諮問庁 文部科学大臣
諮問日 平成29年12月25日(平成29年(行情)諮問第495号)及び平成30年2月9日(平成30年(行情)諮問第81号)
答申日 平成30年 5月30日(平成30年度(行情)答申第81号及び同第83号)
事件名 特定市に建設予定の特定大学特定学部に関連する建物の図面の不開示決定に関する件
特定市に建設予定の特定大学特定学部に関連する建物の図面の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙に掲げる文書1ないし文書4(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定について諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分を不開示とすること及びその一部を不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく各開示請求に対し,平成29年10月2日付け29受文科高第1133号及び同年12月25日付け29受文科高第1541号により,文部科学大臣(以下「文部科学大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定及び一部開示決定(以下,順に「原処分1」及び「原処分2」といい,併せて「原処分」という。)について,その取消しを求める。


2 審査請求の理由

審査請求人が主張する審査請求の理由は,各審査請求書及び各意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求書1(平成29年(行情)諮問第495号)(添付資料省略)

ア 不開示決定の内容

審査請求人は,文部科学省に対し,平成29年9月6日付書面にて,法4条1項に基づき,「特定市に建設予定の特定大学特定学部に関連する全ての建物についての図面一式」の開示請求をした。処分庁は,この開示請求に対し,同年10月2日付29受文科高第1133号により不開示決定(原処分1)を行った。

上記不開示決定通知書には,不開示の理由について,「請求文書のうち現在保有している文書については,特定大学に特定学部を設置するための審査に関する資料として提出されたものであり,現在,審査中であることから,法5条5号により不開示としました。」「審査に関する資料として提出された文書以外で請求文書に該当する文書については,保有していないため不開示としました。」との記載がある。一部の文書については,所持していることを認め,不開示としたものである。


イ 法5条5号の趣旨

法5条5号は,「国の機関,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が損なわれるおそれ,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」を不開示とすることとしている。

法5条5号の趣旨は,行政文書には,行政機関としての最終的な意思決定前の事項に関する情報が含まれうるが,こうした情報が開示されることによって,行政機関としての適正な意思決定が損なわれる可能性があることから,行政運営の公開性の向上と説明責任の確保という法の目的も考慮した上,個別具体的に,開示することによる不利益等を考慮して不開示とする情報の範囲を画することとしたものである(「詳解情報公開法」71頁~72頁)。


ウ 本件対象文書は法5条5号の定める「国の機関,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議,検討又は協議に関する情報」に該当しないこと

(ア)「審議,検討又は協議に関する情報」とは

法5条5号の定める「審議,検討又は協議に関する情報」とは,「事務及び事業において意思決定が行われる場合に,その決定に至るまでの過程において,例えば,具体的な意思決定の前段階としての政策等の選択肢に関する自由討議のようなものから,一定の責任者の段階での意思統一を図るための協議や打合せ,決裁を前提とした説明や検討,審議会又は行政機関が開催する有識者,関係法人等を交えた研究会における審議や説明など,様々な審議,検討及び協議が行われており,これら各段階において行われる審議,検討又は協議に関連して作成され,又は取得された情報」をいうとされており,具体例として,地方法務局出張書に関する登記適正配置折衝最記録,国立病院の再編成協議会の議事録,最高裁判所裁判官会議,司法試験委員会の議事内容の録音内容等が挙げられる。


(イ)宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説」の見解

宇賀克也は,「新・情報公開法の逐条解説」(第5版2013年有斐閣)は,法5条5号の趣旨について,次のように述べている。

「デンマーク,オーストラリアの情報公開法のように,審議,検討又は協議に関する不開示情報の規定は,事実に関する情報については適用しないことを明文で定めている例もあるし,アメリカの場合は,判例法上,政策情報と事実情報を区別し,後者には原則として審議過程特権に関する不開示規定を適用しないこととしている」(字賀情報公開法252頁)。我が国においても,安威川ダム訴訟において大阪高判平成6年6月29日(判タ890号85頁)が,専門家が調査した自然界の客観的,科学的な事実及びこれについての客観的,科学的な分析の情報自体が,調査研究,企画などを遂行する上で誤解を生じさせるものではないと判示している(最判平成7年4月27日判例集不登載は上告棄却)。

大阪府交野市情報公開条例も,審議,協議等に関する不開示情報の規定は,事実に関する情報には適用されないことを明記している。「本条5号を解釈するに際しても,政策,意見に関する情報と事実に関する情報を区別して考える必要がある。」としている。

事実に関する情報は,審査途中であっても,公開することが法の趣旨なのである。


(ウ)本件対象文書は客観的な資料であり,審議,検討,協議の内容が記載されたものではない

本件対象文書は,特定市に建設予定の特定大学特定学部に関連する全ての建物についての図面一式であって,審議に向けて提出された客観的な資料にすぎず,審議,検討,協議の内容が記載されたものではない。しかも,特定市においては,国の最終判断を待つことなく,建物の建築が既成事実を固めるために,建築工事が遂行されており,現在も停止していない。

行政機関としての適正な意思決定が損なわれることを防ぐために当該情報を不開示とする法5条5号の立法趣旨に照らしても,およそ,「審議,検討又は協議に関する情報」に該当しない。よって,本件対象文書に記載された情報は,法5条5号の対象情報たる「審議,検討又は協議に関する情報」に,そもそもあたらない。


エ 本件対象文書は法5条5号の定める不開示事由に該当しないこと

次に,仮に本件対象文書が法5条5号の定める「審議,検討又は協議に関する情報」に該当するとしても,同号の定める不開示事由のいずれにも該当しない。

(ア)公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがない

上記の要件は,公にすることにより,外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある場合を想定したもので,適正な意思決定手続の確保を保護利益とするものである。

しかし,本件では,本件対象文書を開示しても,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれはない。


(イ)公にすることにより不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがない。

法5条5号の趣旨は,未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報などを公にすることにより,不当に国民の間に混乱を生じさせたり,国民への不当な影響が生じないようにするものである。そして,「不当に」とは,審議,検討等途中の段階の情報を公にすることの公益性を考慮してもなお,国民の間に生じさせる混乱や不利益が看過できない程度のものを意味し,当該情報の性質に照らし,公にすることによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断される。


