諮問庁 内閣法制局長官
諮問日 平成28年 6月29日(平成28年(行情)諮問第446号)
答申日 平成29年 1月17日(平成28年度(行情)答申第647号)
事件名 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をめぐり作成した想定問答の不開示決定(行政文書非該当)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

集団的自衛権の閣議決定に関する国会の閉会中審査に備えて作成されたが不採用となった「全23問の国会答弁資料案」の電磁的記録(以下「本件対象文書」という。)につき,行政文書に該当しないとして不開示とした決定は,取り消すべきである。


第2  異議申立人の主張の要旨

1 異議申立ての趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成28年3月22日付け内閣法制局一第6号により内閣法制局長官(以下「処分庁」,「諮問庁」又は「長官」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。


2 異議申立ての理由

(1)異議申立書

当該資料については,2月18日の参議院決算委員会において長官が「担当者から想定ベースの答弁資料の案をもらった」と存在を認めている。その上で,「組織的に用いる行政文書として保存している想定問答はない。」とし,行政文書に当たらないという認識を示している。仮に文書が最終的に正式な想定問答集として決裁をされていなかったとしても,行政機関においてどのような議論がなされたのかを示す意思決定の過程を記録したものであることは明らかであり,本来公文書として管理されるべきものと考えられる。今回のような判断が認められることとなれば,今後,行政機関として最終的な決定を行う前の検討段階の文書等は公文書として保存する必要がないという前例が認められることとなり,是正が必要だと考える。

一部報道によれば,本文書については参事官から法制次長という段階を経て作成され,内閣法制局内で共有され,職員がそれぞれ資料として使用していたともされる。こうした点を踏まえると文書は組織的に用いられていたと考えられ,行政文書として管理されるべき文書といえる。


(2)意見書

最終的な決済を経たものが国会審議文書として公開されるのは当然ですが,意思決定の過程を記録・保存することを定めた公文書管理法の理念によれば,どのような検討をもとに作成されたかについても,保存・公開されて当然だと考えます。一般社会においても,最終的な決済をえた文書のみしか残さないといった対応は一般的ではなく,意見の集約,判断の過程は決定文書の関連文書として保存すべきものであるのは常識的な対応となっています。(企業や研究機関で最終的な成果物のみしか残さないといったことはまれです。後に説明責任を果たす必要がある場合に備える必要があるからです。現に当事者である法制局においても,成果物である法案だけでなく,法案審査の記録や省庁とのやりとりも保存をしています。今回も同様の対応をとるべきであると考えます。)特に国家,国民への奉仕者として活動する官公庁,公務員がこうした書類を積極的に公開しようとせず,廃棄すべきものと考えているとすれば,将来の国家,国民に対する不誠実な対応であると言わざるを得ません。

また,今回の答弁書について法制局は個別の国会答弁書としての位置づけで意見を述べていますが,本資料は安全保障関連法の制定に向けた議論の過程を記録した資料群の一部としての位置づけも有するものであります。その点においても法律制定の過程を示す資料として保存されるべきであります。こうした文書を公文書として保存・公開しないことを是とする判断が示された場合,官公庁においてこうしたより積極的な廃棄を促される恐れもあると考えます。審査会におかれましてはそういった点も踏まえて,ご判断いただきたく存じます。

また,保存・公開すべき公文書にあたるか否かの判断から離れたとしても,現に官庁のパソコン内に存在する文書であること自体は法制局も認めており,公文書として存在していたことは間違いなく,公開されるべきものであると考えます。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 理由説明書

異議申立人は,処分庁が平成28年3月22日付け内閣法制局一第6号により行った原処分について,同年3月31日付けで異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行い,同年2月18日の参議院決算委員会において長官が存在を認めた文書についても対象として特定し,これを開示することを求めているところ,以下に述べるとおり,当局は,これに該当する行政文書を保有していないことから,本件異議申立てには理由がない。

(1)本件異議申立てに係る経緯

ア 平成28年1月21日

参議院決算委員会において,江崎孝委員から,内閣法制局に対し,「平成26年7月1日の集団的自衛権に関する閣議決定に関して,内閣法制局が作成し保存している全ての文書」の資料要求がなされ,同委員会理事会における協議事項とされた。【参考1】(略)


