諮問庁 文部科学大臣
諮問日 平成30年 2月 9日(平成30年(行情)諮問第80号)
答申日 平成30年 5月30日(平成30年度(行情)答申第82号)
事件名 「特定大学特定キャンパスに関する基本協定書」に基づく特定学校法人理事会の議決書等の不開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

特定学校法人の理事会の議事録(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成29年12月4日付け29受文科高第1436号により,文部科学大臣(以下「文部科学大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。


2 審査請求の理由

審査請求人が主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求書(添付資料省略(ただし,下記(2)(添付資料)を除く。))

ア 不開示理由

原処分は,不開示とした部分とその理由を,「・「特定大学特定キャンパスに関する基本協定書」(以下「基本協定書」という。)13条において規定されている「特定学校法人の理事会の議決等を要する事項」として,同学校法人の議決がなされている場合における議決書等,当該議決があったこと,ないし議決内容が記載されている一切の文書」は,法人に関する情報であって,公にすることにより,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの規定により,また,事務に関する情報であって,公にすることにより,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,同条6号の規定により,不開示としました。」としている。

しかし基本協定書13条において規定されている「特定学校法人の理事会の議決等を要する事項」として,同学校法人の議決がなされている場合における議決書等,当該議決があったこと,ないし議決内容が記載されている一切の文書は,以下に詳しく述べるとおり,いずれも法5条2号イ及び6号規定の不開示事由には該当せず,原処分は違法であるため,本件審査請求を行った。


イ 本件対象文書の位置づけ

基本協定書1条は,「この基本協定書は,甲(特定市)と乙(特定学校法人)が相互に協力し,本市に国際水準の教育カリキュラムを備えた特定学部を核とする特定キャンパスの開設及び運営を円滑に行うととともに,特定キャンパスの魅力を一層向上させることによって,全国からの新たな人の流れを生み出し,また関連産業の誘致を促進することにより,若年人口の地元定着を図ることによって,地域の発展と活性化による地方創生に大きく寄与することを目的とする。」と定める。

また,基本協定書6条は,「乙(特定学校法人)は,特定キャンパスを社会に開かれたものとし,地域住民に対してこれを積極的に開放し,地域の発展と活性化に貢献するものとする。」ともある。

したがって,特定市の住民の生命や健康,財産が保護されず,侵害される可能性があるところには,「関連産業の誘致を促進」しても,関連産業が定着するはずもなく,また「若年人口の地元定着を図る」ことなどはあり得ない。このように,本件対象文書の不開示を内容とする原処分は,基本協定書1条の目的とは相いれないものであるばかりか,同協定書6条の精神にも悖るものである。


ウ 法5条2号イ該当性

(ア)原処分は,本件対象文書について,法人に関する情報であって,公にすることにより,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの不開示事由に該当するとする。


(イ)しかし,不開示理由からは本件対象文書の開示により,特定大学特定学部の如何なる「権利,競争上の地位その他正当な利益」を害するおそれがあるのか全く不明である。

仮に,本件対象文書が公になることにより,特定大学特定学部の当該施設を用いた学問研究における競争上の地位が害されるおそれがあるとの主張だとすれば,議決内容が記された本件対象文書自体の開示で,特定大学特定学部独自のノウハウ等が明らかになるようなものとは考えられず,本件対象文書の開示により特定大学特定学部が受けるデメリットはさほどのものとは認められない。仮に当該研究施設に関連して,本件対象文書の開示により特定大学特定学部が相当のデメリットを受けるとしても,当該研究施設と密接に関連する部分のみ当該関連情報部分のみ(原文ママ)不開示とすれば足りるのであって,全ての本件対象文書を不開示とする必要性は全く認められない。


(ウ)また,法5条2号イの「害するおそれ」の判断に当たっては,法人等又は事業を営む個人には様々な種類,性格のものがあり,その権利利益にも様々なものがあるので,法人等又は事業を営む個人の性格や権利利益の内容,性質等に応じ,当該法人等又は事業を営む個人の憲法上の権利の保護の必要性,当該法人等又は事業を営む個人と行政との関係等を十分考慮して適切に判断する必要があり,この「おそれ」の判断に当たっては,単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が求められる(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」56頁)。

特定大学特定学部は特定の状況であり,特定大学自体は私立大学ではあるものの,特定大学特定学部に限っては,高い公共性を有し,行政と同程度の説明責任が課される法人としての性格を有する。

