諮問庁 国立大学法人北海道教育大学
諮問日 平成28年 8月 3日(平成28年(独情)諮問第65号)/td>
答申日 平成29年 3月31日(平成28年度(独情)答申第96号)
事件名 特定の訴訟に関して裁判所に支払った手数料等を証する資料等の不開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙の1に掲げる請求文書1ないし請求文書3(以下,併せて「本件請求文書」という。)の開示請求に対し,請求文書1につき,これを保有していないとして不開示とし,請求文書2及び請求文書3につき,別紙の2に掲げる文書1及び文書2(以下,併せて「本件対象文書」という。)を特定し,その全部を不開示とした決定については,諮問庁が別紙の3に掲げる文書3ないし文書5を特定し,開示決定等をすべきであるとしていることは妥当であり,本件対象文書の全部を不開示としたことは妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成28年6月10日付け北教大総第23号により国立大学法人北海道教育大学(以下「北海道教育大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。


2 審査請求の理由

査請求人が主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね次のとおりである。

(1)審査請求書

ア 請求文書1について

文書が存在しないという。

しかし,訴訟費用は,その性質上,当事者である貴大学が支払うべきものである。代理人に預託し,代理人を通じて支払った場合であれば,代理人へ預託→代理人が裁判所に支払う→支払いを貴大学に報告,となるはずである。いずれにせよ,「裁判所に支払った手数料,送達費用など」の金額を証する資料が無いということはないはずである。


イ 請求文書2について

審査請求人が開示を求めているのは,代理人との委任契約それ自体であって,委任契約締結後の具体的な交渉内容などは関係がないことである。従って,貴大学の「財産上の利益」や「当事者としての地位」に影響を与え,被害を与えるおそれがあるとは到底考えられない。

そもそも,貴大学が「財産上の利益」や「当事者としての地位」に影響を与える“おそれ”という意味について,具体的に説明してもらいたい。

また,「公正かつ円滑な人事の確保に支障を生ずるおそれ」も挙げるが,そもそも代理人と委任契約を締結することが,なぜ「人事管理にかかる事務」なのか。貴大学が代理人と委任契約を締結することそれ自体と,同契約に基づいて貴大学と代理人が協働して“人事案件”の解決に当たることとは,全く次元の違う問題である。


ウ 請求文書3について

貴大学では,教職員の賃金は就業規則等により客観的に定められ,“公正かつ円滑な人事の確保”が図られていると解する。それ故に,個々の教員の賃金は概ね分かり,(個人名を特定せずに)個別的な数字が判明したからといって,個々人に不利益が生じたり,貴大学の人事政策に影響を及ぼすことは考え難い。

もとより,審査請求人は成績評価に関する情報の開示を求めているわけでないし,今後の配置転換や昇格・降格等の予定の開示を求めているものでもない。それなのになぜ「公正かつ円滑な人事の確保」に支障をきたすといえるのか,説明には合理性がない。


(2)意見書

ア 請求文書1の対象文書について

審査請求人は,諮問庁の「上記に関する財政負担に関して」の情報開示を請求したのであるから(開示請求書の別紙の頭書),開示の目的が裁判費用の金額であることは明瞭である。

そして,裁判費用の支払い方法については,裁判所等に直接払う,代理人を通じて払う等の方法があり,審査請求人には分からないことである。したがって,もし請求対象の特定に疑義があれば,審査請求人に問い合わせれば良いことである(国,自治体の情報開示実務では普通に行なわれていること)。

諮問庁の説明は,情報開示に極度に消極的であり,かつ,手続的処理が不誠実であることを証明している。


イ 請求文書2の対象文書について

(ア)補充理由説明書(下記第3の2)(2)ア(ア)に対して

A 本文書に係る事案は,札幌地方裁判所及び札幌高等裁判所における訴訟委任契約書は既に開示されており(別添資料1及び2),「弁護士の氏名」,「所属する法律事務所の住所及び名称」,「委任する業務の具体的内容」,「着手金及び報酬の具体的金額」が明らかになっている。最高裁判所における訴訟委任契約書は開示されていないが,判決が下され確定しているのであるから,委任業務は終了しているはずである。したがって,地方裁判所・高等裁判所と同様に開示されて然るべきであるが,諮問庁は開示していない。