イ 平成28年2月8日

内閣法制局が参議院決算委員会理事懇談会において,上記アの資料要求に係る資料として,同局の行政文書ファイルである「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会,安全保障法制整備に関する与党協議会及び「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成26年7月1日閣議決定)関係」に綴られている全ての文書の写しを提出した。【参考2】(略)


ウ 平成28年2月17日

特定新聞が,「集団的自衛権の行使を認めた2014年7月の閣議決定に関連し,内閣法制局が国会審議に備えた想定問答を作成しながら,国会から文書開示の要求があったのに開示していなかったことがわかった。」などと報じた。【参考3】(略)

他方,内閣法制局第一部においては,当該報道(以下「特定新聞記事」という。)に係る「想定問答」なる文書が,公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)にいう行政文書として管理(保存)しているものでなかったことから,その存否を始め,その作成,利用の状況等について調査を実施した(当該調査は,平成28年2月22日まで行った。)。


エ 平成28年2月18日

参議院決算委員会において,特定新聞記事について,難波奨二委員からの質問に対し,長官が「御指摘の報道についてでございますけれども,事実関係については,当時の担当者に作業状況などを尋ねる等をしているところでございます。まだ途中の段階でございますけれども,私の受けている報告では,当時,長官にまで上げたが没になったものがあり,報道されているのはそれかもしれないということでございます。また,私自身の記憶でも,当時,閣議決定後の7月上旬頃,担当者から想定ベースの答弁資料の案をもらいましたが,その答弁の方針が概括的な説明にとどめると申し上げますか紋切り型のようなものであったものでございますので,国会においてはいわゆる新三要件を中心とする法理の説明を丁寧に行う必要があると指摘して差し戻したことがあったと記憶しております。」,「この想定問答に当たるのではないかと疑われるサーバー内に破棄されないままにあるデータ,現在の当局の業務のためにはおよそ利用する必要があるとは考えられないデータでございますけれども,これらに対する最近におけるアクセス・・・その状況などについて・・・調査解析を行う必要がある」,「報道にある想定問答なるものは恐らくそれであろうと私自身は考えておりますけれども,確定するには,やはりその現物をしっかり内容も含めて確認し,当時の担当者にも確認させる必要もあるということでございまして,目下調査中ということでございます。」,「報道にある想定問答なるものではないかと疑われるデータというものがございますけれども,これについては現在調査中ということでございます。」などと答弁した。【参考4】(略)

その上で,同日の同委員会において,同委員から,同委員会として,国会法104条の規定に基づいて,内閣法制局に対し,「2月17日の特定新聞の記事に関し,同記事で指摘された想定問答の資料」,「2月17日の特定新聞の記事に関し,内閣法制局が現在調査中の,想定問答に当たるのではないかと疑われる,サーバー内に破棄されないままにあるデータ」等の提出を求めるよう,委員長に対して発言があり,同委員会理事会における協議事項とされた。

異議申立人が,同日付けで「内閣法制局が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をめぐり作成した想定問答(「186.5想定(閣議決定)」「次長了」「海外派兵は可能になるのか」(更新日時2014年6月27日),「法制局はきちんと意見を述べたのか?」(同6月30日)など,約20の想定問答を含む。)」の開示を求める行政文書開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。


オ 平成28年3月22日

本件開示請求に対し,処分庁が,内閣法制局が開示請求に係る行政文書を保有していないことを理由に,原処分を行った。


カ 平成28年3月30日

参議院決算委員会理事懇談会において,内閣法制局から,上記ウで述べた調査の結果を説明したところ,その内容を文書で提出するよう求めがあった。


キ 平成28年3月31日

異議申立人が,同日付けで本件異議申立てを行った。


ク 平成28年4月4日

参議院決算委員会理事会において,上記カで求められた説明文書を提出した。【参考5】(略)


(2)原処分を維持する理由

ア 本件開示請求に係る文書

本件開示請求は,「内閣法制局が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をめぐり作成した想定問答(「186.5想定(閣議決定)」「次長了」「海外派兵は可能になるのか」(更新日時2014年6月27日),「法制局はきちんと意見を述べたのか?」(同6月30日)など,約20の想定問答を含む。)」の開示を求めるものである。