また,権利内容は,上述のとおり不開示理由からは明らかではないが,仮に学問研究の自由及び学問研究における競争上の地位にあるとすれば,学問研究の自由は,自由に支えられた学術の進展こそが,広く社会に健全な発展をもたらすという趣旨に基づき憲法23条により保障されている権利であって,元来,公的側面の強い性格を有するものであり,公益的観点からの情報公開との関係では保護の必要性は必ずしも高いとはいえない。

さらに不開示理由からは,本件対象文書の開示により,特定大学特定学部の学問研究の自由や学問研究における競争上の地位が害される可能性がどの程度存在するのかも全く不明であり,むしろそのような可能性はおよそ想定し難い。まさに単なる確率的な可能性を指摘しているにすぎず,法的保護に値する蓋然性などは全く認められない。

また,平成29年11月14日は,文部科学大臣によって特定大学特定学部の開学認可がなされており,この期に及んで,いかなる法人の競争上の地位が害されることがあるのか,想定し難い。

したがって,不開示理由は「害されるおそれ」に該当しないのであるから,法5条2号イの不開示事由には当たらない。


(エ)法5条2号ただし書は「ただし,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除く。」と規定している。同ただし書は,当該情報を公にすることにより保護される人の生命,健康等の利益と,これを公にしないことにより保護される法人等又は事業を営む個人の権利利益とを比較衡量し,前者の利益を保護することの必要性が上回るときには,当該情報を開示しなければならないとするものである。現実に人の生命,健康等に被害が発生している場合に限らず,将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれ,法人の事業活動と人の生命,健康等に対する危害等との明確な因果関係が確認されなくても,現実に人の生命,健康等に対する被害等の発生が予想される場合もあり得る(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」56頁)。

特定大学特定学部には,特定の施設を設置する計画になっている。なお,特定の施設は,(中略)取扱いが予定されている。

また,この特定の施設は特定の状況など構造上の問題があるともいわれている。

このように特定大学特定学部において,特定の施設に瑕疵等があり病原体がたとえ微量でも外部に漏洩するような事故が発生した場合には,近隣住民らの生命及び健康に対する重大な侵害を生じさせることが予想されるのである。

しかもそのような漏洩事故が発生する可能性は低くない。なぜならば,特定大学特定学部の建設地(特定地)近くには,西方に断層が縦横に存在し(「特定市・地震防災マップ」によれば,「特定地」北側に震度6強を示す赤い帯がある),その特定地に建つ特定学部棟の特定階に特定の施設は存在する。したがって,人的原因のみならず自然災害による事故のリスクも考えられ,それらの事故により,病原菌などが漏れ出て風に乗った場合の飛散範囲の甚大さは想像に難くない。

以上のことから,特定大学特定学部開学後の特定の施設の稼働は様々な災害や人災を原因とする事故に見舞われる現実的リスクを有しており,特定大学特定学部の事業活動は,近隣住民の生命及び健康に直結している。

基本協定書は,このような事業活動を行う特定学校法人と特定市とが「相互に協力し,特定学部を核とする特定キャンパスの開設及び運営を円滑に行う」ことなどを定めた契約書であり,本件対象文書はその核となる議決内容が記載されている重要書類である。さらに本件対象文書は,市民の財産である土地の無償譲渡と補助金の交付に関する契約書の一部をなす重要な書類としての側面も持つ。

一方で,本件対象文書を開示しないことにより保護される特定大学特定学部の権利利益は上述したとおり漠然としたものであり,その保護の必要性は極めて低い。

したがって,法5条2号ただし書の規定により,本件対象文書は開示されなければならない。


エ 法5条6号該当性

(ア)原処分は,本件対象文書について,事務に関する情報であって,公にすることにより当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから法5条6号に該当するとして不開示にしている。


(イ)法5条6号の「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」とは,行政機関の長に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく,各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり,また,事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし,公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」といえるものであることが求められる(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」78頁)。また,「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求される。

特定大学特定学部は特定の状況であり,特定大学自体は私立大学ではあるものの,特定大学特定学部に限っては,高い公共性を有し,行政と同程度の説明責任が課される法人としての性格を有する。また,特定大学特定学部では,上記のとおり,特定の施設を設置する計画になっている。将来,特定の施設に瑕疵等があり病原体がたとえ微量でも外部に漏洩するような事故が発生した場合には,近隣住民らの生命及び健康に対する重大な侵害を生じさせることが予想されるのである。そして上述のとおり,特定大学特定学部の建設地近くには,西方に断層が縦横に存在(特定市・地震防災マップには特定地北側に震度6強を示す赤い帯がある)し,特定地に建つ特定学部棟の特定階に特定の施設は存在する。したがって,人的原因のみならず自然災害による事故のリスクも考えられ,それらの事故により,病原菌などが漏れ出て風に乗った場合の飛散範囲の甚大さは想像に難くない。