(ウ)公にすることにより特定の者に不当に利益又は不利益を及ぼすおそれはない

このような情報を明らかにすることは,客観的な情報を明らかにすることにとどまり,これを公にすることにより,特定の者に不当に利益を与え若しくは不当に不利益を及ぼすおそれはない。

なお,これを公表することにより,特定大学特定学部の計画の設計上の問題点や予算見積もり上の問題点などが明らかになり,特定大学に不利益を及ぼす可能性は否定できないが,それは,まさに客観的な計画そのものが明らかになることによる,自然の帰結であり,決して「不当」な結果ではない。


(エ)結論

したがって,本件対象文書は,そもそも「審議,検討又は協議に関する情報」に当たらず,仮に当たるとしても,法5条5号の不開示事由にはいずれも該当しない。これを不開示とした行政の判断は誤っており,不開示決定は違法である。


オ 原子力規制の分野における情報公開との比較

原子力基本法は自主・民主の原則とともに,公開の原則を定めている。制定当時の公開の原則は,技術の軍事転用を防ぐという意味が強かった。今日では,原子力情報の公開は技術的な安全性を確保するために重要な意味を持つものと理解されている。

1970年代に初めて原発の設置許可取り消しの訴訟が提起された当時は,設置許可申請書と添付書類なども秘密とされ,審査の議事録なども非公開とされた。その後,裁判所による文書提出命令などにより,文書の公開は進展していったが,1995年12月に発生したもんじゅナトリウム漏れ事故とその後の動燃の事故隠し,1997年3月動燃東海再処理工場のアスファルト固化施設における爆発事故,1999年9月JOC臨界事故などは我が国の原子力業界の秘密体質を余すところなく明らかにした。

このような一連の事態に対して,原子力関係の会議の一部を公開したり,これまで非公開とされてきた文書の一部が公開とされるなど改善された点も指摘できる。

法と独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律が制定された後は,企業の秘密の保護と核物質防護を理由とした非公開が行われることはあるとしても,ほとんどの情報が公開されるようになった。設置(変更)許可申請(いわゆる再稼働申請)が行われた時点で,提出された情報はウェブに公開され,審査会合は傍聴もでき,インターネット中継もされる。議事録も間を置かずに公開されている。

もちろん,このような情報公開の体制のもとでも,事業者との非公開会合が慣行として続いていることも指摘されている。特定事案前の特定会社の特定対策の検討状況などは国に対しても秘匿されていた。しかし,民間機関が国に対して申請した処分の裏付けとなる客観的な資料は,原子力行政においては公開されるようになった。本件審査請求に係る建物の設計図面のような客観的資料は,これを隠すことなく,公表することは当たり前のことである。


カ 結論

実は,本件の設計関連文書のうちの特定頁分は,マスメディアによって入手され,特定新聞社の情報サイトに掲載されている。

そして,これらの図面に基づいて,補助金の金額と比較して,建設予算が高すぎるのではないか,予定されている特定建物の仕様に問題があるのではないかとの指摘もなされている。

そして,専門家の多くは,より詳細な設計図面があるはずで,これらを見ることができれば,これらの疑問点に確実に回答を出すことができると述べている。

本件対象文書は,最終的に公的な補助金の対象となることが予定され,現実に建設が続行されている施設の設計図面であり,既にこのような公の論争の対象となっている客観的な資料なのである。

行政機関は,法19条1項に基づいて,情報公開・個人情報保護審査会に諮問することとなるが,情報公開・個人情報保護審査会におかれては,非開示決定は明らかに違法であり,速やかに開示相当の意見を発出されるよう,強く求めるものである。


(2)審査請求書2(平成30年(行情)諮問第81号)(添付資料省略)

ア 原処分2は,不開示とした部分とその理由を,「・平面図については,公にすることにより,当該学校法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの規定により,不開示としました。・見積書及び契約書については,公にすることにより,当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,同号イの規定により,不開示としました。・審査の過程で任意で提出された文書については,当該学校法人に関する情報であって,公にすることにより,当該学校法人の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあることから,同号イの規定により,また,公にすることにより,今後の審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号に該当するため,不開示としました。・上記以外の図面については,所有していないため,不開示としました。」としている。

しかし,これらの文書は,以下に詳しく述べるとおり,いずれも法5条2号イ及び6号規定の不開示事由には該当せず,原処分2は違法であるため,本件審査請求を行った。


イ 平面図,見積書及び契約書について

(ア)原処分2は,平面図,見積書及び契約書の不開示理由を,法5条2号イの規定により,「公にすることにより,当該学校法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」としている。


(イ)本件平面図等の開示については,審査請求人が平成29年9月7日に開示請求を行った際にも不開示とされたが,その際の不開示理由は,「国の機関・独立行政法人等・地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議,検討又は協議に関する情報(法5条5号)」に該当するものとして不開示とされた。

その後,平成29年10月24日,文部科学大臣が定例記者会見において本件図面等については,「特定学部開学認可後に開示請求されれば法令に基づいて判断する」と答弁し,しかるべき開示がなされることを示唆していた。このため審査請求人は,同年11月24日,本件図面等の2度目の開示請求を行ったものである。

しかるに本件図面等については,再度,不開示とされたばかりではなく,その不開示の理由も前回と異なる法5条2号イが根拠とされているのである。


(ウ)さらに,不開示理由からは,平面図,見積書及び契約書の開示により,特定大学特定学部のいかなる「権利,競争上の地位その他正当な利益」を害するおそれがあるのか全く不明である。

仮に,大学内の研究施設の設計や配置などが公になることにより,特定大学特定学部の当該施設を用いた学問研究における競争上の地位が害されるおそれがあるとの主張だとすれば,平面図,見積書及び契約書といった書面自体の開示で,特定大学特定学部独自のノウハウ等が明らかになるようなものとは考えられず,これらの文書開示により特定大学特定学部が受けるデメリットはさほどのものとは認められない。仮に当該研究施設に関連して,平面図,見積書及び契約書の開示により特定大学特定学部が相当のデメリットを受けるとしても,当該研究施設と密接に関連する部分のみ不開示とすれば足りるのであって,全ての施設を不開示とする必要性は全く認められない。