この「内閣法制局が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をめぐり作成した想定問答(「186.5想定(閣議決定)」「次長了」「海外派兵は可能になるのか」(更新日時2014年6月27日),「法制局はきちんと意見を述べたのか?」(同6月30日)など,約20の想定問答を含む。)」は,上記(1)エの長官答弁で言及したデータを指すものであると認められる。そして,上記(1)ウで述べた調査の結果,当該データとして,上記(1)クの説明文書にも記載したとおり,「次長了の想定ベースの国会答弁資料案(全12問)」(以下「次長了の国会答弁資料案」という。)及び「次長了前の想定ベースの国会答弁資料案(全11問)」(以下「次長了前の国会答弁資料案」という。)が存在していることが認められた(本件対象文書。以下,これら全23問の国会答弁資料案を「全23問の国会答弁資料案」ともいう。)。


イ 全23問の国会答弁資料案は法2条2項に規定する「行政文書」に該当しない

(ア)内閣法制局における「国会答弁資料」の取扱い

一般に,内閣法制局における「国会答弁資料」は,担当者(参事官及び参事官補)がその案を作成し,担当部長,内閣法制次長(以下「次長」という。)の了承を得た上,長官が了承してセットされ,成立するものである。こうしてセットされ,「国会答弁資料」として成立した行政文書については,当該答弁があった日(当該答弁に係る質問が行われず,いわゆる空振りとなった場合は当該答弁が予定されていた日)に,紙の文書を行政文書ファイル管理簿に記載される行政文書ファイルにまとめ,公文書管理法5条,公文書等の管理に関する法律施行令8条の規定により,同令別表29号及び備考7にいう「国会審議文書」に当たるものとして,10年の保存期間を設定して保存している。

他方,担当者において「国会答弁資料」として作成しようとしたが,長官までの了承を得る過程で修正がなされた場合の修正前の案や,当該過程で不採用(没)となった案などの「国会答弁資料」として成立するに至らなかった文書は,国会における答弁の資料として用いられることがないことが確定したものであり,また,文書の性質上,他の事務の用に供する可能性もないことから,もはや不要のものとして,担当者において適宜廃棄(消去,上書き)しているところである。


(イ)全23問の国会答弁資料案の作成及び不採用の経緯

上記(1)ウで述べた調査の結果,以下の経緯が確認された。

a 全23問の国会答弁資料案は,いずれも平成26年7月1日に「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」が閣議決定された後の国会における閉会中審査に備えて,内閣法制局第一部の担当者(参事官及び参事官補)が作成したものである。


b 次長了の国会答弁資料案は,平成26年7月1日に,次長の了承を得て,長官に上げたが,国会では新三要件を中心とする法理の説明を丁寧に行うべきであるとの答弁方針が指示され,不採用(没)となったものであり,次長了前の国会答弁資料案は,次長了の国会答弁資料案について次長の了承を得る前の担当者段階の案である。


c 全23問の国会答弁資料案は,長官がこれを用いて国会における答弁を行うことはしないと判断し,不採用(没)とし,「国会答弁資料」として成立しなかったものであって,当該長官指示後は,担当者において,もはや不要のものと認識し,上記(ア)で述べた取扱いに従って,紙の文書は実際に廃棄し,電子データについては,廃棄すべきものとして「古いデータ」という名称のフォルダに入れたが,その後も消去されないままに残存していたものである。


d 「古いデータ」という名称のフォルダに入れられた全23問の国会答弁資料案の電子データについては,その後上記(1)ウで述べた調査に至るまで,利用実績がない。


なお,全23問の国会答弁資料案が不採用(没)となった後,上記bで述べた長官の指示による答弁方針に従って,改めて平成26年7月14日の衆議院予算委員会及び同月15日の参議院予算委員会における閉会中審査のための国会答弁資料(全91問)が作成され,長官の了承を得てセットされており,これらの「国会答弁資料」は,上記(ア)で述べた取扱いに従って,保存期間が10年の行政文書として保存している。


ウ 結論

以上のとおり,全23問の国会答弁資料案は,本件開示請求の時点において,内閣法制局において職員が組織的に用いるものとして保有している文書ではなく,法2条2項に規定する「行政文書」に該当しないものであることから,本件異議申立てには理由がない。