本件対象文書を開示して,理事会においてその安全性及び財政面について十分な検討がなされたのかどうかを様々な外部専門家により多角的に検証することが可能となる。そして近隣住民らの生命及び健康を保護し,また,税金が適正に使用されているかどうかを検討することが出来るようにもなるのであって,公益的な開示の必要性は極めて高い。

一方で,本件対象文書の開示により実質的な支障が,法的保護に値する蓋然性をもって発生するのかどうかは不明としかいいようがなく,上記公益的な開示の必要性と衡量した場合に,法5条6号の不開示事由に該当しないことは明らかである。


オ 結語

以上のとおり,原処分の不開示理由は,法に定める不開示事由に該当しないから,審査請求人は,原処分に対して,行政不服審査法に基づき,審査請求を行う。

行政機関は,法18条に基づいて,情報公開・個人情報保護審査会に諮問することとなるが,情報公開・個人情報保護審査会におかれては,本件対象文書の内容を精査し,その公益的な開示の必要性に鑑みて,情報公開の適否に関する審査を行っていただきたい。


(2)審査請求書の添付資料

数々の疑惑が解明されないまま,特定大学特定学部の開学が認可され,この4月には学生が通い始めます。施設が公開され,今さら図面を隠すす意味はないのですが,なぜ隠すのでしょうか。

特定月に,報道で,特定学部の平面図ではないかと思われる特定枚の図面が流出しました。

今回開示されたものと同じものなのかどうかを専門家の眼で確認した上で,構造上,病原体などを扱う施設として学生や職員,近隣住民との関係で問題がないかどうか確認する必要があります。

不開示の理由は「学校法人の権利」や「競争上の地位」「その他正当な利益を害するおそれがあること。」となっていますが,理由になっていません。

学校法人の権利や競争上の地位とは,特定の状況である特定市民の知る権利よりも大きいのでしょうか。

周辺住民が危険な病原体にさらされるおそれもあるのに,「その他正当な利益を害するおそれ」とはなんでしょうか。

法人の競争上の地位とは何でしょうか。(中略)開学認可がおりてから競争上の地位も何もありません。

不開示とされた理事会議事録について,特定市と特定学校法人は特定学部開設について基本協定書を締結しています。その協定書の13条には「この基本協定中,甲の議会又は乙の理事会の議決等を要する事項については,それぞれの議決等がなされたときに効力が生ずるものとする。」と規定されています。特定学校法人側理事会において,特定学部開設に関するなんらかの議決があるということが開学の前提です。

私たちはこの理事会議事録を文部科学省が保持していると見て開示請求しました。

文部科学省はこれを保持していることは認めながら,不開示としました。しかし,開示請求後,不開示決定が出る前に審査請求人が文部科学省担当者と電話で話をした際には「理事会の議事録は保持している。量が多いので精査するのに時間がかかっている。人事など公開できない部分もある。特定学部に関する部分だけなら先に出せる」と言っていました。

ところが,結果は全面不開示でした。なぜ全面不開示になったのでしょうか。不自然です。

本事案は4月開学で終わりではありません。開学すれば明らかになる

ことも多々あるでしょう。むしろこれからが勝負だと思っています。


(3)意見書(添付資料省略)

ア 概要

(ア)本件は,特定年月日付の特定市及び特定学校法人を当事者とする「特定大学特定キャンパスに関する基本協定書」(基本協定書)と本件対象文書の開示を請求したのに対し,基本協定書については,理事長印の印影以外の部分については開示されたものの,本件対象文書については,①法人に関する情報であって,公にすることにより,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの規定により,また,②事務の情報であって,公にすることにより,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,同条6号の規定により,その全てが不開示とされたものである。


(イ)したがって,本意見書では本件対象文書の不開示処分に対する意見が中心となるが,本件対象文書は,以下のとおり,いずれも法5条2号イ及び6号規定の不開示事由には該当せず,原処分は違法である。情報公開・個人情報保護審査会におかれては,本件対象文書の内容を精査し,その公益的な開示の必要性に鑑みて,情報公開の適否に関する審査を行っていただきたい。