以上より,諮問庁には,まずこの最高裁における訴訟委任契約書の開示を求めるものである。


B 次に,諮問庁は,理由説明書(下記第3の1)で,非開示にした文書について,「本件訴訟の確定判決の履行に関する対応に関して,北海道教育大学が委任した弁護士と締結した委任契約書及びそれに伴って支払った費用を証する資料」と特定するが,そもそも審査請求人はかかる内容の請求はしておらず,諮問庁の歪曲である。

すなわち,本文書に係る事案は,最高裁判決が確定したにも関わらず,諮問庁が長期間にわたり履行しないという問題である。このような確定判決の履行は,同裁判を担当した代理人が遂行するのがー般である。

しかし,代理人を代えることが無いとはいえない。この時に初めて,新たに「本件訴訟の確定判決の履行に関する対応に関して,本学が委任した弁領土と締結した委任契約書」を交わすととになる。

この場合は,既に終了した最高裁判所における訴訟委任契約書は,当然に開示されるべきである。そのうえで,新たな委任契約書について,その開示及び(一部)不開示が論ぜられるべきである。

ところが,諮問庁は,「当該情報の全てについて,当該弁護士及び本学は一切公にしておらず,今後においても公にする予定はない」と言い放つ。これは,将来の開示及びそれによる業務遂行への検証をー切許さないという,「初めから非開示ありき」の宣告に他ならない。


C 諮問庁には多額の公金が大学運営に投入されており,国民的チェックがなされるのが大原則であること,しかも審査請求人が「財政負担に関して」と限定して請求していることを,全く失念した見解であり,失当極まりないものである。


(イ)補充理由説明書(下記第3の2)(2)ア(イ)及び(ウ)に対して

A 諮問庁は,委任契約書には,「判決の分析」,「交渉の方針,見込」等が記載されているというが,別添資料1及び2より明らかなように,弁護士の委任契約書(より詳細な説明書である「仕様書」も参照)にかような内容が記載されることはない。


B 諮問庁は,弁護土の特定が,「当該紛争の性質に鑑みて」,「当該法律事務所及び当核弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害することは明らかである」という。しかし,「当該紛争の性質に鑑みて」とはどういうことか,「当該弁護士の権利」とは何か,「競争上の地位」及び「その他正当な利益」とは何か,諮問庁は,法文をほぼそのまま引用するだけで,具体的事実の該当性を説明しておらず,失当である。

弁護士は,公開の法廷で裁判をしており(憲法82条),裁判記録もー定の条件はあるものの,国民が閲覧することができる。

判決は,最高裁判決も含めて公表・公刊されることが前提である。公刊物等になるときは,当事者の名前はプライバシー保護の観点から伏されるが,弁護土の名前は公表される。

また,弁護士はその職務の公益性から,弁護士法や弁護士職務基本規定により「誠実かつ公正に職務を行なう」とする行為規範が定められており,民間企業的な「競争上の原理」など当てはまらない。


(ウ)補充理由説明書(下記第3の2)(2)ア(エ)に対して

諮問庁は,縷々述べたうえで「報酬等の額を公にした場合には,こうした事案の具体的事情や弁護士業務の機微に渡る事情が推測できることとなるため,当該弁護士の今後の業務に影響を及ぼし,当該弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害することは明らかである」という。

しかし,前述(ア)Aのとおり,諮問庁自ら,地方裁判所・高等裁判所の委任契約書及び弁護士費用を開示している。最高裁段階でやることは,上告受理及び上告の申立(理由書の作成)が全てであり,「事案の具体的事情や弁護士業務の機微に渡る事情」に基づく活動など想定されない。

判決が確定した後にやるべきことは,本来,判決の履行以外にはなく,弁護士を必要としないのが一般である。諮問庁が説明するような,「事案の具体的事情や弁護土業務の機微に渡る事情」による弁護士業務など,一般に考えられない。


ウ 請求文書3の対象文書について

補充理由説明書(下記第3の2)にないが,一言付言しておきたい。

諮問庁は,審査請求人が行なった附属小中学校の労働時間管理の実態及び時間外割増賃金の支払いに関する情報開示請求において,別添3及び4のとおり,対象の全教育職員に対する時間外労働時間,時間外割増賃金額が,対象者の特定の部分だけ非開示にして開示している。このことは,本件事案の3教員についてもそのまま当てはまる。なぜならば,審査請求人は,3教員を各々特定することなど求めておらず,「財政負担に関して」の情報開示を求めているからである。

