諮問庁 日本私立学校振興・共済事業団
諮問日 平成29年 4月 7日(平成29年(独情)諮問第17号)
答申日 平成29年11月 6日(平成29年度(独情)答申第35号)
事件名 定量的な経営判断指標に基づく経営状態の各区分に該当する学校法人数が記載された文書の不開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分(法人全体)について,H27年度,H28年度に大学・短大法人がD1~3,C1~3,B1~4,B0,A1~3に該当する法人数が書かれた文書」(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定については,その全部を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成29年2月21日付け私事総第284号(以下「原処分」という。)により,日本私立学校振興・共済事業団(以下「事業団」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定について,その取消しを求める。


2 審査請求の理由

審査請求人が主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求書

事業団は不開示とした理由について,「(学校法人の)経営判断指標に使用する財務に関する情報等は,任意調査である「学校法人基礎調査」により収集したもので,収集した情報は不開示情報として取り扱うことを明記した上で調査収集している」とし,「仮に,学校法人数を開示することになれば,今後事業団が実施する各種調査への協力が従前どおり得られず,業務の遂行に支障を及ぼすおそれがある」とした。

不開示情報としての取扱いは,個別の大学名などが特定される場合においてと推測され,全体数を示すことは不開示理由に当たらないと考える。むしろ,今後の私学行政の在り方を検討していく上では,大学の経営状況の大枠を世間に示して問題提起することが公益にかなっていると考えられる。


(2)意見書

事業団は不開示とした理由について,法5条4号(業務に支障)に該当するとして,理由説明書でその根拠を縷々述べているが,いずれも失当であり,不開示決定は誤りであることを以下に述べる。

ア 事業団は,「調査結果が一般に公開されると,学校法人の権利や正当な利益を害するおそれがある。私立学校には不開示情報として取り扱うことを明記して調査への協力を依頼しており,開示することになれば,今後は調査の提出率が低下するおそれが極めて高い」と主張する。

しかし,この主張は詭弁である。第一に,当方が開示を求めているのは,個別大学の経営状態を示すデータではなく,あくまで私立大学の経営状態を示す各区分に該当する学校法人数である。この情報が明らかになったからといって,個別の学校法人がどの経営区分に該当するかは分かりようがない。したがって,各大学の正当な権利が害されることなどあり得ず,事業団の今後の業務に支障が生じることも考えられない。

2007年12月21日付日本経済新聞夕刊には,事業団の調査結果を報じた「私大・短大『経営困難』98法人」との記事が掲載されている(資料1(省略))。今回,当方が開示を請求した文書は,このデータの最新版にあたる。事業団は既にその存在や内容が報じられている文書の公表を拒んでいることになる。その上,今後の調査への影響を懸念し,現在は90%台の調査書の提出率が低下すると訴えているが,この報道後も90%台を維持しているのであり,明らかに矛盾した主張だと言わざるを得ない。

第二に,法5条2号ただし書きは,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」は開示対象とすると規定しており,今回の請求はこれに該当する。事業団は,文書の開示によって事業団の信頼性が失われることや,調査の永続性が脅かされることばかりを懸念しているが,最も重要なことは,経営状態が悪化している私大がどの程度あるのかという情報を的確に受験生に伝え,大学選びの際には注意するよう呼びかけることである。大学の経営破綻が現実味を帯びている今,大学生の生活や財産を守る情報は,正に「公にすることが必要な情報」であるといえる。そもそも少子化に伴う私立大学の経営悪化は,既に文部科学省の検討会などでもオープンに議論されており,周知の事実である。それを裏付ける具体的なデータが公開されたからといって,事業団の業務を揺るがすような事態にはなり得ない。以上のとおり,経営状態の各区分に該当する学校法人数を報道することには公共性,公益性があり,その文書を不開示とする事業団の決定には合理的な理由がない。

なお,事業団には当方の取材を通じて,こうした報道の狙いを何度も説明したが,「公表できない」の一点張りで,理解を得られず,今回,審査をお願いせざるを得なかったことは大変残念である。