(エ)また,法5条2号イの「害するおそれ」の判断に当たっては,法人等又は事業を営む個人には様々な種類,性格のものがあり,その権利利益にも様々なものがあるので,法人等又は事業を営む個人の性格や権利利益の内容,性質等に応じ,当該法人等又は事業を営む個人の憲法上の権利の保護の必要性,当該法人等又は事業を営む個人と行政との関係等を十分考慮して適切に判断する必要があり,この「おそれ」の判断に当たっては,単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が求められる(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」56頁)。

特定大学特定学部は特定の状況であり,特定大学自体は私立大学ではあるものの,特定大学特定学部に限っては,高い公共性を有し,行政と同程度の説明責任が課される法人としての性格を有する。

また,権利内容は,上述のとおり,不開示理由からは明らかではないが,仮に学問研究の自由及び学問研究における競争上の地位にあるとすれば,学問研究の自由は,自由に支えられた学術の進展こそが,広く社会に健全な発展をもたらすという趣旨に基づき,憲法23条により保障されている権利であって,元来,公的側面の強い性格を有するものであり,公益的観点からの情報公開との関係では保護の必要性は必ずしも高いとはいえない。

さらに不開示理由からは,平面図,見積書及び契約書の開示により,特定大学特定学部の学問研究の自由や学問研究における競争上の地位が害される可能性がどの程度存在するのかも全く不明であり,まさに単なる確率的な可能性を指摘しているにすぎず,法的保護に値する蓋然性などは全く認められない。

加えて,既に特定日の民放テレビのニュース番組で設計図とみられる図面が公開されている。このことからしても,現時点において平面図,見積書及び契約書を開示したからといって,新たに学問研究の自由や学問研究における競争上の地位が害されるおそれは存在しない。したがって,不開示理由は,「害されるおそれ」に該当しないのであるから,法5条2号イの不開示事由には当たらない。


(オ)法5条2号ただし書は「ただし,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除く。」と規定している。

同号ただし書は,当該情報を公にすることにより保護される人の生命,健康等の利益と,これを公にしないことにより保護される法人等又は事業を営む個人の権利利益とを比較衡量し,前者の利益を保護することの必要性が上回るときには,当該情報を開示しなければならないとするものである。現実に人の生命,健康等に被害が発生している場合に限らず,将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれ,法人の事業活動と人の生命,健康等に対する危害等との明確な因果関係が確認されなくても,現実に人の生命,健康等に対する被害等の発生が予想される場合もあり得る(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」56頁)。

特定大学特定学部には,特定の施設を設置する計画になっている。なお,特定の施設は,(中略)取扱いが予定されている。また,特定の施設は特定の状況など構造上の問題があるとも言われている。

このように特定大学特定学部において,特定の施設に瑕疵等があり病原体がたとえ微量でも外部に漏洩するような事故が発生した場合には,近隣住民らの生命及び健康に対する重大な侵害を生じさせることが予想されるのである。

しかもそのような漏洩事故が発生する可能性は低くない。なぜならば,特定大学特定学部の建設地(特定地)近くには,西方に断層が縦横に存在し(「特定市・地震防災マップ」によれば,「特定地」北側に震度6強を示す赤い帯がある),特定地に建つ特定学部棟の特定階に特定の施設は存在する。したがって,人的原因のみならず自然災害による事故のリスクも考えられ,それらの事故により,病原菌などが漏れ出て風に乗った場合の飛散範囲の甚大さは想像に難くない。

平面図,見積書及び契約書を開示して,その安全性について様々な外部専門家により多角的な検証を行うことで,近隣住民らの生命及び健康を保護する必要性を極めて高い。一方で,平面図,見積書及び契約書を開示しないことにより保護される特定大学特定学部の権利利益は漠然としたものであって,仮に学問研究の自由だとしても,上述のとおり既に同平面図等がテレビ等マスメディアによって公開されている事実に鑑みれば,その保護の必要性は極めて低い。

したがって,法5条2号ただし書の規定により,本件処分のうち平面図,見積書及び契約書については開示されなければならない。


ウ 審査の過程で任意に提出された文書について

(ア)本件処分は,審査の過程で任意に提出された文書について,法5条2号イの規定により,また,公にすることにより今後の審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから法5条6号に該当するとして不開示にしている。


(イ)しかし,法5条2号イについては,上記イと同様であって,公にすることにより侵害される特定大学特定学部の権利や地位の内容が不明であることに加え,侵害されるおそれが法的保護に値する蓋然性に至っているとは到底評価し得ず,さらに近隣住民の生命健康の保護の必要性に鑑みて同法ただし書の規定も適用されることから,不開示事由となりえない。


(ウ)法5条6号の「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」とは,行政機関の長に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく,各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり,また,事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし,公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」といえるものであることが求められる(総務省行政管理局「詳解情報公開法」78頁)。また,「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求される。

(中略(上記イ(エ)及び(オ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略))

幅広い資料を開示して,その安全性及び財政面について様々な外部専門家により多角的な検証を行うことで,近隣住民からの生命及び健康を保護し,また,税金が適正に使用されているかどうかを検討するため,公益的な開示の必要性は極めて高い。

一方で,審査の過程で任意に提出された文書の開示により実質的な支障が,法的保護に値する蓋然性をもって発生するのかどうかは不明としかいいようがなく,上記公益的な開示の必要性と衡量した場合に,法5条6号の不開示事由に該当しないことは明らかである。


エ 結語

以上のとおり,原処分2の不開示理由のうち,平面図,見積書,契約書及び審査の過程で任意で提出された文書については,いずれも理由が存在しないから,審査請求人は,原処分2に対して,行政不服審査法に基づき,審査請求を行う。

行政機関は,法19条1項に基づいて,情報公開・個人情報保護審査会に諮問することとなるが,情報公開・個人情報保護審査会におかれては,対象文書の内容を精査し,その公益的な開示の必要性に鑑みて,情報公開の適否に関する審査を行っていただきたい。


(3)意見書1(平成29年(行情)諮問第495号)