また,審査請求人は,仮処分決定に基づく支払い,判決確定に伴う支払いについては,開示請求書別紙③で,判決が確定して現職復帰した後については,同④で開示請求している。

諮問庁は,理由説明書(下記第3の1)で「金額自体の公表により,同金額を算出するに至った成績評価等が推認される」というが,3教員の賃金及びその算出基礎となる俸給表等は裁判に証拠提出されている(前述した裁判の公開)。諮問庁は,そのことにより「個人の権利利益を害する」というが,具体的に何を意味するのか説明になっていない。


エ 結論

以上のとおり,先の理由説明書に加え,今回の補充理由説明書を踏まえても,諮問庁の説明は失当であり,審査請求人の審査請求が速やかに認められるべきである。

(意見書の資料は省略する。)


第3  諮問庁の説明の要旨

1 理由説明書

(1)諮問に至る経緯

審査請求人から,法人文書開示請求書(以下「本件開示請求書」といい,これに係る請求を,以下「本件開示請求」という。)において,北海道教育大学(以下,第3において「本学」という。)と本学所属の教員3名(以下「本件3教員」という。)との間における訴訟(以下「本件訴訟」という。)に係る資料の開示請求を受けた。

これに対し,本学は,対象文書を特定した上で,審査請求人に対し,本件開示請求の対象である法人文書として,その一部を開示する(本件の審査請求の対象外,以下「別件一部開示」という。)とともに,請求文書1ないし請求文書3の法人文書についてはその全部を不開示とする,法人文書開示決定通知書(以下,第3においては,同通知書に係る決定を「本件開示決定」という。)を送付した。


(2)本学の考え方

請求文書1については,不開示とする決定を変更し,開示することに異存はない。

請求文書2及び請求文書3については,全て不開示とする決定を維持するべきである。


(3)上記(2)に至る理由

ア 請求文書1について

審査請求人は,本件開示請求書において,本件訴訟の遂行のために裁判所に支払った手数料,送達費用などを証する資料の開示を求めていたところ,本学は,当該開示請求の対象は,本学が直接裁判所に対して支払った資料であると理解した。その上で,本件訴訟において,訴訟費用の支払いは代理人を通じて行われ,本学が直接支払った事実がなかったため,同事実を証する資料は作成・取得しておらず不存在であるとして不開示とした(法9条2項)。

しかしながら,審査請求書において,代理人を通じて支払った場合について言及があり,代理人から裁判所への支払いを行った場合には,同支払いを証する資料についても開示を求める趣旨であることが判明した。

本学は,同資料を保有しており,また,既に,本件開示決定に基づき開示している(別件一部開示における特定年月日B付け発行の支出伝票(文書4))が,請求文書1の対象文書として,更に開示に応じることについても,異存はない。

加えて,本学の本件訴訟に係る訴訟費用の負担分につき,本学が本件3教員(和解により本件訴訟が終了した教員を除く。)の代理人に対し支払った事実を証する文書は存在するものの,裁判所へ支払ったものでなかったため,同文書は,請求文書1に該当する文書でないと判断した(別件一部開示における特定年月日C付け発行の支出伝票(文書5)としては既に開示している。)。しかしながら,審査請求人が,支払先の如何に関わらず,本学が訴訟費用の負担分につき支払った事実全てを証する文書についても開示する趣旨であるならば,再度,当該文書の開示に応じることに,異存はない。


イ 請求文書2について

(ア)本学は,本件3教員との間で,本件訴訟の判決を前提とした交渉を現在も行っており,未だ結論には至っていない。


(イ)当該交渉に係る弁護士との委任契約書等を開示した場合,当該交渉の内容及び本学の方針等が公となり,交渉の進捗に重大な影響を及ぼす可能性が高い。

したがって,当該交渉に係る弁護士との間の委任契約書等を開示することは,当事者として認められるべき地位を不当に害するものであり,法5条4号ニに該当する。


(ウ)一方,弁護士に依頼する業務は,その専門性から内部の人材で代替することは困難である場合が多く,また,当該業務の発生は不可避であり,この場合に,弁護士と契約を締結して当該業務を遂行することが必須となる。このことは,雇用により人材を確保する場合と,必要な人材を確保するという点で,何ら代わるものでないことから,弁護士に対し特定の業務を委任することも人事管理に係る事務に該当する。