イ 事業団は「経営支援・情報提供事業は学校法人だけでなく,公的財政援助を受けることの少ない個人立の幼稚園や専修学校・各種学校を設置する法人も対象にしており,情報開示によって調査への協力が得られなくなると,統計データとしての信ぴょう性が失われる」と主張する。

しかし,この主張も前提を欠いており,失当である。先に申し述べたとおり,今回の開示請求の対象は,各私立大学の経営状態の区分を示す学校法人数である。幼稚園や専修学校のデータ開示は最初から求めていない。事業団は更に「情報開示によって調査への協力が得られなくなる」と繰り返し訴えているが,私立大学の経営悪化は先述のとおり,周知の事実であり,そうした傾向を示す数値が公表されただけで,どうして各学校法人が一斉に事業団の調査に協力しなくなるのか,理解しがたいと言わざるを得ない。調査結果は過去に日経新聞に掲載されており,その後の調査も高い提出率のもとで行われていることも,先述の通りである。

そもそも事業団は2000年以降,私大の経営が悪化していることを示すデータを積極的に報道発表し,世論に訴えてきた経緯がある(資料2(省略))。それと今回の文書の内容がどう違うのか,なぜ今回だけ不開示なのか,全く不明である。当方では今回の文書も,むしろ積極的に公表すべきデータであると考える。


ウ 事業団は「学校法人からの情報が得られなくなれば,経営支援等の業務が十分に機能しなくなる」と主張する。これについても,先に述べたとおり,事業団の杞憂である。事業団は国の出資を受けた特殊法人であり,業務には公的な性格がある。今回のような公益性,公共性のある調査データを報道機関に公表することは,むしろ事業団に求められる業務の一つであると考えられ,こうした行為の結果,信頼が失われることなどあり得ない。事業団は更に「情報の有用性が損なわれる事態に陥ることは私立学校のみならず,社会全体にとっても多大な損失をもたらす」などとも訴えているが,これについても先に述べたとおり,文書の開示によって有用性が損なわれることなどあり得ず,よって社会の損失にもならない。


エ 事業団は「経営判断指標は学校法人自らが経営状態を把握するために設定した。わかりやすさや活用のしやすさを優先しており,個別の学校法人の事情を十分に反映できるものではない」とも主張する。しかし,このとおりだとすれば,事業団はわかりやすさを優先した,正確性を欠く指標を作成し,学校法人に活用させたことになる。これでは到底,調査の目的である学校法人の「経営改善」など望めない。事業団がそのようないい加減な指標を学校法人に活用させるはずはなく,不開示決定を正当化するための都合の良い方便としか思えない。データの「わかりやすさ」が求められるのは,学校法人よりむしろ,経営の素人である受験生だ。多くの私立大学の経営が悪化していることを,受験生に「わかりやすく」示すことは,大変意義のある報道だと考える。


オ 最後に,事業団は調査の目的を私立大学の経営に資するためとしているが,私立大学の経営は学校法人だけの問題ではない。在学生を抱えた状態で大学・短大が破綻した場合,学生にとって人生を左右する極めて深刻な事態を招く。私学は,全大学生の8割を預かり,高等教育機関の重要な役割を担うことから,年間3000億円規模の私立大学等経常費補助金(私学助成)も投じられている。経営の透明性を高め,社会にとって説明責任を果たすことは当然のことであり,私学を振興する立場の事業団にとっても同様である。


第3  諮問庁の説明の要旨

法3条に基づき,審査請求人より開示請求のあった本件対象文書について,事業団が行った不開示決定の理由は以下のとおりである。

(1)本件対象文書について

開示請求文書に相当するものとして,毎年度事業団が実施している「学校法人基礎調査(以下「基礎調査」という。)」より収集した調査票のうち,「活動区分資金収支計算書」(平成26年度以前は「資金収支計算書」),「事業活動収支計算書」(平成26年度以前は「消費収支計算書」),「貸借対照表」,「借入金等残高内訳表」及び「学生・生徒・児童・幼児数及び志願者数」に記載されたデータをもとに,学校法人ごとの「定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分」を行い,D3からA1までの14通りの区分ごとに該当する学校法人数を記した資料を当該文書として特定したものである。