イ 本件対象文書の位置づけ

(ア)基本協定書13条には,「この基本協定中,甲(特定市のこと)の議会又は乙(特定学校法人のこと)の理事会の議決等を要する事項については,それぞれの議決等がなされたときに効力が生じるものとする」と規定し,基本協定書に記載された事項について,本件対象文書の内容及び存在が効力の発生要件となっているものである。そして,その「議会又は理事会の議決を要する事項」には,基本協定書の4条及び5条に記載された土地の無償譲渡及び補助金が含まれることが明らかになっている。土地及び補助金で併せて特定金額ともいわれる公費が投入された事案において,その効力の発生,すなわち文部科学省における開学までのプロセスが正当かつ合法になされたかを主権者である国民が確認する上で,必要不可欠かつ重要な文書なのである。


(イ)(上記(1)イと同様の内容であるため,記載省略)


(ウ)(上記(1)イと同様の内容であるため,記載省略)


ウ (上記(1)ウと同様の内容であるため,記載省略)


エ (上記(1)エと同様の内容であるため,記載省略)


オ 小括

以上のとおり,原処分の不開示理由は,法に定める不開示事由に該当しないことは明らかである。

行政機関は,法19条1項に基づいて,情報公開・個人情報保護審査会に諮問することとなるが,情報公開・個人情報保護審査会におかれては,本件対象文書の内容を精査し,その公益的な開示の必要性に鑑みて,情報公開の適否に関する審査を行っていただきたい。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件開示決定及び審査請求について

本件開示請求は,平成29年11月2日付け行政文書開示請求書にて「特定年月日付の特定市及び特定学校法人を当事者とする「特定大学特定キャンパスに関する基本協定書」(基本協定書)及び「基本協定書13条において規定されている「特定学校法人の理事会の議決等を要する事項」として,同学校法人の議決がなされている場合における議決書等,当該議決があったこと,ないし議決内容が記載されている一切の文書」の開示を求められたものである。

このうち,基本協定書については,法5条2号イの規定により不開示となる部分以外について開示を決定し,本件対象文書については,同号イ及び6号の規定により,その全てを不開示と決定したところ,審査請求人から,原処分を取り消し,対象文書のうち,存在する文書について開示決定を求める旨の審査請求がなされたところである。


2 不開示とした部分とその理由

基本協定書については,理事長印の印影以外の部分について開示し,理事長印の印影については,法人に関する情報であって,公にすることにより,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの規定により不開示と決定(以下「基本協定書部分に係る処分」という。)した。また,本件対象文書については,法人に関する情報であって,公にすることにより,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,同号イの規定により,また,事務の情報であって,公にすることにより,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,同条6号の規定により,その全てを不開示と決定した。


3 不開示情報該当性について

基本協定書については,特定大学に特定学部を設置するため特定学校法人から提出のあった特定学校法人寄附行為変更認可申請書に添付されている文書であり,本件対象文書については,大学設置・学校法人審議会学校法人分科会(以下「分科会」という。)で必要な審査を行うために,審査の過程において,特定学校法人に任意で提供を依頼し,取得した文書に含まれているものである。

(1)法5条2号イの該当性について

原処分において,本件対象文書とは特定学校法人の理事会の議事録である。理事会は学校法人としての意思決定機関であり,その議事録には学校法人の運営上の意思決定の形成過程や経営戦略,具体的な契約内容も含まれるものである。これらは内部情報として通常秘匿されるべき情報であり,地方公共団体から補助金が支出される予定であるとはいえ,学校法人は私法人であり,公にすることにより競争上の地位への悪影響を及ぼすといった不当な不利益が発生するおそれがあることから,法5条2号イに該当する。

審査請求人は,特定大学特定学部の事業活動は近隣住民の生命及び健康に直結するとして,法5条2号ただし書により開示されなければならないと主張しているが,本件対象文書は,開示している基本協定書で明らかであるが,近隣住民の生命及び健康に直結する内容が記載される性格のものではないことから,同号ただし書を理由として開示をすることは妥当ではない。

なお,基本協定書部分に係る処分において,理事長印の印影を法5条2号イにより不開示としているが,理事長印は,記載内容が真正であることを示す認証的機能を有するものであり,学校法人の理事長印等の公印は,学校法人によっては,各法人が定める公印規定によって,その大きさ,材質,形状及び用途等が定められたり,使用記録簿に記入したりするなど,厳重な管理の元で使用されている。これを公にした場合,偽造され悪用されるなど,法人の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあるものであるため,同号イに該当し,不開示が妥当である。