そして,いまだ交渉等を行っているにも関わらず,委任契約書が開示され,具体的な業務の内容,金額等が明らかとされることは,弁護士の交渉業務に支障を来すものであるところ,弁護士は,自己の業務の遂行が困難となる可能性がある場合には受任を控えることが予想される。すなわち,交渉中の業務に係る弁護士との委任契約書を開示することは,本学が今後交渉等を弁護士に依頼することが困難となる可能性が高い。

以上から,交渉等が継続している業務を委任している弁護士との間の委任契約書を開示することは,まさに,本学の円滑な人事の確保に支障が生ずるものであり法5条4号ヘに該当する。


(エ)したがって,請求文書2は,法5条4号ニ及びヘに該当することから,全部不開示とすべきである。


ウ 請求文書3について

職員個人に対して支払われる賃金等の金額は,それ自体が個人の情報に関する情報である上,対象者は3名と極少数であることから,氏名住所等を不開示としても,個人の賃金の額が類推される可能性が高い。また,個々の職員に支払われる賃金は,勤務年数や経歴,成績評価その他各個人の具体的な事情が総合的に考慮された上で算出され,機械的かつ客観的に定められるものではないところ,仮に,個人の具体的な賃金の額が判明しないとしても,金額自体の公表により,同金額を算出するに至った成績評価等が推認されることとなり,なお個人の権利利益を害する。

加えて,賃金等の支払いに関する資料は,本学における人事管理のために保有しているものであるところ,前述のとおり,賃金の額は,勤務年数や経歴,成績評価等個別具体的な事情を考慮して算出しており,当該額を証する資料が公にされた場合には,本学における成績評価等が明らかとなり,本学の公正かつ円滑な人事の管理に支障が生ずる。

したがって,請求文書3は,法5条1号及び同条4号ヘに該当するものであり,全部不開示とすべきである。


エ 全部不開示の妥当性

上記のとおり,請求文書2及び請求文書3の文書に記載された情報は,一体的な情報であり,全て非公開事由にあたるものであるところ,これをさらに細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分には非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなしてこれを公開することまでを義務付けられているものではない(平成13年3月27日最高裁判所判決)。

したがって,当該文書全てにつき不開示とした原処分は妥当である。


オ 結論

よって,本学の原処分における,請求文書1を不開示とする決定についてはこれを変更し開示することに異存はないが,請求文書2及び請求文書3の文書について全部不開示とした決定は妥当であり,当該決定は維持されるべきである。


2 補充理由説明書

(1)請求文書1の対象文書について

ア 本学において改めて調査を行ったところ,本学が,本件訴訟に係る費用を支払ったことを証する文書(文書名「特定年月日A付け発行の支出伝票」(文書3))が発見された。同文書については,請求文書1の対象文書として特定した上で,改めて開示決定等をすることとしたい。


イ 理由説明書(上記1)(3)アにおいて,文書5について,請求文書1の対象文書ではないと判断した旨記載しているが,審査請求書の記載等から,審査請求人は,その支払先の如何に関わらず,本学が訴訟費用を支払ったことを証する資料の開示を求めているものと解されるところ,同文書は本学が本件訴訟に係る費用を支払ったことを証するものであることから,同文書を請求文書1の対象文書と特定した上で,改めて開示決定等をすることとしたい。


(2)請求文書2について

同文書の全てを不開示とする決定を維持すべき理由として以下の理由を追加する。

ア 法5条2号イに該当すること

(ア)本学と弁護士との間の契約書及びそれに伴って支払った費用を証する文書には,弁護士の氏名,所属する法律事務所の住所及び名称,委任する業務の具体的内容,着手金及び報酬の具体的金額,判決の分析,交渉の方針,見込等が記載されている。これらの事項は全て,弁護士の事業に関する情報であるところ,当該情報の全てについて,当該弁護士及び本学は一切公にしておらず,今後においても公にする予定はない。


(イ)同文書に係る事案は,大学と教員との間の労働契約に関連する事案であるところ,本学から当該事案に係る業務を受任している具体的な法律事務所や弁護士が特定されることとなれば,当該紛争の性質に鑑みても,当該法律事務所及び当該弁護士の業務に影響を及ぼし,当該法律事務所及び当該弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害することは明らかである。


(ウ)また,受任した業務の内容,判決の分析,交渉の方針,見込み等を公にすることは,当該弁護士の当該事案における業務遂行方針や業務遂行方法を明らかにするにとどまらず,当該弁護士の一般的な業務遂行方針や業務遂行方法等を明らかにするものであるところ,これらの事項が明らかになった場合,当該弁護士の業務に影響を及ぼし,当該弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害することは明らかである。