(2)不開示とした理由について

法5条4号(業務に支障)に該当

ア 事業団の行う経営支援・情報提供事業について

経営支援・情報提供事業は,日本私立学校振興・共済事業団法23条1項5号において「私立学校の教育条件及び経営に関し,情報の収集,調査研究を行い,並びに関係者の依頼に応じてその成果の提供その他の指導を行うこと」と規定されており,私立学校の教育条件及び経営に関する情報の収集・調査及び研究を行い,その成果を刊行物や経営相談等の資料として私立学校の経営者等に提供・利用して,私立学校の経営改善のための支援を行う事業である。

また,事業団の調査結果は,例えば,国等においては予算要求の資料,私学団体においては研修会の資料とするなど,様々な形で国・都道府県・私学団体また研究者等,広く一般にも利用されている。なかでも,財務数値については,個人立の学校も含めた全学校種を網羅した調査を行っていることから,その集計結果は国民経済計算年報のGDP推計値の算出基礎にも利用されている(別添資料1(省略))。


イ 事業団の経営支援・情報提供事業に与える影響

事業団が行う各種調査は,強制力を持たない任意調査である。このため事業団では,長年にわたり様々な場面において調査への協力を訴え,私立学校に対する調査結果のフィードバック,データの提供,経営相談等への活用を積み重ねるなどして,学校法人の調査への協力を図ってきた。

その結果,調査の提出率はおおむね90%台となっており,信憑性の高い情報の提供を可能としている。こうしたことが実現できたのは,事業団の情報収集の中心である基礎調査において,調査の目的として,「事業団等業務の基礎資料及び私学関係予算要求等のための資料並びに大学ポートレートの公表情報とし,併せて学校法人の経営に資することを目的とし,この目的以外には利用しないこと」を,また,調査結果の取扱いについては,「事業団が「大学ポートレート(私学版)」で公表する内容以外の調査結果は,これが一般に公開されることにより,学校法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあること及び学校法人の協力が得られなくなるなど,正確な情報や私立学校の全国的な状況を把握できなくなる可能性が高くなるほか,事業団の業務遂行に支障を及ぼすおそれがあることなどの理由から,法5条2号及び4号の規定を根拠として,同法における不開示情報として取り扱うこと」を明記して調査への協力を依頼している(別添資料2(省略))。

したがって,今回開示請求された情報を開示することとなれば,公開を望まない情報は事業団に提供しない私立学校が出てくることも考えられ,その結果,調査の提出率が相当程度低下するおそれは極めて高いと思われる。

しかもこのことは,公にされる情報のみに限定される問題ではなく,事業団が行ってきた情報収集のあり方そのものについて,私立学校の認識を根本的に変えることとなるため,基礎調査以外の調査についても,私立学校の協力を得られなくなるおそれがある。


ウ 統計データの信憑性の喪失

事業団の経営支援・情報提供事業は,大学等を設置する学校法人だけでなく,公的財政援助を受けることの少ない個人立の幼稚園や,専修学校・各種学校を設置する学校法人以外の法人をも対象としている事業である。個人立の学校等を対象にした調査は,事業団以外では十分に行われておらず,統計データとして希少なものである。学校法人からの調査への協力が得られなくなれば,学校法人だけでなく個人立の学校等設置者からの調査協力も得られなくなるおそれがある。また,調査協力が得られるとしても,提供される情報が,公開されても問題のない内容や比較的状況の良い情報に偏ることも考えられる。これは事業団の保有する情報において,厳しい経営環境にある私立学校の数値が含まれないという事態を生じさせ,学校法人等の実態を適正に表す数値が得られず,統計データとしての信憑性が失われることとなる。

私立学校を取り巻く経営環境が一層厳しくなる状況にあって,事業団が行っている経営支援・情報提供業務の果たす役割が一層高まる中,信憑性の高い情報の提供ができなくなることは,ゆゆしき問題と考えざるを得ない。