ア 理由説明書の骨子

(ア)法5条5号に関する理由主張

a 本件対象文書は確定された「事実に関する情報」や「客観的な資料」ではなく,法5条5号の定める「審議,検討又は協議に関する情報」に該当する文書である。


b 仮に審査中の審査内容を公にした場合,その内容について様々な意見が委員に寄せられたり,圧力や干渉等の影響を受けることにより,委員の自由な意見交換が制約される等,大学設置・学校法人審議会(以下「審議会」という。)における「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれる」蓋然性が高い。


c また,審査中の不確定な内容の本件対象文書を公にすることにより,未確定の情報が確定的情報との誤解や憶測を招くことにより,「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」がある。


d 以上より,本件対象文書を開示することによる不利益よりも,開示することによる不当な利益の方がはるかに大きい。


(イ)法5条2号イ及び6号に関する理由主張

a 請求文書のうち,平面図等,部屋等の位置関係が詳細に記載されているもの

これらが公にされた場合,建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発するおそれがあるので,法5条2号イにより不開示とするのが妥当。


b 請求文書のうち見積表

これを公にすることにより,当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるので,法5条2号イにより不開示とするのが妥当。


c 審理の過程で任意に提出された文書については,当該学校法人に関する情報

公にすることにより,当該学校法人の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあるので,法5条2号イの規定により,また,公にすることにより,今後の審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号により不開示とするのが妥当。


イ 反論

(ア)法5条5号の関係

a 諮問庁は,「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれる蓋然性」が存在したというが,具体的にどのような可能性があり,それを「蓋然性」とまで評価し得る根拠があったのか不明である。


b 法5条5号の「不当に」とは,審議,検討等途中の段階の情報を公にすることの公益性を考慮してもなお,適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度のものを意味する。予想される支障が「不当」なものかどうかの判断は,当該情報の性質に照らし,公にすることによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断される。以上につき詳解情報公開法74頁参照。

(中略(上記(2)イ(エ)及び(オ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略))


c なお,この点,諮問庁は「本件対象文書を開示することよる不利益よりも,開示することによる不当な利益の方がはるかに大きい」などと述べるが,その「不利益」及び「不当な利益」は理由説明書からは全く不明である。


(イ)法5条2号イ及び6号の関係

a 平面図等,部屋等の位置関係が詳細に記載されているもの

(a)((中略(上記(2)イ(エ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略))

理由説明書からは平面図等,部屋等の位置関係が詳細に記載されているものが公にされた場合,原処分1時において,具体的に建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発するどのようなおそれが生じるというのか全く不明である。

加えて,既に特定日の民放テレビのニュース番組で設計図と見られる図面が公開されている。

諮問庁の主張する「建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発するおそれ」はまさに「単なる確率的な可能性」の話であって問題外である。


(b)仮に「建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発するおそれ」について法的保護に値する蓋然性が認められたとしても,当然,原処分1時において建物は完成していないのであるから,建物完成後の将来のおそれについて諮問庁は主張しているのであろうが,本件建物は大学であって不特定多数の教員や学生等が出入りすることが想定されている。

建物完成後においては,「部屋等の位置関係」などは公になることが予定されているのであるから,本件対象文書を開示したからといって,「建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発する」ことになどなりえないことは明白である。

「建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発するおそれ」について法的保護に値する蓋然性と,本件対象文書のうち平面図等,部屋等の位置関係が詳細に記載されているものとの間には相当因果関係がない。


(c)(上記(2)イ(エ)及び(オ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略)


b 見積表

(a)(上記(2)イ(ウ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略)


(b)(中略(上記(2)イ(エ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略)

したがって,不開示理由は「害されるおそれ」に該当しないのであるから,法5条2号イの不開示事由には当たらない。


(c)法5条2号ただし書については,近隣住民の生命健康の保護の必要性に鑑みて同号ただし書の規定も適用されることから,不開示事由となりえない。


c 審理の過程で任意に提出された文書

(a)法5条2号イについては,上記b(b)及び(c)と同様であって,公にすることにより侵害される特定大学特定学部の権利や地位の内容が不明であることに加え,侵害されるおそれが法的保護に値する蓋然性に至っているとは到底評価し得ず,更に近隣住民の生命健康の保護の必要性に鑑みて同号ただし書の規定も適用されることから,不開示事由となりえない。


(b)(上記(2)ウ(ウ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略)


ウ 結語

以上のとおり,理由説明書に記載された不開示理由はいずれも不合理である。

なお,本件は社会的にも関心の高い事案であり,国民が必要な情報を得た上で,主権者としての判断をするに当たって必要な情報が開示されないという,国民の知る権利の確保のために極めて重要な問題をはらむ事件である。当該特定大学特定学部の開学が本年4月に迫っており,当該文書の開示の必要性は緊急を要するものである。審査会におかれては迅速な審査を行われるよう,上申する。


(3)意見書2

数々の疑惑が解明されないまま,特定大学特定学部の開学が認可され,この4月には学生が通い始めます。施設が公開され,今更図面を隠す意味はないのですが,なぜ隠すのでしょうか。

特定日に,報道で,特定学部の平面図ではないかと思われる特定枚の図面が流出しました。

今回開示されたものと同じものなのかどうかを専門家の眼で確認した上で,構造上,病原体などを扱う施設として学生や職員,近隣住民との関係で問題がないかどうか確認する必要があります。

不開示の理由は「学校法人の権利」や「競争上の地位」「その他正当な利益を害するおそれがあること」となっていますが,理由になっていません。

学校法人の権利や競争上の地位とは,特定の状況である特定市民の知る権利よりも大きいのでしょうか。

周辺住民が危険な病原体にさらされるおそれもあるのに,「その他正当な利益を害するおそれ」とはなんでしょうか。

法人の競争上の地位とは何でしょうか。(中略)開学認可がおりてから競争上の地位も何もありません。

(中略)

本事案は4月開学で終わりではありません。開学すれば明らかになることも多々あるでしょう。むしろこれからが勝負だと思っています。


(4)意見書3(平成30年(行情)諮問第81号)