(エ)さらに,弁護士の報酬等の額は,個々の弁護士と依頼者との間で自由に決めることができる事項であるところ,当該決定にあたっては,紛争の実態,複雑性,解決の難易,解決に当たっての弁護士の貢献度,これに対する依頼者の評価,依頼者の資力等諸々の事情に加え,弁護士の事件及び依頼者に対する見方,評価,活動方針その他弁護士の業務遂行方針等に基づき報酬等の額を決めることとなる。したがって,報酬等の額を公にした場合には,こうした事案の具体的事情や弁護士業務の機微に渡る事柄が推測できることとなるため,当該弁護士の今後の業務に影響を及ぼし,当該弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害することは明らかである。


(オ)以上から,同文書は,法5条2号イに該当することから,全部不開示とすべきである。


イ 法5条4号柱書きに該当すること

前述のとおり,同文書の内容が公となった場合,当該事案の具体的内容や,当該事案に対する本学の方針及び見込み,当該事案に対して支出している費用の額が明らかとなる。これらの事項が明らかとなった場合には,当該事案が本学と教員との間の労働契約に関連する交渉事案であることに起因する,当該交渉事務に対する様々な意見,主張がなされる事態や,当該事案がいわゆるアカデミックハラスメントが発端となったことに起因する,学生,保護者等に不安や動揺を与えることとなる事態が予想され,本学における当該交渉に係る事務及びその他大学運営に関する業務に支障を来たすことは明らかである。

また,当該事案について本学と委任契約を締結している弁護士の氏名及び弁護士事務所の名称等並びに当該契約の内容,契約金額等の内容が公となった場合,現在及び今後の紛争等に関する弁護士との契約に際し,将来同様の内容が公になることを懸念し,弁護士が受任することを躊躇するおそれがあり,本学の紛争等に対する適切な対応を困難にさせるおそれがあるなど,本学における争訟に係る事務その他大学運営に係る業務に支障を来たすことは明らかである。

以上から,同文書は,法5条4号柱書きに該当することから,全部不開示とすべきである。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成28年8月3日   諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年9月12日     審議

④ 同年12月5日     本件対象文書の見分及び審議

⑤ 平成29年1月10日  諮問庁から補充理由説明書を収受

⑥ 同月31日       審査請求人から意見書及び資料を収受

⑦ 同年2月6日      審議

⑧ 同年3月29日     審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件審査請求について

本件審査請求に係る本件開示請求は,別紙の1に掲げる請求文書1ないし請求文書3の開示を求めるものであり,処分庁は,請求文書1につき,これを保有していないとして不開示とし,請求文書2及び請求文書3につき,別紙の2に掲げる文書1及び文書2を特定し,法5条1号並びに4号ニ及びヘに該当するとしてその全部を不開示とする原処分を行った。

審査請求人は,北海道教育大学において,請求文書1に該当する文書を保有しているはずであり,本件対象文書は開示すべきである等として,原処分の取消しを求めている。

諮問庁は,請求文書1に該当する文書として,別紙の3に掲げる文書3ないし文書5を特定し,これにつき改めて開示決定等をすることとするが,本件対象文書については,法5条1号,2号イ並びに4号柱書き,ニ及びヘに該当するとして不開示を維持するとしていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,請求文書1の保有の有無及び本件対象文書における不開示情報該当性について検討する。


2 請求文書1の保有の有無について

(1)当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,請求文書1に該当する文書として,別紙の3に掲げる文書3ないし文書5を特定すべきであるとする理由等について,改めて確認させたところ,諮問庁は,おおむね以下のとおり説明する。

ア 原処分では,請求文書1に該当する文書については,本件訴訟における訴えの提起手数料や送達費用等裁判所に納める訴訟費用(以下「本件訴訟費用」という。)について,直接裁判所に支払ったことに関する文書であると解し,本件訴訟においては,本件訴訟費用の支払いは代理人を通じて行われていたことから,不存在であるとして不開示とした。

しかし,審査請求書における審査請求人の主張から,請求文書1に該当する文書については,本件訴訟費用について,支払先・方法のいかんにかかわらず,その支払に係る文書であると解することとした。