エ 経営相談等への影響

平成22年6月に公表された中央教育審議会大学分科会「中長期的な大学教育の在り方に関する第四次報告」の「私立大学の健全な発展」において,現下の厳しい経営環境にかんがみ,経営改善に努力しようとする学校法人に対してより一層きめ細かい支援を行うため,文部科学省や事業団の経営支援機能の充実が求められている。経営相談等の充実に対する要望は,私立学校を取巻く環境の悪化に伴い年々高まっているが,厳しい状況にある学校法人からの情報の提供が得られなくなれば,提供された情報を活用して行っている私立学校の経営改善のための各種情報提供業務や,経営が厳しくなりつつある学校法人の把握と当該学校法人の経営支援等の業務が,十分機能しなくなる等の影響が想定される。


オ 他の業務への影響

また,事業団が行う各種調査の集計結果は,単に統計データとして利用されるだけではなく,事業団(助成業務)が行っている補助金事業・貸付事業等にも活用している。例えば,貸付事業では,信用格付けを行う際や個々の学校法人への与信審査において,経営状況の把握や学生数等の見込の妥当性などを確認する基礎資料として活用している。

貸付事業を実施するにあたり,学校法人の経営実態をあらわす正確な数値を保有できなくなると,適正な与信審査や債権保全に支障が生じる。

なお,助成業務にかかる全ての経費(人件費・物件費等)は,国等からの補助金や交付金によらず,貸付事業で発生する収益で賄っている。


カ 社会に及ぼす影響

私立学校は日本の教育において大きな役割を果たしてきた。丁寧な教育や工夫された教育サービスなど,多くの先進的な事例を提供している。国公立の学校に比べ,より少ない公費負担で多くの学生・生徒等に多様な教育の機会を提供してきた私立学校を支援し,自らの力で発展していくための手助けをすることは,今後も重要であると考えられる。

事業団が私立学校等に提供している情報の有用性が損なわれる事態に陥ることは,私立学校のみならず,私立学校の教育を享受している人々や,社会全体にとっても多大な損失をもたらすことになる。

また,事業団が,学校法人の経営実態をあらわす正確な数値を保有できなくなるということは,事業団だけの問題ではなく,事業団の各種調査の集計結果を利用する関係者(学校法人等・行政機関・私学団体・研究者等)にとっても,私立学校経営の実態を的確に把握するための信頼できるデータを失うこととなり,多大な損失をこうむることとなる。更にこのことは,国民が,私立学校に関する正確な情報を得る機会を失うことにもつながるものである。


キ 定量的な経営判断指標の性格について

本件開示請求文書にある「定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分」は,文部科学省の「経営困難な学校法人への対応方針」を受け,平成19年8月に事業団の学校法人活性化・再生研究会が公表した「私立学校の経営革新と経営困難への対応-最終報告-(以下「最終報告」という。)」で提案されたものである。

定量的な経営判断指標は,学校法人自らが経営悪化の兆候をできるだけ早期に発見することで,回復の可能性がある時点で経営改善に取り組むことを目的としたものである。教育活動資金収支差額(平成26年度以前は教育研究活動のキャッシュフロー)を基礎に,外部負債と運用資産の状況により学校法人の経営状態を区分したものであり,学校法人自らが経営状態を把握するための指標として設定した。

しかし,この定量的な経営判断指標は,全ての大学・短期大学法人共通の指標として概括的に確認するもので,分かりやすさや活用のしやすさを優先している。そのため,実際には個別の学校法人の事情を十分に反映できるものではない。最終報告においても,経営状態を正確に判断するためには,経営判断指標に基づく結果に加えて,個々の学校法人の臨時的又は定性的な要因も踏まえる必要があるとされている。例えば,新学部設置後間もない学校法人においては,教育活動資金収支差額が赤字になりやすいため,全学年が在籍する新学部完成後は財務状況の改善が見込まれる場合であっても,新学部完成前はD3~B2に分類されるケースが考えられる。