2 補充理由説明書

内閣法制局においては,長官の国会答弁資料案は参事官や参事官補において原案を作成し,担当部長,次長の了承を得た上,長官が了承してセットされ,成立することは理由説明書でも述べたとおりであるが,当局としては,答弁者たる長官の了承を得た段階で,国会答弁資料案が行政文書ファイル管理簿に保存期間10年の「国会審議文書」として登録される行政文書として成立するという認識であり,実際の運用としても,国会答弁資料案は,答弁者たる長官の了承を得た最終版が行政文書として保管されており,その作成過程において作成された原案(修正指示があった場合の修正前のものや不採用(没)となったもの)は,速やかに廃棄すべきものとして取り扱っているのが実情である。

なお,長官が了承する以前の国会答弁資料案について,各段階で不採用(没)となるまでは一時的にいわゆる保存期間が1年未満の行政文書としての性格を有することがあるとする考え方もあるが,その場合であっても,国会答弁資料案は不採用(没)となった瞬間に組織共用性を失い,行政文書としての性格も失うものであると考えている。また,全23問の国会答弁資料案については,長官までの説明時に使用した紙媒体の文書は不採用(没)となった後に廃棄しており,電子データについても,担当者において廃棄すべきとの認識の下で「古いデータ」という名称のフォルダに入れていたところである。その後,担当者においてデータの消去を失念していたのは事実であるが,利用実績もないことから,当該データは廃棄されたに等しいと考えられる。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成28年6月29日  諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年9月27日     審議

④ 同年10月24日    審議

⑤ 同年11月22日    諮問庁から補充理由説明書を収受

⑥ 同月24日       異議申立人から意見書を収受

⑦ 同年12月19日    審議

⑧ 平成29年1月13日  審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,「内閣法制局が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をめぐり作成した想定問答(「186.5想定(閣議決定)」「次長了」「海外派兵は可能になるのか」(更新日時2014年6月27日),「法制局はきちんと意見を述べたのか?」(同6月30日)など,約20の想定問答を含む。)」の開示を求めるものであるところ,処分庁は,本件開示請求に係る行政文書を保有していないとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,異議申立人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は,本件開示請求に係る文書として本件対象文書を特定した上で,本件開示請求の時点において,本件対象文書は,法2条2項に規定する行政文書に該当しないものであるとして,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の行政文書該当性について検討する。


2 本件対象文書の行政文書該当性について

(1)行政文書該当性の判断基準と本件対象文書の作成状況等に関する事情について

法2条2項に規定する行政文書に該当するか否かについては,対象となる文書の作成・取得の状況,利用の状況,保存又は廃棄の状況などを総合的に考慮して実質的に判断すべきであるところ,本件対象文書の作成状況等に関する事情についてみると,以下のとおりである。

すなわち,諮問庁の説明によれば,異議申立人が開示を求める本件対象文書は,国会における閉会中審査に備えて,内閣法制局第一部の担当者(参事官及び参事官補。以下同じ。)が作成した,上記第3の1(2)アに掲げる「次長了の国会答弁資料案」と「次長了前の国会答弁資料案」とから成る「全23問の国会答弁資料案」の電磁的記録であり(下記(3)ウ(イ)のとおり,紙文書のものは,本件開示請求以前に廃棄されている。),そのうちの「次長了の国会答弁資料案」は,平成26年7月1日に次長の了承を得て長官に上げられたが不採用となった国会答弁資料案(全12問)で,「次長了前の国会答弁資料案」は,次長の了承を得る前の国会答弁資料案(全11問)であるとのことであり,これを覆すに足りる事情はない。


(2)本件対象文書が行政文書として作成・利用されたか否かについて

ア 上記(1)を踏まえて検討すると,「全23問の国会答弁資料案」は,内閣法制局(第一部)の職員が,国会における閉会中審査に備えて,次長の了承を得て長官に上げられることを予定して職務上作成したものであることは明らかである上,そのうちの「次長了の国会答弁資料案」は,実際にも,その後にそうした決裁手続が踏まれて組織的に利用されていると認められるものであり,また,「次長了前の国会答弁資料案」も,内閣法制局(第一部)の複数の職員の閲覧・検討等にも供されるなど,組織的に利用されていたことが容易にうかがえるものである。

