諮問庁 文部科学大臣
諮問日 平成30年 5月17日(平成30年(行情)諮問第231号)
答申日 平成30年 9月 6日(平成30年度(行情)答申第215号)
事件名 都道府県教育委員会から入手した自殺した児童生徒に関する報告書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「都道府県教育委員会から入手した自殺した児童生徒に関する報告書(平成26年度 H27年度 H28年度)」(以下「本件請求文書」という。)の開示請求に対し,「平成26年度,平成27年度,平成28年度都道府県教育委員会から提出された児童生徒の事件等報告書(児童生徒の自殺について報告されたもの)」(以下「本件対象文書」という。)を特定し,その一部を不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年4月3日付け29受文科初第3053号により,文部科学大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。


2 審査請求の理由

審査請求人が主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

文書の特定は可能である,特定県教育委員会は自殺した本人の氏名を裁判で公表している。法5条1号に該当しない。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 審査請求に係る行政文書について

本件審査請求に係る行政文書は,「平成26年度,平成27年度,平成28年度都道府県教育委員会から提出された児童生徒の事件等報告書(児童生徒の自殺について報告されたもの)」(本件対象文書)である。

処分庁は,本件対象文書の一部につき,法5条1号の不開示情報に該当することから不開示(原処分)としたところ,審査請求人から,原処分の取消しを求める旨の審査請求がされたところである。


2 本件対象文書の特定について

行政文書開示請求書の「1.請求する行政文書の名称等」においては「都道府県教育委員会から入手した自殺した児童生徒に関する報告書(平成26年度 H27年度 H28年度)」と記載されていた。

文部科学省としては,平成29年4月26日付け事務連絡等において,児童生徒が自殺した場合に「児童生徒の事件等報告書」による重大事件等の報告を求めているところであり,当該報告書が文書に該当しうると考えた。したがって,文部科学省としては,平成26,27,28年度に,児童生徒が自殺したとして報告された児童生徒の事件等報告書が上記文書に該当すると考えた。

そのため,平成29年9月25日付け「行政文書開示請求書の補正について(依頼)」において,当該報告書以外にどのような文書を想定しているか回答を依頼し,締切りまでに回答又は意見がない場合は,「平成26年度,平成27年度,平成28年度都道府県教育委員会から提出された児童生徒の事件等報告書(児童生徒の自殺について報告されたもの)」を今回請求の対象文書として特定する旨を審査請求人に伝えたところ,締切りまでに回答がなかった。

以上から,「都道府県教育委員会から入手した自殺した児童生徒に関する報告書(平成26年度 H27年度 H28年度)」とは,「平成26年度,平成27年度,平成28年度都道府県教育委員会から提出された児童生徒の事件等報告書(児童生徒の自殺について報告されたもの)」が審査請求人の請求する行政文書に該当するとした。更に,念のため確認したところ,審査請求人の請求する行政文書に該当する文書は当該報告書のほかには存在しなかった。


3 不開示情報該当性について

本件対象文書には,「事件等の概要」,「発生日時」,「発生場所」,「当該児童生徒の名前・学校名」,「学校の概要」,「事件等の経緯」,「当該児童生徒に関すること」,「事件前・事件後の対応について」等の各欄の記載部分並びに都道府県教育委員会連絡先,報告主体及び報告日等が記載されているところであるが,これらについては,次に掲げる理由から法5条1号に該当する。

すなわち,本件対象文書には,当該児童生徒の氏名,学年・年齢及び性別のほか,学校名,学校の所在地等学校の特定につながる情報,学校生活の状況や家庭環境などといった事件の背景事情や事件に至る経緯を含めた当該児童生徒の個人的な特性に関する情報,事件発生の日時及び場所の特定につながる情報等が記載されているものであり,これらは全体として当該児童生徒を識別することができるものである。

したがって,本件対象文書の不開示部分に記録されている情報は,いずれも法5条1号本文所定の情報に該当するというべきである。


4 原処分に当たっての考え方について

文部科学省においては,本件対象文書の不開示部分に記録されている情報は,いずれも法5条1号本文所定の情報に該当するため,原処分の決定を行ったところであり,審査請求人の請求は理由がない。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成30年5月17日  諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年6月11日     審議