このことから,定量的な経営判断指標による判定結果だけをもって,それが学校法人の経営状況の正確な実態であるとして公表することは,誤解を招くおそれがある。

以上の理由により,本件法人文書については,不開示としたものである。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成29年4月7日 諮問の受理

② 同日        諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月17日     審議

④ 同年5月11日   審査請求人から意見書を収受

⑤ 同年8月7日    本件対象文書の見分及び審議

⑥ 同年9月4日    審議

⑦ 同年11月1日   審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,法5条4号ホに該当するとして,その全部を不開示とする決定(原処分)を行った。

これに対して,審査請求人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示情報該当性について検討する。


2 不開示情報該当性について

(1)本件対象文書は,「学校法人基礎調査」により収集した情報を基に事業団において作成したデータの一部であるところ,上記第2の審査請求人の主張及び第3の諮問庁の説明によれば,当該基礎調査を行うに当たって,事業団は,各学校法人から提出された情報について「「法における不開示情報として取り扱う」旨明記して各学校法人に協力を依頼している」としているが,他方で,収集した情報については,①学校法人の経営状況を示すデータを積極的に報道発表し,②調査結果は,様々な形で広く一般にも利用され,更に③大学ポートレートの公表情報にする,などとされている。

そこで,当審査会事務局職員をして諮問庁に対し,「学校法人基礎調査」により収集した情報の公表状況等も含め,改めて本件対象文書を不開示とした理由について確認させたところ,諮問庁は,おおむね以下のとおり説明する。

ア 文部科学省において「経営困難な学校法人への対応方針」が取りまとめられたことを受け,事業団で「学校法人活性化・再生研究会」を設置し研究を行ったところ,平成19年8月の同研究会の最終報告で経営判断指標というものが提案された。当該指標は,学校法人に対する経営支援業務の観点から,経営状態を定量的に判断するための指標であり,以後,事業団においては,全国の大学法人及び短大・高専法人に対して任意調査として毎年度実施している「学校法人基礎調査」のデータを基に,当該指標に係るデータを作成している。


イ 本件対象文書は,上記アの経営判断指標を基にして,全国の600以上の大学法人及び短大・高専法人について経営状態の分析・区分を行い,D3からA1までの14の区分ごとに該当する学校法人数を記載した資料である。

D3からA1までの14の区分の意味は,経営状態が良好であると考えられる方から順にA1からD3までの14区分となっており,A1からA3までの区分は「経営が正常な状態」であることを示し,B0及びB1からC3までの区分は「経営困難な状態」(イエローゾーン)であることを示し,D1からD3までの区分は「自力再生が極めて困難な状態」(レッドゾーン)であることを示すものである。したがって,大きくは3つの区分に大別されることとなる。


ウ 審査請求人は,14の各区分に該当する学校法人数が明らかになったからといって,個別の学校法人がどの区分に該当するかは分かりようがない旨指摘するところ,本件対象文書は,インターネット上の書込み情報(個別の学校法人名を名指ししての定員割れのワーストランキング等)などと併せた場合,レッドゾーンやイエローゾーンに該当する学校法人が推定され,今後これらの学校法人の経営状況が改善を見込めないと誤解されるおそれがある。

実際,定員割れがある場合,学生納付金などの収入が少なくなるため,経営状態の悪化につながり,レッドゾーンやイエローゾーンに位置付けることとなる可能性があるが,理由説明書(上記第3。以下同じ。)の記載のとおり,定量的な経営判断指標による判断結果だけをもってそれが学校法人の経営状況の正確な実態であるとして公表されることは,誤解を招くおそれがあるため,特にレッドゾーンやイエローゾーンに該当する法人は,今後,事業団の任意調査に協力しなくなるおそれがある。