ア 概要

(ア)本件は,審査請求人が,本件対象文書の開示を求めたのに対し,①平面図については,公にすることにより,当該学校法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの規定により,②見積書及び契約書については,公にすることにより,当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,同号イの規定により,③審査の過程で任意で提出された文書については,当該学校法人に関する情報であって,公にすることにより,当該学校法人の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあることから,同号イの規定により,また,公にすることにより,今後の審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号に該当するため,④上記以外の図面については,所有していないため,不開示とされたものである。


(イ)しかし,本件対象文書は,以下のとおり,いずれも法5条2号イ及び6号規定の不開示事由には該当せず,本件処分は違法である。情報公開・個人情報保護審査会におかれては,対象文書の内容を精査し,その公益的な開示の必要性に鑑みて,情報公開の適否に関する審査を行っていただきたい。


イ 平面図,見積書及び契約書について

(ア)(上記(2)イ(ア)と同様の内容であるため,記載省略)


(イ)(上記(2)イ(イ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略)


(ウ)ところが,本件図面等については,再度,不開示とされたばかりではなく,同一の書面に係る同一の請求であるにも関わらず,その不開示の理由も前回と異なる法5条2号イが根拠とされている。処分庁による極めて恣意的かつ不当な判断がなされている証左である。


(エ)(上記(2)イ(ウ)と同様の内容であるため記載省略)


(オ)(中略(上記(2)イ(エ)記載の一部と同様の内容であるため,記載省略))

加えて,既に特定日の民放テレビのニュース番組で設計図と見られる図面が公開されている。なお,処分庁は,「当該図面が真に本物の図面か定かではない」などと主張しているが,であればこそ,比較して検討する必要性が高いのであって,そのことが公開をしない理由にはならない。

このことからしても,現時点において平面図,見積書及び契約書を開示したからといって,新たに学問研究の自由や学問研究における競争上の地位が害されるおそれは存在しない。したがって,不開示理由は「害されるおそれ」に該当しないのであるから,法5条2号イの不開示事由には当たらない。


(カ)(上記(2)イ(オ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略)


(キ)(上記(2)イ(オ)記載部分の一部と同様の内容であるため,記載省略)


(ク)したがって,法5条2号ただし書の規定により,本件処分のうち平面図,見積書及び契約書については開示されなければならない。


(ケ)なお,処分庁は,本件対象文書を公開することによって「本件対象文書には,部屋等の位置関係や使用区分等が詳細に記載されている外,特定エリア内の人の動線等が詳細に記載されている文書を含まれるため,これらを公にすることによって,前述したように部外者の不法侵入といった犯罪を誘発し,その結果,厳密に保管されるべき病原体等が不法に外部に流出させられる等,重大な事故が発生するおそれも否定できない」と主張しているが,その一方で,本件対象文書を公開しない理由として,「病原体等を所持する施設に対し,各種基準の順守等,病原体等の管理を適正に行うよう国が指導監督を行う権限を有するなどしており,法令で安全性を確保する仕組みとなっている」などと主張しているが,一方では安全性確保の不十分さに起因する事故の可能性を主張しながら,一方では安全性の確保は十分であり,問題は起きようがない旨の相反する主張をしているようなものであって,およそ認められない。


ウ 審査の過程で任意に提出された文書について

(中略(上記(2)ウと同様の内容であるため,記載省略)


エ 結語

以上のとおり,諮問に関して,処分庁の理由説明書に記載された不開示理由はいずれも不合理である。

本件は,社会的関心も高く,国民が必要な情報を得た上で,主権者としての判断をするに当たって必要な情報が開示されないという,国民の知る権利の確保のために極めて重要な問題をはらむ事件である。

(中略)当該特定大学特定学部の開学は本年4月に迫っており,当該対象文書の開示の必要性は緊急を有するものである。

審査会におかれては,迅速な審査を行われたい。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 平成29年(行情)諮問第495号

(1)原処分1及び審査請求について

本件開示請求は,平成29年9月6日付け行政文書開示請求書にて本件対象文書の開示を求められたものである。

このうち,現に保有している文書については,特定法人から申請のあった,特定大学に特定学部を設置するための審査に関する資料として提出されたものであるため,法5条5号の規定により,不開示としたところ,審査請求人から,不開示決定処分を取り消し,本件対象文書のうち,存在する文書について開示決定を求める旨の審査請求がなされたところである。


(2)不開示とした理由

本件対象文書は,審議会で審査中の大学の学部の設置認可に関する情報であることから,公にすることによって,審議会の率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不利益を及ぼすおそれがあるものであるため,法5条5号の規定によりその全てを不開示と決定(原処分1)した。


(3)不開示情報該当性について

当該審査請求において,審査請求人は,事実に関する情報は審査途中であっても公開することが法の趣旨であり,また本件対象文書は「客観的な資料」であるため,法5条5号の「審議,検討又は協議に関する情報」に該当しないと主張している。

しかし,本件対象文書は,特定法人から申請のあった,特定大学特定学部設置認可申請に係る補正申請書並びに特定法人寄附行為変更認可申請書及び審査の過程で入手した文書であり,行政文書開示請求のあった時点においては,審議会において審査を行っていたものである。

審議会においては,提出された本件対象文書の内容を審査し,大学設置基準(昭和31年文部省令28号)や学校法人の寄附行為及び寄附行為の変更の認可に関する審査基準(平成19年文部科学省告示41号)等の要件を満たした計画となっているか等について,学問的・専門的な観点から審査を行っている。本件対象文書はあくまで計画として提出されたものであり,その内容については,審査の過程において審議会から出された意見に対応するため,必要に応じて修正されることがある。

このため,本件対象文書は確定された「事実に関する情報」や「客観的な資料」ではなく,法5条5号の定める「審議,検討又は協議に関する情報」に該当する文書である。

次に,審査請求人は,仮に本件対象文書が法5条5号の定める「審議,検討又は協議に関する情報」に該当するとしても,同号の定める不開示事由のいずれにも該当しないと主張しているが,その理由については示されていない。

仮に審査中の申請内容を公にした場合,その内容について外部から様々な意見が委員に寄せられたり,圧力や干渉等の影響を受けることが考えられる。このことにより,委員の自由な意見交換が制約されたり,円滑な運営が妨げられ,審査を公正,円滑に実施する上で支障が生じ,審議会における「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれる」蓋然性が高い。