したがって,このような「全23問の国会答弁資料案」の作成状況を踏まえ,その利用状況をも総合すれば,「全23問の国会答弁資料案」は,その電磁的記録(本件対象文書)を含め,全部が行政文書として作成・利用されたものであることは明らかである。


イ もっとも,この点に関し,諮問庁は,上記第3の1(2)イ(ア)及び2のとおり説明するところ,その要旨は,①内閣法制局においては,国会答弁資料案は,参事官や参事官補において原案を作成し,担当部長,次長の了承を得た上,答弁者たる長官の了承を得た段階で,国会答弁資料案が行政文書ファイル管理簿に保存期間10年の「国会審議文書」(公文書管理法5条,公文書等の管理に関する法律施行令8条,同令別表29号,備考7)として登録される行政文書として成立するという認識である,②長官が了承する以前の国会答弁資料案について,各段階で不採用となるまでは一時的にいわゆる保存期間が1年未満の行政文書としての性格を有することがあるとする考え方もあるが,その場合であっても,国会答弁資料案は不採用となった瞬間に組織共用性を失い,行政文書としての性格も失うものであると考えている,というものである。


ウ しかしながら,行政文書の範囲について,政府の説明責任が全うされるようにするという法の目的(法1条参照)に照らして必要十分なものとするためには,決裁・供覧等の行政機関内部における手続を要件とすることが適切でないのはいうまでもないことである(以上につき,「情報公開法 逐条解説」(総務省行政管理局)22頁参照。この点は,行政改革委員会が平成8年12月16日に内閣総理大臣に提出した「情報公開法制の確立に関する意見」中の「Ⅲ 情報公開法要綱案の考え方」の2(2)イ等にも示されている。)。

したがって,上記イ①の諮問庁の説明は,国会答弁資料案については,長官の了承を得たもの,すなわち,長官の最終決裁を終えたもののみを行政文書とし,それ以前の段階における国会答弁資料案は行政文書に該当しないとする趣旨とみられる点で,対象となる文書に係る決裁・供覧等の手続を要件として行政文書の範囲を画するものであって,適切ではないというべきである。また,上記イ②の諮問庁の説明も,国会答弁資料案が不採用となった瞬間に,その行政文書としての性格も失われるとする点で,結局は,対象となる文書に係る決裁・供覧等の手続を要件として行政文書の範囲を画することにほかならず,到底採用することはできない。


エ 以上のとおり,上記イ①及び②の諮問庁の説明は,上記アの判断を左右するものではない。


(3)本件開示請求の時点における本件対象文書の行政文書該当性について

ア 上記(2)で検討したところを前提に,本件対象文書が作成された後の保存等の状況についてみると,諮問庁の説明及び当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させた結果によれば,以下のとおりであるとのことであり,これを覆すに足りる事情はない。

(ア)「次長了の国会答弁資料案」が,平成26年7月1日に次長の了承を得て長官に上げられて不採用となった後も,「全23問の国会答弁資料案」の電子データ(本件対象文書)は,内閣法制局内の「古いデータ」という名称の,同局第一部に所属する職員が全員アクセスできるサーバー内の共有フォルダに,消去されないまま残存していた。


(イ)平成28年2月17日付けの特定新聞の報道を受け,内閣法制局第一部においては,異常なアクセス等についての調査を開始し,「全23問の国会答弁資料案」の電子データについては,上記(ア)のフォルダに存在していることを確認した上で,当該調査の担当者である同部筆頭参事官とその補助者である参事官補のみがこれにアクセスできるように措置しており,同月18日の本件開示請求の時点では,当該調査の担当者のみがアクセスできる状態にあった。


イ そうすると,「全23問の国会答弁資料案」の電磁的記録である本件対象文書は,その作成後も本件開示請求の時点まで,上記ア(ア)の内閣法制局のサーバー内の共有フォルダに,消去されないまま残存していたと認められる。


ウ この点につき,諮問庁は,本件開示請求の時点において,本件対象文書は,内閣法制局において職員が組織的に用いるものとして保有している文書ではなく,法2条2項に規定する行政文書に該当しないものである旨説明するところ,その具体的な理由の要旨は,以下のとおりである。

