本件不開示部分に異議申立人以外の特定の個人及び法人を識別することができる情報が含まれていたとしても,それは異議申立人が作成した調査関係書類に含まれているもので,異議申立人がそれらの情報を知ったとしても当該個人又は法人の権利,競争上の利益を害するおそれはない旨主張する。また,個人情報を開示するかしないかの決定に当たっては,本人に開示することによる利益と開示しないことによる利益とを適切に比較衡量する必要がある旨主張する。
 しかしながら,仮に本件不開示部分に,異議申立人がその職務上作成した調査関係書類の情報であって,既に知り得ているものが含まれているとしても,そのことによって上記(1)から(3)までで述べたようなおそれが失われるものではなく,法14条に規定する不開示情報に該当することは明らかであるから,異議申立人の主張は,諮問庁の判断を左右するものではない。

 結論
 以上のことから,本件対象保有個人情報につき,その一部を法14条2号及び3号に該当するとして不開示とした決定については,同条2号,3号イ及び7号イに該当すると認められるので,処分庁が行った原処分は妥当であると判断する。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

 平成21年5月14日  諮問の受理
 同日  諮問庁から理由説明書を収受
 同年6月17日  異議申立人から意見書を収受
 同年10月1日  本件対象保有個人情報の見分及び審議
 平成23年4月21日  審議
 同年6月9日  審議

第5  審査会の判断の理由
 本件開示請求について
 本件開示請求は,平成○○年○月○○日付け官人○-○○において異議申立人から受理した公益通報及びその処理に係る全ての書類に記載された保有個人情報(本件請求保有個人情報)の開示を求めるものである。
 処分庁は,別表に掲げる文書1ないし文書5に記載された保有個人情報(本件対象保有個人情報)を特定した上で,本件不開示部分が法14条2号及び3号の不開示情報に該当するとして,当該部分を不開示とする原処分を行った。
 なお,別表に掲げる文書1ないし文書4及び文書5の1頁ないし5頁に記載された保有個人情報については,いずれも原処分において全部開示されている。
 諮問庁は,本件不開示部分について,異議申立人を本人とする保有個人情報には該当しないが,同部分には特定法人の税務調査結果に加えて,異議申立人からの公益通報等に係る通報対象事実等に関する調査結果も記載されている部分があり,特定法人等に関する情報の中に異議申立人の保有個人情報が一体となって混在しているので,異議申立人の保有個人情報と特定法人等に関する情報とを,容易に区分することが困難であるとして,当該特定法人等に関する情報が法14条各号に規定する不開示情報に該当すると認められるときは,法15条1項の適用はなく,その全てを不開示とすべきこととなる旨説明する。
 しかしながら,本件対象保有個人情報の見分の結果によれば,本件不開示部分の全てにわたって,異議申立人の保有個人情報と当該特定法人等に関する不開示情報とを容易に区分することができないわけではないと認められるので,諮問庁の上記の説明は採用することができない。
 そこで,本件対象保有個人情報の見分結果に基づき,諮問庁が法14条2号,3号イ及び7号イに該当するとしている本件不開示部分について,個別に検討する。

 本件不開示部分の不開示情報該当性について
(1)  本件対象保有個人情報は,国税庁人事課及び法人課税課が公益通報に基づく是正措置等について検討した内容及びその結果の処理方針等の意思決定の内容が具体的に記載されたものである。このうち,別紙に掲げる情報は,異議申立人以外の個人に係る法14条2号に該当する情報を含むものではなく,また,特定法人等についての同条3号イに該当する情報を含むものではなく,さらに,同条7号イに該当する情報を含むものとは認められないから,同条2号,3号イ及び7号イ所定の不開示理由がある保有個人情報であるとは認められない。
 したがって,別紙に掲げる保有個人情報については開示すべきである。

(2)  法14条7号イ該当性
 本件不開示部分のうち,上記(1)において開示すべきとした別紙に掲げる部分以外の部分の保有個人情報は,特定法人等を調査対象として選定した理由及び概況,具体的な調査方針及び調査方法,問題事項等の有無及び内容,調査経過及び調査結果という特定法人等に対して行われた税務調査における判断過程など,通報対象事実等の有無を判断する根拠となった事実やその判断過程に関する情報が具体的かつ詳細に記載されたものである。また,これらの部分の情報は,異議申立人の提出した文書をそのまま引用した情報であるとも認められない。
 上記のことから,これらの情報が開示されると,租税の賦課に係る事務に関し,国税当局による正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあると認められることから,法14条7号イの不開示情報に該当するので,同条2号及び3号イについて判断するまでもなく,いずれも不開示とすることが妥当である。

 異議申立人の主張について
 異議申立人は,法16条に基づき公益上の裁量権を行使して開示すべきである旨主張しているが,本件不開示部分のうち,開示すべき部分以外の部分を開示することについて,当該部分を不開示とすることにより保護される利益を上回る個人の権利利益を保護する必要性があるとは認められない。
 また,異議申立人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。

 本件一部開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象保有個人情報につき,その一部を法14条2号及び3号に該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が,不開示とされた部分は同条2号,3号イ及び7号イに該当することから不開示とすべきとしていることについては,別紙に掲げる部分は同条2号,3号イ及び7号イのいずれにも該当せず,開示すべきであるが,その余の部分は,同条7号イに該当すると認められるので,同条2号及び3号イについて判断するまでもなく,不開示とすることが妥当であると判断した。

(第4部会)
 委員 西田美昭,委員 園 マリ,委員 藤原静雄





別表  本件対象保有個人情報が記載されている文書

番号

文書名

該当頁

文書1

公益通報受付整理票(その1)

1頁

文書2

平成○○年○月○○日付け官人○-○○「公益通報として受理する旨の決定について(通知)」に係る決裁文書

1頁ないし47頁

文書3

平成○○年○月○○日付け「公益通報」

1頁ないし15頁

文書4

公益通報受付整理票(その2)

1頁

文書5

平成○○年○○月○日付け官人○-○○「公益通報に基づく調査結果について(通知)」に係る決裁文書

1頁ないし80頁

 

別紙(開示すべき部分)
 文書5の6頁,7頁,8頁1行目,2行目(表題),3行目及び表の最上行(欄名)
 文書5の10頁1行目ないし3行目,4行目(表題のみ。手書きの記入部分を含まない。)並びに10頁ないし12頁の表の最上行(欄名)及び最左列の記載
 文書5の13頁(全部)