また,審査中の不確定な内容の本件対象文書を公にすることにより,未確定の情報が確定的情報との誤解や憶測を招くことにより,「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」がある。

さらに,審査請求人は,「公にすることにより特定の者に不当に利益又は不利益を及ぼすおそれはない」と主張しているが,前述したとおり,「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれる」蓋然性が高く,結果として,申請者に不当な不利益を及ぼすおそれがある。

このことを踏まえると,本件を開示することによる利益よりも,開示することによる不当な不利益の方がはるかに大きいと言える。

以上のように,本件対象文書は法5条5号の定める不開示事由に該当するため,本決定において不開示としたものであるが,不開示事由として示した事由以外にも,開示を求められている文書については,以下のとおり開示できない事由があることを附記したい。

本件対象文書の中には,平面図等,部屋等の位置関係が詳細に記載されているものがある。これらが公にされた場合,建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発するおそれがあるなど,特定法人の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあるものであるため,法5条2号イに該当し,これらは不開示とするのが妥当である。

また,本件対象文書には見積表があるが,これを公にすることにより,特定法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの規定により,不開示とするのが妥当である。

審査の過程で任意に提出された文書については,特定法人に関する情報であって,公にすることにより,特定法人の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イの規定により,また,公にすることにより,今後の審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号に該当するため,不開示とするのが妥当である。


(4)原処分1に当たっての考え方

以上のことから,行政文書開示請求のあった時点において,審議会において審査を行っていたため,特定市に建設予定の特定大学特定学部に関連する全ての建物についての図面一式を不開示とした本決定は妥当であると考えるが,平成29年11月9日に審議会の答申がなされたため,以下に掲げる文書については,不開示部分を除き新たに開示することとする。

開示する文書

不開示部分

不開示とする理由(該当する条項)

特定大学特定学部に係る校地校舎等の図面

校舎の平面図

建物等への不法な侵入等の犯罪を誘発するおそれがあるなど,特定法人の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあるため(法5条2号イ)


2 平成30年(行情)諮問第81号

(1)原処分2の審査請求について

本件開示請求は,平成29年11月24日付け行政文書開示請求書にて本件対象文書の開示を求められたものである。

このうち,特定市に建設予定の特定大学特定学部に関連する全ての建物についての図面一式について,法5条2号イ及び6号の規定により不開示となる部分以外について開示を決定(原処分2)したところ,審査請求人から,本件処分を取り消し,対象文書のうち,存在する文書について開示決定を求める旨の審査請求がなされたところである。


(2)不開示とした部分とその理由

本件対象文書は,特定法人から申請のあった,特定大学特定学部設置認可申請に係る補正申請書並びに特定法人寄附行為変更認可申請書及び審査の過程で入手した文書である。本件対象文書のうち,平面図については,本件対象文書に含まれる文書である。また,見積書及び契約書については,本件対象文書のうち,特定法人寄附行為変更認可申請書に含まれる文書である。

本件対象文書のうち,平面図については,公にすることにより,当該特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,また,見積書及び契約書については,公にすることにより,当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの規定により,不開示とした。

審査の過程で任意で提出された文書については,特定法人に関する情報であって,公にすることにより,特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イの規定により,また,公にすることにより,今後の審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号に該当するため,その全てを不開示とした。

上記以外の図面については,所有していないため,不開示とした。


(3)不開示情報該当性について

本件対象文書のうち,特定大学特定学部設置認可申請に係る補正申請書並びに特定法人寄附行為変更認可申請書に含まれる平面図,見積書及び契約書と,審査の過程で入手した文書では,不開示と決定した根拠が異なるため,以下でそれぞれ不開示と決定した根拠について述べることとする。

ア 平面図,見積書及び契約書について

不開示とした部分は校舎の平面図並びに見積書及び契約書である。校舎平面図は,部屋等の位置関係や使用区分等が詳細に記載されており,これらが公にされた場合,部外者の不法侵入といった犯罪を誘発するおそれや実行を容易にするおそれがあり,特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものであるため,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。この主張は,特定研究科設置認可申請書等の一部開示決定について争われた平成19年度(行情)答申第256号でも認められているものである。

見積書及び契約書は,特定法人が建設業者等に工事等を発注する際に交わした文書である。これらは一般的に法人の取引情報及び内部情報に該当し秘匿されるべき情報である。さらに,見積書及び契約書には,工事に係る費用の内訳書が含まれており,その価格は,建設業者等が材料や製品の仕入れ先と価格交渉を行った結果等によるものであると考えられる。これは建設業者等の材料等の調達に関するノウハウに係るものであり,建設業者等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものであるため,このことからも法5条2号イに該当し不開示とすることが妥当である。

審査請求人は,民放テレビのニュース番組で設計図と見られる図面が公開されているため,現時点で開示したとしても,競争上の地位が害されるおそれは存在しないと主張しているが,当該図面が真に本物の図面かどうか定かではない。そのため必ずしも既に本件対象文書の図面が公開されているとは言えない。

さらに,審査請求人は,本件対象文書に含まれる施設の図面には特定の施設を設置する計画になっており,事故が発生した場合には近隣住民の生命及び健康に重大な被害を生じることが予想されるため,図面を開示し,その安全性について様々な外部専門家による多角的な検証を行うことで,近隣住民の生命及び健康を保護する必要性は極めて高いと主張している。しかしながら,今後特定の施設の認定を受けるに際しては,感染症法に基づき,特定の病原体等を所持する場合に厚生労働大臣の認可が必要である上,管理に当たっては病原体等に応じた施設基準等の遵守が義務付けられ,さらに,病原体等を所持する施設に対し,各種基準の遵守等,病原体等の管理を適正に行うよう国が指導監督を行う権限を有するなどしており,法令で安全性を確保する仕組みとなっている。

また,本件対象文書には,部屋等の位置関係や使用区分等が詳細に記載されている外,特定エリア内の人の動線等が詳細に記載されている文書も含まれるため,これらを公にすることによって,前述したように部外者の不法侵入といった犯罪を誘発し,その結果厳密に保管されるべき病原体等が不法に外部流出させられる等,重大な事故が発生するおそれも否定できない。そのため,審査請求人の主張とは反対に,本件対象文書を公にすることによって近隣住民の生命及び健康に重大な被害を生じる可能性を否定できないため,不開示とした部分は公開すべきものではない。