エ 審査請求人の意見書に添付された日本経済新聞の記事(平成19年12月)は,当時,事業団が全国の大学法人及び短大法人を7つの区分に区分けしたところ,98法人が経営困難な状態(イエローゾーン)であったという内容のものであるが,当該情報は,当時の取材対応を行った事業団の担当者が自身の判断で私学関係者向けの内部研修資料を提供したものであり,事業団の組織決定を経て提供したものではない。事業団としては,学校法人名を公開しないとしても,経営判断指標のデータを公開することで,事業団の経営支援・情報提供事業等に支障が生じるおそれがあること,学校法人の経営への影響及び学生,保護者の不安をあおること,また経営状況についての公開は学校法人自身が行うものと考えていることから,それ以降は公表していない。

平成19年12月の報道の際には,事業団の担当者が誤って情報提供したことへの事後処理のため,速やかに私学団体に対して経緯の説明を行うとともに,事業団が行う業務への理解と,今後の変わらぬ協力を求めたという経緯がある。


オ 「学校法人基礎調査」は,文部科学大臣所轄の学校法人(私立大学,短期大学及び高等専門学校を有する学校法人)及び都道府県知事所轄学校法人等(私立大学,短期大学及び高等専門学校を有していない学校法人)に対して行われている。そのうち本件対象文書に関係している文部科学大臣所轄の学校法人対象の「学校法人基礎調査」は,事業団業務の基礎資料の作成,私学関係予算要求,学校法人の経営に資する等といった目的のために昭和46年度から実施しているものであり,調査項目は大別すると(ア)管理運営,(イ)教育条件,(ウ)財務状況及び(エ)教育情報に分かれ,そのうち(ウ)財務状況の調査項目には,資金収支計算書,人件費支出内訳表,活動区分資金収支計算書,事業活動収支計算書,寄付金内訳表,貸借対照表,借入金等残高内訳表,計算書類記載事項及び収益事業の調査項目がある。

事業団において「学校法人基礎調査」を行うに当たっては,実施要領を作成しており,法の施行に伴って,当該実施要領において「法における不開示情報として取り扱う」旨明記している。ただ,この趣旨は,調査票に記載された情報を生のまま,そのまま個々の学校法人名を明らかにして開示することはしない,というものであり,調査結果を基に,個々の学校法人名が分からないようにした上で有益な情報を加工・作成し,それらを報道発表したり,事業団のホームページで公表(大学ポートレート(私学版))したり,市販図書として販売(「今日の私学財政」)することは,現に行っている。


(2)理由説明書及び上記(1)の諮問庁の説明を踏まえると,諮問庁は,おおむね以下の理由から,本件対象文書を不開示とすべきであるとしている。

ア 本件対象文書とインターネット上の書き込み情報(個別の学校法人名を名指ししての定員割れのワーストランキング等)などを併せた場合,レッドゾーンやイエローゾーンに該当する学校法人を推定されるおそれがある。


イ 経営判断指標に基づく経営状態の区分の元データとなる各学校法人に対する基礎調査は,実施要領に「大学ポートレート(私学版)」等で公表する内容以外の調査結果は法により不開示情報として取り扱うことを明記した上で実施しているため,本件対象文書を公にした場合,被調査者である学校法人が今後の基礎調査に協力しなくなるおそれがある。


ウ 経営判断指標に基づく経営状態の区分ごとの法人数を公表すると,新学部設置後間もない学校法人にあっては,財務状況の改善が見込まれる場合であってもイエローゾーン又はレッドゾーンに分類されることがあるにもかかわらず,その区分が学校法人の経営状況の正確な実態であるとの誤解を招くおそれがある。


(3)以下,順に検討する。

ア 学校法人が推定されるおそれについて

(ア)本件対象文書には,600以上の大学法人及び短大・高専法人が,経営判断指標に基づいてA1からD3までの14の区分に分類された結果として,各区分に該当する学校法人の数がそれぞれ記載されているところ,個々の学校法人につき具体的にどのような判断が行われて14の区分に分類されるのかについては,これを説明するフロー図が事業団のウェブサイトにおいて公にされていることが認められる。