(ア)担当者において「国会答弁資料」として作成しようとしたが,長官までの了承を得る過程で修正がなされた場合の修正前の案や,当該過程で不採用となった案などの「国会答弁資料」として成立するに至らなかった文書は,国会における答弁の資料として用いられることがないことが確定したものであり,また,文書の性質上,他の事務の用に供する可能性もないことから,もはや不要のものとして,担当者において適宜廃棄(消去,上書き)しているところであり,実際の運用としても,これらの文書は速やかに廃棄すべきものとして取り扱っているのが実情である。


(イ)「全23問の国会答弁資料案」は,長官がこれを用いて国会における答弁を行うことはしないと判断して不採用とし,「国会答弁資料」として成立しなかったものであって,当該長官指示後は,担当者において,もはや不要のものと認識し,上記(ア)の取扱いに従って,紙の文書は実際に廃棄し,電子データについては,廃棄すべきものとして「古いデータ」という名称のフォルダに入れたものであるから,その後担当者においてデータの消去を失念していたが,不採用となった瞬間に組織共用性を失い,行政文書としての性格も失ったと考えられる。


(ウ)「古いデータ」に入れられた「全23問の国会答弁資料案」の電子データについては,その後,上記(3)のア(イ)の調査に至るまで利用実績もないから,当該データは廃棄されたに等しいと考えられる。


エ しかしながら,行政文書該当性については,対象となる文書に係る具体的・客観的状況に基づいて判断すべきものであり,行政機関内部における一般的な取扱いや,行政機関の職員の主観的な認識といった事情により,その判断が左右されるものではないと解されるのであって,この点は,行政文書として作成・利用された本件対象文書が,その後廃棄又はこれに準ずるような状況が生じるなどして,行政文書該当性が否定されるとみることができるか否かの判断に関しても,同様というべきである。

そうすると,上記アのとおりの,本件対象文書の残存状況等の具体的・客観的状況に照らせば,国会答弁資料案について,上記ウ(ア)の諮問庁の説明にあるような内閣法制局における一般的な取扱いや実情があったとしても,国会における答弁の資料として用いられることがなくなったことにより,直ちに,本件対象文書につき,客観的にみて,廃棄又はこれに準ずるような状況が生じたとはいえず,その行政文書該当性が否定されると認めることはできない。

また,諮問庁は,本件対象文書を上記ア(ア)の「古いデータ」という名称の共有フォルダに保存した際の内閣法制局職員の認識は,上記ウ(イ)のとおりであり,同局職員がそれを消去するのを失念していただけである旨説明するが,たとえそうであったとしても,実際には,上記アのとおり,本件対象文書が上記のフォルダに消去されないまま残存していた以上,そうした同局職員の主観的な認識等により,直ちに,本件対象文書の行政文書該当性が否定されることにはならない。

さらに,上記ウ(ウ)の諮問庁の説明についても,行政文書として作成された本件対象文書の作成後の利用実績の有無といった事情は,本件対象文書の行政文書該当性の有無を直接左右するものではないというべきであるから,本件対象文書につき,上記のフォルダに入れられた後の利用実績がなかったからといって,上記の具体的・客観的状況に照らし,直ちに,本件対象文書が,客観的にみて,廃棄又はこれに準ずるような状況にあったとか,あるいは,内閣法制局の職務とは関係なく同フォルダに残存していたなどとみることは到底できない。


オ 以上に検討したとおり,本件対象文書につき,諮問庁の説明を踏まえても,その行政文書該当性が否定されるものではなく,その他,本件開示請求の時点における行政文書該当性を否定するに足りる特段の事情は認められないから,本件開示請求の時点において,本件対象文書は行政文書に該当しないとは認められない。


3 以上のとおり,本件対象文書については,本件開示請求の時点において,法2条2項に規定する行政文書に該当することは否定できないのであるから,これにつき改めて開示決定等をすることが相当である。


4 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,法2条2項に規定する行政文書に該当しないとして不開示とした決定については,本件対象文書は行政文書に該当しないとは認められないので,これにつき改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきものと判断した。


(第1部会)

委員 岡田雄一,委員 池田陽子,委員 下井康史