イ 審査の過程で任意に提出された文書について

審査の過程で任意に提出された文書とは,大学設置・学校法人審議会学校法人分科会(以下「分科会」という。)の審査の過程において,特定法人から任意で提供を依頼し,取得した文書(文書4)に含まれているものである。

先に述べたように,公にされた場合,部外者の不法侵入といった犯罪を誘発するおそれや,実行を容易にするおそれがあり,特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものであるため,法5条2号イに該当するものである。

通常,建築物の設計図は,建築主からの依頼により,建築士事務所が相当の報酬を得て作成した成果物である。設計者は,本設計図について,知識と技能を駆使し,工夫を凝らして独自に作成したものであり,そのアイデアやノウハウを含むものであるため,設計図の内容を公にした場合,当該建築士事務所の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。

さらに,本件文書は確定版の図面であるか不明であるため,その後の仕様変更等により,その内容が変更となっている可能性がある。このような文書を公にした場合,不確定な内容の仕様書案を公にすることにより,未確定の情報が確定的情報との誤解や憶測を招くことになり,当該学校法人や契約相手先企業の社会的信用等を不当に損ない,法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。

分科会の行う審査業務は,申請に対する認可の可否を学校法人の寄附行為及び寄附行為の変更の認可に関する審査基準に照らして専門的・学術的見地から判断し答申するため,学校法人の管理運営状況や事務処理状況,財政計画等学校法人の運営に係る広範な事項を審査している。したがって,審査の過程においては,法令で定められた申請書類に加え,審査状況等に応じて柔軟に幅広い資料を申請者から任意に提出してもらっている。過去には,裁判の状況について説明した書類や役職員の報酬・給与額を記載した書類等,極めて秘匿性の高い資料を申請者から任意に提供を受けている。申請者がこのように秘匿性の高い資料の提出に協力するのは,文部科学省との間で,公にしないという前提と信頼関係があるからに他ならない。

文書4は,法令で定められた申請書類ではなく,申請者から任意で提出を受けた資料であるから,上述のような審査実務の状況を考慮せず,もし,情報公開請求によって文書4の開示が義務付けられるとするならば,申請者と文部科学省との間で形成されてきた前提や信頼関係が崩壊し,今後,審査に必要な書類の提出について申請者から協力が得られなくなることは明白である。そして,その結果,将来にわたり,申請者である学校法人の実情を踏まえた適正な審査が行えなくなるなど,分科会が行う審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかであることから,法5条6号に該当し,不開示とすることが妥当である。

また,審査請求人は,本件対象文書の不開示部分の開示により,近隣住民の生命及び健康を保護する必要性が高いと主張している。しかし,既に述べたとおり,本件対象文書の不開示部分を開示することにより,前述したように部外者の不法侵入といった犯罪を誘発し,その結果厳密に保管されるべき病原体等が不法に外部流出させられる等,重大な事故が発生するおそれも否定できない。したがって,本件対象文書の不開示部分を開示することにより保護される利益が,これを不開示とすることにより保護される利益を上回る公益上の必要性があるとは認められないため,不開示とした決定は妥当である。


(4)原処分2に当たっての考え方

以上のことから,本件対象文書の一部を不開示にした原処分2は妥当であり,本件は原処分維持を求めて諮問するものである。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件各諮問事件について,以下のとおり,併合し,調査審議を行った。

① 平成29年12月25日  諮問の受理(平成29年(行情)諮問第495号)

② 同日           諮問庁から理由説明書を収受(同上)

③ 平成30年1月22日   審議(同上)

④ 同年2月6日       審査請求人から意見書1,意見書2及び資料を収受(同上)

⑤ 同月9日         諮問の受理(平成30年(行情)諮問第81号)

⑥ 同日           諮問庁から理由説明書を収受(同上)

⑦ 同月27日        審議(同上)

⑧ 同年3月14日      審査請求人から意見書3及び資料を収受(同上)

⑨ 同年5月8日       本件対象文書の見分及び審議(平成29年(行情)諮問第495号及び平成30年(行情)諮問第81号)

⑩ 同月28日        平成29年(行情)諮問第495号及び平成30年(行情)諮問第81号の併合並びに審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件審査請求の経緯について

(1)本件対象文書は,別紙に掲げる文書1ないし文書4である。

処分庁は,本件対象文書の全部について,法5条5号に該当するとして,不開示とする原処分1を行ったところ,審査請求人が原処分1の取消しを求めたため,諮問庁は,本件対象文書の一部について新たに開示するとし,その余の部分(以下「不開示維持部分」という。)は同条2号イ及び6号の理由を追加した上でなお不開示を維持すべきとして,当審査会に諮問(平成29年(行情)諮問第495号)を行った。

その後,審査請求人は,本件対象文書について,再度の開示請求を行ったことから,処分庁は,本件対象文書の一部について,法5条2号イ及び6号に該当するとして,不開示とする原処分2を行ったところ,審査請求人が原処分2の取消しを求めたため,諮問庁は,原処分2は妥当であるとして,当審査会に諮問(平成30年(行情)諮問第81号)を行ったものである。


(2)当審査会において見分したところ,不開示維持部分と原処分2の不開示部分(以下,不開示維持部分と併せて「本件不開示部分」という。)は同一の内容であり,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 不開示情報該当性について

本件不開示部分は,別表の1欄に掲げる不開示部分1ないし不開示部分3である。

(1)不開示部分1について

ア 諮問庁は,当該部分の不開示理由等について,理由説明書(上記第3。以下同じ。)において以下のとおり説明する。

(ア)校舎の平面図は,部屋等の位置関係や使用区分等が詳細に記載されている外,特定エリア内の人の動線等が詳細に記載されている文書も含まれているため,これらを公にした場合,部外者の不法侵入といった犯罪を誘発し,その結果厳密に保管されるべき病原体等が不法に外部流出させられる等,重大な事故が発生することも否定できず,特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。


(イ)審査請求人は,民放テレビのニュース番組で設計図と見られる図面が公開されているため,競争上の地位が害されるおそれはない旨主張するが,当該図面が真に本物の図面かどうか定かではないし,必ずしも本件対象文書の図面が公開されているとはいえない。