当審査会において上記フロー図を確認したところ,「1」ないし「8」までの番号が付された合計8つの判断事項がフローチャート形式で複数の階層に並べられており,いわば分岐点となる各判断事項について順次判断を行うことによって,最終的に14の区分に分類される仕組みであると認められる。そして,上記8つの判断事項は,「教育活動資金収支差額が3か年のうち2か年以上赤字である」という判断事項1,「外部負債と運用資産を比較して外部負債が超過している」という判断事項2,資金ショートの見込みに係る判断事項3や,「外部負債を約定年数又は10年以内に返済できない」という判断事項4のように,いずれも,学校法人の収支状況や資産状況等に関するものであると認められる。


(イ)ここで,当審査会事務局職員をして大学等に係る情報の公表制度等を確認させたところ,学校教育法施行規則172条の2では,大学は,①入学者の数,②収容定員及び③在学する学生の数などの情報を公表することが義務付けられており,また,私立学校法47条では,各学校法人は,①財産目録,②貸借対照表,③収支計算書及び④事業報告書を事務所に備え置き,在学者その他の利害関係人から請求があった場合には,原則としてこれを閲覧させなければならないとされていることが認められる。その上,文部科学省においては,各学校法人に対して,同条に基づく財務情報の積極的な公開を促しているとのことであり,同省の調査(学校法人の財務情報等の公開状況に関する調査結果)によれば,上記の取組の結果,全ての学校法人において,同条により閲覧の対象となる財務情報等を,自らのウェブサイト等で積極的に公開していることが認められる。


(ウ)そこで,当審査会事務局職員をして,上記(イ)のような公表情報に基づいて上記(ア)の各判断事項を判断することの可否について諮問庁に確認させたところ,判断事項1,2及び5ないし8については,公表情報により判断が可能であるが,判断事項3及び4については,これを判断する上では,将来の資金繰りに係る非公表情報も必要となるため,公表情報のみに基づいて判断することはできない,とのことであった。


(エ)以上を踏まえ,以下,検討する。

まず,上記(ア)のフロー図においては,「教育活動資金収支差額が3か年のうち2か年以上赤字である」という判断事項1が最初の判断事項とされているところ,判断事項1について「はい」と判断された場合には,当該フロー図の構成上,他の判断事項に係る判断内容にかかわらず,「経営困難な状態」(イエローゾーン)の「B2」以上の良好な評価を受けることはないことが認められる。そして,諮問庁の上記(ウ)の説明によれば,判断事項1については公表情報に基づき判断が可能とのことである。なお,判断事項1について「いいえ」と判断されたとしても,続く判断事項4に係る判断内容や,更に続く判断事項3に係る判断内容によっては,「B3」以下の区分に分類されることもあり得るため,「B3」以下の区分に分類された学校法人の全てが公表情報に基づき推測できるわけではない。

また,上記(ア)のフロー図においては,判断事項1について「はい」と判断された場合,次いで「外部負債と運用資産を比較して外部負債が超過している」という判断事項2について判断がされることになるところ,諮問庁の上記(ウ)の説明によれば,判断事項2についても公表情報に基づき判断が可能とのことである。

以上によれば,判断事項1について「はい」と判断される状況にある学校法人であって,判断事項2について「はい」と判断される状況にあるものは,判断事項3の判断を経て「B4」,「C3」又は「D3」のいずれかの区分に分類され,判断事項2について「いいえ」と判断される状況にあるものは,判断事項3の判断を経て「B3」,「C2」又は「D2」のいずれかの区分に分類されたであろうことは,いずれも公表情報に基づき推測が可能な状況にあると認められる。

他方で,諮問庁の上記(ウ)の説明によれば,判断事項3及び4については公表情報のみによっては判断できないとのことであるところ,上記(ア)のフロー図の構成上,判断事項3及び4について判断ができなければ,個々の学校法人について,「経営が正常な状態」,「経営困難な状態」(イエローゾーン)及び「自力再生が極めて困難な状態」(レッドゾーン)のいずれに分類されるのかすら定まらないと認められる。そして,調査対象とされた学校法人の数に加え,当該フロー図の構成,具体的には,判断事項が重層的に設けられていること,判断事項3及び4の位置付けや,判断事項3に係る判断によって分類され得る区分の幅等を踏まえれば,個々の学校法人の分類状況について,公表情報に基づき推測可能な範囲を超えてより具体的に推測することはそもそも困難であり,かつ,これを可能とするような特段の事情が存するとも認められない。