イ 文書3は,本件訴訟費用のうち控訴審に係る費用に関する文書であり,文書4は同上告審に係る費用に関する文書であることから,両文書とも請求文書1に該当する。

また,文書5は,本件訴訟の訴訟費用確定処分に基づく費用の支払に関する文書であるが,当該費用には,本件訴訟の一審に係る本件訴訟費用が含まれていることから,請求文書1に該当する。


ウ なお,関係する部署の執務室内の書架や倉庫等の探索を行ったが,文書3ないし文書5の外に,請求文書1に該当する法人文書の存在は確認できなかった。


(2)以下,上記諮問庁の説明を踏まえ検討する。

ア 請求文書1に該当する文書については,本件開示請求書の文言及び審査請求書(上記第2の2(1))における審査請求人の主張を踏まえれば,上記(1)アで諮問庁が説明するとおり,本件訴訟費用の支出に関する文書と解するのが妥当である。


イ 当審査会において,諮問庁から,文書3ないし文書5の提示を受けて確認したところ,いずれの文書も,北海道教育大学が支出した本件訴訟費用に関する文書であると認められる。

したがって,文書3ないし文書5は,請求文書1に該当する文書として特定すべきである。


ウ また,北海道教育大学において,文書3ないし文書5の外に,請求文書1に該当する文書を保有していないとする上記諮問庁の説明に,特段,不自然・不合理な点は認められず,これを覆すに足る事情も認められない。


エ 以上のことから,北海道教育大学において,請求文書1に該当する文書として,別紙の3に掲げる文書3ないし文書5を対象として改めて開示決定等をすべきであるとしていることは妥当である。


3 不開示情報該当性について

(1)文書1について

ア 当審査会において,文書1を見分したところ,文書1は,北海道教育大学と法律事務所との委任契約に関する文書及び報酬等の費用の支出に係る文書であって,これらの文書には,法律事務所の名称及び住所,弁護士の氏名,委任する業務の具体的内容,報酬等の金額等が記載されており,その全部が不開示とされていることが認められる。


イ 等審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,文書1を不開示とした理由等について,改めて確認させたところ,諮問庁は,おおむね以下のとおり説明する。

(ア)法5条2号イ該当性について

文書1に記載された事項は,全て,委任した法律事務所及び同弁護士(以下「本件弁護士等」という。)の事業に関する情報であるところ,これらの情報については,本件弁護士等及び北海道教育大学は一切公にしておらず,今後においても公にする予定はない。

文書1に係る事案は,北海道教育大学と教員との間の労働契約に関連する事案(以下「本件事案」という。)であるところ,文書1に記載された法律事務所の名称及び住所,弁護士の氏名,委任する業務の具体的内容等の情報については,本件事案の性質に鑑み,これを公にした場合,本件弁護士等の業務に影響を及ぼし,本件弁護士等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの不開示情報に該当する。

また,弁護士の報酬等の金額については,これが明らかになった場合,個々の事案の具体的事情や弁護士業務の機微にわたる事柄が推測できることとなることから,文書1に記載された報酬等の金額の情報を公にした場合,本件事案の具体的事情等が推測され,本件弁護士等の今後の業務に影響を及ぼし,本件弁護士等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,法5条2号イの不開示情報に該当する。


(イ)法5条4号柱書き該当性について

文書1に記載された情報は,これを公にした場合,本件事案が北海道教育大学と教員との間の労働契約に関連する交渉事案であることに起因する当該交渉事務に対する様々な意見,主張がなされる事態等が予想され,北海道教育大学における当該交渉に係る事務及びその他大学運営に関する業務に支障を来たすおそれがあること等から,法5条4号柱書きの不開示情報に該当する。


(ウ)法5条4号ニ該当性について

文書1に記載された情報は,これを公にした場合,本件事案に係る交渉の内容及び北海道教育大学の方針等が公となり,当該交渉の進捗に重大な影響を及ぼす可能性が高く,北海道教育大学における当該交渉の当事者として認められるべき地位を不当に害するおそれがあることから,法5条4号ニの不開示情報に該当する。


(エ)法5条4号ヘ該当性について

弁護士に対し特定の業務を委任することも人事管理に係る事務に該当するところ,文書1に記載された情報は,これを公にした場合,いまだ本件事案に係る交渉等を行っているにもかかわらずその内容等が明らかにされることは,弁護士の当該交渉業務に支障を来たすものであり,弁護士は自己の業務の遂行が困難となる可能性がある場合には受任を控えることが予想され,北海道教育大学が今後交渉等を弁護士に依頼することが困難となる可能性が高くなるなど,北海道教育大学の円滑な人事の確保に支障が生じるおそれがあることから,法5条4号への不開示情報に該当する。