④ 同年7月30日     本件対象文書の見分及び審議

⑤ 同年9月4日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号に該当するとして,不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,本件対象文書の特定を争うとともに,法5条1号に該当しないとして不開示部分の開示を求めているが,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件対象文書の特定の妥当性及び不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 本件対象文書の特定の妥当性について

(1)当審査会事務局職員をして諮問庁に対し,本件対象文書の特定について改めて確認させたところ,諮問庁は,以下のとおり説明する。

ア 本件開示請求は,「都道府県教育委員会から入手した自殺した児童生徒に関する報告書」の開示を求めるものであるところ,文部科学省では,都道府県教育委員会等に対し,児童生徒が自殺した場合(自殺が疑われる場合や未遂を含む。)及び重大な犯罪又は触法行為を起こした場合に「児童生徒の事件等報告書」の提出を求めているので,当該報告書のうち「児童生徒の自殺について報告されたもの」が本件開示請求に該当すると考えた。


イ そこで,審査請求人に対し,補正依頼文書を送付して,本件対象文書が本件請求文書に該当すると思われる旨及び請求内容がこれと異なる場合は,本件対象文書以外にどのような文書を想定しているのか回答を依頼し,締切りまでに回答又は意見がない場合は,本件対象文書を本件開示請求の対象文書として特定する旨を審査請求人に伝えたところ,締切りまでに回答がなかったので,本件対象文書を特定したものである。


ウ 諮問に当たり,念のため文部科学省の担当課の執務室及び書庫等を探索したが,本件対象文書の外に本件開示請求の対象として特定すべき文書の存在は確認できなかった。


(2)諮問庁の上記(1)の説明に特段不自然・不合理な点はなく,これを覆すに足りる事情も認められない。

したがって,文部科学省において,本件対象文書の外に本件開示請求の対象として特定すべき文書を保有しているとは認められない。


3 不開示部分の不開示情報該当性について

(1)当審査会事務局職員をして諮問庁に対し,本件対象文書の不開示部分の不開示理由について改めて確認させたところ,諮問庁は,以下のとおり説明する。

ア 本件対象文書には,自殺した児童生徒の氏名,学年・年齢及び性別のほか,学校名,学校の所在地等学校の特定につながる情報,学校生活の状況や家庭環境などといった事件の背景事情や事件に至る経緯を含めた当該児童生徒の個人的な特性に関する情報並びに事件発生の日時及び場所の特定につながる情報等が記載されているものであり,これらは全体として当該児童生徒を識別することができる情報であることから,本件対象文書の不開示部分に記録されている情報は,いずれも法5条1号本文所定の情報に該当する。


イ なお,不開示部分のいずれの情報も文部科学省において公にしておらず,また,公にする予定もない。


(2)当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書は,児童生徒の自殺について都道府県教育委員会等から報告された事件等報告書であり,「事件等の概要」,「発生日時」,「発生場所」,「当該児童生徒の名前・学校名」,「学校の概要」,「事件等の経緯」,「当該児童生徒に関すること」,「事件前・事件後の対応について」及び「本件に関する連絡先」の各欄が設けられていて,各欄の記載部分が不開示とされているほか,報告年月日及び報告主体の記載が不開示とされている。


(3)不開示部分の記載内容を見ると,児童生徒の氏名,学校名,学校生活の状況,事件発生日時及び発生場所等の自殺した児童生徒に関する情報が記載されており,文書全体が一体として当該児童生徒に係る法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができる情報に該当すると認められる。また,不開示部分について,同号ただし書イないしハに該当するとすべき事情は認められない。


(4)次に,法6条2項による部分開示の検討を行うと,児童生徒の氏名,年齢,学校名等の特定の個人を識別することができることとなるものは部分開示の余地はない。また,その余の不開示部分については,公にすることにより,児童生徒の友人や知人といった一定範囲の者に当該児童生徒の特定が可能となることが否定し難く,それらの者に事件の詳細な経緯等が明らかとなって,当該児童生徒の権利利益を害するおそれがないとは認められないので,部分開示することはできない。


(5)したがって,不開示部分は法5条1号に該当し,不開示としたことは妥当である。


4 審査請求人のその他主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


5 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件請求文書の開示請求に対し,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,文部科学省において,本件対象文書の外に開示請求の対象として特定すべき文書を保有しているとは認められないので,本件対象文書を特定したことは妥当であり,不開示とされた部分は,同号に該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であると判断した。


(第5部会)

委員 南野 聡,委員 泉本小夜子,委員 山本隆司