そうすると,結局,本件対象文書を開示したとしても,個々の学校法人に係る分類の状況については,公表情報に基づき推測できる範囲を超えてより具体的に推測することはできないのであるから,これが推測され得るとする諮問庁の説明は理由がないものと認められる。


イ 被調査者である学校法人が今後の基礎調査に協力しなくなるおそれについて

(ア)諮問庁は,上記(2)イのとおり,実施要領に「学校法人基礎調査の調査結果は法による不開示情報として取り扱う」旨を明記した上で調査を実施しているため,本件対象文書を公にした場合,被調査者である学校法人が今後の基礎調査に協力しなくなるおそれがある旨説明する。


(イ)しかしながら,諮問庁自らが上記(1)オにおいて説明するとおり,実施要領の上記(ア)の記載が「調査票に記載された情報を生のまま,そのまま個々の学校法人名を明らかにして開示することはしない」という趣旨のものであるとすれば,本件対象文書は,調査票に記載された情報そのものではなく,調査票を集計・加工したデータの一部であり,かつ,学校法人名も記載されていないものであるから,実施要領に上記(ア)の記載があることは,本件対象文書を開示した結果として学校法人が調査に協力を控えることになるとすることの合理的根拠とは認め難い。

なお,当審査会事務局職員をして「学校法人基礎調査」の実施要領を調査させたところ,平成28年度以前の実施要領においては,確かに「学校法人基礎調査の調査結果は法による不開示情報として取り扱う」旨が明記されていたが,平成29年度の実施要領においては,新たに「ただし,この情報の集計結果については,情報公開法により開示請求があった場合,公表することがあります」旨が記載されていることが認められるのであり,この点からも,諮問庁の上記(ア)の説明に理由があるとは認め難い。


(ウ)そして,そもそも,上記アのとおり,一定の学校法人が「経営困難な状態」(イエローゾーン)又は「自力再生が極めて困難な状態」(レッドゾーン)に分類されたであろうことは公表情報に基づき推測可能な状況にある上,本件対象文書を開示したとしても,個々の学校法人に係る分類の状況については,公表情報に基づき推測できる範囲を超えてより具体的に推測することはできないため,個々の学校法人にとって何らかの不利益が新たに生じるとは認め難いのであるから,本件対象文書を開示した結果として,学校法人が今後の調査への協力を拒むことになるなどとは考え難い。


(エ)以上を踏まえると,「経営困難な状態」(イエローゾーン)や「自力再生が極めて困難な状態」(レッドゾーン)に該当する学校法人が,本件対象文書を公にすることにより,今後,事業団の任意調査である「学校法人基礎調査」に協力しなくなるおそれがあるとする諮問庁の主張は,理由がないものと認められる。


ウ 区分ごとの法人数を公表すると,学校法人の経営状況の正確な実態であるとの誤解を招くおそれについて

(ア)諮問庁は,上記(2)ウのとおり,新学部設置後間もない学校法人にあっては経営指標の値が特異な数値を示すこともあるので,当該情報を公にすると誤解を与えるおそれがある旨説明する。


(イ)しかしながら,諮問庁の上記(ア)の説明は,新学部設置後間もない学校法人の数値が特定又は推測されることを前提としたものであると解されるところ,上記アのとおり,本件対象文書を開示したとしても,個々の学校法人に係る分類の状況については,公表情報に基づき推測できる範囲を超えてより具体的に推測することはできないのであるから,諮問庁の当該説明は理由がないものと認められる。


(4)以上によれば,本件対象文書は法5条4号ホに該当せず,開示すべきである。


3 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条4号ホに該当するとして不開示とした決定については,同号ホに該当せず,開示すべきであると判断した。


(第5部会)

委員 南野 聡,委員 泉本小夜子,委員 山本隆司