ウ 文書1に記載された情報を公にすると,特定の契約における本件弁護士等の具体的な契約条件等が明らかとなり,本件弁護士等の業務に支障を及ぼし,本件弁護士等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとする上記イ(ア)の諮問庁の説明は,これを否定し難い。

したがって,文書1は,法5条2号イに該当し,同条4号柱書き,ニ及びへについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(2)文書2について

ア 当審査会において,文書2を見分したところ,文書2は,本件3教員に支払った給与等の支出に係る文書であって,本件3教員の氏名,住所,支給された給与等の金額等が記載されており,その全部が不開示とされていることが認められる。


イ 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,文書2を不開示とした理由等について,改めて確認させたところ,諮問庁は,おおむね以下のとおり説明する。

(ア)職員の給与等の支給に関する情報は,個人に関する情報であり,仮に,氏名を不開示にして給与等の金額等の情報を公にした場合,その対象者は3名と少数であり,北海道教育大学の関係者等一定の範囲の者には,当該給与等が支給された者が誰であるかを特定することが可能となるなど,本件3教員の権利利益を害するおそれがあるので,法5条1号の不開示情報に該当する。


(イ)また,給与等の支払に関する資料は,北海道教育大学における人事管理のために保有しているものであるところ,給与等の額は,勤務年数や経歴,成績評価等個別具体的な事情を考慮して算出しており,当該額を証する資料が公にされた場合には,北海道教育大学における成績評価等が明らかとなり,北海道教育大学の公正かつ円滑な人事の管理に支障が生じるおそれがあることから,法5条4号への不開示情報に該当する。


ウ 文書2は,全体として本件3教員に係る法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められ,同号ただし書イないしハに該当する事情は認められない。

次に,法6条2項による部分開示の可否について検討すると,氏名及び住所は,個人識別部分であることから部分開示の余地はない。その余の部分(支給された給与等の金額等)については,これを公にすると,北海道教育大学の関係者等一定の範囲の者には,当該給与等が支給された者が誰であるかを特定することが可能であるとする上記イ(ア)の諮問庁の説明は否定し難く,本件3教員の権利利益を害するおそれがないとは認められないので,部分開示できない。

したがって,文書2は,法5条1号に該当し,同条4号へについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


4 審査請求人のその他の主張について

審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。


5 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件請求文書の開示請求に対し,請求文書1につき,これを保有していないとして不開示とし,請求文書2及び請求文書3につき,本件対象文書を特定し,その全部を法5条1号並びに4号ニ及びヘに該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が請求文書1に該当するとして文書3ないし文書5を新たに特定し,開示決定等をすべきであるとしていることについては,北海道教育大学において,これらの文書の外に開示請求の対象として特定すべき文書を保有しているとは認められないので,これらの文書を特定すべきとしていることは妥当であり,また,本件対象文書につき,諮問庁が,不開示とされた部分は同条1号,2号イ並びに4号柱書き,ニ及びヘに該当することから不開示とすべきとしていることについては,不開示とされた部分は同条1号及び2号イに該当すると認められるので,同条4号柱書き,ニ及びヘについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当であると判断した。


(第5部会)

委員 南野 聡,委員 椿 愼美,委員 山田 洋





別紙

 1 本件請求文書

   国立大学法人北海道教育大学と同大学所属の教員3名との間における訴訟に係る次の文書

  請求文書1 当該訴訟に関して裁判所に支払った手数料,送達費用などを証する資料一切

  請求文書2 当該訴訟の確定判決の履行に関する対応に関して,北海道教育大学が委任した弁護士と締結した委任契約書及びそれに伴って支払った費用を証する資料一切

  請求文書3 本件3教員に対する賃金の支払いに係る資料一切


 2 本件対象文書

  文書1 弁護士報酬約定書及び関係支出伝票

  文書2 本件3教員に対する給与等の支出伝票


 3 諮問庁が新たに開示決定等をすべきとしている文書

  文書3 特定年月日A付け発行の支出伝票

  文書4 特定年月日B付け発行の支出伝票

  文書5 特定年月日C付け発行の支出伝票