(2)法5条6号の該当性について

本件対象文書は法5条6号の規定により,その全てを不開示と決定している。分科会の行う審査業務は,申請に対する認可の可否を学校法人の寄附行為及び寄附行為の変更の認可に関する審査基準(平成19年文部科学省告示第41号)に照らして専門的・学術的見地から判断し答申するため,学校法人の管理運営状況や事務処理状況,財政計画等学校法人の運営に係る広範な事項を審査している。したがって,審査の過程においては,法令で定められた申請書類に加え,審査状況等に応じて柔軟に幅広い資料を申請者から任意に提出してもらっている。過去には,裁判の状況について説明した書類や役職員の報酬・給与額を記載した書類等,極めて秘匿性の高い資料を申請者から任意に提供を受けている。申請者がこのように秘匿性の高い資料の提出に協力するのは,文部科学省との間で,公にしないという前提と信頼関係があるからに他ならない。

本件対象文書は,法令で定められた申請書類ではなく,申請者から任意で提出を受けた資料であるから,上述のような審査実務の状況を考慮せず,もし,情報公開請求によって本件対象文書の開示が義務付けられるとするならば,申請者と文部科学省との間で形成されてきた前提や信頼関係が崩壊し,今後,審査に必要な書類の提出について申請者から協力が得られなくなることは明白である。そして,その結果,将来にわたり,申請者である学校法人の実情を踏まえた適正な審査が行えなくなるなど,分科会が行う審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかであることから,法5条6号に該当し,不開示とすることが妥当である。


4 原処分に当たっての考え方

以上のことから,基本協定書において,理事長印の印影を不開示にし,それ以外を開示した基本協定書部分に係る処分及び本件対象文書を不開示とした処分は妥当であり,本件は原処分維持を求めて諮問するものである。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成30年2月9日 諮問の受理

② 同日        諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月27日     審議

④ 同年3月14日   審査請求人から意見書及び資料を収受

⑤ 同年5月8日    本件対象文書の見分及び審議

⑥ 同月28日     審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,基本協定書及び本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,基本協定書については,その一部を法5条2号イに該当するとし,本件対象文書については,その全部を同条2号イ及び6号に該当するとして,不開示とする決定(原処分)を行った。

これに対して,審査請求人は,本件対象文書の開示を求めているが,諮問庁は,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件対象文書の不開示情報該当性について検討する。


2 本件対象文書の不開示情報該当性について

(1)当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,不開示理由等について,改めて確認させたところ,諮問庁は,おおむね以下のとおり説明する。

ア 本件対象文書は,分科会において必要な審査を行うために,審査の過程において,特定学校法人に任意で提供を依頼し,取得した理事会の議事録である。


イ 理事会は学校法人としての意思決定機関であり,その議事録には学校法人の運営上の意思決定の形成過程や経営戦略などが記録されているので,公にした場合,他の学校法人等に知られたくない特定学校法人の内部情報等が明らかとなり,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。


ウ 審査請求人は,特定大学特定学部の事業活動は近隣住民の生命及び健康に直結するとして,開示されなければならないと主張しているが,本件対象文書は,近隣住民の生命及び健康に直結する内容が記載される性格のものでないことは,開示されている基本協定書から明らかである。


(2)以下,上記諮問庁の説明も踏まえ検討する。

ア 本件対象文書は,特定学校法人の理事会の議事録であり,特定学校法人と特定市が基本協定書を締結することについての審議の情報が記録されていることが認められる。


イ 当該審議情報は,特定学校法人の意思決定の形成過程や経営戦略など他の学校法人等には知られたくない内部情報等であるため,本件対象文書を公にした場合,このような特定学校法人の内部情報等が明らかとなり,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとする諮問庁の説明は首肯できる。

また,審査請求人は,法5条2号ただし書に該当する旨主張するが,本件対象文書には,諮問庁が上記(1)ウで説明するとおり,近隣住民の生命及び健康に直結する内容が記載されているとは認められないので,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため本件対象文書を公にする必要性があるとは認められない。

したがって,本件対象文書は,法5条2号イに該当し,同条6号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

(1)審査請求人は,税金が適正に使用されているかどうかを検討するため,公益的な開示の必要性は極めて高い旨主張していることから,法7条の公益上の理由による裁量的開示をすべきである旨主張しているものと解される。

しかしながら,上記2において不開示すべきと判断した本件対象文書を開示することが公益上特に必要であるとは認め難く,法7条による裁量的開示をしなかった処分庁の判断に,裁量権の逸脱又は濫用があると認めることはできない。


(2)審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条2号イ及び6号に該当するとして不開示とした決定については,同条2号イに該当すると認められるので,同条6号について判断するまでもなく,妥当であると判断した。


(第5部会)

委員 南野 聡,委員 泉本小夜子,委員 山本隆司