(ウ)審査請求人は,本件対象文書に含まれる施設の図面には特定の施設を設置する計画になっており,事故が発生した場合には近隣住民の生命及び健康に重大な被害を生じることが予想される旨主張している。しかしながら,今後特定の施設の認定を受けるに際しては,感染症法に基づき,特定の病原体等を所持する場合に厚生労働大臣の許可(諮問庁は,理由説明書で「認可」と記載しているが,許可の誤りとのことである。)が必要である上,管理に当たっては病原体等に応じた施設基準等の遵守が義務付けられ,さらに,病原体等を所持する施設に対し,各種基準の遵守等,病原体等の管理を適正に行うよう国が指導監督を行う権限を有するなどしており,法令で安全性を確保する仕組みとなっている。


イ 以下,上記諮問庁の説明も踏まえ検討する。

(ア)当該部分は,特定大学特定学部の校舎の平面図であり,部屋の位置関係及び使用区分並びに人の動線等が詳細に記載されていることが認められる。


(イ)そうすると,当該部分を公にした場合,校舎内の各部屋に通じる通路等が明らかとなるので,部外者の不法侵入など犯罪を誘発するだけでなく,厳密に保管されるべき病原体等が不法に外部流出させられる等,重大な事故が発生するおそれがあるとする諮問庁の説明は首肯できる。

また,審査請求人は,不開示部分1は法5条2号ただし書に該当する旨主張するが,諮問庁の上記(ウ)の説明からすると,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため不開示部分1を公にする必要性があるとは認め難い。

したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,同条5号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


(2)不開示部分2について

ア 諮問庁は,当該部分の不開示理由等について,理由説明書において以下のとおり説明する。

見積書及び契約書は,特定法人が建設業者等に工事等を発注する際に交わした法人の取引情報及び内部情報であり,一般に秘匿されるべき情報である。

見積書及び契約書は,建設業者等が材料や製品の仕入れ先と価格交渉を行った結果等によるものである工事に係る費用の内訳書が含まれており,当該内訳書は,建設業者等の材料等の調達に関するノウハウであり,建設業者等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。


イ 以下,上記諮問庁の説明も踏まえ検討する。

(ア)当該部分は,特定大学特定学部の校舎等の工事等を発注するための見積書及び契約書であり,工事に係る費用の詳細な内訳等が記載されていることが認められる。


(イ)そこで,当審査会事務局職員をして諮問庁に対し,当該見積書及び契約書の公表の有無を確認させたところ,当該見積書及び契約書は,文部科学省,特定法人及び契約相手方である建設業者等において公表していないとのことである。

そうすると,当該部分は,特定法人と建設業者等との内部情報であるので,公にした場合,建設業者等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとする諮問庁の説明は否定し難い。

また,審査請求人は,不開示部分2は法5条2号ただし書に該当する旨主張するが,諮問庁の上記(1)ア(ウ)の説明からすると,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため不開示部分2を公にする必要性があるとは認め難い。

したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,同条5号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


(3)不開示部分3について

ア 諮問庁は,当該部分の不開示理由等について,理由説明書において以下のとおり説明する。

(ア)審査の過程で任意に提出された文書(文書4)とは,分科会の審査の過程において任意で提供を依頼して取得した校舎等の設計図である。


(イ)当該設計図は,建築主からの依頼により,建築士事務所が相当の報酬を得て知識と技能を駆使し,工夫を凝らして独自に作成したものであり,設計図の内容を公にした場合,そのアイデアやノウハウ等が公になり,当該建築士事務所の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。


(ウ)分科会の行う審査業務は,審査基準に照らして専門的・学術的見地から判断し答申するため,学校法人の管理運営状況や事務処理状況,財政計画等学校法人の運営に係る広範な事項を審査しており,申請者は文部科学省との信頼関係により秘匿性の高い資料を提供している。このような任意で提供された文書を公にした場合,今後,申請者から協力が得られなくなり,その結果,将来にわたり,申請者である学校法人の実情を踏まえた適正な審査が行えなくなるなど,分科会が行う審査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。


イ 以下,上記諮問庁の説明も踏まえ検討する。

(ア)当該部分は,特定大学特定学部の校舎等の設計図であることが認められる。


(イ)そうすると,当該部分を公にした場合,当該設計図を作成した建築士事務所のアイデアやノウハウが明らかとなるので,当該建築士事務所の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとする諮問庁の説明は首肯できる。

また,審査請求人は,不開示部分3は法5条2号ただし書に該当する旨主張するが,諮問庁の上記(1)ア(ウ)の説明からすると,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため不開示部分3を公にする必要性があるとは認め難い。

したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,同条5号及び6号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

(1)審査請求人は,税金が適正に使用されているかどうかを検討するため,公益的な開示の必要性は極めて高い旨主張していることから,法7条の公益上の理由による裁量的開示をすべきである旨主張しているものと解される。

しかしながら,上記2において不開示すべきと判断した各不開示部分を開示することが公益上特に必要であるとは認め難く,法7条による裁量的開示をしなかった処分庁の判断に,裁量権の逸脱又は濫用があると認めることはできない。


(2)審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件各決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条5号に該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が同条2号イ,5号及び6号に該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分並びにその一部を同条2号イ及び6号に該当するとして不開示とした決定について,不開示とされた部分は,同条2号イに該当すると認められるので,同条5号及び6号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当であると判断した。


(第5部会)

委員 南野 聡,委員 泉本小夜子,委員 山本隆司





別紙


文書1 特定大学特定学部設置認可申請に係る補正申請書(図面に係る部分)

文書2 特定法人寄附行為変更認可申請書(図面に係る部分)

文書3 特定法人寄附行為変更認可申請書(見積書及び契約書等に係る部分)

文書4 審査の過程で入手した校舎等の設計図



別表


1 

本件不開示部分

不開示理由

不開示部分1

文書1

文書2

校舎の平面図

法5条2号イ及び5号

不開示部分2

文書3

全部

法5条2号イ及び5号

不開示部分3

文書4

全部

法5条2号イ,5号及び6号